ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVS戦姫絶唱シンフォギア ユニバース大戦 作:ボルメテウスさん
粉塵の匂いが、喉の奥に張りついて離れない。
採掘場に足を踏み入れた瞬間から、身体の感覚が少しずつズレていくのが分かった。視界はやけに広く、音は遠く、心臓の音だけがやけに近い。風が吹くたび、砕石の白い砂が舞い上がり、夕暮れと夜の境目を曖昧に塗りつぶしていく。
俺は一歩、前に出た。
なつめは半歩、後ろにいる。近すぎず、遠すぎない距離。守るでも、守られるでもない。――一緒に立つ距離だ。
指輪の存在が、やけに重い。
争奪戦は終盤。残るユニバース戦士はもう僅かで、勝ち抜いた先には“願いを叶える権利”がある。
なのに、俺は未だにその願いを見つけられずにいる。
それでも、ここに来た。
逃げなかった。
理由は、はっきりしている。
止めるためだ。
「……来たね」
高い位置から声が落ちてきた。
岩山の上。逆光の中に立つ影。
クオンだ。
風に晒されているはずなのに、その姿は微動だにしない。重心が、完全に地面と一体化している。戦うために、ここに“在る”立ち方だった。
「指定した場所だ。来ない理由がない」
俺はそう返した。声は思ったより低かった。
「はは……昔からそうだ。君は」
クオンが、ほんの少しだけ笑う。
「言葉はぶっきらぼうなのに、肝心なところで逃げない」
胸の奥が、ちくりと痛んだ。
「……用件は分かってる」
「うん。でも、その前にさ」
クオンは岩の縁に腰を下ろす。
まるで、昔みたいに。
「聞きたいことがある。吠」
名前を呼ばれるだけで、心拍が跳ねた。
「君、願いは見つかった?」
一瞬、答えが遅れた。
言葉が出ない。
出ない理由は、自分が一番よく分かっている。
「……関係ない」
絞り出した言葉は、乾いていた。
「関係あるよ」
クオンの声は、優しい。
それが、逆に怖い。
「願いもないまま、ここまで来るなんて……普通じゃない」
責めていない。断定でもない。
ただ、見透かしている。
「君は、空っぽだ。昔から」
胸の奥で、何かがきしんだ。
「でもね……」
クオンは少し身を乗り出す。
「その空っぽさが、僕は好きだった」
息が詰まる。
「何にも染まらず、何にも縛られず……それでも誰かの前に立つ。君は、いつもそうだった」
――やめろ。
そう思ったのに、口には出なかった。
「だから、羨ましかった」
クオンの声が、わずかに低くなる。
「君は、壊れなかった」
その瞬間、背後でなつめが息を吸う気配がした。
「壊れてなんか、いない」
なつめの声は小さい。でも、芯があった。
「吠さんは……僕の願いを、叶えてくれた」
クオンの視線が、初めてなつめに向く。
「願いを……?」
その表情に、驚きと――ほんのわずかな痛みが混じった。
「誰かの願いになれるなんて……」
呟きは、ほとんど独り言だった。
「いいな」
その一言が、胸に刺さる。
「僕には、それがなかった」
風が吹く。砕石の粉が舞い、クオンの輪郭が一瞬だけ揺らぐ。
「争奪戦も、願いも、正義も……全部、途中で剥がれ落ちた」
声は静かだ。
だが、静かすぎて、逆に感情が透けて見える。
「最後に残ったのが、君だ。吠」
俺の名前を呼ぶ声に、執着が滲む。
「君を倒せば……僕は、僕でいられる」
拳が、震えているのが分かった。
クオン自身の拳だ。
「君がいなければ、楽だった」
次の言葉は、刃だった。
「でも君がいたから……僕は壊れた」
愛情と憎しみが、同じ場所から溢れている。
「止まったら、僕は空になる」
それは、懇願にも聞こえた。
俺は、一歩踏み出した。足元の砂利が音を立てる。
「……兄貴」
クオンの目が、わずかに見開かれる。
「止めに来た」
声が、震えないように腹に力を入れる。
「止まれないなら……倒して止める」
願いじゃない。
救いでもない。
これは、俺の責任だ。
なつめが、俺の横で小さく頷いた。
「うん」
その一言が、背中を支える。
クオンはゆっくり立ち上がり、岩山から一歩、こちらへ降りてきた。
「止められると思うな」
もう、笑っていない。
「それでも……来たんだろ」
粉塵が舞い、視界が白く染まる。
俺は拳を握った。
指輪が、焼けるように熱を帯びる。
――兄貴を、止める。
それしか、もう選べなかった。