ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVS戦姫絶唱シンフォギア ユニバース大戦   作:ボルメテウスさん

270 / 346
静かな遭遇

 俺と響は、喫茶店『テガソードの里』の片隅のテーブルで静かに珈琲を飲んでいた。

 店内には穏やかなジャズピアノが流れ、午後の柔らかな日差しが窓から差し込んでいる。

 カップから立ちのぼる香ばしい香りに、俺はほんの少しだけ心を緩めていた。

 戦いに明け暮れた日々から解放され、こうして平穏な時間を過ごせることが少し不思議なくらいだ。

 ほんの少し前まで、肉親である兄と刃を交えるような過酷な戦いの日々が続いていた。

 しかし今、幼馴染の響と、そして剣となった兄さんと共に静かに過ごしていることが夢のように感じられる。

 この穏やかさがいつまでも続けばいい—。

 

 

 響がカップを両手で包みながら微笑む。

「こうして落ち着いて珈琲飲むの、久しぶりだね」

「ああ……」

 俺も頷き、カップを口元へ運ぶ。

 苦味の奥にほのかな酸味が広がり、疲れた体に沁み渡る気がした。

 響はブラックは苦手なくせに俺に付き合って同じものを頼んだのだが、案の定渋い顔をして一口飲んでいる。

 そんな彼女の様子が微笑ましく、自然と口元が緩んだ。

 

 

 響はふっと表情を曇らせ、窓の外に視線を落とした。

「……毎日、戦ってばかりだったから。

 正直、まだ慣れなくて……戦うの、怖いよ」

 ぽつりと零れる弱音。

 幼馴染の俺にだけ見せる本音の声だ。

 俺はカップを静かにソーサーへ戻し、「無理もないさ」と頷いた。

 

「俺だって怖い時はある。

 だから、こういう時間が大切なんだろう」

 そう返すと、響は少しほっとしたように笑みを浮かべた。

 

 

 だが、その穏やかなひとときに、ふと微かな違和感が混じった。

 ……ざわっ。

 肌に纏わりつくような空気の揺らぎ。

 それは一瞬にして背筋を強張らせる寒気へと変わる。

 

「兄さん……?」

「吠、気を付けろ、何かいる」

 その声は俺にだけ聞こえる小さな囁きだったが、確かな緊張が滲んでいた。

 

 

 何か、いる? 俺は店内を見回した。

 午後の静かな店内には、俺たち以外に客はいない。

 響が不思議そうに眉をひそめてこちらを見る。

 

「どうしたの、吠?」

 俺は小さく首を振り応えた。

 

「……いや、何でもない」

 だが警戒心は消えない。

 兄さんが感じた“何か”は、おそらく——。

 

 俺の視線は自然とカウンターの方へ吸い寄せられた。

 店のマスターらしき男が一人、カウンターの中で静かに立っている。

 先ほど注文を取ってくれた時には気に留めなかったが、今こうして見ると妙に存在感が薄いというか……いや、逆だ。

 そこだけ空気が張り詰めているような違和感がある。

 男は二十代後半ほどだろうか、整った顔立ちをしているが感情を感じさせない無機質な雰囲気を纏っていた。

 黒いエプロン姿に袖をまくったシャツといういでたちで、一見普通の店員に見える。

 だが——彼の左手の指に光る銀色の指輪と

「……随分と渋い顔をしているね」

 不意に、男がこちらに声をかけてきた。

 静かな店内に落ち着いた声が響く。

 俺ははっとして身構えた。

 いつの間にか、男は手に持っていた布巾を静かに畳み、カウンター越しにこちらをまっすぐ見据えている。

 鋭い視線。

 しかし敵意とも友好ともつかない奇妙な無色さがあった。

 響が戸惑ったように俺と男を見比べ、「あ、あの……?」と口を開きかける。

 しかし言葉を継げないでいる。

 その隣で、鞘の中のクオンが微かに鳴動した。

 

「……あなた、何者だ?」

 

 俺は意を決して問いかけた。

 自分でも驚くほど平静な声が出る。

 喉の奥は強張っているというのに。

 

 

 男はゆっくりと瞬きをし、それから小さく首を傾げた。

 

「ただの店主さ」

 

 穏やかな、しかし感情の読めない声。

 俺は眉をひそめる。

 だったら兄さんが感じた異変の正体がこの人だというのか? 

「冗談はやめてくれ。

 普通の店主が、そんなものを」

 俺はカウンター後ろの銀の剣に視線を向ける。

 男は一瞥もしないまま、淡々と言葉を継いだ。

 

「……そうだね。

 本当のところを言えば——君たちを試しに来た 」

 試しに来た。

 静かだがはっきりとそう告げられ、背筋に緊張が走る。

 やはり、この男が“何か”だ。

 試す……? 俺たちの何をだ? 

 

 響が困惑の声を上げた。

 

「試すって……何を、ですか?」

 男は答えない。

 代わりにゆっくりとカウンターから出てこちらへ歩みを進めた。

 その右手には、いつの間にかあの銀の剣が握られている。

 一歩、一歩と木製の床板が軋む音がやけに大きく聞こえる。

 俺は席を立ち、立ち上がった響を片腕でそっと後ろにかばいながら、右手の剣に添えた。

 

「戦うつもりか?」

 静かな問い。

 しかし内心では心臓が暴れているのを感じる。

 男は小さく息をついたように見えた。

 

「心配しないで。

 命を取ろうとは思っていないよ」

 

 まるで気遣うかのような口ぶりだが、相変わらず感情は読み取れない。

 その目はただ淡々とこちらを観察するように瞬きもせず——不気味なほど落ち着いていた。

 

 クオンが鞘の中で苦々しく舌打ちする。

 

「……冗談じゃない。

 随分と上から見てくれる」

 俺も同感だったが、今は言葉を返す余裕もない。

 

 

「君たちがどれほどのものか、確かめさせてもらう」

 男がそう言い終わるか否か、左手が僅かに動いた。

 指先で銀の指輪を撫でるような仕草。

 そして次の瞬間——彼の足元に鈍い光の円が走り、空気が一瞬で張り詰めた。

 俺は条件反射で「来る!」と叫び、クオンに手をかける。

 ほとんど同時に男の身体が淡い光に包まれ、その輪郭が揺らめいた。

 耳鳴りのような高い電子音が短く響く。

 

『ゼンカイジャー!』

 

 同時にセンタイリングをテガソードに装填すると共にそんな音声が発せられた。

 

 

 眩しい光がはじけ、思わず目を覆う。

 次に目に映ったのは——白とカラフルな色彩に彩られたスーツ姿の人影だった。

 真っ白なボディに虹のようなライン、赤いグローブとブーツ。

 そして頭部にはゴーグル状のバイザーが輝いている。

 

「吠……油断するな」

 クオンの低い声が頭の中に響く。

 

「分かってるさ」

 俺は答えつつ、ゆっくりと構える

 

 響が震える声で叫ぶ。

 

「待って、どうして戦う必要があるんですか! こんな場所で……」

 彼女の声には戸惑いと恐怖が滲んでいた。

 無理もない、平穏だった日常が唐突に非日常へ変わろうとしているのだ。

 店内にはなお穏やかなピアノ曲が流れていたが、その静けさがかえって現実味を失わせている。

 だがゼンカイザーは首を横に振るだけで答えない。

 代わりに腰の銀色の剣——銀のテガソードを静かに構える。

 その動作には一切の無駄も隙も感じられない。

 

 

「試しとは言ったが……こちらも全力で行く」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。