ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVS戦姫絶唱シンフォギア ユニバース大戦 作:ボルメテウスさん
「響、下がれ!」
俺が叫ぶと、響は一拍遅れて息を呑み、踏み出しかけた足を止めた。止めたのは迷いじゃない。目の前の相手が、敵意を剥き出しにしていないからだ。人の顔をしているからだ。戦えるはずなのに、戦う理由が見えない――その一瞬の戸惑いが、響の身体を縛っている。
「吠……待って、話せないの……!?」
響の声が震える。俺は振り返る余裕もなく、弾丸の風圧を背中で感じながら入口へ飛び込む。扉のガラスが鳴り、外の冷たい空気が頬を叩いた。店内で戦えば“守る”以前に“壊す”。だから俺は、逃げるみたいに外へ出た。けど逃げじゃない。場所を変えるだけだ。俺の世界を、これ以上壊させないために。
外に出た瞬間、もう一度銃声が追いすがってきた。振り向くと、あの男――ゼンカイザーが、カウンターの向こうから当たり前みたいに歩き出し、ギアトリンガーを構えていた。感情の起伏がない、気だるげな立ち方のまま、照準だけが異様に正確だ。試している。俺がどこへ逃げるか、どこで止まるか、どこで構えるかを。
「……人のいる場所は、嫌?」
ゼンカイザーの声は低く、温度がない。
「当たり前だろ!」
俺は答えながら走った。弾丸が背後の地面を抉り、砂利が跳ね上がって足首に当たる。跳弾が木の幹を弾き、鋭い音が森に吸い込まれていく。里の外れへ向かっているはずなのに、足が勝手に森へ踏み込んでいく。人工物が消え、土と苔と湿った匂いが濃くなる。戦いが場所を選んだみたいに、自然と“戦える場所”へ移っていた。
背後から、風がちぎれる音がした。弾丸の嵐が、森の空気を削って追ってくる。木の葉が散り、枝が折れ、地面が連続で弾ける。俺は走りながら身体を倒し、跳び、転がり、木の陰へ滑り込む。止まったら終わる。弾は止まらない。どこまでも追ってくる。俺が“避け続ける”限り、あいつは“撃ち続ける”――そういう試験だ。
「……いいね。逃げ方は、合格」
ゼンカイザーが淡々と言った。褒めてるのか、評価してるだけなのか、区別がつかない声だった。
俺は歯を噛みしめた。このままじゃ押し切られる。走って避けるだけじゃ、いずれ足が止まる。止まった瞬間、俺が倒れる。倒れたら、次に狙われるのは――響だ。あいつはまだ、戦う理由を探して立ち尽くしている。迷いがある相手は、狙われた瞬間に遅れる。遅れは致命傷になる。
俺は懐へ指を差し入れ、リングの感触を掴んだ。なつめから受け取ったもの。あの夜、病院の待合室で、震える声で“僕の願い”を語った彼が、俺の手に託したもの。俺はその重みを思い出す。これは力だ。俺だけの力じゃない。受け取った想いの力だ。だから使う。守るために。
「……頼むぞ」
リングを握ったまま、俺は一歩踏み込んだ。森の空気が、ひゅっと冷たくなる。
『キングオージャー!』
音声が森に響いた瞬間、俺の皮膚の感覚が変わる。風の温度、土の匂い、弾丸の軌跡が、輪郭を持って目に入る。俺はマントを広げ、前へ出た。
「硬化!」
一言だけで、マントが“布”をやめる。感触が一気に硬質化し、弾丸が当たった瞬間に、鈍い衝撃が肩から背中へ沈み込む。痛い。だが貫かれない。弾が弾かれる音が連続し、火花が散る。銃弾の嵐が、俺の前で“壁”にぶつかって砕けていく。
守れる。守りながら、進める。
俺はマントを盾にして前へ踏み、もう片手にオージャカリバーを握り直した。刃の重みが腕に乗る。弾丸を受けながら距離を詰め、切り込む。木々の影が走り、地面の跳ねた土が舞い、刃が風を割る音が混ざる。今度は俺が追う番だ。
「……来る」
ゼンカイザーは後退しない。引き金を止めたかと思うと、ギアトリンガーの動きが変わった。あの武器は“銃”なのに、ただの銃じゃない。装填で世界が切り替わる。ゼンカイザーは無表情のまま、何かを装填する仕草を見せた。
『33バーン!ババン!ババン!ババン!ババン!ババババーン!シンケンジャー!』
耳が一瞬、音で満たされる。派手な音声に森が震え、俺の動きが止まった。止まったのは恐怖じゃない。混乱だ。光が迸り、ゼンカイザーの前に、赤い侍の幻影が立ち上がったからだ。シンケンジャー。刀を構えた幻影が、まるで“本物”みたいにそこにいる。
……シンケンジャーのリングは、角乃が持っている。俺の知ってる“リングのルール”の中では、そうだ。なのに、なんでここで。
俺の思考が追いつかない間に、幻影はゼンカイザーへ吸い込まれた。光が収束し、次の瞬間、ゼンカイザーの手には一振りの刀が握られていた。シンケンマル。刃が空気を切るだけで、背筋に冷たいものが走る。武器が変わった。戦い方が変わる。
「……疑問は、あと」
ゼンカイザーが言う。淡々としているのに、有無を言わせない圧がある。
俺は舌打ちした。考えろ、吠。今は生きろ。疑問を抱えたままでも、刃は飛んでくる。
ゼンカイザーが踏み込んだ。銃撃の距離じゃない。剣の距離だ。シンケンマルが弧を描き、俺の首元へ滑るように迫る。俺はマントを引き、オージャカリバーで受けた。金属が噛み合う音が森に響き、火花が散る。受けた瞬間、手首が痺れた。重い。斬撃が重いというより、“技”が重い。迷いがない。練度が違う。
「っ……!」
押し込まれる。俺は足を踏ん張り、地面の湿った土をえぐって耐える。刃が滑り、火花が散り、互いの武器が鳴く。ゼンカイザーは感情を乗せないまま、淡々と角度を変え、俺の防御の癖を探ってくる。マントで受けると見せて足を狙い、足を引くと今度は肩へ、肩を守ると手首へ。刃の“問い”が連続で飛んでくる。
「……悪くない」
ゼンカイザーの評価が落ちた声で届く。褒め言葉に聞こえるのが腹立つ。試されるのは嫌いだ。俺は俺のためじゃない。俺は、守るために戦っている。評価のためじゃない。
「ふざけんな……!」
俺は力任せに押し返すんじゃなく、踏み込みで返した。オージャカリバーを下から跳ね上げ、相手の刃を弾き、半歩だけ距離を作る。作った距離を、斬撃で詰める。横薙ぎ、縦、逆袈裟。森の空気が裂ける。木の葉が舞い、土の匂いが濃くなる。俺は叫ばない。叫ぶと呼吸が乱れる。呼吸が乱れると、刃が遅れる。
ゼンカイザーは遅れない。淡々と、剣で受け、受け流し、わずかに角度を変えて反撃してくる。シンケンマルの刃先が、俺のマントの縁を切り裂いた。布が裂ける音。危うく皮膚までいくところを、硬化を維持して耐える。衝撃が肩へ響き、骨が軋む。痛い。だけど、痛いだけだ。致命じゃない。
「……痛い、で済んだ。よかったね」
ゼンカイザーが、気だるげに言う。煽りじゃない。事実の報告みたいな口調だ。それが逆に怖い。こいつは本当に“殺すつもりはない”のかもしれない。だが、“壊すつもりはない”とも限らない。俺の身体じゃなく、俺の心を折るつもりか。俺が戦う理由を言えないことを、突いてくるつもりか。
「クオン……どう思う」
俺が心の中で問うと、剣の中の兄が短く返した。
「……ムカつく奴だ。だが、本気で見てる。吠を」
本気で見てる。だから厄介だ。適当に殴って終わりなら楽なのに、こいつは答えを引き出すために刃を振るってくる。俺は呼吸を整え、足場を確かめた。根が張った地面は滑りやすい。木の影は視界を切る。風は葉を鳴らし、音を散らす。戦うには悪くない。だが、油断する場所が一つもない。
俺は一気に踏み込んだ。マントを前に出し、硬化したまま盾にして突っ込み、刃を振る。ゼンカイザーが受ける。受けたまま、そのまま斬り返す。俺は受ける。受けた瞬間、また別方向から刃が来る。避ける。避けた瞬間、今度は肩に銃口が向く――ギアトリンガーを捨ててない。片手で剣、片手で銃の距離に戻そうとする。剣戟に銃撃が混ざると、戦いは一気に地獄になる。俺は距離を作らせない。距離が開けば、また弾の嵐だ。
ゼンカイザーが、ほんの少しだけ首を傾げた。
「……君、守りたいものが多い」
言われた瞬間、胸が熱くなった。違う。多いんじゃない。たった一つだ。俺の世界だ。俺の手が届く範囲の、全部だ。
「……俺は、壊されたくないだけだ!」
俺は声に出していた。言葉にした瞬間、呼吸が乱れた。乱れた瞬間、刃がわずかに遅れた。ゼンカイザーのシンケンマルが、その遅れを逃さずに滑り込んでくる。刃先がマントの内側に入り、硬化の隙間を探る。まずい。俺は咄嗟に体を捻り、刃を外へ流し、足で地面を蹴って距離を取った。肩口に熱が走る。浅い。けど、切られた。
血の匂いが一瞬だけ立つ。森の湿った匂いの中で、血はやけに鮮やかだ。俺は舌で口の中の乾きを舐め、オージャカリバーを握り直した。握り直しながら、頭の片隅で考える。角乃が持っているはずのシンケンジャーの力を、ゼンカイザーはギアで引き出した。リングじゃなく、ギア。ルールが違う。戦いのシステムが違う。だからこそ、あいつは“オリジナルに近い”と呼ばれたのかもしれない。テガソードが言っていた言葉の意味が、背中に冷たく刺さる。
「……続ける?」
ゼンカイザーが問う。やっぱり淡々としている。だけど、こちらの息の荒さだけは見逃さない目だ。俺は答えた。答えは一つしかない。
「続けるに決まってんだろ……!」
俺は走った。硬化したマントを翻し、木々の間を縫って距離を詰める。刃と刃がぶつかり、火花が散り、森の闇が震える。俺は今、この瞬間だけは、考えるよりも先に身体を動かす。評価のためじゃない。試験のためじゃない。俺の世界を守るために、俺はここで折れない。
刃と刃が噛み合う火花の中で、ゼンカイザーの動きがふっと変わった。こちらの踏み込みに合わせる“受け”じゃない。戦いの拍子を、丸ごと塗り替えるための動きだ。
ゼンカイザーは一瞬だけ間合いを外し、懐からセンタイリングを取り出した。次の瞬間、銀のテガソードへ装填する所作が見える。
『センタイリング!ゴレンジャー!』
森に響いた音声は、やけに古い響きを帯びていた。俺の頭が追いつくより早く、ゼンカイザーの空いていた片手――さっきまでシンケンマルを握っていた側とは逆の手に、赤い鞭が出現する。レッドビュート。
「っ……!」
叫ぶ暇もない。鞭は音より速く伸び、俺の腕と胴へ絡みついた。硬化したマントで弾く、という判断が間に合わない。鞭は“斬る”んじゃなく、“縛る”ための軌道で飛んできたからだ。
「――くそっ!」
俺が体勢を崩した瞬間、ゼンカイザーは一歩もたつかず、鞭を引いた。引き寄せる力は想像以上で、足が地面を削りながら前へ滑る。視界がぶれる。踏ん張ろうとしても、縛られた腕が自由を奪い、体幹に力が入らない。
そのまま、ゼンカイザーの体が回転した。
投げだ。
一瞬、世界が逆さになる。空が見え、木の梢が流れ、地面が迫る。反撃の余地なんてない。俺はただ、衝撃に備えるしかなかった。
「ぐぁっ――!」
背中から叩きつけられ、呼吸が潰れる。土と枯れ葉が舞い上がり、肋が軋む。転がり、転がり、最後に太い幹へ肩を打ちつけて止まった。痛みが遅れて全身に走る。視界の端が白くなる。
……それでも。
俺は歯を食いしばって、地面に手をついた。指先が震える。肺が痛い。だが、立つ。立たなきゃ、ここで終わる。
「……まだ、やれる」
自分に言い聞かせるように呟き、俺はふらつく脚を無理やり踏み締めた。目の前で、ゼンカイザーは相変わらず淡々とこちらを見ている。まるで“当然の結果”だと言わんばかりに。
「ふむ、なかなかやるようだな。だが、そんなお前に聞く」
「何を」
それと共に、ゼンカイザーから問われたのは。
「君の願いはなんだ」