ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVS戦姫絶唱シンフォギア ユニバース大戦   作:ボルメテウスさん

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願いがなき者

投げ飛ばされた衝撃が、まだ肺の奥に残っている。息を吸うたびに肋がきしみ、喉の奥が土っぽい。俺は膝に手をつき、ふらつく身体を無理やり起こした。立たなきゃ終わる。そんな単純な理屈だけが、今の俺を支えていた。

 

目の前のゼンカイザーは、相変わらず淡々としていた。森の風が葉を鳴らしても、あいつの姿勢は揺れない。俺だけが息を乱している。まるで、俺が試験に追いつけていないみたいで腹が立つ。

 

「……まだ続ける?」

 

その言葉が、妙に刺さった。挑発じゃない。心配でもない。ただの確認だ。俺の意志の残量を測るみたいな口調。

 

「当たり前だろ……!」

 

声を張ったつもりが、喉が擦れて思ったほど出なかった。悔しさが胸の奥で燃える。俺は剣を握り直し、硬化したマントの縁を引き寄せる。次は縛られない。次は投げられない。そう思った瞬間、胸の内に別の感情が湧いた。

 

……なんで、こんなことをされなきゃいけない?

 

試練? 見定め? そんな言葉で、俺の戦いを測られる筋合いはない。俺は俺の世界を守るために戦ってきた。評価されるためじゃない。願いがないからって、ここまで——。

 

戸惑いが、確かにあった。怒りと一緒に。俺はそれを隠せないまま、ゼンカイザーを睨んだ。

 

その時だった。

 

――カン、と。金属を軽く打つような音が、俺の手元から響いた。

 

「吠」

 

聞き覚えのある声じゃない。クオンでもない。もっと重い。もっと古い。剣の中からではなく、指輪の奥から響くような声だった。俺は思わず視線を落とし、握り締めていたテガソードに意識を集中させる。

 

「……テガソード?」

 

「目の前の戦士は、“オリジナルに最も近い存在”だ」

 

淡々とした声なのに、言葉が重い。俺の胸の奥を直接押すみたいに響いた。

 

「オリジナル……?」

 

俺が呟くと、ゼンカイザーは特に気にした様子もなく、肩をすくめるように立っていた。まるで“そう言われても困らない”と言わんばかりに。

 

その隣で、響がはっと息を呑んだ。目を見開き、額に手を当てる。その表情は、恐怖じゃない。思い出す時の顔だ。

 

「……教授が……言ってた」

 

「教授?」

 

俺が問い返すより先に、響が言葉を続けた。

 

「この世界とは別の世界で、人々を守るために戦った戦士たちがいるって。『スーパー戦隊』って……伝承みたいに語られてた。別の世界の話だって、私は……半分、昔話みたいに聞いてたけど……」

 

「その者の名は、五色田介人」

 

「ただし、この世界のゼンカイジャーの者ではない。平行世界の別人だ」

 

「平行世界では、ゼンカイザーブラックとして活動していた」

 

「……へぇ」

 

「それ、今さら気にする話?」

 

介人は大して興味がなさそうに肩を落とし、俺の顔だけを見た。気だるげなのに、視線の焦点だけは外れない。

 

「さっき、ドンブラザーズを手伝ってたって言ったな」

 

「似たような理由で戦ってた。欲とか、願いとか……で、壊れそうになるやつら」

 

「……その話、俺に何の関係がある」

 

「関係があるかどうかは、君が決める」

 

言い方が曖昧すぎて、腹が立った。答えを言わないまま、こっちに判断だけ押し付ける。俺が言い返そうとした瞬間、介人の視線が俺の手元へ落ちた。

 

「……その指輪」

 

俺は反射的に拳を握り込んだ。握り込んだ指の隙間から、あのリングの一部が覗いてしまう。

 

「それ、どこで手に入れた」

 

「……知らねぇ」

 

「知らないなら、なおさら大事にしてる顔だ」

 

「関係ねぇだろ」

 

「関係ある」

 

「……君が何を抱えて戦うかは、戦い方に出る」

 

俺は喉の奥で言葉が詰まった。響が一歩だけ前に出て、俺の横に並ぶ気配がした。

 

「吠、それ……」

 

「響の親父さんから譲り受けた」

 

「大切な物だ」

 

言った瞬間、胸の奥が熱くなる。俺の中で、あの人の声と、響の明るい笑い声が一緒に蘇った。戦いの道具じゃない。俺の背中を支える“約束”みたいなものだ。

 

「……なるほど」

 

介人はそれ以上踏み込まなかった。ただ、俺の返事を“記録”するみたいに頷いただけだった。

 

「吠。君の願いを聞きたい」

 

「……願い?」

 

「うん」

 

「君が叶えたいもの」

 

「それが、この争いの先に置くに相応しいのか」

 

「……相応しいかどうかって、誰が決める」

 

「僕じゃない」

 

「君だよ」

 

「ただ、聞く」

 

「聞いたうえで、君自身が背負える形かどうかを確かめる」

 

「……確かめる理由は」

 

「理由を言ったら、君は答えを作る」

 

「作った答えは、薄い」

 

介人の言葉は曖昧なのに、逃げ道だけを潰してくる。俺は歯を噛みしめ、視線を逸らさずに返すしかなかった。

 

「俺には、まだ願いがない」

 

「……ない、で終わり?」

 

「終わりじゃねぇ」

 

「今まで勝ってきた。譲り受けた。奪われた奴の気持ちも見た」

 

「その先に“願い”って言われても、簡単に口にできねぇんだよ」

 

「じゃあ聞き方を変える」

 

「君は、何を叶えたら……もう誰も泣かないと思う?」

 

「……そんなの、俺が決めていいのかよ」

 

「決めていいかどうか、じゃない」

 

「決める“覚悟”があるかどうか」

 

「……っ」

 

胸が痛んだ。肋の痛みじゃない。もっと奥の、言葉にしたくないところだ。

 

「俺は……俺の世界を壊させたくない」

 

「誰かの願いのために、誰かが泣くのは、もう嫌だ」

 

「それは願い?」

 

「それとも、誓い?」

 

「……どっちでもいい」

 

「俺は、これ以上失うのが嫌なんだよ」

 

「失うのが嫌、で戦うのはわかる」

 

「でも、勝った先は“選ぶ”だ」

 

「選べないまま勝ち続けたら、最後に君が壊れる」

 

「……だから聞く」

 

「君が欲しいのは、守るための力?」

 

「それとも、誰かを救うための答え?」

 

「……わかんねぇ」

 

「わかんねぇ、は正直だ」

 

「正直なら、まだ伸びる」

 

「伸びる?」

 

「君が“レッド”なら、最後に自分の言葉で立てる」

 

「それを見たい」

 

介人は最後まで“なぜ自分がそれを見たいのか”を言わなかった。けど、言わないこと自体が圧だった。こいつは俺の願いを、俺から引きずり出すためにここにいる。そう確信させる沈黙がある。

 

「それと」

 

介人が指を立て、淡く光るリングを示した。

 

「俺が持ってる指輪は二つ」

 

「ゼンカイザーのセンタイリング」

 

「ゴレンジャーのセンタイリング」

 

「……最後の指輪だ」

 

「ここまで来た君が、何を願うか」

 

「それが相応しいか」

 

「それを、君自身の口で言え」

 

俺は喉を鳴らして息を吸った。言葉はまだ形にならない。けれど、逃げたくない。逃げたら、あのリングを譲ってくれた人の目を裏切る気がした。

 

「……答える」

 

「今はまだ、形にできねぇけど」

 

「俺は……逃げねぇ」

 

介人は小さく頷き、ギアトリンガーを握り直した。曖昧な理由のまま、曖昧な審判のまま、それでも次の一撃は確実に飛んでくる。

 

「……まだ続ける?」

 

「当たり前だろ」

 

「その割に、迷ってる顔だ」

 

言い返そうとして喉が引っかかった。迷ってる。痛いほど当たっている。願いがない。勝ち残った先で何を願うのか、まだ言葉にできない。そのくせ戦う理由だけは山ほどある顔をしている。自分でも矛盾だと思うのに、止まれない。

 

「吠」

 

手元のテガソードが低く鳴った。金属が空気を押し広げるような声が、耳じゃなく骨に届く。

 

「目の前の戦士は、オリジナルに最も近い存在」

 

その言葉が落ちた瞬間、背筋に冷たいものが走った。隣で響が息を呑む気配がする。

 

「教授が言ってた……この世界とは別の世界で、人々を守るために戦った戦士たちのこと。『スーパー戦隊』って……」

 

響の声は震えていたが、怖がっている震えじゃない。思い出してしまった震えだった suggest のように、過去の断片と今の現実が繋がってしまった時の。

 

介人はそのやり取りを、面倒そうに見ているだけだった。自分が何者だと呼ばれようが気にしない顔で、俺の反応だけを拾ってくる。

 

「君の願いを聞きたい」

 

「……願い?」

 

「うん。君が叶えたいものが、この争いの最後に置くに相応しいか」

 

「相応しいかどうか、誰が決める」

 

「君が決める。俺は、君の口から聞くだけ」

 

「理由は?」

 

介人は一拍置いて、わずかに首を傾けた。曖昧なまま、線だけ引く。

 

「理由を言ったら、君は答えを作る。作った答えは、軽い」

 

その言い方が腹立たしくて、同時に怖かった。俺の中の空白を、言葉にする前から見透かされている気がしたからだ。

 

介人の視線が、俺の手元に落ちた。リングの位置。俺が無意識に握りしめているところ。

 

「……そのリング」

 

俺は反射的に拳を閉じた。閉じても隠せない重みがある。あの日、響の父親から譲り受けたものだ。俺の手の中に、縁の感触として残っている。

 

「大事なものだね」

 

「当たり前だ」

 

「それを“戦うため”に使うのは、君の覚悟だ。じゃあ見せて」

 

胸の奥が熱くなった。ムカつく。試されるのは嫌いだ。でも、ここで引けば、俺が受け取った重みを自分で汚す気がした。言葉が出ないなら、今は行動で示すしかない。

 

俺はテガソードを構え、懐からドンブラザーズのセンタイリングを取り出した。指先が一瞬だけ震える。あの人の背中と、響の明るい声が胸を掠める。これは道具じゃない。託された縁だ。だからこそ、俺は逃げない。

 

『センタイリング!ドンブラザーズ!』

 

音声が森を震わせた瞬間、体温が跳ね上がった。胸の奥に祭り囃子みたいな熱が流れ込み、迷いが燃料に変わる感覚がした。視界が冴え、身体が前へ前へと急かされる。願いが定まったわけじゃない。それでも、今この瞬間だけは踏み出せる。俺はサングラソードを握り、地面を蹴った。

 

「うおおおっ!」

 

斬る。押し込む。間合いを奪う。介人に銃撃の距離を作らせない。刃が風を割り、木の葉が舞い、土が跳ねる。サングラソードの軌跡が赤く残像を引くたび、俺の焦りが形になって飛んでいくみたいだった。

 

介人は下がらない。ギアトリンガーを構え、銃口へエネルギーを収束させた。次の瞬間、ハンドルを回す動作が見える。水色っぽい光が刃の形に伸び、銃剣のように銃口の先へまとわりつく。撃たない。受ける。真正面から。

 

金属と光がぶつかり、耳の奥が痺れた。火花が散るというより、光の粉が弾けて森の影に溶ける。俺は斬撃を重ねる。介人はそれを、淡々と受け、受け流し、角度を変えて“俺の癖”を探ってくる。踏み込みのタイミング。肩の入り方。マントの位置。俺が次に何をするかを、こちらが思うより先に読んでいる。

 

「ドンブラザーズの連中はね」

 

介人が受け止めながら言った。息は乱れない。声も揺れない。斬り合いの最中に、言葉だけが冷たく刺さってくる。

 

「夢を奪われても、夢にしがみついた」

 

「誰かの夢を自分の夢にして、壊れかけた」

 

「逃げ続けながら、それでも守ろうとした」

 

「嘘がつけないせいで、言葉が刃になった」

 

「縁が重くて、それでも手を伸ばした」

 

俺の斬撃が一瞬だけ鈍った。なぜだ。知らないはずなのに、どれも痛いほど分かる。願いは綺麗な言葉じゃない。執着だ。欠けた場所だ。失いたくないものだ。その“欠け”が人を動かす。

 

介人は光刃で押し返し、俺の刃筋をわずかに逸らした。体勢が崩れる。崩れた瞬間、喉の奥に言葉が詰まる。

 

「君は?」

 

「君は、何を叶えたい」

 

「それは、勝ち抜いた先で口にしていい重さか」

 

「君が勝った時、その願いは誰を救って、誰を傷つける」

 

「……っ」

 

俺は踏ん張って斬り返した。斬り返したのに、刃が軽い。熱が揺らぐ。祭りの昂ぶりの奥に、現実の痛みが戻ってくる。願いを言葉にしたら、何かが壊れる気がする。俺の中の“守りたい”が、ただの恐怖みたいに聞こえてしまう気がする。

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