ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVS戦姫絶唱シンフォギア ユニバース大戦 作:ボルメテウスさん
森の土を踏みしめる足音が、ひとつ、ふたつじゃなかった。枝葉を分ける気配、息の合わない呼吸、誰かが走るたびに落ちる小石の音。戦いの残響に紛れて、仲間の気配が増えていくのが分かる。俺の胸の奥に、焦りとは別の熱が灯った。助けが来た安心じゃない。見られた、という感覚だ。願いのない俺が、願いを問われて、黙ったまま刃を振り回している姿を。
視界の端に影が躍る。角乃の足取りは静かで、でも迷いがない。禽次郎の動きは雑に見えて、その実、周囲の危険を先に拾っている。竜儀は森の空気すら味方につけるみたいに立ち、陸王は気障なくらい堂々として、真白は上から裁定するみたいな眼で状況を見下ろしていた。俺は一瞬だけ歯を噛んだ。みんな、ちゃんと“持ってる”。戦う理由を。叶えたいものを。俺にはそれがない。
介人の水色の光刃が、落ち着いた音で唸る。あいつは仲間が増えたのを見ても、表情の温度を変えない。ただ、俺の目の奥だけを覗くみたいに言った。
「君の世界、賑やかだね」
「……黙れ」
胸の奥で、記憶がゆっくりとほどけていく。俺は願いがない。そういう欠落から始まった。けど、周りは違う。角乃は妹を目覚めさせたい。あいつが言い張る“ハイクラス”の薄い鎧の下で、どれだけ必死に、どれだけ優しく、あの子の呼吸を信じているか、俺は見てきた。竜儀はテガソードの幸せを願う。ふざけてるようで、信仰みたいに真っ直ぐで、だから怖いくらい折れない。陸王は舞台へ戻るために、笑顔を作って、裏で努力を積む。禽次郎は“真のパーリーピーポー”なんて曖昧な言葉のくせに、誰かが泣くのを嫌がって、守り方をいつも身体で覚えている。真白は……あいつは、あいつの美学で世界を裁く。神を恐れぬ世直し人。そこに迷いはない。持っている願いの形が、俺とは違いすぎて眩しい。
羨ましい、って言葉が喉に引っかかった。羨ましいのに、同じ場所に立ちたいと思うと、怖くなる。願いを持ったら、その願いを失うかもしれないからだ。持たないままなら、失いようがない。そんな逃げ道に、俺はずっと身を隠してきたのかもしれない。
「吠!」
角乃の声が飛んできた。短い叫びなのに、胸に刺さる。俺は返事をする代わりに、拳を握り直した。ドンモモタロウの熱がまだ身体に残っていて、浮ついた昂ぶりが血の中を走っている。その熱を、このまま俺の弱さの言い訳にしたくなかった。
介人が、こちらへ半歩だけ踏み込む。
「君は、誰の願いを背負う?」
「……背負わねぇ」
「じゃあ、君は何を背負う?」
答えが出ない。けど、沈黙で終わらせたくない。俺は深く息を吸い、テガソードを握った手に意識を集める。センタイリングの感触が、縁の重みとして掌に残っている。俺は、願いがない。でも、願いがある人たちの隣で戦ってきた。その願いを見て、知って、触れて、俺は――俺も欲しいと思ってしまった。
「……俺も」
言葉が震えた。悔しい。情けない。でも、続ける。
「俺も、欲しいんだよ。願いを」
その瞬間、俺の中で何かが切り替わった。逃げ道を塞ぐみたいに。俺はテガソードの中のリングを弾くように、変身を解く。祭りの熱が引き、代わりに、いつもの獣じみた静けさが戻る。身体の輪郭が締まり、呼吸が深くなる。ドンの勢いじゃない、狼の執念だ。
「……戻るぞ」
呟いて、俺はゴジュウウルフへ戻った。森の冷気が肺を満たし、傷の痛みが現実として戻ってくる。痛い。だからこそ、ここにいる。
俺は天を仰ぎ、喉の奥から声を引きずり出した。遠吠えだ。吠えるための叫びじゃない。宣言だ。俺は自分の中の願いを、見つけに行く。逃げずに。
「アオオオオォォォ――――ッ!!」
音が木々にぶつかって反射し、森全体が揺れた気がした。仲間の気配が一瞬、静まる。介人の瞳だけが僅かに細くなる。試験官が、答案用紙の端に書き込まれた最初の一行を見つけたみたいに。
俺はそのまま手を伸ばし、ウルフカリバー50を召喚した。金属の重みが掌に落ちる。刃の冷たさが、俺の熱を整える。柄を握り、足を開き、刃先を介人へ向ける。
「聞いとけ」
「今はまだ、言葉にできねぇ」
「でも俺は――願いを見つける」
「この戦いの先で、ちゃんと自分の言葉で、答えを出す」
介人は肩を落としたまま、ギアトリンガーの光刃を構える。
「いいね。やっと、君の顔が“君”になった」
俺は笑えなかった。代わりに、刃を少しだけ低くした。仲間の気配が背中にある。願いを持つ人たちが、俺の背中を押してくれている。だから俺は前に出る。願いがないから戦うんじゃない。願いを見つけるためにも、戦う。