ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVS戦姫絶唱シンフォギア ユニバース大戦 作:ボルメテウスさん
闇から生まれた戦闘員たちは、最初はただの“数”だった。けれど冷血な厄災へと切り替わったシャイニングナイフの気配が場を支配した瞬間、群れは“意志”を持ち始める。足並みが揃い、左右から回り込み、前衛を押し潰しながら後衛へ刃を通すための形を作る。密度が上がるほど、森の空気は重くなり、呼吸にまで黒い粉が混ざるようだった。
俺と介人へ伸びかけたその“黒い奔流”に、先に割って入ったのは仲間たちだった。
「吠! 前、開ける! 皆は進んで!」
角乃の声が飛ぶ。ハイクラスを気取る余裕があるほど場は甘くないのに、声の芯だけはブレない。彼女はユニコーンドリル50を正面に構え、回転の圧で戦闘員の群れを押し返す。刃ではなく“推進力”で道を削るやり方だ。弾けた闇が霧のように散っても、角乃は一歩も引かない。守る対象が背後にある時、人は強くなる。
「邪魔者は、まとめて散ってくれないと困るんだよね」
陸王が軽い口調で言いながら、レオンバスター50の連射で“面”を薙いだ。撃ち抜くのは一体ずつじゃない。群れの足場、詰め方の角度、薄い場所を見極めて、流れそのものを断ち切る。闇の兵が崩れると、そこにすぐ別の兵が入り込む。だが陸王の弾は、入り込む前の“余白”まで潰してくる。
「今のうちに抜けるぞ! 固まるな!」
クリスの銃声が森に跳ねた。連射が乾いたリズムを刻み、角乃の削った通路の左右を縫うように制圧する。撃ち漏らしが前に出れば、翼の刃が一拍遅れて閃き、戦闘員の輪郭だけを切り落とす。響はその隙間へ踏み込み、拳で闇を砕く。殴った手が黒く染まりかけても、次の瞬間には迷いなくもう一発を叩き込む。その動きは“怖いから止める”じゃない。“怖いからこそ、止める”の重さでできていた。
「近づくな! ケークに触れさせるな!」
ブーケが叫び、倒れたスイートケークの周囲へ身を寄せる。戦闘員が狙うのは前線だけじゃない。混乱の中で倒れている者を攫い、闇の中へ引きずり込む。そこに“人質”が生まれた瞬間、戦線は崩れる。ブーケは細い腕で必死に戦闘員を払い、ファイヤキャンドルがその前へ出て火の熱で壁を作った。
「旦那のところへは行かせねぇ! お前ら、俺らが相手だ!」
ファイヤキャンドルの声は荒いのに、焦点が定まっている。助けたい。だからこそ、ここで倒れられない。その背中が、敵なのに頼もしいという状況が、戦場をより奇妙にしていた。
「……ふざけた闇ね。仲間を泣かせる闇なんて、焼き菓子より嫌いよ」
ブーケが歯を噛み、目を潤ませたまま言い切る。その直後、戦闘員の群れがケークの方へ一斉に雪崩れ込んだ。闇が“匂い”を嗅いでいる。弱った命を嗅ぎつけ、奪う。
「退け」
真白の声は冷たく短い。氷の腕が形を取り、地面に叩きつけられると、凍結が蜘蛛の巣のように走った。戦闘員の足が止まり、膝が凍り、動きが鈍る。止まった瞬間だけが勝負だ。翼が斬り、響が砕き、クリスが撃ち抜く。マリアが合間に声を張る。
「焦るな、間合いを崩すな! 崩した方が負ける!」
調と切歌が左右から回り込み、群れの側面を削る。二人の動きは軽いのに、やっていることは苛烈だ。相手が密集しているほど、一撃は深く入る。戦闘員が崩れれば、後ろの戦闘員が押し出され、さらに崩れる。集団戦の強さは“勝つ”より“崩す”にある。
「陸王! もう少し右! 密度の薄いところがある!」
角乃が叫ぶ。推理というより、戦場の地図を頭の中で引いている声だった。陸王がそれに合わせて射線をずらし、クリスがその穴を広げ、翼が刃で縫い、響が体で塞ぐ。誰か一人の強さじゃない。役割の噛み合わせで、闇の奔流に“裂け目”が生まれる。
「吠っち!道を作った!行け!」
禽次郎が大声で吠えた。普段の軽さは消えている。叫びは指示であり、祈りでもある。彼が前に出て、群れの注意を引き付けるように大きく動いた瞬間、戦闘員が一斉にそちらへ向いた。狙い通りだ。注意が逸れた分だけ、通路の圧が下がる。
ブーケがケークの側へ一歩戻りながらも、視線だけは前へ向ける。
「……シャイニングナイフさん、待っていてください! 絶対、引き戻します!」
ファイヤキャンドルが拳を握り、噛みしめるように言う。
「旦那は……俺が殴ってでも起こす。だから、今は道を守る!」
戦闘員がまた湧く。闇が増える。だが、それでも通路は消えない。全員が“二人を進ませる”という一点に噛み合って、押し返しているからだ。刃と銃と拳と氷と炎が、役割を分け合い、互いの隙を塞ぎ合い、群れの勢いを削り続ける。
森の中にできた一本の道。その先に、厄災が支配するシャイニングナイフがいる。俺と介人が進めるだけの“数秒”を作るために、背後では誰もが息を削って戦っていた。
闇の戦闘員たちが森の奥で渦を巻く音が、遠くで途切れ途切れに続いている。角乃たちが道を維持してくれている証拠だ。俺と介人の前だけ、黒い奔流が不自然に薄い。だからこそ、奥にいる“本体”の圧が直に肌へ刺さってくる。シャイニングナイフは、膝をついたまま首を吊られたみたいに揺れていた。闇が胸元から漏れ、呼吸に合わせて濃淡を変える。苦しんでいる、はずなのに、目は冷たい。中身が別の何かに入れ替わったまま、外側だけが必死に戻ろうとしてる――そんな歪さが見えた。
「……吠。やるなら、今」
介人の声は淡々としている。励ましでも命令でもない。ただ、現実のタイミングを置いてくる。
俺は拳の中の指輪の感触を確かめ、両手のテガソードを握り直した。呼吸を一つ深くする。願いがないことを、今だけは言い訳にしたくなかった。ここで止めなきゃ、誰かの夢も、誰かの明日も、まとめて闇に擦り潰される。
「……行く」
「エンゲージ!」
『最強!頂点!ユニバース!』
両手のテガソードで円を描くと、刃の軌跡が赤い環になって森の空気を切り裂いた。円が閉じた瞬間、闇が一瞬だけ怯む。俺はそのまま振り下ろす。重い、確かな手応えが地面に落ち、衝撃で枯葉が舞い上がった。
『テガソードナンバーワン!』
光が身体に巻き付き、獣の輪郭が一段、鋭くなる。視界が冴え、音が分離して聞こえる。遠くの銃声、枝の軋み、戦闘員の足音、それら全部の中心に、シャイニングナイフの“異音”があった。人間の呼吸じゃない、闇が肺を借りて鳴らす音。
「……近づくな」
シャイニングナイフが立ち上がる。声は平たいのに、刃だけが激情みたいに鋭い。紫黒い闇が刀身にまとわりつき、空気が裂ける前兆が走る。俺は躊躇せず、間合いへ踏み込んだ。リョウテガソードを横から入れて受ける。金属が噛み合う音が鳴り、次の瞬間、闇が火花の代わりに散った。燃えない、焦げない、ただ冷たく視界を汚す黒い粒が飛ぶ。
「……っ」
受け止めた衝撃が腕を痺れさせる。重い。刀の重さじゃない。叩きつけられているのは、罪悪感と狂気と、何か巨大な“圧”だ。俺はその圧を流すために足を引かず、半歩だけ斜めへずらす。正面を避けて、角度で殺す。狼の戦い方だ。
シャイニングナイフが二撃目を振り抜く。速い。刃の軌跡が二本、三本に見える。だが、俺の視界は追える。俺はリョウテガソードを縦に返して受け、受けたまま押し返した。押し返す途中で刃を滑らせ、闇の付着した“根元”へ切っ先を差し込む。狙いは肉体じゃない。闇が噴き出す起点。
「……切り分ける」
刃が闇を裂くと、シャイニングナイフの顔が一瞬だけ歪む。冷血な目の奥で、人の目が揺れた。苦しんでる。見えてる。戻りたがってる。なのに、戻るほど自分を責める声が大きくなる。闇はそこを餌にして膨れる。
「旦那……!」
遠くでファイヤキャンドルの叫びが響いた。同時に、ブーケの悲鳴混じりの声も聞こえる。みんなが道を守ってくれてる。だから俺は、ここで終わらせる。
介人が横へ回り込み、ギアトリンガーを構えた。銃口が光を集め、連射が森を叩く。弾幕はシャイニングナイフの足元と肩口を狙っていた。致命の射線じゃない。動きを縛る射線。逃げ場の角度だけを奪う。俺が斬り込むための“形”を作ってくる。
「……助かる!」
返事の代わりに介人の指が一度だけ引き金を引く。光弾が闇を抉り、シャイニングナイフの身体が半歩、逸れる。その瞬間に俺は踏み込み、リョウテガソードを交差させて叩きつけた。刃が十字を描き、闇の膜を割る。割れた奥で、紫の“目”みたいなものがこちらを睨んだ気がした。
シャイニングナイフが呻く。言葉じゃない、喉の奥の拒絶だ。腕が震え、三日月刀が自分の意思と逆に振るわれそうになる。そこで、ようやく声が混ざる。人の声が、闇に押し潰されながら漏れた。
「私は……愛する妻を……!」
言い切れない。続きが出る前に、冷たい声が上書きする。
「感情はノイズだ」
刃が跳ねる。俺は受けきれず、肩を切られた。痛みが熱く走り、血の匂いが森へ散る。闇の戦闘員がざわめくのが遠くで分かった。血は呼び水になる。ここで長引かせたら、全体が崩れる。
介人が舌打ちもせず、淡々と俺の横へ滑り込む。そして、片手で何かを投げた。古びた赤い指輪が、月光みたいに弧を描いて飛んでくる。
「これを使え!」
俺は空中で掴む。冷たい金属の感触。リングの意匠が、どこか懐かしい。俺は迷わずリョウテガソードへ装填した。音声が森に鳴り響く。
『センタイリング!ゴレンジャー!』
一瞬、闇が“古い正義”に反応したみたいに揺らいだ。俺は構えを変える。両刃を大きく回し、風を呼ぶように旋回させる。
「……ゴレンジャーハリケーン!」
リョウテガソードの風圧が渦になり、足元の枯葉と闇の粒子を巻き上げる。渦の中心に、ラグビーボール型の爆弾――“エンドボール”が出現した。俺はそれを掴み、間合いを測る。投げる先は胸元。闇の噴出口。
「……頼む、効け!」
俺はエンドボールを投げた。一直線に飛び、シャイニングナイフの胸元へ吸い込まれる――はずだった。だが次の瞬間、現れたのは、木魚だった。
「……は?」
間の抜けた音が鳴る。ポク、ポク、と低く、丸い響き。笑い話みたいな道具なのに、その音は異様に深い。胸の内側まで振動が届く。闇が嫌がる。目に見えて嫌がる。黒い膜が波打ち、紫の“目”が縮む。
木魚の音が続くたび、シャイニングナイフの身体から“何か”が引き剥がされていった。紫黒い塊が胸元から糸のように引きずり出され、空中で暴れ、形を変え、怒りの塊みたいに膨張する。シャイニングナイフの身体は、そのたびに軽くなるみたいに揺れ、最後には膝から崩れた。
「……いやだぁ……戻りたく……っ」
声は途中で途切れ、彼は気絶するように倒れた。倒れた身体から闇が抜けていく。抜けた闇は、逆に“自由”を得たみたいに膨れ上がり、森の上空へ伸びていく。
地面が震えた。闇の塊が巨大化する。輪郭が定まらないまま、巨人みたいにそびえ立ち、俺たちを見下ろす。目の位置がどこか分からないのに、見られている感覚だけが骨の奥まで刺さる。
介人が銃口を上げ、俺の横に並んだ。
「……本命、出たね」
俺は息を吐き、リョウテガソードを握り直した。願いはまだ言葉にならない。それでも、今だけははっきりしている。ここで折れたら、守るべき夢が全部、闇に吞まれる。シャイニングナイフを助けたいと叫んだブライダンの二人の声も、背後で道を作った仲間たちの呼吸も、全部、無駄にしたくない。
俺は巨大な厄災を見上げ、刃先を向けた。
「さぁ、行くぜ!テガソード!」