ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVS戦姫絶唱シンフォギア ユニバース大戦 作:ボルメテウスさん
数日が経って、里の空気はようやく日常の匂いを取り戻していた。
喫茶テガソードの里のカウンターから漂う豆の香りと、湯気の立つカップの熱。俺はそれを指先で確かめながら、あの森の重さがまだ皮膚の裏に残っているのを自覚していた。厄災が消えたはずなのに、耳の奥の圧だけが遅れて消えない。だから、静かな場所ほど、逆に怖い。
テーブルを囲んでいるのは、俺と響、それからゴジュウジャーの仲間となぜか介人の奴によって、呼び出された平行世界のゴジュウジャーのメンバーも集められていた。
その中に、介人は最初からマスターみたいに自然に座っていた。気だるげで淡々として、喋る時だけ空気の温度がほんの少し下がる。俺が視線を向けると、彼はポケットから小さな金属の輪を取り出し、テーブルへ置いた。白い意匠が、照明に触れて一瞬だけ鋭く光る。
「……これ」
喉が勝手に固くなる。ゼンカイザーのセンタイリングだ。試練の始まりそのものみたいで、触れる前から重さが伝わってくる。
「俺に?」
「うん。今回、越えた。だから渡す」
言い切り方が、やけに事務的で腹が立つ寸前までいった。でも、俺の中のどこかが分かってしまう。こいつは「情で渡す」人間じゃない。基準がある。採点してる。だからこそ、渡された事実が、妙に刺さる。
「……ありがとな。大事にする」
俺がリングを掴むと、冷たさが掌に馴染んだ。軽くない。けど、嫌じゃない。守ったものの重さに近い。
腰元の剣が、かすかに震えた。ガリューデカリバー50の装飾の奥で、薄紫の光が一度だけ瞬く。
「吠~、照れんなって。お兄ちゃんがプレゼントだよ、吠~!」
「うるせ。今は黙れ、剣」
「剣扱いひどくない? 元・お兄ちゃんだよ?」
「黙れ」
響が俺の横で、咳払いを一つだけして視線を逸らした。慰めたいのに、どう触ればいいか分からない時の顔だ。助ける言葉を探すほど、言葉が薄くなる。そういう沈黙が、今はちょうどいい。
介人は、リングを渡した直後に席を立った。次に、手に持っていたギアトリンガーを持ち上げる。銃身が照明を拾い、空気が一段だけ張る。俺の背筋が反射で固くなる。仲間たちの気配も同時に揃う。さっきまでの“日常”が、一瞬で戦場の手前に戻った。
「……まだ何かあるのか」
介人は答えず、ギアトリンガーの角度を変えた。乾いた機構音が鳴り、白い稲妻みたいな光が彼の輪郭をなぞる。次の瞬間、白基調の装甲が黒へ反転し、存在感が刃物みたいに研ぎ澄まされる。ゼンカイザー……いや、黒いゼンカイザー。
空気が凍る。
「は? 黒……?」
陸王が砂糖袋を落としそうになり、「いや、落とさないけど」と強がってそのまま拾った。
「おいおいおい、聞いてねぇぞ!」禽次郎が半歩下がり、半歩戻った。下がったのが悔しいらしい。
竜儀は眉一つ動かさないのに、拳だけは握っている。角乃は一瞬だけ目を細め、状況のラベル付けを終えた顔になる。響は戸惑いを隠せず、それでも前へ出ようとする足だけは止めない。戦うことへの迷いはある。けど、守ることへの迷いはない。
介人は、変身したまま肩をすくめる。
「別にこっちに変身出来ないとは一言も言っていないだろ」
その言い方が、あまりにも“いつもの介人”で、逆に腹が立つほど落ち着いている。
「……そういうの、先に言えよ」
俺は思わず吐き捨てた。
「心臓に悪い」
「心臓は動いてる」
「動いてるから言ってんだろ」
腰元でクオンが愉快そうに笑った気配がした。今のは俺が悪いみたいな空気を作りたがっている。腹立つが、嫌じゃない。あいつが“ここにいる”だけで、俺の足が地面に繋がっているのも事実だ。
介人がギアトリンガーを横へ払う。
空間が紙みたいに裂けた。裂け目の縁は白黒の歯車みたいに回転し、中心に別の世界の空気が滲む。風が逆流して、コーヒーの匂いが薄れた。代わりに、乾いた鉄と遠い埃の匂いが混ざる。喫茶店の静けさが、異世界の入口で上書きされていく。
「ゲート……?」
「ここから彼らを送っていくよ。元々はギャラルホルンからの反応があったからね」
「それじゃ、ここから緒乙達も」
「あぁ」
それと共に問題は確かに解決出来たかもしれない。
響の声が小さく揺れた。
介人は裂け目の前に立ち、振り返って俺を見る。目は冷たい。でも拒絶じゃない。試す目だ。俺がリングを握り潰さないか。願いがないまま折れるか。そういう類の確認。
俺はゼンカイザーのリングを握り直した。願いがないことは、事実だ。けど、今この瞬間に守りたいものがあるのも、事実だ。夢を持ってる奴らがいて、その夢が踏みにじられるのが嫌で、俺はここまで来た。
「……行く理由はまだ言わねぇ。でも逃げねぇ。俺の世界、もう誰にも好き勝手させない」
響が俺の横に並び、短く頷いた。仲間たちも、各々のやり方で覚悟を固める。介人は何も言わず、ゲートを少し広げた。歯車の縁が回転を増し、向こう側の“次の舞台”がこっちへ手を伸ばしてくる。
静かな喫茶店の床が、遠い戦場へ繋がっていく。俺は足元の確かさを一度だけ確かめてから、前を見た。
「それに」
少なくとも、介人の言葉が正しければ、指輪は全てが揃った。
それは、この場にいる6人による最後の戦いが始まる事を。