ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVS戦姫絶唱シンフォギア ユニバース大戦   作:ボルメテウスさん

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最初のライバル

夜は、里の輪郭を薄くする。喫茶テガソードの里の灯りも、昼間みたいに誰かを呼び止める明るさじゃなくて、ただそこにあるだけの小さな点になっていた。風が吹くたび、木の枝が乾いた音を立て、遠くで看板が一度だけ鳴る。俺はその音に反射で肩を強張らせて、すぐに力を抜いた。戦いが終わって数日。なのに、身体の奥がまだ“次”を探している。

 

眠れないわけじゃない。ただ、目を閉じると、あの闇の圧と、剣の重さと、胸の奥に刺さったままの言葉が浮かぶ。願いがない。……それを、まだ言い切れないまま、ここまで来てる。

 

息を吸って吐く。湿った土と、焦げの残りと、どこかから漂う珈琲の香りが混ざっている。店の裏手に回ると、昼間は誰かが行き交う場所も、今は俺の足音だけを返してきた。砂利を踏む音が、やけに大きい。耳が拾いすぎてる。

 

そのとき、足元の影の端に、紙の白が見えた。

 

最初は落とし物だと思った。誰かのメモ、伝票、チラシ。そういう軽いもの。けど、近づくにつれて“違い”が分かる。紙の縁が不自然に黒い。焦げてる。燃え残ったみたいに、輪郭だけが焼けて残っている。

 

封筒だった。

 

地面に置かれているのに、雨に濡れた気配がない。風で飛ばされもしないように、小石が一つだけ角を押さえてある。わざとだ。ここに置く理由がある。俺に見つけさせるための位置だ。

 

俺は反射で周囲を見た。路地の奥。店の窓。屋根の上。暗がり。気配はない。……いや、“ない”っていうより、最初から“見せない”置き方だ。戦い慣れた相手の手つきに似てる。追いかけさせない。姿を見せない。代わりに、答えだけを置いていく。

 

しゃがみ込んで、封筒をつまむ。指先に、ざらりとした感触。煤だ。黒い粉が、皮膚に薄く移る。封は封蝋じゃない。焼き印みたいに熱で潰された跡がある。こじ開けようとすれば、紙が裂ける。開ける側の手つきまで想定してる。

 

胸の奥が、嫌なふうに冷える。

 

俺は封筒を持ったまま、もう一度だけ周囲を見た。誰にも見られたくない、って思ったのは、秘密にしたいからじゃない。見られたら、ここから先の動きが“俺一人のもの”じゃなくなるからだ。巻き込まれる。止められる。勝手に守られる。そういうのが嫌だ、と言い切るほど強くないのに――“嫌だ”の手前で、もう決めていた。

 

封筒を抱えて、少しだけ場所を移す。灯りが届きすぎないところ。背中を壁につけられるところ。左右を同時に見られるところ。戦いの癖が抜けない。笑える。こんな静かな里で、俺は今でも“狩られる側”の用心をしてる。

 

封を爪でなぞる。焦げた紙の匂いが鼻の奥に引っかかった。焼け跡の匂いは、厄災の闇とは違う。もっと人間くさい。火を扱う誰かの匂いだ。あの男の姿が浮かぶ。真っ直ぐで、乱暴で、仲間のことになると目が熱くなる――火みたいな奴。

 

俺は呼吸を整えて、封の端に指をかけた。力を入れすぎれば破ける。焦らせるための封じゃない。読む覚悟があるか、確かめる封だ。

 

紙が、短く鳴った。焼き潰された部分が剥がれ、封筒の口が開く。指先に残る煤を、ズボンで拭う余裕もないまま、俺は中の紙を引き出した。

 

折り畳まれた白い紙は、意外なほど整っていた。焦げた縁と対照的に、文字は真っ直ぐで、迷いがない。書いた手が震えていない。感情で投げつけた手紙じゃない。

 

俺は、光の当たる角度を探して、紙を開いた。

 

一行目を見た瞬間、喉の奥がひゅっと狭くなる。

 

差出人の名前が、そこにあった。

 

「……ファイヤキャンドル」

 

声が漏れた。里は何も答えない。ただ風が吹いて、紙の端が小さく揺れた。俺はその揺れを指で押さえ、続きを読むために息を吸った。

紙は一枚だけだった。余計な飾りも、情に訴える言葉もない。焦げた封筒の乱暴さと違って、文字は驚くほど几帳面で、線がまっすぐに揃っている。筆圧が均一で、感情の揺れが見えない。火の男が書いたにしては、静かすぎる。だからこそ、胸の奥が嫌なふうに落ち着いていく。

 

冒頭は名乗りから始まっていた。続く行に、日時と場所。採掘場の名。待ち合わせの合図まで指定されている。ここまでは、ただの決闘状にも見える。けど、目を滑らせるほど、違う匂いが濃くなる。文章が、誰か一人の喧嘩じゃなく、組織を動かすための書式に寄っている。

 

「……手続き、かよ」

 

思わず声が漏れた。紙の上の言葉は、俺の独り言に反応しない。冷たいまま、次の段へ押し進めてくる。

 

“センタイリングは、すべてゴジュウジャーの元にある”。そう断言されていた。誇張でも揺さぶりでもない。事実として置かれている。そこから先は、理屈だった。争奪戦を続ける意味が薄いこと、これ以上の戦いは、勝っても負けても何も残らないこと。ブライダンが、終盤に差しかかっていること。俺が感じていた空気を、向こうは言葉にして固定している。

 

その下に条件が並ぶ。箇条書きみたいに淡々と。

 

吠が勝った場合、ブライダンは全面的に降伏する。武器を置く。侵攻を止める。以後、いかなる形でも争奪戦に介入しない。まるで契約書だ。勝負の取り決めじゃない。“終戦の取り決め”だ。

 

俺は紙を持つ指に力が入るのを感じた。紙がわずかに鳴って、焦げた縁が揺れる。読み進めた先に、いちばん薄気味悪い一文があった。

 

“その際、ファイヤキャンドル自身の処遇は問わない。どうなってもいい”。

 

そこで、背中が少し寒くなった。強がりの言葉じゃない。脅しでもない。自棄でもない。文章が、最初からその結論を前提に組まれている。まるで、自分の命を“代金”として差し出して、何かを成立させようとしている。

 

「……ふざけんな」

 

怒りが湧いたのに、続く行で怒りが別の形に変わる。

 

“指輪の争奪戦が終われば、自分達も終わる”。そう書かれていた。敗北の予感じゃない。理解だ。自分達は役割で、舞台が閉じれば消えると知っている。だから最後に、筋を通して畳みに来た。俺の中で、火の男の姿が勝手に補完される。あいつは乱暴だ。乱暴なくせに、仲間のことになると妙に丁寧になる。だから、この紙の丁寧さは、仲間に向けたものだ。

 

俺は一度、文面の頭に戻った。日時。場所。合図。勝った場合の降伏。自分の処遇。全部が、誰かに見せる前提で整っている。俺に向けた手紙のはずなのに、どこか“他人向け”だ。俺とファイヤキャンドルだけの約束なら、こんなに整える必要はない。

 

その瞬間、嫌な結び目がほどけた。

 

これは、俺に挑むための手紙じゃない。ブライダンを降伏させるための手紙だ。あいつが一人で責任を背負えば、仲間は助かる。負けの責任を全部あいつに押しつけられれば、残った連中は退く理由ができる。退かない連中がいたとしても、“決闘の結果”を盾にできる。そういう形を、あいつは作ろうとしている。

 

俺は唇を噛んだ。勝てば終わる。負ければ終わらない。単純なのに、単純じゃない。勝つだけじゃ足りない。勝って、終戦を成立させる必要がある。けど、そのためにあいつが“どうなってもいい”なんて、認めたくない。

 

紙の端を指で押さえ、息を吐く。静かな里の夜気が、肺の奥まで冷たく入ってくる。

 

「……俺に、責任を渡してくるのかよ」

 

答えは返ってこない。返ってくるのは、紙の重みだけだ。決闘状じゃない。終戦の印鑑を、俺の手に握らせる書類だ。

 

俺はゆっくり紙を折り畳んだ。折り目がつく音が、やけに大きく感じる。封筒に戻さず、そのままポケットへ入れた。返書は書かない。書いた瞬間、交渉になる。交渉になれば、形が崩れる。形が崩れれば、終わらない。

 

里の風がまた看板を鳴らした。俺はその音を背中で聞きながら、足元の砂利を踏みしめる。たぶん、もう決まっている。

紙を折り畳んだはずなのに、指先の感触が離れなかった。焦げた縁のざらつきと、煤の薄い粉。手のひらに残るそれが、まるで「考えろ」と言ってるみたいで、俺はポケットの上からもう一度押さえた。夜気が冷たい。なのに、胸の奥は変に熱い。怒りじゃない。焦りでもない。もっと嫌な、筋の通った予感だ。

 

ただの決闘なら、こんな書き方にはならない。

 

俺は自分にそう言い聞かせるみたいに、もう一度だけ文面を思い出した。日時と場所。開始合図。勝った場合の降伏条件。侵攻の停止。介入の禁止。……そして「俺の処遇は問わない」。整いすぎてる。人を殴りたい奴の文章じゃない。誰かを説得する文章だ。

 

誰を?

 

その答えが浮かんだ瞬間、背中に冷たいものが走った。

 

「……仲間、か」

 

ファイヤキャンドルは仲間意識が高い。俺はそれを、戦場で何度か見た。あいつは派手で乱暴で、火の勢いのまま突っ込むくせに、“自分だけが気持ちよくなる勝ち方”はしない。どんなに熱くても、目がちゃんと周りを見てる。仲間が傷つけば、あいつの火は怒りに変わる。仲間が迷えば、あいつの火は支えに変わる。

 

そんな奴が、「俺はどうなってもいい」なんて言葉を軽く書くわけがない。

 

だから、あれは自己犠牲じゃない。盾だ。仲間を守るために、自分を差し出す盾。

 

そして盾が必要ってことは――守るべきものが、内側にもあるってことだ。

 

俺の脳裏に、嫌な図が勝手に組み上がる。争奪戦が終盤。リングはほとんどこっちにある。ブライダンはもう、正面から奪い返す力も理由も薄い。普通なら撤退して終わりだ。……終わりのはずだ。

 

だけど、終わり方が“気に入らない奴”がいる。

 

降伏なんて認めない。最後まで奪え。恥を雪げ。敗北を飲むくらいなら全員で燃え尽きろ。――そういう声が、内部にある。いや、あると考えた方が筋が通る。だって、ファイヤキャンドルの文面は“外向け”だ。俺にだけじゃなく、背後にいる誰かに見せるために整えてある。

 

「決闘の結果だから従え」

 

そう言うための文書。そう言える形を先に作るための文書。

 

つまり、降伏反対派がいる。いるから、勝敗の“正当性”が必要なんだ。

 

俺は唇を噛んだ。口の中に鉄の味がする。俺の想像が当たってるかどうかは分からない。分からないけど、分からないままでも、これだけは確かだ。ファイヤキャンドルは「俺に勝て」と書いているだけじゃない。「俺が負ける形で、ブライダンを止めろ」と書いている。

 

……じゃあ、なぜ“俺”なんだ。

 

そこまで考えて、胸の奥がさらに重くなる。吠が勝てば降伏、なんて条件にする理由は一つだ。今の戦いの中心が俺だから。ゴジュウジャーの中心が俺だから。リングの集約点が俺だから。俺が勝てば、終わりにできる。俺が勝てば、反対派の口も塞げる。俺が勝てば、仲間が生き残る。

 

俺は、ため息を吐いた。冷たい息が白くはならない程度の寒さなのに、肺の奥がきしむ。責任を押しつけられてる、って感じじゃない。押しつけられてるのは事実だ。でも、その押しつけ方が“筋”として成立してしまっているのが、いちばん腹立たしい。

 

「……俺は、いつから終戦の判子になったんだよ」

 

答えは返ってこない。里は静かで、遠くで誰かの家の戸が鳴った気がするだけだ。俺の足元の砂利を、夜風が撫でる。耳が拾う情報が少ないほど、頭の中の音が大きくなる。

 

けど、ここで迷ってる暇はない。迷いは、向こうに口実を与える。返書を書けば交渉になる。交渉になれば“裏で何かしてる”と疑われる。疑われれば反対派が騒ぐ。騒げば、終戦どころじゃなくなる。……それが、いちばん嫌だ。

 

俺は自分のポケットを叩いた。手紙が入っている場所を確認するみたいに。そこにあるのは紙じゃない。火薬だ。点火したら戻れない火種だ。

 

でも、点火するのは俺じゃない。もう、とっくに点いてる。ファイヤキャンドルの火が、俺の手の中に移っただけだ。

 

「……分かったよ」

 

声に出して、誰に向けたのかも分からないまま呟いた。里に向けたのか、紙に向けたのか、それとも火の男に向けたのか。どれでもいい。大事なのは、俺が決めることだ。

 

降伏反対派がいるなら、なおさらだ。余計な人間を巻き込まない。余計な火を広げない。終わらせるための決闘なら、終わらせるために勝つ。

 

俺は踵を返した。音を立てないように歩き出す。里の灯りが背中に小さくなる。自分が一人だってことが、今夜は妙に軽くて、妙に重い。

 

ポケットの中で、紙がわずかに擦れた。歩き出そうとして、俺はもう一度だけ立ち止まった。立ち止まった理由は、怖いからじゃない。怖いだけなら、動ける。動けないのは、いつだって別の理由だ。俺の中で、いくつもの理屈が同時に手を伸ばしてきて、どれを握るべきか一瞬だけ迷わせる。

 

……でも、結局、握るのは一つだ。

 

ファイヤキャンドルは、俺がゴジュウジャーとして戦った最初の“ライバル”だった。

 

敵だとか味方だとか、そんな単純な区分で片付く相手じゃない。最初にあいつの火を見たとき、俺は――怖かった。強いとか派手とか、そういう怖さじゃなくて、自分の中の何かを炙り出される怖さだった。あいつは燃える。迷いを燃やす。甘さを燃やす。逃げ道を燃やす。その熱に当てられると、こっちも「やるしかない」って場所に立たされる。

 

それが、ライバルってやつなんだろう。

 

だから、あいつが「タイマンで来い」と書いてきたとき、俺の中のどこかが先に頷いていた。理屈が追いつく前に、身体が「行く」と決めていた。勝てば降伏だとか、終戦手続きだとか、降伏反対派だとか――全部、本当だ。全部、理解してる。それでも、その下にもっと単純な感情がある。

 

俺は、あいつと決着をつけたい。

 

逃げたまま終わりたくない。誰かに止められて、うやむやで終わりたくない。俺が俺として、あいつに勝つか、負けるかを、一度は真正面から受け止めたい。ゴジュウジャーとして戦い始めたあの日から、ずっと胸の奥に残っていた“火の形”に、終わりを与えたい。

 

それを認めた瞬間、迷いが一つだけ消えた。

 

「……あぁ、そうだよな」

 

声が小さく漏れる。誰に聞かせるでもない。自分の腹に落とすための一言だ。俺は“正しいから”行くんじゃない。正しいのは大前提として、俺は“行きたいから”行く。決着をつけたいから行く。俺の手で終わらせたいから行く。

 

そして、誰にも言わない理由も、そこで一本にまとまった。

 

誰かに知らせれば、止められる。止められなくても、ついて来る。ついて来れば守ることになる。守るために、俺は迷う。迷えば、手が鈍る。鈍れば、勝負が汚れる。汚れた勝負で終戦を成立させれば、反対派の口実になる。口実ができれば、また火が増える。増えた火は、俺の仲間や、里や、関係ない奴らにまで燃え移る。

 

……それだけは、嫌だ。

 

「俺一人でいい」

 

その言葉を、胸の奥に打ち込むみたいに思う。独りよがりじゃない。孤独が格好いいからでもない。勝負を“二人のもの”にするためだ。終戦を“誰かの犠牲”にしないためだ。

 

ポケットから紙を取り出して、もう一度だけ確認する。日時。場所。開始合図。無駄がない。返書はいらない。返書を書いた瞬間、交渉になる。交渉になれば“余計な耳”が生える。余計な耳が生えれば、余計な口が動く。余計な口が動けば、終わるものも終わらなくなる。

 

俺は紙を折り畳み直して、今度は丁寧に畳んだ。焦げた縁が指に触れる。火の男の匂いがする。腹の奥が、じわっと熱くなる。怒りじゃない。覚悟の熱だ。

 

「……来いって言うなら、行く」

 

俺は返書を出さない代わりに、行動で答える。受ける。それだけで十分だ。勝負は言葉じゃなくて、立ち方で決まる。俺が立つ場所が、答えになる。

 

足音を殺して歩き出す。里の灯りを背にする。夜風が頬を撫でる。体温が奪われていくのに、胸の奥は不思議と落ち着いていく。決めたからだ。やるべきことが一本になったからだ。

 

ファイヤキャンドル。最初のライバル。

 

だったら、最後まで、真正面で終わらせる。

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