ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVS戦姫絶唱シンフォギア ユニバース大戦 作:ボルメテウスさん
爆煙が薄れていくにつれて、採掘場の輪郭が戻ってきた。さっきまで白く焼かれていた視界が、今は煤と焦げの匂いを含んだ闇に染まっている。足元の砂利は溶けて固まりかけ、熱がまだ地面から立ち上っていた。俺はリョウテガソードを握り直す。指が痺れて感覚が鈍いのに、柄の硬さだけはやけに鮮明だ。呼吸をするたび胸が痛む。吸うと焼ける、吐くと冷える。その繰り返しで、肺が擦り切れそうだった。
向こうも同じだ。ファイヤキャンドルはロッドを杖みたいに一瞬だけ地面へ突き、身体を支えるように立っている。けど、視線だけは真っ直ぐ俺を射抜いていた。あいつの火は弱まっている。なのに、目の奥の“燃え”は消えていない。むしろ、余計なものが削げ落ちた分だけ、芯が露出している。
ここから先は、技の数じゃない。気合でもない。どっちが先に踏み込むか、どっちが先に折れるか。たったそれだけで勝負が決まる匂いがした。俺は一歩、砂利を踏む。靴底が軋む音が異様に大きい。その音に合わせて、ファイヤキャンドルも肩を揺らした。互いの限界が、互いの呼吸で見える距離だ。
「……次で、終わらせるぞ」
言葉が喉の奥で擦れて、声が掠れた。それでも言う。言わなきゃ、足が迷う。ファイヤキャンドルは返事の代わりに、口角を上げる。笑みというより、牙を見せる獣の表情だった。
「キャキャキャ……いいぜ。終わらせようぜ、ゴジュウウルフ」
俺はリョウテガソードを構え、半身になる。刃先が夜を切り、熱で揺れた空気が裂ける。次の瞬間、サブアームが呼吸みたいに連動して起動した。ウルフデカリバー50の重みが腕の外側に乗り、オルカブースター5050の冷たい金属感が反対側に噛みつく。三つの武器が、同じ“意志”で動く感覚がある。身体が限界なのに、武器だけが俺を引っ張って前へ出る。
『オーバーロード!オールハンズ!!』
音声が鳴った瞬間、世界の速度が一段上がった。俺は地面を蹴る。砂利が飛び、落ちた火花に触れて小さな炎が跳ねる。視界の端が赤く滲むのは疲労か、それとも戦闘の熱か。どっちでもいい。狙うのはただ一つ、ファイヤキャンドルの芯だ。
最初の一撃は斬撃。ウルフデカリバー50の刃を荒々しく振り抜く。型なんて捨てた。相手の防御をこじ開けるための、獣の爪みたいな一閃だ。ファイヤキャンドルはロッドで受けた。受けた瞬間、火花が散る。白い火花に赤が混ざり、落ちた先で小さな炎が踊った。
二撃目は銃撃。オルカブースター5050が唸り、赤い稲妻みたいな光が連射で走る。撃つのは身体じゃない、間合いだ。ファイヤキャンドルの足元と肩口、次に踏み込む場所を潰すように光弾を置いていく。あいつはロッドを回して弾くように払い、時には火の壁を一瞬だけ作って受け流す。余裕がないのに、技の精度が落ちない。火の男の“荒々しさ”は、最後まで荒れない。
三撃目が本命だ。俺はリョウテガソードを引き絞り、刃を低く構えてから、上へ一気に斬り上げる。風圧が採掘場の熱を引き裂き、闇を切り分けた。刃先が届く、その瞬間――ファイヤキャンドルの身体が、微かに沈む。避ける動きじゃない。溜める動きだ。嫌な予感が背骨を走る。
胸部が、燃えた。
フェニックスの顔を模した胸部から、炎が“放たれる”というより“飛び出す”。鳥の形だ。フェニックスを模した炎が、一直線にこちらへ突き進む。熱ではない。灼熱という意志そのものが、空気を押し潰して来る。俺の三連撃の勢いが、その炎と正面で噛み合った。
光と炎がぶつかった瞬間、衝突点が膨れ上がる。火花が吹雪みたいに散り、周囲の小さな炎が一斉に煽られて、採掘場の影が巨大な獣の群れみたいに踊った。足元の地面が鳴る。熱で膨張した岩が、耐えきれず軋んでいる。
拮抗している。互いの限界が、そのまま火力になっている。俺は歯を食いしばり、腕の痺れを無視して刃を押し込む。ファイヤキャンドルはロッドを握り締め、胸からの炎をさらに押し出す。火の鳥が翼を広げるように炎圧が増し、俺の視界が赤に染まる。息を吸えば焼け、吐けば震える。それでも、退けない。
「うおおおおおっ!!」
俺の喉から声が絞り出される。叫びは気合じゃない。身体を動かすための命令だ。握れ、踏ん張れ、押し込め。そう言い聞かせるための叫びだ。
「燃えろおおおお!!」
ファイヤキャンドルの叫びが重なる。嬉しそうな声じゃない。泣きそうな声でもない。仲間のため、自分のため、そしてこの終戦のために、全部を燃やし切る男の声だ。衝突点がさらに膨れ、光が輪郭を失った。俺は刃の向こうの相手を見ようとするのに、視界は炎で塗り潰される。
次の瞬間、音が消えた。
爆ぜたのは、光と炎が作った“壁”だった。遅れて衝撃が来る。身体が持ち上がり、背中が夜に投げ出される感覚。どちらが押し勝ったのか、分からない。分からないままでも、ただ一つだけ分かる。ここまで来たら、次の一歩が“勝ち”を決める。
俺は地面を掴むようにして、なんとか身体を起こした。リョウテガソードがまだ手の中にある。まだ、終われない。煙の向こうで、ファイヤキャンドルの影も揺れている。立ち上がろうとしているのが分かる。
爆ぜた熱の名残が、まだ空気に残っている。煙がゆっくり薄れていくのに合わせて、採掘場の輪郭が戻ってくる。足元の砂利はところどころ溶けて固まり、焦げた匂いが喉の奥に張りついて離れない。俺はその場に立ったまま、呼吸の仕方を思い出すみたいに、何度も息を吸って吐いた。胸が痛い。腕が痛い。指先の感覚が遠い。それでも剣を落とさないように、ただ握り締めている。
ファイヤキャンドルも立っていた。あいつも動かない。ロッドを杖みたいに地面へ預け、上半身だけで立っているように見える。さっきまでの熱気を引きずったままの赤い影が、煙の向こうでゆらゆら揺れていた。互いにもう追撃する体力なんて残っていない。それを認めたくない意地だけが、俺たちの背骨みたいに身体を支えている。
どれくらい時間が経ったのか分からない。五秒にも一分にも感じる、妙に長い“間”が続いた。風が吹いて、焦げ粉が舞う。耳の奥で、自分の心臓の音だけが大きい。ここまで来たら、勝ち負けは最後の一撃じゃない。最後に、立っていられた方だ。俺はそう思って、膝の震えをごまかすように足の指に力を入れた。
そのときだ。ファイヤキャンドルが、ふっと笑みを浮かべた。さっきまでの獣みたいな笑いじゃない。燃え尽きる寸前の火が、静かに灯るみたいな笑みだった。
「……楽しかったぜ」
声が、驚くほど小さい。なのに採掘場の闇にすっと通る。俺は返事をしようとして、喉が上手く動かないのに気づく。言葉が出ない代わりに、視線だけで頷いた。あいつはそれで十分だと言うように、肩を落とす。
次の瞬間、膝が折れた。ファイヤキャンドルの身体が、前に倒れるんじゃなくて、炎が消えるみたいにすとんと落ちる。ロッドが砂利を叩いて、乾いた音がした。変身が解除される光が一瞬走り、その中から現れたのは、汗と煤にまみれた“ただの男”の姿だった。仲間のために燃える火の男。けど、今はもう、燃やすものが残っていない顔をしていた。
俺は一歩踏み出そうとして、足が言うことを聞かない。踏み出したつもりが、ただ重心がずれただけだった。それでも倒れないように、リョウテガソードを支えにして耐える。勝った。勝ったはずだ。なのに、勝った実感が来ない。来るのは、安堵より先に、身体が崩れそうになる感覚だけだった。
視界の端が暗くなる。耳鳴りが強くなる。俺は剣を下ろそうとして、その動作すら遅れる。呼吸をしようとして、肺が拒否する。ここで倒れたら同じだ。そう思って踏ん張るのに、踏ん張る力すらもう残っていない。
「……っ、は……」
漏れた声は、自分でも情けないくらい弱い。それでも俺は立っている。立っているだけで精一杯だ。ファイヤキャンドルはもう動かない。倒れたまま、微動だにしない。勝負は決まった。終戦の手続きは、これで進む。進めなきゃいけない。
その次の瞬間、俺の変身も限界を迎えた。身体から力が抜ける。鎧の感覚が霧みたいに薄れていき、世界の重さが一気に戻ってくる。変身が解除され、膝がわずかに落ちる。それでも、倒れなかったのは意地だ。いや、意地だけじゃない。あいつが最後に見せた笑みが、俺の背中を支えた。
俺はふらつきながらも、倒れたファイヤキャンドルへ目を向ける。勝者は俺だ。けど、勝ったのは“終戦”であって、俺の気持ちが全部すっきりしたわけじゃない。胸の奥に残る熱は、まだ消えない。消える必要もないのかもしれない。
『WINNER!ゴジュウウルフ!』