ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVS戦姫絶唱シンフォギア ユニバース大戦 作:ボルメテウスさん
俺はふらつく足で、倒れているファイヤキャンドルへ近づいた。砂利が靴底に噛み、踏み出すたび膝が笑いそうになる。けど、ここで転ぶわけにはいかない。勝ったからじゃない。勝った後の言葉を、ちゃんと届けなきゃいけないからだ。倒れたままのあいつの胸が上下しているのを見て、ようやく生きてると分かって、喉の奥の硬さが少しだけほどけた。
ファイヤキャンドルは仰向けのまま、目だけで俺を追った。まだ火は消えていない。身体は動かなくても、眼差しの芯が残っている。口元がわずかに歪んで、笑いになる前の顔で、あいつは息を吐いた。
「……俺の事は好きにしろ。勝者の特権だ」
乾いた声なのに、妙にまっすぐだった。負け惜しみじゃない。投げやりでもない。覚悟を受け渡す声だ。
「その代わり、ブライダンを……俺の仲間を見逃してくれ」
俺は立ったまま、返事を急がなかった。腹の底で、色んな感情が渦を巻く。怒り、嫌悪、警戒、そして、理解。あいつは“自分だけ”を守ろうとしてない。最後まで、仲間の名前を出す。そこが、憎いくらいに筋が通ってる。
ファイヤキャンドルは続けた。言葉の切れ目に血の味が混じっているみたいに、喉が掠れる。
「分かってんだ……もう、勝てねぇってな。だから最後の賭けだった。お前の指輪を奪って、ひっくり返す……それしか、なかった」
悔しさより先に、責任が覗く。あいつは負けたことを嘆いてない。手段が尽きたことを認めている。俺の胸が、嫌な形で痛んだ。
「結果は……敗北だ。キャキャキャ……情けねぇな」
笑いが喉で途切れ、咳みたいに崩れた。けど、その目は逸れない。逃げない。だから余計に、俺は言葉を選ばざるを得なくなる。
「それに関しては……上も、了承してる」
ファイヤキャンドルは唇を歪めたまま、空を仰ぐみたいに視線を上へ流した。
「テガジューンもだ。俺がここでケリつけるって言ったら……止めなかった。……“好きにしろ”ってよ」
その一言が、採掘場の闇に落ちた。テガジューン。ブライダンのボス。あいつらの世界でも“終わり”は見えている。だからこそ、ファイヤキャンドルは最後の火を、この場所に持ってきた。俺は息を吸い直して、口の中の焦げ臭さと一緒に、言うべきことを押し出した。
「……確かに、お前らがやった事は今でも許せない事が多い」
言った瞬間、胸の奥が熱くなる。許せない。嘘じゃない。俺の人生は、あいつらのせいでめちゃくちゃになった。失ったものも、戻らないものも、数えきれない。
「けどな」
俺は言葉を切る。切らないと、感情が暴走する。切って、もう一段深いところから言う。
「もうこれ以上、誰も傷つけないって言うなら……俺はそれで良い」
ファイヤキャンドルの目が、はっきりと見開かれた。驚きが、痛みを一瞬だけ押しのける。唇がわずかに震えて、声が漏れる。
「……なんでだ」
短い問いが、岩肌に反響した。
「お前は……ノーワンによって、人生が奪われたはずだろ」
俺は奥歯を噛んだ。図星だからじゃない。図星を、真正面から言われたからだ。逃げられない。逃げたら、ここまで戦った意味が薄れる。俺は拳を握り、指の痺れを痛みで上書きする。
「人生は奪われた。……それは変わらない」
声が少しだけ震えた。怒りの震えだ。悔しさの震えだ。なのに、不思議と弱くはない。
「今でもムカつく。たまに、息が詰まるくらいな」
俺は一度、採掘場の空を見上げた。星は見えない。煙と煤がまだ薄く漂っている。でも、その向こうに、響の笑い声が浮かぶ気がした。明るい声。マフラーの揺れ。あいつは敵だろうと人だろうと、手を伸ばすのをやめなかった。
「けどな、響が教えてくれた」
俺は視線を戻し、倒れている火の男を見下ろすんじゃなく、同じ高さで見ようと膝を折った。膝が痛い。けど、その痛みは今必要だ。
「敵だろうと、手を取り合えば変わるって事を教えてくれた」
ファイヤキャンドルの瞳が揺れる。納得じゃない。理解しようとしている揺れだ。俺は続ける。ここが本音だ。ここが、俺が“終戦”を受け入れる理由の核だ。
「何よりも……ファイヤキャンドル」
名前を呼ぶと、あいつの眉が少しだけ動いた。俺は笑う。疲れてるからこそ、笑いが正直になる。
「てめぇとは、もっと燃えるような勝負がしたい」
言ってしまった瞬間、自分でも驚くほど胸が軽くなる。戦いの熱が、憎しみだけじゃない形に変わっていくのが分かる。俺は息を吐き、言葉を重ねた。
「この戦いだけじゃなくて、色々な勝負をな。……勝負ってのは、殺し合いだけじゃねぇだろ。競争でもいい。腕試しでもいい。あの火を……別の場所で使えたら、きっと変わる」
ファイヤキャンドルはしばらく黙っていた。唇の端だけがわずかに動く。笑いを堪える顔だ。やがて、あいつは息を吐いて、火の男らしく、くしゃっと笑った。弱った笑みなのに、妙に眩しい。
「……甘ちゃんが」
声に呆れが混じる。けど、拒絶じゃない。むしろ、受け入れる側の呆れだ。
「だが……嫌いじゃないぜ」
ファイヤキャンドルは目を細めた。そこに、仲間を思う顔が戻ってくる。
「俺も、てめぇみたいな奴……もっと会いたくなってきたぜ」
その言葉が、採掘場の闇を少しだけ暖めた。俺は立ち上がるのに時間がかかった。身体が限界なのは変わらない。けど、今は倒れてもいい気がした。終わりじゃなく、始まりの倒れ方なら。
俺は最後に、あいつの手元をちらりと見てから言う。
「……約束だ。ブライダンを止めるのは俺だ。けど、守るのは“終わり方”だ。お前も、守れ」
ファイヤキャンドルは返事をしない。返事の代わりに、口角を上げた。火が、ほんの少しだけ強くなる。俺はその火を見て、初めて“勝った”んだと実感した。勝ったのは、相手じゃない。終戦へ向かう意志だ。