ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVS戦姫絶唱シンフォギア ユニバース大戦 作:ボルメテウスさん
「――じゃあ、見せるよ」
陸王の声が、仮面の奥で少しだけ低くなる。軽い調子のままなのに、足元の砂利が一粒、転がった音がやけに大きく聞こえた。
レッドキーパーの腕が上がる。刀のような神具が、空をなぞった瞬間――赤い光が走った。柄のあたりのスロットに、指が迷いなく触れる。装填音が、乾いた。
「行け、八岐大蛇」
空気が裂ける。熱じゃない。雷の匂いが鼻の奥に刺さる。尾根の影から、青白い稲妻が八本、ほどけるように伸びた。竜の首。うねる顎。牙の先が、空気そのものを噛みちぎってくる。
「おおおおっ、来た来た来たぁ!」
「陸王様ぁぁぁ!!」
背後でブーケとアーイーが跳ねる音がする。ペンライトの光が、山肌に揺れる。ファイヤキャンドルの旗も、同じリズムで振られてる。応援がうるさい。なのに、戦場の中心だけ、妙に静かだ。
八つの首が散る。別々の角度から、同時に噛みつく気配。逃げ道を消すやり方だ。陸王らしい。舞台を作って、俺を走らせる。
「……っ、やるじゃねぇか!」
俺の足が前へ出る。言葉より先に出る。キズナレッドの装甲が鳴り、地面が一瞬だけ沈む。
「ターボ円陣!」
足元に輪が灯る。円が回る。熱い輪じゃない。風を切る輪だ。空気が押しのけられ、音が遅れて追いかけてくる。視界の端が伸びる。木の幹が、線みたいに流れた。
「吠君、速っ――」
陸王の声が途中で切れた。八岐大蛇の首が、俺の動きに合わせて追ってくる。追尾だ。角度を変えて、先回りしてくる。雷が地面を舐め、砂利が跳ねる。焦げた匂いが増す。
俺は握手カリバーを抜いた。双剣。柄が掌の形をしていて、握ると妙にしっくり来る。ふざけた名前のくせに、手に馴染むのが腹立つ。
「来いよ――!」
一つ目。正面から噛みつく首に、右の刃を添える。ぶつけない。受け止めない。流す。刃の腹に雷の重みが乗り、腕が痺れる。けど、ターボ円陣の勢いが、その痺れを置いていく。
火花じゃない。青白い粉が散る。耳の奥がきぃんと鳴った。
二つ目。背中側から噛む首。振り向かない。左の刃を後ろへ滑らせる。刀身が空気を撫で、稲妻の牙が横へ逸れる。地面に刺さり、岩が割れた音が遅れて来た。
三つ目と四つ目が、交差して襲ってくる。完全に挟み込みだ。普通なら止まる。止まったら終わり。
俺は円陣を踏み直す。足首の角度を変えるだけ。輪の回転が増す。体が、横へ“落ちる”みたいに滑る。首と首の間を抜ける瞬間、仮面の縁に雷が触れた。熱が走る。皮膚じゃなく、装甲の内側が焼ける感じ。
「っ……!」
声が漏れる。情けなくはない。ここは痛がってる場合じゃない。
握手カリバーを、今度は合わせる。柄同士を噛ませる感触。握手の形が、かちっと噛み合った。刃が一本の太い線になり、重さが増す。
五つ目。真横から来る首を、太い刃で受け流す。刃先が雷の顎を押し上げ、軌道が空へ逸れる。空で爆ぜた。乾いた破裂音。木の葉が一斉に震える。
六つ目。地面すれすれに這う首。低い。脚を刈りに来た。円陣の輪を一段強く踏み込み、跳ばない。跳ぶと追われる。滑る。地面を撫でるように移動して、刃で首の鼻先を弾く。稲妻が横へ散り、岩肌に線を刻んだ。
「いいよ、そのままっ!」
「吠ぉぉぉ!!」
ファイヤキャンドルの声が混ざる。炎が周囲を照らして、雷の首が影になる。燃える匂いと雷の匂いが、喉の奥でぶつかって苦い。
七つ目と八つ目が、最後にまとめて来る。二本が同時に、上から叩きつける。重い。避けるだけじゃ、次でやられる。
俺は走りながら、刃を前に差し出す。受け流す角度を作る。ターボ円陣の回転に、腕の回転を合わせる。円と円。輪の中で、刃が一瞬だけ光る。
稲妻の首が、刃に触れた瞬間、音が消えた。遅れて、全部が戻ってくる。轟音。衝撃。地面の震え。八つの首が、俺の横をすり抜けて、山の斜面へ突き刺さる。木が折れる。土が跳ねる。粉じんが舞う。冷たい土の匂いが、いきなり強くなる。
俺は止まらない。止まれない。止まったら、舞台は陸王のものになる。
「……っは。どうした、陸王!」
仮面越しに、呼吸が荒いのが分かる。胸の装甲が上下する。喉の奥が熱い。けど、足はまだ回る。輪はまだ回る。
向こうで、レッドキーパーの剣が少しだけ上がる。八岐大蛇の残光が、刃の縁にまとわりつく。
「受け流すんだ。君、ほんと――」
陸王が言い切る前に、俺は一歩、間合いを削った。握手カリバーを握り直す。柄の掌が、やけに温い。
「褒めんな。次、来い」
応援の声が一瞬止まって、次の瞬間、山が揺れるくらい沸いた。
握手カリバーの柄が掌に熱を残している。ターボ円陣の輪もまだ消えきらず、足元で薄く回っていた。山の匂いが混ざる。焦げた木、湿った土、遠くの炎。面の内側に呼気がこもって、吸うたびに温い。
レッドキーパーが一歩、砂利を鳴らして下がった。逃げじゃない。間を作る動きだ。剣先がわずかに持ち上がり、赤い光が刃の縁を走る。
「……うん。じゃあ、次は“当てる”ほうでいこうか」
軽い声のまま、腕が動く。柄のスロットへ指が滑り、装填音が乾いて響いた。八岐大蛇の残光が、空に薄く残ったまま――今度は火の色が混ざる。
「火之夜藝速男神」
火の玉がひとつ、ぽんと浮いた。次の瞬間、二つ。三つ。小さいのに、近づくほど熱が刺す。しかも速度が読めない。止まりかけたと思ったら急に跳ね、跳ねたと思ったら沈む。空の中で、拍がずれていく。
「陸王様ぁぁぁ!!」
ブーケの声が跳ね、アーイーが一斉に振る。ペンライトが散って、夜祭りみたいに見えた。ファイヤキャンドルの旗も負けじと振られている。あいつら、戦場を縁日にする気か。
火の玉が、輪を描いて降ってきた。逃げる場所を狭める降り方。陸王の“舞台づくり”だ。読める。読めるのに、足が止まりそうになる。速度がずれるせいで、ターボ円陣のリズムが噛み合わない。
「……っ!」
踏み込みが一拍遅れた。熱が装甲を舐め、肩のあたりがじりっと鳴る。痛みは遅れて来る。喉の奥が苦くなる。面の内側に汗が流れ、視界の端が曇った。
「吠君、今のは惜しいねぇ」
仮面越しで表情は見えない。見えないのに、余裕は分かる。声が揺れない。足が乱れない。剣の角度が崩れない。
こっちも崩せない。崩したら終わる。勝ち筋が、勝手に陸王の方へ滑っていく。
火の玉がもう一度、速度を変えた。止まったように見えた瞬間、背中側へ跳ぶ。嫌な跳び方。追いつけない場所へ、わざと置いてくる。
握手カリバーを分ける。左右の刃が軽くなる。受け流しの角度を作るために、腕の関節を小さく動かす。ぶつけない。切らない。流す。
……それでも、足が合わない。
「くっそ……!」
声が漏れた。悔しさの音。次の一拍が欲しい。欲しいのに、速度が勝手に変わる。視界の中で、火がひとつだけ遅れて、ひとつだけ早い。誰かが指で拍子をずらしてるみたいだ。
そこで、応援が耳に刺さった。
「いけぇぇ! 遠野吠ぉぉ!」
「吠君! 走れ走れ走れぇぇ!」
ファイヤキャンドルが旗を振り回し、山肌に炎の色を散らす。アーイーがそれに合わせて跳ねる。馬鹿みたいにうるさい。けど、そのうるささが、逆に拍を作った。外から叩かれる太鼓みたいに。
ターボ円陣の輪が、足元で少しだけ強く回る。
「……うるせぇ。もっと揃えろ」
吐き捨てた言葉が、自分でも笑える。戦闘中に応援へ注文とか。けれど、旗の音が揃った。布が風を切る音が、一定になった。叫びも、妙に同じ間で来る。
「お、おおっ!?」
「任せろぉぉ! 俺様の推しは折れねぇぇ!!」
ファイヤキャンドルが勝手に燃え上がる。山の空気が熱を増す。土の匂いが濃くなる。外から来る拍が、輪の回転と噛み合った。
今なら――合う。
火の玉が三つ、同時に来た。早い一つ、遅い一つ、止まりかける一つ。全部が違う。普通なら迷う。けど、拍があると迷いが薄れる。
右の刃で、早いのを流す。
左の刃で、遅いのを押し上げる。
止まりかけた一つは――避けない。
わざと、近づく。
「……っ、来い!」
握手カリバーの柄同士を噛ませる。掌の形がかちっと合い、一本の太い刃になる。その刃の腹に、止まりかけた火が触れた瞬間――熱が、面の奥まで走った。
「ぐっ……!」
腕が痺れる。けど、刃が火を抱え込んだ。押し込むように、受け止めるんじゃなく、抱えたまま持っていく。ターボ円陣の回転で、身体ごと横へ滑り、火の玉を“置き去り”にする。
置き去りにされた火が、空で跳ねた。速度を変えたまま、陸王の作った円の外へ飛び――斜面へ刺さって爆ぜる。土が跳ね、乾いた匂いが一気に上がる。
レッドキーパーの足が、初めて半歩だけ止まった。
「……ふうん。そういう使い方、するんだ」
声はまだ軽い。けど、間が一瞬だけ伸びた。そこで、距離を削る。円陣を踏み直し、輪の回転を上げる。空気が薄くなったみたいに、音が遅れて来る。
陸王の剣が上がる。次が“決め”だ。分かる。舞台の幕が落ちる直前の構え。
「じゃあ、これで――」
刃が走った。速い。速すぎる。空気が切れて、焦げた匂いが鼻を刺す。火の残り香が刃について、熱で線を引く。
……それでも、止まらない。
一歩、踏み込む。
二歩目、踏み込みを“遅らせる”。
ターボ円陣の回転だけを先に走らせ、身体を半拍だけ置く。
切っ先が頬の横をかすめた。装甲が鳴る。風が冷たく刺さる。危ない。けど、狙いはそこじゃない。
握手カリバーを、剣へ合わせた。
柄の掌が、刃の根元へ噛みつく。握手。言葉通りの動き。刃と刃が絡み、金属音が短く弾けた。
「っ――!」
レッドキーパーが引く。引けない。噛んでいる。
なら、こちらが引く。
「お前の舞台……俺が踏み抜く!」
輪が回る。足が滑る。砂利が跳ぶ。身体が横へ回り込み、絡めた刃ごと引っ張る。力を入れすぎない。回転で持っていく。円陣の勢いで、陸王の重心だけをずらす。
レッドキーパーの膝がわずかに沈んだ。
その瞬間だけ、世界が静かになった。
応援の声が遠い。旗の音が薄い。面の内側で、呼吸だけが響く。
ここ。
握手カリバーを外す。
外した反動で、拳が前へ出る。
「バーニングキズナパンチ!――!」
言い切る前に、拳が当たった。腹の装甲に、鈍い衝撃。熱と風が一緒に噴き出し、土が波のように広がる。木々が揺れ、葉が一斉に鳴った。拳の芯が、相手の内側へ沈む感触がある。
レッドキーパーが数歩、後ろへ滑った。砂利が、踵で削られる音。最後に片膝がつき、剣先が地面へ触れた。火花じゃない。土の湿り気が刃に移り、黒い筋が残った。
仮面のせいで表情は見えない。けれど、肩が少しだけ落ちた。呼吸が、一拍遅れた。
「……参った」
短い。陸王らしくないくらい短い。
次に、剣を下げたまま、頭だけこちらへ向ける。
「ナンバーワン……君だね、吠君」
ブーケが「えっ」と息を飲む音がした。アーイーが止まり、ペンライトの光が一瞬だけ揺れる。ファイヤキャンドルは――黙らない。
「っしゃぁぁぁ! 俺様のライバル!!」
「陸王様ぁぁぁ……!」
叫びが二方向からぶつかり、山へ散る。旗が風を切る音が戻ってくる。土の匂いが落ち着き、冷たい夜気が頬の装甲へ触れた。
ターボ円陣の輪が、足元でゆっくりほどける。
消えていく光の中で、拳がまだ熱を持っていた。
『WINNER ゴジュウウルフ!』