ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVS戦姫絶唱シンフォギア ユニバース大戦 作:ボルメテウスさん
山の空気が乾いてる。
焼けた土の匂いが、まだ鼻の奥に残ってる。さっきまで巨大な影が暴れてた場所だ。岩肌の黒い焦げ跡が、月明かりで妙に目立つ。
俺たちは三人で向き合った。
等間隔。互いに一歩踏み出せば届く――って距離じゃないのに、心臓だけは近い。面の内側で息が曇って、視界の端が白く滲む。
「……残り、三人か」
声が山肌に返ってきた。自分の声なのに、どこか落ち着いて聞こえるのが腹立つ。
負けたくない。願いはまだ決めきれてない。それでも今は単純で――こいつらと本気でやりたい。そう思ってる。
正面に、真白。
ゴジュウポーラーの氷の腕が、月を弾いて冷たく光る。動かない。動かないのに、空気がピリつく。氷が軋むみたいな音が、耳の奥で勝手に鳴る。
もう一人、禽次郎。
ゴジュウイーグルが、少し顎を上げた。あの視線はいつも遠い。遠いのに、必要なものだけは絶対に見落とさない。
「楽しくなってきたな、禽次郎」
言ってみたら、面の奥で息が抜けた気がした。笑ったのかもしれない。
真白が短く鼻で笑う。
「俺様は待たん。……だが、認めてやる。お前らは“残った”」
嫌味みたいな言い方なのに、嘘じゃないのが分かるのがまたムカつく。
でも――俺も同じだ。こいつらは嫌いじゃない。いや、嫌いだ。うるさいし。偉そうだし。なのに戦場で背中を預けた記憶が、腹の底に残ってる。
「行くぞ。余計な茶番は――」
言い切る前に、空気がひとつ、軋んだ。
音じゃない。山が息を止めた、って感じ。風が止まる。木の葉の擦れる音が消える。自分の呼吸だけが、面の中で妙に大きい。
真白が首だけを動かした。
氷の腕が、きしり、と鳴る。
「……来る」
背中が硬くなる。理由が分からないのに、喉の奥に砂を詰め込まれたみたいだ。
その一拍先で、禽次郎が動いた。早い。俺より、真白より、ずっと早い。
「下がって!」
叫ぶより先に、禽次郎の体が滑る。羽ばたくんじゃない。地面を蹴って、線みたいに真っ直ぐ。俺と真白の前へ割り込む。庇うって動きが、あまりに迷いがなくて――一瞬、頭が追いつかなかった。
「な――」
言葉が喉で途切れた。
空が笑った。
子どもが悪さをする前の、ふざけた笑い声。
次の瞬間、黒いものが走る。音が遅れてついてくる。砂利が焼ける匂いが鼻を刺した。
禽次郎の輪郭が、ほどけた。
……ほどけた、って何だよ。
さっきまでそこにいたじゃねぇか。立ってたじゃねぇか。庇ったじゃねぇか。
ばさり、と落ちたのは灰だった。
粉じゃない。羽の形を残したまま、崩れていく。空気に持ち上げられて、細い渦になって、夜へ溶けた。
「……おい」
足が勝手に前に出た。
手が伸びる。掴める気がした。掴めるはずだ。だって、ここに――
「禽次郎……!」
指が灰をすくう。冷たい。軽い。ざらつく。
手のひらの上で、形にならない。指の隙間からこぼれる。何度すくっても、増えない。減る。風が戻ってきて、奪っていく。
笑いそうになった。
こんなの冗談だろ。悪ふざけだろ。禽次郎が仕掛けた、いつもの「やれやれ」って顔のやつだろ。
「……やめろ。やめろよ」
声が情けなく割れる。
膝が土につく。灰を両手で集める。集めたら戻る。戻って、「危ないよ」って言ってくる。そうだろ。そうしろよ。
灰は、指の間をすり抜けていく。
冷たいだけ。軽いだけ。現実の手触りがない。
胸の奥が、ぐちゃっと潰れた。息が詰まる。面の内側が一気に湿る。呼吸が熱くなって、喉が痛い。
拳を握る。握っても、握れるのは空気だけだ。
手のひらに爪が食い込み、鈍い痛みだけが残る。それが妙にありがたい。痛みがあるから、まだ現実だ。
隣で、真白の氷の腕が、ぎり、と鳴った。
怒りで氷が軋む音だ。あいつは分かってる。これは、悪ふざけじゃない。
「……レクス」
真白が名を吐き捨てる。
その一言で、俺の背中がさらに硬くなった。灰の匂いが鼻に残ってる。焦げでも土でもない。乾いた、死の匂い。
「とぼけた顔して……とんだ極悪野郎だ」
カラン、と音がした。
石に当たって転がってきたのは、センタイリング。禽次郎のものだ。
金属の細い音が、やけに澄んで聞こえる。澄んでるのが腹立つ。そこだけ“ちゃんと残ってる”みたいで。
俺の指が反射で触れた。冷たい。重い。
手の中の確かな硬さが、さっきの灰を嘘みたいに見せて――余計に苦しい。
「……禽次郎、残ってんじゃねぇか」
言葉が壊れて出た。
真白が短く息を吐いた。
「残ってるのは道具だけだ」
ふわ、と声が降ってきた。
軽い。柔らかい。子どもが遊びを始める前の声。
「ざんねーん。まとめて倒せると思ったのに」
闇が、ひょい、と形を持つ。
月明かりの下に立つ影。近いのに遠い。そこにいるのに距離感が狂う。目を合わせた瞬間、頭が一拍遅れる。
……こいつだ。
喉の奥が熱くなる。
悲しみの熱じゃない。腹の底から上がってくる、焼けるみたいな熱。灰を握った手が震える。震えてるのが分かるのに止められない。
俺は立ち上がった。ゆっくり。
リングを握りしめたまま、灰のざらつきを払えないまま。払ったら、禽次郎が完全に消える気がして、指が動かなかった。
視界の端が滲む。
それでも、目だけは逸らさない。逸らせない。
「……ふざけんな」
声が低く落ちる。
言葉は短い。短いのに、胸の奥が痛い。痛みが、怒りに押されて形を変える。
俺はレクスを睨んだ。
面の奥で眉を吊り上げても見えない。だから首ごと向ける。身体ごと向ける。逃げ道を作らない。視線を刺す。
「お前が……やったんだな」
闇の中で、レクスが首を傾げた。
子どもみたいに。
それがいちばん腹が立つ。笑い声が、耳の奥を汚す。
真白が一歩、前へ出た。氷の腕が冷たい音を立てる。
でも俺は、真白の背中を見ていられなかった。禽次郎の灰が、指先に残ってる。冷たい。ざらつく。軽い。
軽すぎる。
「ねえ。次は、どうするの?」
問いかけの形だけ。答えなんか要らない声。
俺の喉が鳴った。息が荒くなる。面の内側が熱で曇る。
「……決まってんだろ」
リングが手の中で軋む。
禽次郎の分の重さが、手首へ沈む。重さがあるほど、胸の奥が締まる。締まるほど、目が外れない。
「お前を――ぶっ潰す」
言い切った瞬間、風が戻った。
冷たい風が頬の装甲を撫で、灰の匂いをさらっていく。さらっていくのに、指先のざらつきだけは残った。
それが、許せなかった。