ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVS戦姫絶唱シンフォギア ユニバース大戦 作:ボルメテウスさん
土の冷たさが、装甲の隙間から染みた。
転がった拍子に肺の空気が抜け、息を吸おうとして砂を噛む。視界の端で、リョウテガソードの残光が消えていく。まだ勝負の熱が残ってるのに、身体だけ置き去りにされたみたいだった。
「吠君!」
「動かないで!」
陸王の声が頭上で弾け、続けて角乃の手が肩に触れる。竜儀も来ていた。重い足音が近づき、土が沈む。
「……っ、平気だ」
言い張ろうとして、喉が鳴った。平気なわけがない。奥歯が勝手に噛み合い、視界が細く震える。
その先に、真白が立っていた。
ゴジュウポーラーの氷の腕は割れかけ、白い欠片が肩から落ちている。いつものふてぶてしさが、今日は薄い。代わりに、冷えた怒りが濃かった。
そして、その向こう――レクスがいる。巨大戦の余韻を踏み潰すように、影がゆらりと近づいてくる。
「やれやれ。まとめて終わると思ったのに」
子どもみたいな、とぼけた声。冗談を言う調子なのに、背中が粟立つ。
真白が一歩、前へ出た。氷の腕を庇うように、わずかに身を低くする。
「来るな」
「へえ? まだ言うんだ」
レクスの影が伸びる。腕じゃない。闇が“手”の形を作って、真白へ触れようとする。
「っ……!」
真白が反応した。遅れて気づいたのは、狙いが身体じゃないってことだ。指輪。センタイリング。
奪われたら終わる。そう思った瞬間、真白の腕が弾けるように動いた。
「吠!」
氷の腕が大きく振られ、何かが空を切った。
光が弧を描いて飛んでくる。リングだ。いくつも。こちらへ一直線。痛みに固まった指が反射で伸び、掌が金属の冷たさを受け止めた。重みが手首に沈む。
「真白……何して――」
言い終える前に、真白がこちらを見た。面の奥の表情は見えない。けれど、声音だけで分かる。腹を括った声だ。
「あとは頼んだぞ、2代目」
言葉が落ちた次の瞬間、レクスの影が真白を包んだ。
光じゃない。闇が開く。吸い込む。氷の腕が抵抗するように軋み、欠片が散る。真白の足が半歩、地面を掻いた。踏ん張りが、滑る。
最後に、あの傲慢な立ち姿だけがぶつりと消えた。
「熊手!!!」
叫びが山にぶつかって跳ね返る。喉が裂けそうだった。
陸王の手が背中を押さえる。角乃が腕を掴む。竜儀の低い唸りが近い。誰かが止めているのに、前へ行こうとする足が勝手に動く。
レクスが、ふぅっと息を吐いた。
まるでお菓子を食べ終えたみたいに満足そうに。
その手に、見覚えのある形が現れる。テガナグール。白い輪郭が、闇で汚れたみたいに脈打つ。
「面白いね。じゃ、次はこれ」
軽い声のまま、口だけが笑う。
レクスが、わざとらしく宣言した。
「エンゲージ」
空気が反転した。
赤と黒が、染みのように広がる。白かったはずのポーラーのラインが、禍々しく塗り替えられていく。氷の輝きは鈍い鉄色に濁り、胸元の意匠が獣の牙みたいに尖った。
ゴジュウポーラー――いや、似ているだけの厄災が立ち上がる。
「……ふざけるな」
声が震えた。怒りで震えてるのか、喪失で震えてるのか、区別がつかない。
手の中のリングが、かちりと鳴る。ひとつ、またひとつ。いつの間にか、全部がここにある。掌から溢れるほどの数。皮肉みたいに、条件だけが揃っていく。
「吠君……指輪が」
陸王の声が掠れていた。
角乃が息を呑む気配。竜儀が奥歯を噛む音。全員が同じことを見ている。真白が持っていた分まで、全部こちらへ渡った。
元々、ゴジュウポーラーは“参加者の指輪”じゃない。だからこそ起きた、最悪の整列。
レクスの赤黒いポーラーが、肩をすくめる。
子どもみたいに、無邪気に。
「やったね。ぜんぶ集まった」
リングの重みが、急に怖くなった。
手を開けばこぼれ落ちる。握れば握るほど、熊手の最後の一言が掌の内側で棘になる。
息を吸う。砂の匂い。焦げた金属。灰の気配。
視線を上げると、赤黒い瞳がこちらを見返していた。笑いながら、世界の理のふりをして。
拳を締め直す。痛みが走る。
その痛みだけが、今の自分をつなぎ止めていた。
掌の中で、指輪が擦れ合って小さく鳴った。
冷たい金属の角が皮膚を押し、握りしめるほど痛みが増す。痛みの割に、軽い。あまりに簡単に集まってしまったせいで、現実味だけが遅れて追いついてくる。
陸王が息を呑む音が近い。
角乃の指が俺の手首に触れ、すぐ離れた。止めるのも、確かめるのも、どちらも出来ないって顔つきが面の奥から透けて見える気がした。竜儀が一歩、土を踏む。重い音が山に沈む。
赤黒いポーラー――レクスが、楽しそうに肩を揺らした。
あいつの笑い方は、砂を噛むみたいに不快だ。視線が合うたび、喉が勝手に熱くなる。怒りが先に出る。次いで、胸の奥に空洞が開く。真白が消えた場所が、まだ空気ごと冷たい。
「やったね。ぜんぶ」
言いかけた声が、ふと止まった。
山の空気が張り詰める。音が抜ける。虫の羽音すら遠のく。
――そこに、別の“声”が割り込んだ。
空の上でも、地面の下でもない。
鎧の内側、指輪の重なり、鼓動の隙間。そこから響く、低く硬い響き。
『……この状況だが、言わせて貰おう。遠野吠。お前が指輪の争奪戦の優勝者だ』
言葉が落ちた瞬間、指輪が一斉に熱を帯びた。
掌の中で光が滲み、輪の縁が眩しく縁取られる。握っているはずなのに、逆に握られている感覚がした。逃げ道を塞がれたみたいに、指が強張る。
「……は?」
声が掠れた。
優勝者。俺が。今この最悪の真ん中で。
喉の奥に、笑いの欠片が引っかかった。冗談にしては、重すぎる。真白の最後の声が、まだ耳に残っている。禽次郎の灰のざらつきが、指先に残っている。ここで“勝ち”なんて言葉が出てくるのが、反吐が出るほど嫌だった。
陸王が、ゆっくり息を吐いた。
その音が、妙に人間の音だった。
「吠君……」
名前だけ。続きがない。続けたら壊れるって分かってる声。
角乃も動かない。面の奥で唇を噛んだ気配だけが伝わる。
レクスが首を傾げた。
子どもみたいに。
次に、笑う。
「へぇ。じゃあ――願い、叶うんだ?」
軽い声。軽いのに、背骨が冷える。
あいつは“叶う”って言葉を、玩具みたいに転がす。真白を飲み込んだ口で。
俺は指輪を握り直した。
金属が皮膚を切り、痛みが走る。痛みがある。なら、まだ立てる。
視線を上げる。赤黒い目の奥に、俺を折る算段が見える。世界の理の化身ごっこを続けながら、俺の願いの形まで奪うつもりだ。
「……優勝者が俺なら」
言いかけて、言葉が喉で止まった。
この場で口にした瞬間、願いが汚される。そんな予感がした。真白が託した重さが、掌の中で熱く脈打つ。
『遠野吠。選べ』
テガソードの声が、淡々と背中を押した。
選べと言われても、選びたくない。
でも、選ばなければ、あいつが笑いながら全部を塗り替える。
拳の中の光が、かすかに震えた。