ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVS戦姫絶唱シンフォギア ユニバース大戦 作:ボルメテウスさん
土の冷たさが背中に貼りついて、息を吸うたび胸の奥がきしんだ。
砂が喉に引っかかり、咳が出そうになるのを噛み殺す。咳き込んだ瞬間に終わる気がした。
掌の中で、指輪が擦れた。
冷たい金属の縁が皮膚を押し、握り締めるほど痛みが増す。痛みがあるのに、現実味がない。揃ってしまった重さが、祝福じゃなく罰みたいに指にまとわりついていた。
「吠君……」
陸王の声が近い。上半身を起こそうとして膝が崩れ、角乃が肩を支える。竜儀は立とうとして、足場の砂利が滑った。舌打ちの代わりに、喉の奥で低い唸りが鳴る。
助けが来ない――そんなことは分かってる。
それでも、脳が勝手に期待してしまう。呼吸と一緒に、何かを探してしまう。見つかるはずがないのに。
影が伸びた。
赤と黒に塗り替えられたゴジュウポーラーが、すぐそこまで来ている。レクスは子どもみたいに首を傾げ、口元だけで笑った。
「へえ。全部集まってる。すごいね」
わざとらしい。
それが余計に腹を立てる。禽次郎の灰の手触りが、まだ指先に残っている気がした。真白の声も、耳の奥に刺さったまま抜けない。
――あとは頼んだぞ、2代目。
言葉を思い出した瞬間、掌の指輪が熱を帯びた気がした。
熱いのに、冷たい。胸の奥がぐらりと揺れる。
「……黙れ」
吐き出す声は掠れていた。
レクスが笑みを濃くする。
「黙るのは無理だよ。だって君、優勝者なんだろ? なのに――」
一拍、目が冷える。
「目の前で奪われたのに、まだ願いを決められない」
喉が焼けた。
拳が勝手に締まる。指輪の縁が掌を切る感覚が走って、痛みで視界がはっきりする。
俺は確かに優勝したかもしれない。
指輪も揃ってる。願いだって叶えられる。
なのに、目の前に禽次郎と熊手を殺した奴がいる。
「俺は確かに優勝したかもしれない、けど、目の前に禽次郎と熊手を殺した奴がいるのにっ、俺は――!」
言いかけた言葉が、刃の形になる。
その刃を、レクスは待っていたみたいに頷いた。
「うん。いい顔」
声の温度が落ちる。
「じゃあ、見せてあげる。君が迷ってる間に、何が起きるか」
腕が上がる。
狙いが俺じゃないと分かった瞬間、背中に冷たい汗が走った。
レクスの影が、陸王たちへ向く。
「っ……!」
陸王が前へ出ようとして、足が滑る。
角乃が歯を食いしばり、庇う位置へ半歩動いた。竜儀の喉から低い音が漏れ、拳が震える。
「ほら。残りを片づける」
レクスが、軽く言う。
軽いのに、山の空気が潰れそうだった。
山の空気が潰れた。
レクスの影が陸王たちへ落ちる。角乃の肩が一瞬だけ跳ね、竜儀の拳が唸る。止める手段がないまま、時間だけが滑っていく。
――そのとき、夜が“鳴った”。
耳で聞くより先に、胸骨が叩かれる。
薄い空気が震え、遠くの稜線が波打つみたいに揺れる。言葉じゃない。歌でもない。けれど、身体が知っている音だ。起動聖詠。喉に絡んでいた砂が、いまだけ軽くなる。
レクスの腕が、ほんの僅か止まった。
止まっただけで、影の圧が変わる。余裕が削れたわけじゃない。獲物に目を向けたまま、別の気配を数えた顔になる。
空から光が落ちてきた。
白い軌跡が六つ。細い彗星みたいに山肌を切り、地面へ刺さる。土煙が弾け、熱い砂が頬を打つ。視界が白く曇るのに、足音だけははっきり増えた。
「吠君ッ!」
土煙の向こうから響の声が飛んできた。
迷いのない短さ。胸の奥に刺さって、抜けない。
「遅れた……でも、間に合う!」
“私”の声だ。息が切れているのに、言葉が折れていない。
次いで、横に線が引かれる。
翼が立つ。無駄のない姿勢で、間合いを切る。
「下がれ。ここから先は――私たちが受ける」
右から金属の擦れる音。
クリスが銃口を上げ、吐き捨てるみたいに言った。
「あたしらが来た以上、好きにはさせねぇ」
マリアが一歩だけ前に出る。足元が揺れても、背中が揺れない。
「吠、みんな。生きてるわね。……よかった」
調は目だけで状況を測り、短く告げた。
「敵の狙い、陸王たち。阻止する」
切歌が左右を走り、空気を裂く。
「私、行くデス! 止めるデス!」
六人が散る。一直線に並ばない。
囲む。塞ぐ。守る側の布陣だ。レクスの影が伸びる前に、影の“落ち先”を奪い取っていく。
レクスが小さく笑う。
「……へえ。面倒なのが揃った」
腕が振り下ろされる。
影が刃になり、空気が裂ける。角乃が身を固くし、陸王が歯を食いしばる。
そこへ、響が踏み込んだ。
「させない!」
拳がぶつかる。影が散る。
散った影の隙間を、翼の一閃が通る。切れ味だけじゃない。角度が正確で、レクスの体勢を削る線だ。
「通すな」
火花が跳ねる。そこへクリスの弾丸が畳みかける。
「あたしの番だ!」
弾が空気を裂き、赤黒い装甲に火花が散った。削る音が遅れて響く。
マリアが間合いを詰める。
「押し返す!」
衝撃が重なり、山肌が揺れる。調が横から入って、逃げ道を塞ぐように一撃を差し込む。
「ここ」
切歌の刃が追い打ちの線を描く。
「これで……っ!」
六人の攻撃が、綺麗に繋がった。
ただ強いんじゃない。次の一手を、次の一手が用意している。守るために組まれた連鎖だ。
赤黒いポーラーの足元が、砂を噛んだ。
半歩だけ、下がる。
――通った。
胸の奥が、勝手に息を吸った。
たった半歩。なのに、半歩分の“可能性”が、目の前に落ちた気がした。
レクスが顔を上げる。
子どもみたいな笑みが薄れ、声が落ちる。
「鬱陶しい」
空気が重くなる。
“遊び”が終わった気配が、皮膚を撫でた。
「下位存在が群れて喚くな」
言葉が冷たく、硬い。
それでも、響が一歩だけ前へ出た。拳を下ろさないまま、まっすぐ言う。