ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVS戦姫絶唱シンフォギア ユニバース大戦 作:ボルメテウスさん
山の尾根に響いた「ゴジュウジャーッ!!」の余韻は、たしかに空気を押し返した。
けれど、レクスは拍手の波を正面から受けながら、面倒そうに首を傾けただけだった。
「……熱いね。嫌いじゃないよ。だから、少し静かにしてあげる」
巨腕が、払うように横へ動く。
その一振りで、夜の景色そのものが裂けた。
先に落ちてきたのは影だった。雨みたいに、いや、崩れた壁の瓦礫みたいに、黒い塊がいくつも山肌へ叩きつけられる。着地したそれらが一斉に立ち上がり、濁った喉を鳴らした。戦闘員。ひとつ、ふたつじゃない。数える気が失せるほど、裂け目の向こうからまだ降ってくる。
「な……っ、まだ出るのかよ!」
吠が踏み出しかけた足を止める。視界の端で、響も拳を握ったまま息を詰めた。
裂け目の奥から、次は色が来た。
湿った冷気をまとって現れた影が、地面に触れた場所から白い靄を這わせる。喉の奥に嫌な重さが貼りつく。
「疫病のペスティス……!」
角乃の声が低く落ちる。言い終わる前に、今度は乾いた熱風が横殴りに吹いた。赤黒い火の筋を引き、戦斧めいた威圧感の塊が前へ出る。岩が足元で割れ、戦闘員の列が道を空けた。
「戦禍のベルルムか……!」
竜儀の肩が怒りで持ち上がる。さらにその後ろ、腹の底をえぐるような空腹感と一緒に、痩せた影がぬるりと姿を結ぶ。唇が乾く。指先から力が抜けそうになる。
「それに見た事のない奴まで……っ!」
クリスが舌打ちし、銃口を持ち上げる。だが、まだ終わらない。
裂け目の最奥で、鈍い灰色の輪郭がゆっくりと起き上がった。生き物の気配が薄い。立っているのに、すでに倒れているみたいな静けさだけがある。周囲の戦闘員が、その影を避けるように広がった。
禽次郎が短く息を呑む。
「……モリスまで連れてきたか。冗談にしちゃ、趣味が悪いな」
レクスは肩を揺らして笑う。
楽しそうですらない、ただ手順を増やしただけみたいな笑い方だった。
「まとめて来るなら、まとめて相手をした方が早いだろう? ほら、君たちの“敗北の記憶”だ。丁寧に並べてあげたよ」
戦闘員の列が、山の斜面を埋めていく。
右を見ても左を見ても、黒。黒の間に、ペスティスの靄、ベルルムの熱、ビダルの乾き、モリスの灰色が滲む。足場の岩が見えなくなる。距離感が狂う。レクス本体までの一直線が、もう見えない。
「数だけで押し潰す気か……!」
吠が吼える。声は届いたはずなのに、目の前の群れは一歩も退かない。むしろ合図を待っていたみたいに、前列の戦闘員が揃って身を沈めた。
「吠君、突っ込まないで! 今は道がない!」
陸王の制止と同時に、翼が半歩前へ、マリアが逆側へ開く。響は前へ出たい体を押し留め、レクスを睨んだまま歯を食いしばる。切歌と調の足元を、ペスティスの靄が細く回り込もうとした。
「……多すぎるデス」
「うん。でも、止まれない」
角乃は銃口を下げず、群れの奥を見ている。
竜儀はティラノハンマーを握り直し、禽次郎は弓を引く指に力を込める。誰も折れてはいない。なのに、盤面だけがはっきりと不利だった。
山一つぶんの夜が、厄災の軍勢に塗り替わっていく。
レクスはその中心で、退屈そうに指先を鳴らした。
「さあ。どこまで持つかな、ゴジュウジャー」
その一言を合図に、前列が一斉に雪崩れた。
雪崩れ込んだ戦闘員の波は、もう「群れ」じゃなかった。
山の斜面そのものが動き出したみたいに、黒と灰が押し寄せてくる。ペスティスの靄が足元にまとわりつき、ベルルムの熱が呼吸を焼き、ビダルの気配が腹の底を空っぽにしていく。そこへ、灰色の静けさをまとったモリスたちが混ざるせいで、どこから何が来るのか、目が追いつかない。
「左、来るデス!」
「調、下がって!」
切歌と調が横へ跳び、クリスの射線がその間を裂く。銃火が戦闘員を吹き飛ばしても、崩れた隙間はすぐ埋まる。竜儀の一撃で前列が砕け、禽次郎の矢が奥を抜いても、また別の列がせり上がってくる。
吠は歯を食いしばって前へ出た。レクスを見失うな、と頭では分かっているのに、目の前の数がそれを許さない。
「くそっ……道がねぇ!」
その叫びの先で、響が一歩踏み込む。
レクスまでの一直線はない。それでも、拳を通すなら前に出るしかない。靄を振り払い、灰の戦闘員を肩で押しのけた、その瞬間だった。
足元の岩陰から、音もなく一体のモリスが起き上がる。
灰色の腕が、鎌みたいにしなる。
狙いはまっすぐ、響の首筋。
「響ッ!!」
吠が叫ぶ。だが距離がある。間に合わない。
響が振り向いた時には、もう灰の刃が目の前まで来ていた。
次の瞬間、甲高い斬撃音が山の空気を真っ二つにした。
赤い軌跡が、横一文字に走る。
モリスの胴が遅れてずれ、灰になって崩れた。吹き上がった灰の向こうから、桃色を帯びた赤の装甲が一歩踏み込んでくる。構えた刃の切っ先が、まだ微かに鳴っていた。
「大丈夫か、響!」
響の目が見開かれる。
驚きで声が裏返るのも構わず、思わず前へ身を乗り出した。
「えっお父さん!?」
その声に、吠まで動きを止める。
目の前の戦闘員を殴り飛ばしながら、信じられないものを見る顔で叫んだ。
「おっちゃん、なんでここに!」
赤い戦士――ドンモモタロウが、ほんの少しだけ肩をすくめる。
この世界の名を知る者なら、誰だって二度見する。立花洸。その姿が、戦場のど真ん中で、響の前に立っていた。
モリスの灰が風に散る。
一体倒しただけだ。数の差は、まだ笑えないほどある。山の斜面を埋める厄災の群れも、レクスの巨体も、何ひとつ減ってはいない。
それでも。
響の前に立つ赤い背中が、さっきまでの絶望に、はっきりと一本の線を引いた。
レクスが細く目を細める。
興味を持った子供みたいな顔で、けれど声だけは冷たい。
「……へえ。まだ増えるんだ」
戦闘員たちがざわりと揺れ、モリスの列が再び前へ出る。
ドンモモタロウは刃を軽く払って、響を庇う位置を一歩だけずらした。吠の方へ、横目もくれずに言う。
モリスの灰が舞う中、ドンモモタロウ――立花洸の刃先が低く唸った。
響を庇うように立つ赤い背中へ、戦闘員たちがじりじりと包囲を狭める。右からベルルム配下、左からペスティスの靄をまとった列、正面にはモリス。まだ数は減っていない。むしろ、レクスの指先ひとつで増えた軍勢が、山そのものを埋め尽くしていた。
「話は後だ。まずは――」
立花洸が踏み込もうとした、その時だった。
頭上で、金属が笑うみたいな音が鳴る。
見上げた吠の視界を、赤黒い刃の光が斜めに横切った。回転しながら戦場へ差し込み、戦闘員の列のど真ん中へ突き立つ。地面に食い込んだ衝撃で、黒い群れがまとめて弾け、斜面に土煙が立った。
刃の形のまま、聞き覚えのある声が響く。
「僕が呼んできたんだよ、吠」
「兄ちゃん! それって、どういう――」
吠が思わず一歩前に出る。問いは最後まで続かなかった。
突き立った兄ちゃんが、得意げに震える。いつもの軽さなのに、今はやけに頼もしい。
「苦労したんだよぉ、皆が味方になってくれそうな指輪の戦士を集めるのはぁ」
その言葉と同時に、山のあちこちで光が立った。
尾根の上。砕けた岩場の影。木立の間。
さっきまで厄災の黒で塗り潰されていた場所に、色の違う輪郭がひとつ、またひとつと現れる。指輪の輝きをまとった戦士たち。見覚えのある構え。以前はぶつかり合い、競い合い、勝負の場で火花を散らした面々が、今度は同じ向きに立っている。
「……マジかよ」
吠の喉から、笑いとも息ともつかない声が漏れた。
陸王は目を見開いたまま口角を上げ、角乃は一瞬だけ言葉を失ってから、状況を噛み締めるように細く息を吐く。竜儀の肩が跳ね、禽次郎は弓を持つ手に力を込めたまま、低く笑った。
響の前では、立花洸が刃を構え直す。
背中越しの声は短い。けれど、戦場を立て直すには十分だった。
レクスの目が細まる。
退屈そうだった顔から、ほんの少しだけ色が消えた。戦闘員の列がざわつき、モリスたちが一斉に首を巡らせる。数の差はまだ圧倒的だ。ペスティスもベルルムもビダルも、モリスの灰色の群れも、依然としてこちらを呑み込めるだけの密度を保っている。
包囲されるだけだった山に、いま、別の旗が立つ。
吠は拳を握り直し、兄ちゃんへ向けて吠えるように笑った。
「上等だ、兄ちゃん……!行くぜ!」
それと共に、俺は兄ちゃんを手に取り