ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVS戦姫絶唱シンフォギア ユニバース大戦 作:ボルメテウスさん
モリスの群れは、押し寄せるというより、じわじわと輪を縮めていた。
黒い影が斜面を埋め、足場の岩まで見えなくなる。マリアはその中心で、呼吸だけを細く整えた。囲まれている。分かっている。けれど、膝は落ちない。
「まだ……来るのね」
短く吐く。
次の瞬間、右手の短剣が唸り、刃が蛇腹のようにほどけた。節ごとに光を噛んだ刃が、鞭のようにしなって空を裂く。正面へ一閃。横からもう一閃。遅れて飛び込んだモリスの喉元へ、三本目の軌道が噛みついた。
斬撃は一方向じゃない。
振るうたび、刃の節が角度を変え、死角へ潜る。正面を防いだ個体の脇腹を裂き、その背後の肩口へ回り込み、さらに足元を払う。モリスが倒れる。だが、倒れた影の上を、次の列が踏み越えてくる。
「数で押し切るつもり……? だったら!」
マリアが踏み込む。
短剣の柄を返し、蛇腹刃をいったん縮める。次の拍で、一気に解放。円を描くように広がった刃が、周囲のモリスをまとめて切り裂いた。切断面から灰じみた破片が散り、乾いた臭いが鼻を刺す。それでも、囲みはまだ閉じる。まだ、足りない。
左。
振り向くより先に、影が飛んだ。モリスの腕が伸びる。肩を掴まれれば、そのまま押し潰される。
マリアは迷わない。
刃を短く戻し、その腕を断つ。だが、その間に別の一体が背後へ回る。前を捌けば横が来る。横を切れば上が来る。数の暴力が、じわじわと息を奪う。
「っ……!」
踏ん張る。
引かない。ここで崩れたら、後ろの戦線まで流れ込む。唇の端を噛み、マリアは刃を再びしならせた。細い節が月明かりを弾き、今度は頭上から降るように三方向へ走る。首、肩、膝。モリスが同時に崩れる。だが、その隙間へ、また次の黒がねじ込まれた。
さすがに、密度が深い。
一歩分の退路もない。マリアが構え直した、その瞬間だった。
赤い影が、視界の端を横切った。
速い、では足りない。
見えたと思った時には、モリスの前列がもう斜めにずれている。遅れて、断たれた胴が崩れた。さらに一体。もう一体。黒い列の“繋ぎ目”だけを、正確に、容赦なく切り開いていく。
「……誰!?」
問いに答える前に、銃声が一つ。
飛びかかったモリスの眉間を、赤い閃光が撃ち抜いた。体勢を崩した影の懐へ、そのまま踏み込み。今度は刃。最短距離の斬撃が喉を裂き、返す手で隣の腕を断つ。動きに無駄がない。計算し尽くされた速さで、戦線に“通路”が生まれていく。
赤い装甲が、マリアの隣で止まった。
レッドバスター。肩で息をしていない。視線だけが、次の敵の位置を追っていた。
「あなたは、もしかしてヒロミっ」
それは、かつての戦いで共闘したレッドバスターに変身していたユニバース戦士。
その彼女が、今、この場に現れた事にマリアは眼を見開いて、驚く。
「遅くなったわね」
マリアが言う。
責める声色ではない。張り詰めた場で、距離を測るための一言だ。
「最短で来たつもりよ。……ただ、少しだけ遠回りしただけ」
返ってきた声は、冷静で、わずかに棘がある。
けれど、そこにいること自体が答えだった。モリスの群れはまだ多い。だが、さっきまでの“囲まれるだけ”の盤面じゃない。
「その少し、あとで聞くわ」
「生き残れたら、ね」
言い終わる前に、二人は同時に前へ出た。
マリアの蛇腹刃が右から斬線を描き、レッドバスターの赤い軌跡が左を抉る。片方が開けた隙間へ、もう片方が迷いなく踏み込む。多角の斬撃と、演算された最短の動き。速さの質が違う二つが、戦場の中心で噛み合った。