ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVS戦姫絶唱シンフォギア ユニバース大戦 作:ボルメテウスさん
足場にしていた砕けた岩が、きしり、と逆向きに鳴った。
割れた断面が細かく震え、崩れた石片が斜面の上を小さく跳ねる。次の瞬間、裂けていた縁が、巻き戻されるようにぴたりと噛み合った。欠けた角が戻り、砕けた面が一枚の岩肌へ戻っていく。空中に、新しい踏み場がひとつ、急ごしらえみたいに生まれる。
禽次郎の身体が、反射でそこへ落ちる。
足裏が岩を捉える。膝が沈む。重心を一度だけ真下へ落とし、そのまま蹴り返す。
紙一重だった。さっきまで頭のあった位置を、モリスの爪が灰色の弧を引いて薙いでいく。爪先が空を裂き、遅れて風圧が頬を叩いた。
その隙間へ、赤い斬線が走る。
夜気を切った音が、ひと呼吸遅れて耳に届く。
長針と短針を思わせる二つの刃が、低い位置からすくい上げるように振るわれた。最初の一閃が前列の胴を斜めに断ち、二閃目がその背後へ潜り込む。灰色の群れが、そこでようやくずれる。遅れて、断たれた胴が崩れ、足場へ灰を散らした。
さらに、もう一閃。
今度は足元。斜面を転がっていた瓦礫が、地面へ落ちる寸前で鈍く止まる。落ち切らない。崩れ切らない。時間を遅くされた石塊が、半端な高さで“壁”になる。突っ込んだモリスの脛がそこへ引っかかり、前のめりに崩れたところを、赤い影が踏み込みざまに断ち切った。
赤い装甲が、禽次郎の隣へ滑り込む。
土を払うように靴裏が止まり、刃の切っ先だけがわずかに下がる。タイムレッド。
その姿を見た瞬間、禽次郎の呼吸が、ほんの一拍だけ止まった。
「……時音、か」
声は短い。
だが、その二文字に、喉の奥で詰まりかけたものが全部押し込まれている。
もう手の届かないはずの時間。もう会えないはずの人。その姿が、モリスの軍勢のただ中で、息を切らすこともなく立っていた。
時音は、そんな戸惑いごと見透かしたように、肩だけを小さくすくめる。
視線は前のまま。刃を返す手つきも止まらない。
「そんな顔しないの。向こうで聞いたのよ。こっちの時代がピンチだって」
横合いから、一体のモノスが低く跳ぶ。
時音は振り向かない。代わりに、斜面の端でひしゃげていた鉄板へ指先を向ける。へこみが戻る。曲がりが伸びる。潰れていた板が一瞬で元の形へ跳ね起き、そのまま勢いよく立ち上がって、飛び込んだモリスの顔面を正面から叩いた。
鈍い音。
衝撃で頭が反れ、灰色の身体が半歩浮く。そこへ、時音の短い追撃。刃先が喉元を抜き、モリスはその場で崩れた。
「だったら、来るでしょ。あんたを放っておけるほど、薄情じゃないの」
禽次郎は、その言葉に一瞬だけ目を細めた。
息が、喉の奥で小さく鳴る。笑いそうになって、笑う暇のない戦場だと思い出す。
イーグルシューターを握り直す。指先に力が戻る。引き絞る弦が、今度は迷いなく張った。
「……十分すぎるな」
時音の口元が、ほんの少しだけ緩む。
だが、すぐにその表情は前線のものへ戻る。
「あとで驚きなさい。今は働く」
言い切るのと同時に、次のモノスが左右から迫る。
禽次郎は半歩右へ開き、引き足で間合いをずらす。上体はぶらさない。視線だけで群れの奥を掴む。
時音は逆へ踏み込む。足元の石を一つ、指先で戻す。転がりかけた石が元の位置へ噛み合い、進路の角度が変わる。
二人は、そこで同時に前へ出た。
禽次郎の矢が放たれる。
弦が鳴る。風を裂く。先頭の肩を抜き、そのまま後列の喉へ届く。
時音の刃が、その矢で崩れた列の“空き”へ滑り込む。長針と短針の二撃が、ずれた時間差で同じ一点を裂いた。
接触。金属音。遅れて灰が噴く。周囲のモリスが巻き込まれて足を止める。
斜面を埋めていた灰色の波が、そこで初めてたわんだ。
まだ数は多い。
まだ押し切れるほど軽くはない。
それでも、さっきまでの“飲まれるだけ”の盤面は、もうそこにはなかった。
禽次郎は次の矢を番えながら、短く息を吐く。
「あとで、ゆっくり驚いてもよいかのう」
時音は前を向いたまま、あっさりと返した。
「生き残れたら、いくらでもね」
その返事が、妙に昔と同じ調子で、禽次郎の口元だけがわずかに緩む。
次の瞬間には、二人の影が、また同じ方向へ駆けていた。