ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVS戦姫絶唱シンフォギア ユニバース大戦   作:ボルメテウスさん

312 / 346
炎の矢

採掘場の夜は、火薬よりも先に粉塵の匂いで肺を満たしてくる。

 

雪音クリスは崩れた重機の陰を滑り、膝を落とし、銃口を二つの高さに分けた。

 

上へ一発。

 

跳んだモリスの胸を撃ち抜く。

 

下へ一発。

 

足場を失った影が前のめりに転び、その背へ次の列が突っかかる。

 

撃って、崩して、詰まらせる。

 

それでも減らない。

 

灰色の軍勢は、まるで採掘場そのものが吐き出した悪夢みたいに、崩れた斜面のあちこちから湧き続けていた。

 

「さて、背中は任せろ」

 

赤い装甲が、クリスの前へ半歩だけ出る。

 

ギンガレッド――鷹山莉央。

 

炎を肩にまとわせた姿が、夜の冷たさへ楔みたいに立っていた。

 

「えぇ!」

 

返した声と同時に、クリスは武装を切り替える。

 

構えを深くし、肩を沈め、引き金へ指をかけたまま視線だけを鷹山の背中へ滑らせる。

 

どこへ踏み込むか。

 

どこを空けるか。

 

その癖を読むのは、案外難しくない。

 

前で暴れるやつほど、次に欲しがる場所が分かりやすい。

 

鷹山が踏み込む。

 

右足が砂利を噛み、腰が落ち、炎が前へ傾く。

 

「ちょせぃ!!」

 

裂帛の声と一緒に、炎をまとった拳がモリスの前列へ叩き込まれた。

 

接触。

 

鈍い音。

 

遅れて、群れの中央が爆ぜる。

 

弾け飛んだ灰の隙間へ、クリスの射線が吸い込まれた。

 

一発。

 

二発。

 

三発。

 

跳ね上がった個体の首、崩れた列の奥、横へ回ろうとした影の膝。

 

迷いなく撃ち抜く。

 

鷹山が振り返りもせず、半歩だけ重心をずらす。

 

その空いた肩口の横を、クリスの弾がすり抜けていった。

 

「よっと、凄いわね。こっちの動きを見て、タイミング良くやるなんて」

 

「こっちは馬鹿や後輩を後ろから撃っているんだ。仲間に当てるような真似をするかよ」

 

吐き捨てるように返しながらも、クリスの口元にはわずかな熱が残る。

 

こういうのは嫌いじゃない。

 

前に出る奴の癖を読み、その背を使って敵だけを削る。

 

守るなんて言葉にしたら気持ち悪いが、やってることは、たぶん、そういうことだ。

 

鷹山が笑う。

 

炎の色が少しだけ濃くなる。

 

「だったら、頼りにして貰うわ!炎のたてがみ!」

 

掌から放たれた炎が、獣の鬣みたいに広がって、モリスの軍勢を横一文字に薙いだ。

 

焼ける音はしない。

 

代わりに、灰色の輪郭が熱で歪み、押し返され、斜面の中央に細い一本道が生まれる。

 

そこだ。

 

クリスが武装を弓へ切り替えようとした、その時だった。

 

夜空のどこか高いところから、白い光が落ちる。

 

見覚えのある、いや、身体の芯が先に覚えている光。

 

「っ今の光は」

 

炎の縁をなぞるように、その白が鷹山の装甲へ染み込んだ。

 

赤が深くなる。

 

輪郭が鋭くなる。

 

炎は燃えているというより、肌の上へ獣の毛並みみたいに生えてくる。

 

テガソードオリジンの力。

 

人の願いが、誰かの背中を押す時にだけ見せる、あの理不尽な奇跡。

 

「さっきの吠の奴が使っていたのって、お前」

 

クリスが目を細める。

 

鷹山もまた、己の腕に走る光を見て、息を呑んだ。

 

「これは、あの時の」

 

その言葉の先にある記憶までは語らない。

 

戦場は、思い出話を噛み砕いて飲み込むには速すぎる。

 

モリスの群れが、再び道を塞ごうと動き始める。

 

時間はない。

 

「決めるぞ」

 

「えぇ」

 

クリスは弓を展開する。

 

腕を開く。

 

肩甲骨が寄る。

 

肘が張る。

 

視線の先、鷹山が炎で拓いた一本道の奥へ、照準が一本の線で通る。

 

鷹山はその半歩前へ。

 

獣装光をまとった炎を、矢の先へ重ねるように集めていく。

 

炎は尾を引き、鬣となり、やがて矢そのものの輪郭を巨大化させた。

 

細い光の矢へ、自然の息吹が骨と肉を与えていく。

 

獣の頭部を先端に宿した巨大な炎の矢。

 

クリスの矢であり、鷹山の炎であり、どちらか片方では成立しない一撃。

 

「ふぅぅ獣炎一閃!」

 

放つ。

 

同時に、クリスの指が弦を離れる。

 

「狙いは外さねぇよ」

 

矢が走る。

 

炎が追いつく。

 

一体化した紅蓮の矢が、モリスの群れの中心へ突き刺さる。

 

接触。

 

遅れて、腹の底をえぐるような衝撃。

 

さらに一拍置いて、着弾点からX字の炎と光が裂ける。

 

前列が消し飛び、後列が巻き込まれ、灰色の波そのものが左右へ千切られていく。

 

採掘場の粉塵が赤く照り返し、宙に浮いた鉄片が細かく震えた。

 

道が開く。

 

奥まで、はっきりと。

 

クリスは反動で半歩だけ引き、腕の痺れを噛み殺しながら、まだ照準を切らない。

 

鷹山も前を向いたまま、炎だけを細く収める。

 

完全に終わったわけじゃない。

 

だが、逆転の気配は、もう誰の目にも誤魔化せなかった。

 

「よしっ」

 

鷹山が短く息を吐く。

 

クリスは口の端を少しだけ吊り上げる。

 

「決まったな!」

 

そう言った声は、自分で思うより、少しだけ軽かった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。