ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVS戦姫絶唱シンフォギア ユニバース大戦   作:ボルメテウスさん

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並び立つ剣

採掘場へ向かう前、風鳴翼は崩れた詰所の脇に立ち、夜の冷気と粉塵の匂いを胸いっぱいに吸い込みながら、ひとり静かに呼吸を整えていた。

 

腰にある天羽々斬へそっと触れ、柄の感触を確かめる仕草には無駄がなく、長く積み重ねられてきた鍛錬の時間だけが静かに宿っていた。

 

右足へ預けた重みを一度だけ踵へ戻し、そこからつま先へ流し直す感覚を確かめる動きは、稽古場であろうと戦場であろうと、翼にとって変わらない日常の一部だった。

 

心が荒れれば刀は鈍り、刃が鈍れば守れるものまで失うのだと、身体の深いところが何度も痛みを伴って覚え込んでいる。

 

「……静かすぎるわね、ここは」

 

そう呟いた直後、静けさそのものの質が変わり、ただ音がないだけではない、不吉な息遣いを含んだ沈黙が採掘場全体へ重たく広がっていった。

 

舞い上がっていた粉塵が地面へ落ち切らず、半端な高さで糸に絡め取られたように揺れ続け、砕けたレールの先では砂利が逆向きに流れ始める。

 

採掘場そのものが異形の呼吸を始めたのだと理解した瞬間、翼の視線は細く鋭くなり、腰の天羽々斬へ伸びる指先に迷いはなくなった。

 

次の瞬間、斜面の割れ目から灰色の影が滲み出るように現れ、それが一つや二つではなく、数える意味が失われる速度で増殖していく。

 

モリスの軍勢は掘り返された地肌を埋め尽くすほどの群れとなり、崩れた重機の陰や裂けた地面の底から、音もなくこちらへと押し寄せてきた。

 

「来るのなら来なさい、この場は私が通さない」

 

翼は天羽々斬を抜き放ち、鞘走る金属の細い音が夜気を裂いた瞬間、全身の重心を戦う形へと静かに組み替えていく。

 

右足をわずかに引き、左足を斜めへ開き、肩の線を狭く絞り込むその所作には、ただ相手を斬るためではなく、己の剣筋を最後まで濁らせない意志が通っていた。

 

最前列のモリスが一斉に間合いを詰め、その背後の列が倒れた仲間さえ踏み台にするように迫ってくるが、翼は真正面から受け止めるような愚直な真似をしない。

 

半身をわずかにずらし、群れの密度が最も高い一点へ斜めに刃を入れると、接触の硬い音が響き、遅れて衝撃が腕へ伝わり、切り裂かれた灰色の身体が左右へ大きく割れた。

 

だが、その割れ目がそのまま穴として残ることはなく、次のモリスが当然のように流れ込み、裂いたはずの線が瞬く間に埋め直される。

 

翼はそこで慌てずに引き足を作り、刀を返しながら二体目の膝へ正確に刃を落とし、崩れた個体が後続を巻き込む一拍だけを強引に作り出す。

 

その一拍があれば十分だった。

 

翼はすでに前へ踏み込み直しており、逆袈裟に振り上げた天羽々斬で三体まとめて切り裂き、そのまま位置を変えて包囲の輪を細く削っていく。

 

剣筋は派手ではないが、そこには一切の迷いがなく、数に押される時ほど無駄を削ぎ落とした太刀こそが剣士の真価を示すのだと、彼女の全身が語っていた。

 

「焦りに任せた一太刀など、剣士の誇りではない……!」

 

言葉と共に刃が走り、砂利が跳ね、粉塵が舞い、切先の通った軌道だけが夜の中へ細く澄んで見える。

 

一度は前列を押し返し、群れの流れを乱すことに成功するが、モリスの軍勢は倒されるたびに別の場所から染み出すように現れ、数そのものが尽きる気配を見せない。

 

翼の呼吸は少しずつ熱を帯び、装甲の内側で汗が首筋を伝い始めるが、それでも剣先だけは乱れず、天羽々斬の軌道に迷いは生まれない。

 

剣士としての誇りとは、勝ち姿の美しさではなく、どれほど追い詰められても、自らの刀を狼狽の道具へ堕とさないことだと、翼は誰より深く知っていた。

 

だからこそ彼女は、押し寄せる数の圧へ飲まれかけながらも、斬るべき線を見失わず、次の一太刀のために呼吸を正し続ける。

 

「来なさい、私の刀は、まだ曇ってなどいない……!」

 

そう言い放って再び踏み込んだ時、斜面の奥にいたモリスたちが、不意に同じ高さで首を巡らせ、あまりにも揃いすぎた動きで前列の形を整え始めた。

 

その異様な統一感は、ただ多いだけの群れにはあり得ず、誰かの意志が、まるで刀を振るうようにこの軍勢を扱っているのだと、翼の背筋へ細い冷たさを走らせた。

 

この敵は、ただ湧いてくる異形の塊ではない。

 

何者かが、剣筋のような秩序をもって、モリスの軍勢そのものを“振るっている”のだと、翼は次の斬撃へ移る寸前に確信しかけていた。

 

翼が次の一太刀へ移ろうとした瞬間、斜面の奥で揃いすぎた首の動きが、剣筋のような秩序を伴ってこちらへ迫ってくるのがはっきりと見えた。

 

ただ多いだけの軍勢ではないと理解した刹那、包囲の輪は目に見えて細く縮まり、前列を断っても、断たれた隙間へ後列が継ぎ目なく流れ込んでくる。

 

翼は引き足で半歩だけ距離を作り、崩れた足場へ体重を預けすぎないよう膝を柔らかく使いながら、天羽々斬の切先を一度だけ低く沈めた。

 

呼吸は熱を帯びている。

 

それでも、剣筋だけは濁らせない。

 

数に押される時こそ、刀は焦りではなく、己の形を映す鏡でなければならないと、長い修練が骨の奥へ刻み込んでいる。

 

「押し潰されるほど集まろうと、私の刀が乱れる理由にはならないわ」

 

言葉と共に踏み込んだ斬撃は、最前列の肩口から二体目の喉元へ流れるように走り、さらに返す刃が三体目の膝を払って、群れの流れをわずかに崩した。

 

だが、その崩れは長く続かない。

 

まるで見えない手が隊列を整え直すように、モリスの軍勢は再び同じ厚みを取り戻し、翼の立つ場所だけを狙って幅を詰めてくる。

 

左右の退路を奪われ、正面の密度が一段増した、その窮屈な一瞬だった。

 

翼の斜め前へ、別の剣筋が鋭く差し込んだ。

 

それは無理に押し返すための乱暴な一撃ではなく、最も噛み合っている列の継ぎ目だけを正確に断つ、若いのに妙にまっすぐな太刀だった。

 

接触の高い音が響き、切り裂かれたモリスの身体が左右へ大きく割れ、その生まれた空白へ冷えた夜気が一筋だけ流れ込む。

 

翼は反射的に視線を向ける。

 

そこにいたのは、シンケンレッドへ変身した刃白和輝だった。

 

剣を持つ手に迷いはなく、踏み込みも決して荒くない。

 

まだ若い。

 

だが、その若さを取り繕うような見栄や虚勢がなく、斬るべきものへだけ真っ直ぐ伸びていく刀の意志が、立ち姿そのものから伝わってきた。

 

そして、その足運びの奥には、禽次郎の道場で叩き込まれた型の残り香が、たしかに息づいていた。

 

「その太刀筋……猛原さんの門下生ね、なるほど納得がいくわ」

 

和輝は一度だけ視線をこちらへ寄越し、しかし気安く会話を膨らませることなく、次に押し寄せる軍勢へ向けて木々の年輪みたいに静かな緊張を張り直した。

 

「門下生の刃白和輝です、けれど今は挨拶より先に、この包囲を切らせてください」

 

その返答には飾り気がなかった。

 

剣で語る者の声だと、翼はすぐに理解する。

 

モリスの群れが、二人の合流を許すまいとするように一斉に沈み込み、今度は高さを変えながら前後から噛みつく形で飛び込んできた。

 

翼は正面を取る。

 

和輝はわずかに右へ開く。

 

互いの間に残された細い空間が、次の斬撃を通すための道になることを、言葉にせずとも双方が知っていた。

 

翼が一体目の爪をいなして刃を返し、和輝がその死角へ入り込んで二体目の脇腹を裂く。

 

和輝が前へ出すぎれば、翼がその横へ切り込んで厚みを削り、翼の足場が崩れそうになれば、和輝が短い一太刀で追撃の角度を逸らす。

 

初めて並んだとは思えないほど噛み合っていたわけではない。

 

けれど、互いの剣が守りたい形だけは、すでに同じ方向を向いていた。

 

翼は戦いながら、和輝の剣をもう一度見る。

 

若さはある。

 

未完成さもある。

 

それでも、その刃は己の弱さを誤魔化すためではなく、守るべきものへ届く自分でありたいという願いを、真正面から支えていた。

 

まっすぐな剣だ。

 

そして、そういう剣なら、背を預ける理由になる。

 

前列の密度がさらに増し、左右から迫る影が二人の間へ食い込もうとした瞬間、翼は半歩だけ後ろへ引き、和輝は逆に半歩だけ前へ出た。

 

二本の刀が交差し、同時に振り抜かれた斬撃が、入り込もうとしたモリスの列を左右へ押し返す。

 

そのまま体を入れ替えるように位置を変え、次の瞬間には、翼と和輝は背中合わせで立っていた。

 

肩越しに伝わる気配が、無駄な説明よりも雄弁だった。

 

翼は天羽々斬を構え直し、和輝もまた刀を正眼へ据える。

 

押し寄せる軍勢は、まだ尽きない。

 

それでも、この場に二本の剣が並んだことで、戦場の形は確かに変わった。

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