ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVS戦姫絶唱シンフォギア ユニバース大戦 作:ボルメテウスさん
砕けた岩と鉄骨の残骸で波打っていて、踏み込むたびに靴底の下で砂利が嫌な音を立て、響の呼吸へ粉塵がじわじわと入り込んでくる。
それでも立花響は止まらず、拳を固めたまま一直線に飢餓のビダルへ踏み込み、その腹へ叩き込んだ一撃の手応えを、骨の軋みごと腕で受け止めていた。
殴り合いなら負けない。
そう信じて前へ出るたび、相手の拳は飢えた獣みたいな執拗さで打ち返してきて、受けた衝撃が肩から背中へ抜ける頃には、次の一発がもう視界の端で膨らんでいる。
響は右で受け、左で返し、重心を落として足場の崩れを殺しながら、なおもビダルの懐へ潜り込もうとした。
けれど、今日のビダルは妙だった。
ただ勝つためではなく、ただ倒すためでもなく、何が何でもこの場で自分だけを潰し切ると決めた者の焦りが、その拳にも踏み込みにも、不気味なくらい濃く滲んでいる。
「どうした、さっきまでの勢いはその程度かよ!」
挑発に近い言葉を返しながら、響は正面から放たれた拳を肩でいなし、返す勢いで顎を狙って腕を振り上げる。
しかし、ビダルはそこを真正面から潰してきた。
拳と拳がぶつかる瞬間、鈍い音が採掘場へ響き、響の体が半歩ぶんだけ後ろへ押し戻される。
そこへ追撃が来る。
腹。
肩。
脇腹。
どれも致命傷ではないのに、積み重なることで前へ出るリズムだけを狂わせてくる、嫌らしい殴り方だった。
「っ、まだまだぁっ!」
声を張って踏み込み直した響の横を、赤い刃が一閃して通り抜けた。
ドンブラソード。
桃色の残光がビダルの腕を弾き、その一瞬の空白をこじ開けるみたいに、立花洸――ドンモモタロウが響の横へ滑り込んでくる。
「大丈夫か、響!」
「うん、助かった、お父さん!」
息を整える暇も惜しんで返した声は、我ながら少し熱かった。
それでも、今は遠慮なんてしていられない。
ビダルは明らかに自分を見ている。
洸が割って入ったのに、その視線はほとんど揺れず、鬱陶しい虫を払うみたいにドンブラソードを捌いたあと、またすぐ響へ狙いを戻してくる。
普通じゃない。
あたしだけを、狙いすぎてる。
洸もそれを感じ取ったのだろう。
一度だけ周囲へ視線を走らせ、採掘場の端で別の戦線へ食い込もうとしているモリスの動きと、ビダルの執着の偏りを、ほんの数秒で秤にかけた。
その顔つきが変わる。
軽口を言う時の父親の顔じゃない。
状況の綻びを見つけた時の、あの鋭い目だ。
「響、お前ばかり狙ってる、何かある!」
その言葉は、殴り合いの熱をいきなり冷やすみたいに、響の耳へ鋭く突き刺さった。
何かある。
自分に。
ビダルが、ここまで露骨に始末しようとする理由が。
響が一瞬だけ目を見開いた、そのわずかな揺らぎすら、ビダルは見逃さなかった。
「気づかせるものかよ!」
低く唸るような声と共に、ビダルの踏み込みが一段深くなる。
今までの殴り合いは押し潰すための準備でしかなかったと言わんばかりに、狙いが完全に響の急所へ集まり始める。
洸が横から斬り込み、響が正面から拳を合わせても、ビダルは明らかに洸を“邪魔な壁”としてしか見ていない。
優先順位が違う。
倒したい順番が、異常なほどはっきりしている。
響は拳を受けながら、背中へ冷たいものが這い上がる感覚を覚えていた。
狙われていること自体は、戦場では珍しくない。
けれど、この執着は別だ。
自分を潰せば、それで何かが守られるとでも信じているみたいな、必死さがある。
「お父さん、本部に伝えて!」
「もう飛ばしてる!」
洸がドンブラソードを返しながら怒鳴るように返し、その直後、通信越しに慌ただしい音声が重なった。
S.O.N.G.本部でも、すでに解析が走り始めているのだと、声の切迫した速さだけで分かる。
エルフナインたちが何かを掴みかけている。
まだ答えじゃない。
でも、ここで倒れたら、その答えまで届かない。
だったら、やることは一つだ。
どんな理由で狙われていようと、今この場で殴り返して、繋がる時間を奪い取る。
響は息を吸い込み、拳を固め、崩れた斜面を蹴った。
横では洸が刃を走らせ、正面ではビダルが飢えた目で牙を剥く。
採掘場の乾いた夜気の中で、三人の影がぶつかり合い、次の瞬間には、また新しい衝撃が岩肌を震わせようとしていた。