ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVS戦姫絶唱シンフォギア ユニバース大戦 作:ボルメテウスさん
真正面から走る。
それだけで、あの野郎はすぐに動いた。
やっぱりだ。
レクスは俺を見てるようで、その実、俺の向こう側を見ていやがる。俺が前に出るのを嫌がってるんじゃねえ。その後ろから、あるいは横から、響が拳を通す形になるのを何より嫌がってる。だったら、やることはもう決まってる。
「逃がすかよ、レクス!」
俺が踏み込んだ瞬間、レクスは即座にその場を捨てた。
後ろへ飛ぶ。横へ滑る。いや、ただの回避じゃねえ。空間そのものを薄く捻じ曲げて、俺の踏み込みを空振りさせるつもりの逃げ方だ。だが、そんなもんはもう見飽きた。お前がどう逃げるか、その癖はさっきまででだいたい頭に入ってる。
テガソードオリジンが、手の中で熱を上げる。
今必要なのは、追いつく力だ。いや、それだけじゃ足りねえ。追いついた先で、逃げる余地ごと潰す速さだ。
『ゴーオンジャー!』
『カーレンジャー!』
『ブンブンジャー!』
鳴った。
一つ目で、足が前へ弾ける。
二つ目で、逃げるための拍が見える。
三つ目で、景色の方が遅れる。
「――なッ!?」
レクスの目が開く。
遅え。もう見えてから驚く段階じゃねえ。ゴーオンジャーの爆発みてえな前進力で間合いを食い、カーレンジャーの感覚でお前が次に逃げるための“間”を噛み潰し、ブンブンジャーの加速で、その全部をまとめて置き去りにする。距離はもう意味を失っていた。
地面が抉れる。
俺の靴底が岩を砕く。
風が遅れて唸りを上げる頃には、もう俺はレクスの目の前にいた。
「追いついたぞッ!」
レクスが腕を上げる。
法則改変か、衝撃波か、それとも別の厄災か。何を使うつもりかは知らねえ。だが使わせねえ。次の行動へ入る、その手前で食い破る。今ここで必要なのは、速度の先にある牙だ。
『キョウリュウジャー!』
『ガオレンジャー!』
右手に、噛み砕くための感触が宿る。
ガブティラファング。
左手には、獣王の爪みてえな圧が重なる。
ライオンファング。
武器っていうより、捕食者の顎と前肢だ。
追いついた獲物を、そのまま逃がさねえための力。その二つを握った瞬間、俺の腕の一本一本にまで“噛みついて砕く”って意思が走った。
「はあああああッ!」
右の牙で食い破るように薙ぐ。
レクスが身を引く。
その退きへ左のファングを叩き込む。
受ける。火花が散る。黒い何かが弾ける。だが俺は止まらねえ。止まる理由がねえ。牙を交差させ、こじ開け、押し込み、また裂く。獣の圧が何重にも重なって、レクスの腕と肩へまとわりつくように食らいつく。
「ぐ……ッ!」
初めて、レクスが押された。
後ろへ下がる余裕が消える。
避けるための型が崩れる。
防ぐので、もう精一杯だ。
だが、それでもまだ足りねえ。
こいつは王様気取りの化け物だ。高い身体能力だけなら、まだ捌いてくる。高い攻撃力だけなら、まだ受けてくる。だったら最後に必要なのは、その両方を極限まで研ぎ澄ませることだ。
牙を振るいながら、俺はさらにテガソードオリジンを鳴らした。
『ゲキレンジャー!』
『ダイレンジャー!』
世界の輪郭が変わる。
いや、変わったのは俺の身体だ。
筋肉の一本が、熱を持ったまま綺麗に揃う。
関節のひとつひとつが、必要な角度へ迷いなく入る。
呼吸が、踏み込みが、視線が、全部ひとつの戦闘に噛み合う。
獣みてえな勘が前に出る。
そのくせ、動きは荒れない。
ダイレンジャーの研ぎ澄まされた体術が、ゲキレンジャーの本能に骨を通したみてえに、俺の全身を一本の武器へ変えていく。
「っ、こいつ……!」
「今さら気付いたかよ!」
右のガブティラファングを囮に見せる。
レクスが腕を合わせる。
そこへ左のライオンファングを下から滑り込ませる。
更に一歩。いや、半歩。人間なら踏み込めねえはずの狭い間合いへ、ゲキレンジャーの勘とダイレンジャーの練度で無理やり身体を差し込む。
肘。膝。肩。牙。
斬る、穿つ、抉る、殴る。
速さもある。重さもある。体術もある。武器の圧もある。どれか一つじゃねえ。全部だ。全部を積んで積んで積み上げて、ようやく一発、響の拳を通すための状況を作る。
レクスはもう、次の行動へ入れなかった。
いや、入ろうとはしてる。俺にも分かる。法則を捻るか、空間をずらすか、何かしら次の手を打とうとしている気配はある。だが、その前に防御しなきゃ顔面を割られ、その前に腕をどかさなきゃ胴を裂かれる。その前に足を引かなきゃ膝を砕かれる。選択肢が多いようで、実際にはもう残ってねえ。
「守るしかねえよなァッ!」
吠えながら、俺は真正面から叩き込む。
レクスが両腕を交差させる。
黒い圧と白い極光がぶつかる。
それでいい。
それを待ってた。
「響ぃッ!!」
「うんッ!!」
来る。
分かっていた。
俺がここまで押し込んでやれば、あいつは絶対に躊躇わねえ。
横合いから、黄金の拳が飛び込んでくる。
一直線。
まっすぐ。
何ひとつ曲がらねえ、立花響の拳だ。
レクスがそっちへ目を向ける。
けど遅え。
今のお前は俺の牙と手足を防ぐので精一杯だ。響へ意識を割けても、身体が追いつかねえ。だから防御したまま、無理やり体勢だけを逸らそうとする。だが、その程度であいつの拳は止まらない。
「ぶち、抜くッ!!」
轟いた。
響の拳が、レクスの胴を真正面から捉える。
衝撃は爆発じゃなかった。
もっと嫌な感じだ。
分厚い皮膚の上に、さらに別の膜が貼りついていて、それが拳圧で無理やり剥がされるような音。ビキビキとひび割れる。砕ける。裂ける。レクスの表面に纏わりついていた白く冷たい光――ゴジュウポーラーの力が、殻みてえに身体から剥がれ始めた。
「な、に……!?」
レクスが焦った。
今度こそ、隠しようのねえ焦りだった。
レクスの胸元から、肩口から、腕から、極地の獣みてえな白い力が剥離していく。
それは血でも肉でもねえ。
もっと根っこの部分だ。
奪って、纏って、無理やり自分の力にしていたものが、本来の場所へ戻ろうとして暴れているみてえだった。
「剥がれろ……ッ!」
響がさらに押し込む。
拳に乗る熱量が、ただのダメージじゃなく“返せ”って意志になっているのが分かる。レクスが今までこいつの拳だけを嫌がっていた理由が、目の前で形になっていた。あいつは痛いのが嫌だったんじゃねえ。纏っていた力を、こうして引っぺがされるのが嫌だったんだ。
「やめろ、やめろォォッ!!」
レクスが叫ぶ。
だがもう遅え。
白い力は完全に身体から離れ、吹き飛ぶように横へ弾かれた。
その瞬間だった。
『ゴジュウポーラー!』
音が鳴る。
白い極光が、形を持つ。
それはただのエネルギーじゃなかった。失われていたものが、自分の名前を取り戻すみてえに、一つの輪郭へ収束していく。
俺は息を呑んだ。
響も目を見開いた。
レクスは信じられねえものでも見るみてえな顔で、その横を睨みつけている。
そこに立っていたのは、白い極地の戦士だった。
熊手真白。
ゴジュウポーラー。
以前と同じようで、少し違う。
奪われていたものを奪い返して、その場へ当然みてえに戻ってきた顔だ。
立ち方ひとつで空気を支配する、あの偉そうな感じまで含めて、どう見ても本物だった。
「今回も助けられてしまったな、立花響。それによくやったじゃないか、二代目」
開口一番、それだ。
相変わらず上から目線で、相変わらず当然みてえな顔をしていやがる。
なのに、俺の口元は勝手に吊り上がっていた。
腹が立つ。
けど、それ以上に、帰ってきやがったって実感の方が先に来る。
「蘇って早々、相変わらず偉そうだな、熊手」
俺が吐き捨てると、真白はほんの少しだけ口元を上げた。
笑ったのか、鼻で笑っただけなのか、その辺はよく分からねえ。だが少なくとも、死に損ないみてえな影じゃねえ。ちゃんとそこにいる。
響が一歩前に出る。
目が潤んでるくせに、拳はまだ解いてねえ。
「真白さん……!」
「感動の再会を邪魔する気はないが、まだ終わってはいないぞ」
真白の視線が、まっすぐレクスへ刺さる。
レクスは後ずさっていた。
纏っていたゴジュウポーラーの力を失い、初めてあいつは“王”じゃなく、追い詰められた獣の顔を見せていた。
いい気味だ。
奪ったもんを当然みてえに使って、王様気取りでふんぞり返ってたツケだ。
俺はテガソードオリジンを構え直す。
響が拳を握り直す。
真白がその横で、静かに白き極地の圧を立てる。
さっきまで二人だった戦線に、今はもう一人立っている。
その事実だけで、空気が変わる。押し返されていたもんが、全部こっちへ戻ってくるみてえだった。
「レクス」
俺は低く呼ぶ。
あいつの目がこっちを向く。さっきまでの余裕はもうどこにもねえ。
「もう逃げ場はねえぞ」
言い切った瞬間、胸の奥で何かが熱く燃え上がった。
禽次郎のことも、真白のことも、まだ全部終わったわけじゃねえ。怒りだって、そのままだ。けど今はそれだけじゃない。ちゃんと戻ってきたもんがある。ちゃんと繋がったもんがある。