ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVS戦姫絶唱シンフォギア ユニバース大戦 作:ボルメテウスさん
爆煙が、ようやく薄れていく。
熱を帯びた風が頬を撫で、砕けた地面の匂いが鼻を刺した。さっきまでそこにいたはずのレクスの気配は、確かに消えている。あれだけしぶとく、あれだけ王様気取りで立っていた野郎が、今はもうどこにもいない。
だからこそ、口から出たのは確認みてえな言葉だった。
「倒せたか」
隣で響も、まだ拳を握ったまま煙の向こうを見ている。
息は荒い。肩も上下してる。けど、その目だけはまっすぐだった。
「……うん、倒せたよね」
そう言いながらも、響の声には少しだけ揺れがあった。
分かる。俺も同じだ。あのレクスが、あれだけで終わるのか。そう思いたい。だが、そう簡単に思い切れねえ何かが、胸の奥に引っかかっている。
真白は、俺たちより先にその違和感へ辿り着いていたらしい。
白い極光をまだ身体の縁へ纏わせたまま、鋭い目で戦場全体を睨み据える。
「油断するな、奴はそう簡単に終わるような奴じゃない」
その言葉へ重なるように、手の中のテガソードオリジンが低く唸った。
まるで、もう次の気配を捉えているみてえに。
「熊手真白の言う通りだ、おそらくは」
「おそらくって――」
言いかけた、その時だった。
ドン、と。
腹の底を殴られたみてえな衝撃が地面から突き上がった。
「なっ、なんだっこれは、地震――!」
大地が震える。
ひび割れた掘削場の地面が、さらに音を立てて裂けていく。倒れた瓦礫が跳ね、細かい石粒が空へ浮く。けど、これはただの地震じゃねえ。揺れの向こう側に、もっと嫌なもんがいる。
真白の目が細まる。
「いや、あれは――」
周囲のあちこちから、黒い煙が噴き出した。
それは煙なんてもんじゃなかった。どろりとした悪意そのものが、地面の割れ目から吹き上がってくるみてえだった。一本、二本、十本。いや、数える意味がねえ。掘削場の全周から噴き上がった黒が、空へ伸び、絡まり、集まり、ひとつの影を作り始める。
でかい。
ただでかいだけじゃねえ。
世界の上に、不釣り合いなもんが無理やり立ち上がってくるみてえな異物感がある。
煙の中から現れたのは、巨大な黒い翼を持つ魔神の姿だった。
翼は二枚じゃない。幾重にも裂けた闇が、羽根の代わりに空を汚している。
角のようにせり上がった頭部。
胸の中心で渦を巻く黒い核。
人の形に似ているくせに、人の理屈から外れたものだけを寄せ集めて作られたみてえな不気味さがあった。
「なっ、なんだっ……!」
思わず声が裏返る。
さっきまでのレクスだって、とんでもねえ相手だった。だが、目の前のこいつは違う。もっと根本が違う。
あれは敵ってより、破滅そのものが形になったみてえだった。
真白が、低く吐き捨てる。
「レクスの奴が消滅した事で、厄災達の欠片が一つに集まっているんだろう」
「それじゃ、このままじゃ……!」
響の声が震える。
あいつの視線の先では、黒い魔神が翼を広げるたび、周囲の空間そのものが軋んでいた。空が濁る。地面が沈む。まるで、あいつが立ってるだけで世界の方が耐えられなくなってるみてえだ。
真白は、淡々と言い切った。
「世界が滅びてしまうな」
軽く言いやがる。
けど、冗談じゃない。あいつは本気で言ってる。つまり、本当にそういう段階なんだ。
だったら、答えは一つしかねえ。
「やらせるかよ、行くぞ、テガソード!」
「あぁ」
返事は短かった。
けど、それで十分だった。言葉なんかいらねえ。今この瞬間、俺とこいつがやるべきことは一つだ。
俺はテガソードオリジンを掲げる。
武器としてのその姿は、すでにただの剣を超えていた。赤と金の原初の意匠。握った瞬間から意志を返してくるみてえな、神話の芯をそのまま形にしたような重み。その全てが、今は巨大戦の引き金として脈打っている。
吠えるように、あるいは祈るように、テガソードの音声が響き渡る。
『集え……目覚めろ、オーリージン! 集え、目覚めろ! オーリージン!! テガソードオリジィィィィィィィン!!!』
「「テガソードオリジン!」」
俺とテガソードの声が重なる。
次の瞬間、武器状態のテガソードオリジンが脈動した。
まず変わったのは柄の部分だった。
握っていたはずの持ち手が、生き物みてえに震え、内部でロックが外れる音を立てる。金のラインが柄の中を走り、指のように纏まっていた各部が、ひとつひとつ別の関節を持った構造体へとほどけていく。
小指側の外装が大きく持ち上がる。
肩を作るための装甲だ。
続いて、柄に沿って折り畳まれていた指の節が回転し、手首から前腕へ繋がるラインがむき出しになる。親指側のパーツがさらに外へ開き、今まで剣の柄を形作っていた部位が、そのまま片腕の骨格へ変わっていく。
変形はそこで終わらない。
刀身の根元から先端へ、赤い光が一気に走る。
剣先の左右を噛み合わせていたロックが、甲高い音を立てて解除された。
開く。
左右のブレード部が、大きく、そして重々しく外へ割れていく。
まるで一振りの剣が、自分の内側から巨人の肩と背を押し広げていくみてえだった。片側が下り、もう片側も呼応するように展開し、巨大な外装となって肩と背面へ噛み合う。その裏から、半透明のバリアブルマントがひらき、イエローのクリアパーツが光を受けて神秘的に輝いた。
翼だ。
いや、ただの翼じゃない。
原初の神が持つべき威容そのものが、今、背中から展開している。
さらに中指側のパーツがせり上がり、胸部と上半身の輪郭が完成する。
剣の中ほどに埋もれていた頭部ユニットが、ゆっくりと起き上がった。頭部装甲が左右へ噛み合い、顔が前を向く。通常のテガソードとは違う、金に光る眼が灯る。
点いた、ではない。
目覚めた、だ。
最後に、下半身を形成する基部が地面へ降り立つ。
大剣として垂直に立っていた姿勢が、巨人としての重心へ組み替わる。膝、腿、腰。全てが一連の流れで噛み合い、武器だったはずのものが、今や完全にひとつの巨大なる神の姿へ変わっていた。
テガソードオリジン。
真の姿。
原初の巨神。
そいつが、目の前の黒翼の魔神へ対するように、ゆっくりと立ち上がる。
地面が沈んだ。
空気が震えた。
それでも不思議と、恐怖はなかった。
俺がいる。
テガソードがいる。
それだけじゃない。背中には、ここまで一緒に戦ってきた連中の気配がある。響も、真白も、全部この場に繋がっている。なら、この巨神はただのロボじゃねえ。俺たちがここまで繋いできた意志の、最後の形だ。
黒翼の魔神が咆哮する。
空が裂ける。黒い煙がさらに吹き上がる。遅れれば本当に世界が飲まれる。そんな実感が、巨大な視界の中ではっきりと伝わってきた。
だったら先に斬る。
俺は操縦席で、いや、テガソードオリジンの中心で、強く息を吸った。
今から始まるのは、ただのでかい殴り合いじゃない。
これが最後の決戦だ。
「行くぞ!!」