ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVS戦姫絶唱シンフォギア ユニバース大戦 作:ボルメテウスさん
雪音クリスは、自分でも分かるくらい考え込んだ顔をしていた。
それが少し腹立たしい。
別に泣きそうなわけじゃないし、どうしようもなく追い詰められているわけでもない。
ただ、頭の中で同じことを何度もぐるぐる回してしまっているだけだ。
それなのに、こういう時に限って顔へ出る。
だから嫌なんだ、とクリスは内心で舌打ちした。
「お、珍しい顔してんな」
声をかけてきたのは百夜陸王だった。
軽い。
あまりにも軽い入り方だったので、逆にクリスは肩の力を抜くタイミングを失った。
「なんだよ、その言い方」
「いや、そのまんまだけど。なんか、すっげえ“考えてます”って顔してる」
「余計なお世話だ」
即座に返す。
返しながらも、図星だと分かっているから少しムカつく。
陸王は笑っている。
こっちをからかっているのか、それとも本当に何気なく話しかけてきただけなのか、ぱっと見だと分かりづらい。
でも、こういうところで無理に踏み込んでこないのは、あいつなりの気遣いだとクリスも知っていた。
「まあまあ。そこまで睨まなくてもいいじゃん。ちょっと休んでたんでしょ?」
「休んでたっつーか……別に」
「別に、で済ませる時の方が、だいたい別にじゃないんだよね」
「お前、そういうとこだけ妙に勘がいいよな」
「褒め言葉として受け取っとく」
そう言って、陸王はクリスの隣へ自然に腰を下ろした。
戦友ってのは、こういう距離感が妙に上手い。
近すぎず、でも遠すぎず。
無理に慰めるわけでもないくせに、いつの間にか隣にいる。
少しだけ沈黙が落ちる。
クリスはその間に、言うかどうか迷っていた。
別に相談するつもりでここにいたわけじゃない。
ただ、頭の中がうるさくて、一人でいると余計に同じところを回るから、少し外の空気を吸いたかっただけだ。
それでも、隣にいるのが陸王なら、少しくらいは話してもいいかもしれない。
そう思ったのは、たぶん、こいつが夢を叶えた側の人間だからだ。
「……なあ、百夜」
「ん?」
「夢ってさ、どの瞬間に“これが自分の夢だ”って分かるもんなんだ?」
言ってしまってから、クリスは少しだけ眉をしかめた。
ずいぶん直球に聞いた。
もっと遠回しに入るつもりだったのに、思っていたより先に本題が口から出てしまった。
陸王は少しだけ目を丸くしたあと、すぐにふっと笑った。
「お、重めのやつ来たね」
「悪かったな」
「いや、全然。むしろ、そういう話してくれるのちょっと嬉しいかも」
「なんでだよ」
「クリスって、あんまりこういうの人に言わなそうだから」
ぐうの音も出ない。
その通りだ。
夢とか、これからどうしたいかとか、そういう話はどうにも気恥ずかしい。
戦うとか、守るとか、やるべきことが目の前にある時はいい。けど、自分の未来の話になると途端にうまく言葉へできなくなる。
陸王は少しだけ首を傾けた。
「で、何か考えてるの?」
「……NGO活動」
「へえ」
「“へえ”って、お前もうちょい驚けよ」
「いや、でもそれ、クリスっぽいなって思ったから」
その返しが、妙にすとんと来た。
変だ。
もっと“意外”とか言われたら反発できたのに、“クリスっぽい”と言われると、逆に何も言えなくなる。
「両親みたいに、さ。そういうこと、できたらいいのかなって……最近、ちょっと考えてんだよ」
口に出してみると、思っていたよりもずっと静かな響きだった。
もっと気負っていると思っていた。
けれど、本当に考えていたからこそ、言葉そのものは変に飾らなくても出てきた。
陸王は、今度は真面目な顔で聞いていた。
茶化さない。
変に大げさにも受け取らない。
そういうところが話しやすい。
「でも、まだ決めきれてねえんだよ」
「なんで?」
「……なんでって」
クリスは視線を落とす。
そこが、うまく言いにくいところだった。
「それがほんとに“あたしの夢”なのか、よく分かんねえんだ」
「どういう意味?」
「両親がそういうことしてたから、ってだけじゃねえのかなとか。恩返しとか、償いとか、そういうのが混ざってるだけで、あたし自身がほんとにやりたいことなのかって言われると……」
言いながら、自分でも面倒くさいことを考えてるなと思う。
けれど、そこを誤魔化してしまうと、多分ずっと引っかかる。
「もし、ただ両親に引っ張られてるだけなら、それを夢とか言っていいのか分かんねえし」
最後の一言だけ、少し小さくなった。
夢という言葉は、どうにも眩しすぎる。
自分みたいな人間が簡単に使っていいのか、とどこかで思ってしまう。
陸王はそこで少し黙った。
すぐに答えない。
その間の取り方が、ちょうどよかった。
軽く返されても嫌だったし、逆に深刻ぶられても困った。
そのどちらでもなく、ちゃんと考えてから口を開く。
「でもさ、それの何が駄目なの?」
「……は?」
「いや、だって。両親の影響でも、恩返しでも、償いでも、別に入り口は何でもよくない?」
あまりにもあっさり言われて、クリスは少しだけ面食らった。
そんなふうに切られるとは思っていなかった。
「よくないだろ。もっとこう、自分の内側から“これしかない”って思えるもんじゃねえのかよ、夢って」
「うーん、僕はそうでもないと思うな」
陸王は空を見上げた。
少しだけ考えを探るような目だった。
「夢って、最初からめちゃくちゃ綺麗じゃなくてもいいんじゃない? 憧れとか、悔しさとか、誰かに負けたくないとか、誰かのためにとか、そういうのがごちゃごちゃ混ざって始まること、普通にあると思うし」
「……」
「大事なのって、多分“最初の純度”じゃなくて、その先で本気になれるかどうかなんじゃないかな」
その言葉が、思ったより深く刺さった。
クリスは反論しようとして、うまく言葉が出なかった。
最初の純度。
そんなものばかり気にしていたのかもしれない。
これが本当に自分の願いなのか。
誰かの残したものに引っ張られているだけじゃないのか。
そうやって、入り口の正しさばかり気にして、肝心の“その先へ進みたいかどうか”をちゃんと見ていなかった。
「……でもさ」
クリスはぽつりと続ける。
「それでも、あたしが今こういうこと考えてんのって、両親のことがあるからだろ」
「うん」
「だったら、それってやっぱり“あたしの夢”っていうより、両親の続きなんじゃねえのかなって」
そこで、陸王は少しだけ笑った。
馬鹿にした笑いじゃない。
むしろ、ようやくそこまで言ってくれたか、みたいな笑い方だった。
「誰かの続きから始まる夢でも、途中で自分のものになること、普通にあると思うよ」
クリスは顔を上げる。
「僕だってさ、最初から“これが絶対に自分の夢だ!”って一切迷わなかったわけじゃないし。やってるうちに、“ああ、これをちゃんと掴みたいんだな”って分かることもある」
「……それで、お前は掴んだわけか」
「うん。だから言えるんだけど、迷ってる時点で多分、もう結構本気だよ」
「なんだよ、それ」
「だって、どうでもよかったらそこまで悩まないでしょ」
その通りすぎて、クリスは鼻を鳴らすしかなかった。
悩んでいる。
本気で。
だったらそれはもう、かなり答えに近いのかもしれない。
「それに、クリスって“両親のためだから”だけで動けるタイプでもないと思う」
「は?」
「いや、いい意味でね。君、自分が納得してないことは絶対続かないじゃん」
「……まあ、それはそうだな」
「だから、今考えてるってことは、両親のことが入口だったとしても、その先にクリス自身が見てるものがあるんじゃないの」
クリスは言葉を失った。
図星だった。
ただの義務感だけなら、多分ここまで考え込んでいない。
もっと簡単に、“立派そうだからやる”とか、“親の代わりだからやる”とか、そういう雑な言い訳で済ませていたはずだ。
でも今の自分は、それでは嫌なのだ。
本気でやるなら、自分の夢としてちゃんと持ちたい。
そう思っている時点で、もう答えは半分出ている。
「……まだ、決めたわけじゃねえぞ」
言い訳みたいに零すと、陸王は頷いた。
「うん、別に今すぐ決めなくていいんじゃない?」
「そういうもんか」
「そういうもんだと思うよ。夢って、決める瞬間より、育っていく時間の方が長いし」
それは、なんだか妙に納得できる言葉だった。
夢は一瞬で“見つかる”ものだと思っていた。
でももしかしたら、そうじゃなくて、少しずつ育てていくものなのかもしれない。
クリスは大きく息を吐いた。
胸の奥にあったもやもやが、完全には消えていない。
けれど、さっきまでみたいに、正体のない塊ではなくなっていた。
「……ちゃんと考えてみる」
自然に、そう言っていた。
「NGO活動が、本当にあたしのやりたいことなのか。両親のためだけじゃなくて、あたし自身がそこへ行きたいと思ってるのか。ちゃんと逃げねえで考える」
陸王は、それを聞いて柔らかく笑った。
「うん。それでいいと思う」
「……なんか腹立つくらい、普通のこと言うよな、お前」
「え、褒めてる?」
「褒めてねえ」
即答すると、陸王はけらけら笑った。
その笑い方につられて、クリスも少しだけ肩の力を抜く。
戦友ってのは不思議だ。
何かを真正面からぶつけるでもなく、ただ隣で軽く言葉を置くだけで、妙に心が整理される時がある。
「でもさ」
陸王は立ち上がりながら、最後に振り返った。
「もしそれがクリスの夢になったら、君は多分ちゃんとやれると思うよ。だって、そういう時の君、めちゃくちゃ強いし」
「……ったく、軽いんだか真面目なんだか分かんねえな」
「両方だよ」
そう言って手を振る。
クリスは呆れたように見送りながらも、少しだけ笑っていた。
まだ答えは出ていない。
けれど、さっきまでのように“分からないから考えたくない”ではなくなっている。
分からないなら、ちゃんと向き合ってみよう。
そう思えたことが、今は十分だった。
クリスは空を見上げる。
夕方の空は広くて、どこへでも繋がっていそうに見えた。
もしかしたら、その先に自分の行きたい場所があるのかもしれない。
そんなふうに思えたこと自体が、きっともう小さな一歩なのだ。