ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVS戦姫絶唱シンフォギア ユニバース大戦 作:ボルメテウスさん
指輪争奪戦を、また優勝した。
その事実だけ切り取れば、もっと胸を張って、もっと偉そうに笑っててもいいはずなのに、いざ全部が終わってみると、変な静けさばかりが残った。
勝った。
願いを叶えられる立場になった。
そこまではいい。
なのに、その先で「で、お前は何を願うんだ」と聞かれると、思ったより簡単には答えが出てこない。
俺は今、響と未来の真ん中で、夕方の公園のベンチに座っていた。
別に示し合わせたわけじゃない。気付いたら、なんとなく三人でここまで来ていた。昔なら当たり前だったのかもしれない。けど俺にとっては、こうして並んで座ってるだけで、少しおかしいくらい胸の奥が落ち着かねえ。
「それでさ、吠君」
やっぱり最初に切り込んできたのは響だった。
こいつはこういう時、本当に遠慮がない。いや、遠慮がないって言い方は違うか。知りたいことを知りたいって、まっすぐ聞けるだけだ。
「何をお願いするの?」
「いきなりそこ来るのかよ」
「だって気になるもん。もう優勝したんだよ? 願い、あるんでしょ?」
「あるっちゃあるし、ねえっちゃねえ」
「なにそれ」
響が眉を寄せる。
分かりやすい反応だ。そういう顔を見ると、つい口の端が上がる。
けど、その隣の未来はすぐには何も言わなかった。
ただ、俺の横顔を少しだけ見ている。多分、答えられない理由までなんとなく勘付いてる顔だった。そういうの、昔からこいつは妙に鋭い。
「まだ、決めきれてないの?」
未来が静かに聞く。
「……まあ、そんなとこだ」
「珍しいね、吠君がそういうの」
響が不思議そうに言う。
そりゃそうだろうな、と自分でも思う。俺は普段、こういう時はもっとさっさと決める。やるかやらねえか、殴るか殴られるか、そのくらいなら迷わねえ。
でも願いってなると、話が違う。
「お前ら、簡単に言うけどな。優勝して、はい願いどうぞって言われても、そんなすぐ綺麗にまとまるもんでもねえだろ」
「私は割と決めるかも」
「お前はそうだろうな」
「えへへ」
褒めてねえ。
けど、そういうとこが響だ。変に悩みすぎない。思ったことをそのまま前へ出せる。羨ましいとはあんまり思わねえけど、助かる時はある。
「でも、吠君って、前よりちょっと変わった気がする」
未来が言った。
「何がだよ」
「願いのこと、昔の吠君だったら、もっと大きく言ってた気がするの。絶対ナンバーワンになるとか、全部ぶっちぎるとか、そういう感じで」
「今だって思ってるぞ」
「うん。それは知ってる」
未来が少し笑う。
その笑い方が、なんかずるい。否定しねえくせに、その先も見てるみてえな顔をする。
「でも今は、それだけじゃないんでしょ?」
そう言われると、うまく返せなかった。
俺は前を見る。
公園の先、街の灯りが少しずつ増えていく。普通の景色だ。何も知らなきゃ、ただの夕方だ。けど俺にとっては、その普通が普通じゃなかった時間の方が長い。
小学生くらいの頃に、俺はブライダンの世界へ迷い込んだ。
帰ってこられたのは最近だ。
その間に失くした時間を、今さら数えても意味はねえ。分かってる。分かってるけど、こうして響と未来の声を同時に聞いてると、どうしたって思う。
ああ。
俺、本当はこういう時間の中にいるはずだったんだって。
「……別に、大した話じゃねえよ」
「そうやってごまかす時は、大体大した話だよね」
響が即座に言った。
こいつ、変なところだけ未来に似てきやがったな。
「ごまかしてねえよ」
「じゃあ言って」
「言えって言われると、余計にまとまらねえんだよ」
「わかる、それ」
「お前は分かるな」
「でしょ?」
響が妙に得意げで、少しだけ笑いそうになる。
こういう、どうでもいい引っかかりのなさが楽だ。戦いの時はあんなに無茶苦茶なのに、こういう時は変に気を遣いすぎない。
それでも、いつまでも逃げてるのも違う気がした。
こいつらの前だと、適当にごまかし切る方が難しい。
「……嬉しかったんだよ」
ぽつりと出た言葉に、二人とも黙った。
「何が?」
響が聞く。
俺は自分の手を見る。握ったり開いたりを繰り返してから、ようやく続きを口にした。
「この世界でさ。生きててもいいって思えるような奴らに、会えたのが」
言った瞬間、自分で少し驚いた。
もっと違う言い方をすると思ってた。けど、出てきたのはそれだった。
響が目を見開く。
未来は何も言わない。ただ、静かに聞いている。
「俺、ブライダンの世界にいた時間が長すぎて、帰ってきても、正直ちょっと変な感じだったんだよ。この世界に戻ってきたはずなのに、どこまで行っても自分がよそ者みてえでさ」
「吠君……」
「別に、今さら泣き言じゃねえぞ。ただ、なんつーか……向こうで生き残ることばっか考えてたから、こっちでどう生きたいかなんて、ちゃんと考えたことなかった」
そこまで言って、息を吐く。
「でも、お前らに会って、他の連中にも会って、馬鹿みてえに殴り合って、笑って、また勝負して……そういうの全部やってたら、気付いたんだよ。ああ、俺、この世界にいたいんだなって」
響が、少しだけ泣きそうな顔をした。
なんでお前がそんな顔するんだよ、と言いたくなったが、声にはしなかった。
「それって、すごくいいことだよ」
「……そうかもな」
「いいことだよ」
今度は未来が、はっきり言った。
柔らかいけど、迷いのない声だった。
「吠君がそう思えたなら、それはきっとすごく大事なことだと思う」
「大事、か」
「うん。だって、帰ってきても、ここにいたいって思えないままだったら、きっとずっと苦しかったでしょ」
その言い方は反則だ。
未来は昔から、こういうとこがある。こっちが曖昧にしてる真ん中を、静かに言葉にしてしまう。
「……まあ、苦しかったかもな」
「でも今は違う」
「違う、な」
それは認めるしかなかった。
今の俺は、この世界にいたい。
それも、ただ生き延びるためじゃない。ちゃんと誰かと一緒に、ここで笑って、ここで勝負して、ここでまた次を考えたいと思ってる。
だったら願いなんて、もうほとんど決まってるのかもしれない。
けど、そこまで行きかけたところで、胸の奥にもう一つ別の感情が引っかかった。
嬉しいだけじゃない。
少し寂しい。
いや、ずっとあった寂しさに、やっと触れただけかもしれない。
「……あとさ」
俺が続けると、今度は二人とも本当に黙って待った。
「今こうして、お前らと普通に話してるの、思ってたよりずっと嬉しいんだよ」
響が、小さく瞬いた。
未来は少しだけ目を伏せる。
「なんだろうな。別に、劇的なことがあるわけじゃねえだろ。こうやって座って、くだらねえ話して、願いがどうとか聞かれて、適当に返してるだけだ。けど、それが妙に……」
言葉が詰まる。
うまく出てこない。
こんなの、戦ってる時よりよっぽど難しい。
未来が、先に言ってくれた。
「一緒にいられなかった時間のこと、思い出してる?」
その一言で、胸の奥を掴まれたみてえになった。
「……ああ」
否定できなかった。
「そっか」
響は、そこでようやく全部飲み込んだ顔になった。
さっきまで願いが何だってまっすぐ聞いてきてたのに、今はそれより先に、俺が何を見てるか分かったらしい。
「私たち、本当はもっと一緒にいられたんだもんね」
「……多分な」
「吠君がいなくなってからの時間、私と未来は一緒にいたけど、そこに吠君はいなかった」
響はまっすぐ言う。
きつい言い方じゃない。責めてもいない。ただ事実を、そのまま置いてくる。
「でも、今はいるよ」
それから、にかっと笑った。
「じゃあ、今からでも一緒にいればいいじゃん」
「お前は簡単に言うなあ」
「簡単じゃないよ。でも、そうしたいって思ったなら、それでいいんじゃないかなって」
響らしい。
戻らない時間を嘆くより、今からどうするかの方を見る。そういうやつだ。だから助かる時もあるし、眩しすぎる時もある。
未来は、その横で少しだけ違う顔をしていた。
響の言葉を否定はしない。けど、その奥にある痛みまで見ている。
「いなかった時間は、たぶんそのまま戻らない」
静かな声だった。
「でも、その分まで、これから一緒にいられることはできるよ」
俺は返事をしなかった。
できなかった、の方が近い。
その言葉が、あまりにも真ん中に来たからだ。
いなかった時間は戻らない。
その通りだ。
ブライダンの世界にいた時間を、なかったことにはできない。小学生の頃に途切れたこの世界の時間は、そのまま欠けたままだ。
けど、だからって全部終わりでもない。
今こうしている時間は、本物だ。
それを積み重ねていくことは、できる。
「……それか」
「ん?」
響が首を傾げる。
「俺の願い」
自分で言って、少しだけ腹に落ちた。
「もしかしたら、そんな大層なもんじゃなくていいのかもしれねえ」
「どういうこと?」
「もっと強くなるとか、全部手に入れるとか、そういうのも嫌いじゃねえけどさ」
「うん」
「でも今は……」
俺は、響と未来を見る。
こいつらもこっちを見ている。
それだけで、胸の奥が少し熱くなった。
「今は、お前らと一緒にいる時間の方が、ちゃんと欲しいって思う」
響が黙る。
未来も、何も言わない。
変なこと言ったかと少しだけ不安になったが、その沈黙は嫌なものじゃなかった。
「……そっか」
最初に言ったのは未来だった。
それから、ふわっと笑う。
「うん。それ、吠君らしくていいと思う」
「そうかな」
「そうだよ」
響もすぐに乗ってきた。
「だって、それって“これから”の願いでしょ? すごくいいじゃん」
「なんだよ、その言い方」
「だって、吠君って前はもっと“勝つ”とか“負けない”とか、そういう感じだったから」
「今だって勝つし負けねえよ」
「うん、それは知ってる」
また二人して同じことを言う。
ほんと、妙なとこだけ息が合ってやがる。
でも悪くない。
むしろ、それを見てると、ああ本当に帰ってきたんだなって思う。
「じゃあ決まりだね」
響が言う。
「決まってねえよ。まだ輪郭が見えただけだ」
「でも、かなり本音だったでしょ?」
「……まあな」
「だったら、もう半分くらい決まりだよ」
「お前、そういう時だけ無責任だな」
「えへへ」
未来が小さく笑う。
それにつられて、俺も少しだけ笑った。
多分、願いはまだちゃんとした言葉にはなっていない。
でも、もう前みたいに空っぽじゃない。何を望めばいいか分からないまま立ち尽くしてる感じでもない。
俺は、この世界で生きたい。
そして、その中で、お前らと一緒にいたい。
いられなかった時間の続きを、今からでも少しずつ重ねていきたい。
それが願いとして正しい形かどうかなんて、今はまだ知らない。
けど少なくとも、俺の中では確かに一番強い気持ちだった。
「吠君」
響が、不意に少しだけ真面目な声を出した。
「なんだよ」
「これから、いっぱい一緒にいようね」
まっすぐすぎる。
真正面から言われると、なんか照れくさい。
「……お前、そういうの恥ずかしくねえのかよ」
「ちょっとは恥ずかしいよ?」
「ちょっとなのか」
「でも、言いたいことはちゃんと言いたいもん」
そういうとこ、本当に敵わねえなと思う。
未来も、静かに頷いた。
「私もそう思う。今からでも遅くないよ」
「……ああ」
それだけ返すのが精一杯だった。
でも、その一言の中に、今の俺が思ってることはだいたい全部入っていた。
夕方の風が吹く。
公園の木々が揺れる。
普通の景色。普通の時間。普通の会話。
なのに、俺にとってはどれも少し眩しい。
願いが何になるかは、まだこれからだ。
けど今はもう焦っていない。
だって、願った先で手に入れたいものの形が、ようやく少し見えたからだ。
俺はベンチにもたれ、空を見上げた。
横では響が何か次の話をし始めていて、未来がそれに穏やかに返している。
その声が、妙に心地いい。
ああ。
こういうのだ。
俺が欲しかったのは、たぶん。
こういう、当たり前みてえな時間なんだろう。
だったら、今度こそ掴む。
今度はどこにも置いていかれねえように。
俺自身も、こいつらも、ちゃんと一緒にいられるように。
「何笑ってるの、吠君」
響が不思議そうに聞いてくる。
「笑ってねえよ」
「笑ってるよ」
「ちょっとだけ、かな」
未来が言って、二人が揃って笑った。
……まあ、否定はしねえ。
今は、それでいい。