不死学園の人間種   作:龍川芥/タツガワアクタ

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人間種 禁忌錬成リクシール・パラディアス ③

「――流転せよ(ディン・ヴェールト)

 

 ぽつり唱えしは、錬金術師ならば誰もが知る呪文の一節。

 それは生命魔力(マギア)を必要としない術。ごく僅かな自然魔力(マナ)を動かし、それによって更に大きな流れを操作……雪だるま式に膨れ上がった力によって世界法則に干渉する。

 それは言わば、川の流れに指先を浸け大海に渦を生むような。あらゆる力の流れ、物質の特性、現象の原因を理解していなければ扱えない叡智の賜物たる技術。

 即ち――それは真理を求める学問、錬金術そのものであった。

 

 

 そんな術によって変化を見せるのは、一面が透明な素材でできた箱檻(ケージ)――魔導器、ミクコローゼスの断界の匣、その中。

 あらゆる魔力を通さない匣の中にて、白い(ラット)が分子レベルで分解され……同時に同じ姿で再構築される。ちゅう、と再構築された鼠が呑気に匣の中で鳴く。

 

 その様子を観察するのは、錬金術師が頭部に装着した魔導器、レイントルゲの鋼の目。

 物体の透視、望遠と顕微、不可視光や生命魔力(マギア)までを視ることができるその道具によって得られた情報は、そのまま近くの机の上の紙に書き込まれていく。

 

 レイントルゲの鋼の目のデメリット、莫大な情報量による肉体操作難度の上昇を補うのは……魔導器、メタニトオンの書記す隻腕。

 使用者の思考を自動筆記する魔導器から伸びた腕によって、錬金術師が得た情報やメモなどがびっしりと紙の上に書き込まれていく。

 

 そんな風に様々な魔導器を用いて実験を行う錬金術師の名は、禁忌錬成リクシール・パラディアス。

 いち学生の身でありながら自分の研究室を与えられた学園史上初めての生徒にして人間種は、ミクコローゼスの断界の匣の中身から片時も目を放さないまま、隣に立つ助手に命令する。

 

「ファルシエル、例の棚から五番の箱を取って来い。あと紙の補充もだ」

「は、はい!」

 

 主命を受け慌てて研究室内を駆け回るのは、リクシール唯一の助手にして人造生命、偽典のファルシエル。

 

「リクシール様、お持ちしました――」

「よし、そこに置け。次は今書き終わった紙の上から八枚をファイル化、ただし上から二枚目の紙は捨てろ」

「は、拝命致しましたっ」

「終わったら鋼の目の代えのレンズをここに。あと、三番の培養槽に魔力を込めておけ。一応言っておくが『金庫』には近寄るなよ。分かったら行け」

「はい、直ちに!」

 

 室内で最も目を引くのは、壁に備え付けられた扉を持つ見るからに巨大な金庫だろうか。

 そんな金庫に近付かないようにしつつ、どたばたと忙しく駆け回るファルシエルが言いつけられた仕事を終わらせる間も、リクシールは同じようなことを繰り返し続けている。

 レイントルゲの鋼の目でミクコローゼスの断界の匣の中の(ラット)を観察し、その行動から体組織構造・脳波までもがメタニトオンの書記す隻腕によって記録されていく。

 

「リクシール様、次は何を――」

「暫くは何もない。適当に休んでろ」

「はいっ!」

 

 びしっ、とその場で背筋を伸ばし直立不動となったファルシエル……普段ならそこに何かしらツッコみを入れるはずの主は、今は極度の集中によって実験とその結果に向き合っている。

 かつかつと自動筆記の音、そしてリクシールが稀に放つ一節の呪文だけが室内に響く。

 

 ――メタニトオンの書記す隻腕。使用者の思考を取捨選択せず自動筆記する魔導器をここまで使いこなす者を、ファルシエルは己の主以外に見たことがない。本来はメモ書きに使われる程度の、ちょっとした雑念さえ記してしまう魔導器が、リクシールにかかればそのまま研究資料として利用できるレベルの詳細なデータの記録に変わる。

 さらに言えば、それはレイントルゲの鋼の目も。普段見えないものが見えるその魔導器は使用者の情報処理能力にかなりの負担を強いるというのに、リクシールはこれを付けたまま平然と喋ったり飲み食いしたり、周囲に気を配ったりしている。

 しかも、両方の同時使用中に、書記す隻腕に自動筆記されることなくファルシエルへ指示を出したりするのだから、これはもう超人的としか言いようがない。本人曰く「思考を層で分けている」らしいが……ともかく、史上最高の錬金術師の頭脳の優秀さは、その助手であるファルシエルにも計り知れない所があった。

 

 そんなリクシールに動きがあった。ゴーグルにも似たレイントルゲの鋼の目を額まで上げ、ミクコローゼスの断界の匣を机の上に置いてふうと一息つく。

 そしてすぐに、動きの止まったメタニトオンの書記す隻腕の手元から数枚の紙をひったくり、もう片手に持った別の資料と比べての睨めっこを始めた。

 

 ファルシエルは知っていた。リクシールへの質問が許されるタイミングは、魔導器の操作権を一時的に手放した今しか無いと。

 幸い、「適当に休め」とは命じられたが、「喋るな」とは言われていない。彼女は傍で実験を見守りながらずっと気になっていたことを口にする。

 

「畏れながら、リクシール様。此度は一体何をしていらっしゃるのでしょう……?」

「……ああ、人造種(ホムンクルス)実験動物(ラット)の分解と再構築だ。まあ、簡単な蘇生実験だな」

 

 紙に目を落としたまま、リクシールは普段と異なり悪態を挟む事無く淡々と答える。魔導器を複数操りながら助手に指示が出せる御方だ、文字を読みながら会話するなどは負担のうちにも入らないのだろう。

 

 今のように自分の研究のことを高速で考えている時のリクシールは、普段の口の悪さと偽悪的な態度がなりを潜め、そしてかなり饒舌になる。素が出ている、と言ってもいい。

 ファルシエルはそんなリクシールが好きだった。いや、普段から最上級の敬愛を捧げてはいるのだが、こうなったリクシールは限界突破二割増しで好きなのだ。要するに、私のお気に入りのリクシール様、である。

 そんな若干不敬かもしれない助手の内心など露知らず、リクシールは依然紙に目を落とし何かを考えながらもその余力でファルシエルの質問に答える。

 

「この魔導器(ハコ)の中の実験動物(ラット)は、分解前と後とを比べて、脳含む肉体組織・細胞配列構造の99%以上が一致している。構成成分においては100%の一致だ。だが、どうにも行動パターンは再現されない。これは記憶に一因があると俺は仮説を立てている」

「記憶、ですか……」

「ああ。分解前の実験動物(ラット)に特定行動で餌を貰えることを学習させたんだ。だが、再構築された実験動物(ラット)の殆どはそのことを健忘している。覚えているもの、時間経過あるいは餓死寸前で思い出すもの、最後まで思い出せないものなど個体によって一貫しないが……恐らく高確率で記憶は引き継がれている。だが、それを知識として引き出せないのだ。同じことを再構築後に再学習させた場合の習熟速度が平均65.2%上昇することも、この説を後押ししていると言えるだろう」

 

 ぱらり、リクシールが紙をめくる音と、独立したみたいに淀みなく喋り続ける声だけが室内に響く。

 

自然魔力(マナ)と魂に関連があるという従来の説が正しければ、一切の自然魔力(マナ)を抜いた隔離空間内での蘇生は魂すら引き継ぐはずだ……他に魂の元となる自然魔力(マナ)が存在しないワケだからな。だが、どうも実験動物(ラット)たちにはそれが見られない。あるいは魂に纏わるエネルギーとは、魔力とは違うテクスチャ、異なる次元に存在するのか……」

 

 ここまでを聞いて、しかしファルシエルは首を傾げた。リクシールの余りやさしいとは言えない説明に、彼女の頭はパンク寸前である。

 

「ええっと……それは結局、何の研究なのでしょうか……? 毎度のことながら、リクシール様の深遠なるお考えは、愚鈍なわたくしには少々難しく……」

「――ああ。これは今朝言った、死術にも届かぬ『完全なる蘇生』の研究だ。傍から見て分かり難いのは仕方ない……錬金術学とは得てしてそういうものだからな」

 

 『錬金術』、あるいは『錬金術学』。

 それは他の武術や魔術など、敵を打ち倒す強さを求める単純明快なものとは違うと彼は言う。

 

「よく比較される魔導工学を例に挙げて教えてやろう。

 魔導工学が小さな力で大きな効果を得る、要するに『仕組みを作る』ものならば。

 錬金術学は既に在る、世界を形作っている『仕組みを知り利用する』ものだ」

 

 ぱさり、リクシールが片手に掴んでいた紙を置き、代わりに机に備え付けられた棚からひとつの物質を取り出した。リクシールの指に掴まれた四角い物体が、光を反射して鈍く輝く。

 

「例えばこの金属を破壊するとして。魔導工学的アプローチに則れば、プレス機や大砲などの破壊系魔導機械を使うだろう。金属そのものではなく道具――魔導機械の方に目を向ける、言わば『外への視線』だな。

 だが錬金術師は、この金属そのものに注目する。これは『内への視線』と言えるだろう」

 

 リクシールの目が金属塊を映す。金属の表面もまた僅かに揺らいだリクシールの目の像を映す。それは、人と物質が見つめ合うような。

 

「世界のあらゆる物質は『元素』から成る。例えばこの金属を構成するのは、土属性・26番元素だ。物体とは物質の最小単位たる元素が結合したものであり、物体によって強度が異なるのはこの結合の力に差があるからだ。結合の強度もまた元素の持つ特性と関係している。これらの仕組みを理解すれば、おのずとこの金属を破壊する手段も見えて来るだろう。これが『内への視線』だ……錬金術が『結果』ではなく『真理』を求める術と言われるのもこれが所以だな。具体的な錬金術的アプローチによる破壊方法を示すとするならば、例えば――おい、聞いてんのか?」

「は、はい! リクシール様のお言葉は一言一句違わず! ですが、その……恥ずかしながら、わたくしには理解が難しく……」

「……まあいい。話が逸れたな」

 

 金属塊を再び棚に仕舞い、リクシールは机の上、ミクコローゼスの断界の匣に視線を移す。

 

「先の例えを使うなら、俺が視線を向けているのはこの世の第五法則と呼ばれるものだ。要するに生と死だな。そもそも命とは何なのか、生と死の違い、魂とは何か、死の先は何が待つのか……そして、『完璧な死者の蘇生』とは一体どうすれば成し得るのか。その真理を探っている」

 

 やはり、ファルシエルは研究中のリクシールが好きだった。

 その目。真理を見透かそうとする真っ直ぐな眼差しは普段の振る舞いが嘘のように純粋で、見ているだけで胸が苦しくなるほど美しく、そして奮起させられるほどに力強い。

 彼の研究の助けになれるなら、それがファルシエルの最大の幸福であった。

 ……それでも、きっと。その目で自分を見て欲しい、なんて余りに不敬な感情が、心の奥底にひとかけらだけあるのも何となく感じていて。

 

 じろり、リクシールの横目の視線が飛んで来た時は、すわ内心を見透かされたのかと心臓が爆発する思いだった。

 だが、研究一筋の主は被造物の感情など知ろうはずもなく。いつもの濁った目はファルシエルを窘めるように一瞥して、すぐに戻り。

 ふと、言う。

 

「……セフィナ・ロッドの研究室で。オマエ、あの人造種(ホムンクルス)を殺そうとしたよな」

「え、あ……はい。その通り、です」

「結果的にはアレはファインプレーだったし、人造種(ホムンクルス)が『不死』だからつい手が出た、ということにしておくが。一応これも教えておくぞ」

 

 昼前の一件。

 あの時は無駄な時間から解放された喜びでつい許したし何なら褒めたが、今思えば主を多少非難されただけで即攻撃というのは、場合によっては状況を悪化させることもあるだろう。

 故に、リクシールは語る事にした。良心に訴えかける、ともまた違うが、ともかく、人造種(ホムンクルス)という種の脆さをだ。

 

「錬金術によって生成される不死の人工生命、人造種(ホムンクルス)。だがその『不死』は疑似的なものだ。むしろ人造種(かれら)の肉体寿命は通常人間種の十分の一ほどで、特殊な改造がなければ強い再生能力も持たん……故に、その不死の神髄は死なぬ事にはなく、『死んでもバックアップデータから再現できる』という点にある。肉体の情報から記憶まで全て、材料さえあれば何度でも作り直せる……こいつみたいにな」

 

 こつん、とリクシールの指がつつくのは、ミクコローゼスの断界の匣。その中で再構築後の(ラット)がちゅうと鳴く。

 

「これは元々被造物である人造種(ホムンクルス)特有の蘇生法だ。

 死しても蘇る、死が存在の消滅と直接結びつかない……そう要素を抜き出すと、それは『不死種』というより、寧ろ悪魔などの『不滅種』に近い特性と言えるだろう。

 だが『蘇る』と言っても、それはやはり完全なる死者の蘇生ではない。バックアップされていない記憶は引き継げんし、そもそも人格や魂が同じである保証もない……いや、まだ仮説段階だが、それは同一ではないだろう。復活した者は死者の記憶と肉体を引き継いだだけの『似た別人』であり、完璧な蘇生とは程遠い。

 つまり、『死』は『死』だ。それは永遠の眠りであり、自己連続性の断絶と現意識の喪失であり、即ち魂の消滅だ。それはオマエも同じだぞファルシエル」

 

 やはり助手にとって、錬金術師の言葉は難解だった。

 だがそれでも、ファルシエルには分かる。それは自分の身を案じてくれている言葉だと。気難しい主にして創造主からの、実に分かり難い心配だと。

 だから、彼女は笑うのだ。つぼみが柔らかく綻ぶように。冬の透き通った陽射しのように。

 

「よく、わかりませんが。わたくしが死んでも、また『ファルシエル』がリクシール様のお傍でお仕えできるのなら……それはきっと、幸せなことだと思います」

 

 微笑みは、天使のソレであった。

 恐れはなく。憂いはなく。ただ慈愛と敬愛のみが、その無垢なる美貌の上に浮かんでいる。

 欺瞞の色など微塵もない。ファルシエルは本心からそう言っていた。

 復活の奇跡も、あるいは死後の安寧も……そのどちらも望めない。それでも良いと、それでも自分は幸せだと、彼女は優しく笑ったのだ。

 

 それは聖者の献身か、それとも歪なアイデンティティか。

 少なくとも、リクシールは心底忌々し気に吐き捨てた。

 

「……はッ、幸せな奴だな、オマエ」

「はいっ。これも全てリクシール様のお陰です」

「……今のは皮肉だ、全力で頷くな莫迦。少しは俺の言葉を疑ってみろってんだ、全く……」

 

 ぶつぶつと文句を言いながら、リクシールはつかの間の講義を終え研究に戻る。レイントルゲの鋼の目を再び装着したのが会話終了の合図だ。ファルシエルはぐっと気合いを入れて口を噤み、どんな指示にも対応できるよう全力で待機する。

 そんな彼女だからこそ、その声を聞き逃さなかったのだろう。

 研究に戻ったはずのリクシールが、誰にでもなく小さく溢すのを。

 

「……まあ。オマエを殺せる奴なんて、そう居るものでもないだろうがな」

 

 ぽつり呟かれたその言葉は、どこか祈りのようであると……そう、ファルシエルには感じられた。

 

 

 

 

 

 

 西大陸、アトラ湾から沖に1300海里。

 ベムダの海域の生ける嵐、轟雷鳥の死を運ぶ群れ、渦潮と海竜の巣を抜けた先。

 世界の果ての更に果て、波風も啼く絶海の孤島に、モルターリブス不死学園は存在する。

 

 ……即ち。

 その道程の全てを踏破すれば、不死でなくとも不死学園に侵入することは可能である。

 

 

 島の南側、学園敷地から遠く、比較的警備が薄い海岸にて。

 5人の定命存在が、今、モルターリブス島の土を踏んだ。

 

「ふいー、やぁーっと着いたねー。『ダーリン』が波に攫われちゃわないかずーっと心配だったよー。潮風浴びたら錆びちゃうともいうしさー。でもまー、ダーリンが鳳凰種(フェニックス)を撃ってみたいって言うんだから、仕方ねーよねー」

 自分の身長ほどもある細長い『何か』を、包んだ布ごと愛おし気に抱く人間種の女は、名を、告死の快音ラビリィ・レイレ。

 

「オイラも海は苦手だぜ全くよぅ。ただまあ、大金の為なら我慢も必要ってもンかなぁ。なにせ例の双魔眼は金貨5000枚で売れンだろ? 余裕で今までの負け分を取り返せるぜ、ひひひ!」

 こちらも人間種、砂漠出身特有の浅黒い肌の色をした小柄な男は歯を剥き出して下品に笑うのは、金食い蠍アークロブ。

 

「……(噂に聞く『死なず呪い』にはできれば近寄りたくないなあ、という顔)」

 人間種より一回り大きな巨体をびくびくと縮こませて歩く唯一の獣人種……小心大禍ウルジスカ。

 

「ここが不死学園、宝の山か……おいバカ共、オマエ等は奇跡の聖獣リテレスの遺骸をバカみたく優先しろよ。アレさえあれば、バカ共から無限に金を巻き上げられるからな」

 そんな獣人よりも更に大きく、更に人相の悪い、本当に人間種か怪しいレベルの巨漢にして彼等の首魁――圧壊のマーノス。

 

「……俺は今回も単独行動するから。そこんとこよろしく、だ」

 そして、紛れもなく定命の人間種、理不の凶刃ベレネト。

 フード付きの外套と片目を隠すほど長い前髪で顔の見づらい彼は、足を広げて座ったままぶっきらぼうにそう宣言する。

 

「おまえほんとそればっかだよなー。ダーリンも手が滑っちまいそうだって言ってっぞー」

「協調性ってのがないンだよなぁ。ひひひ!」

「……(仲良くしようよ、という顔)」

「ほっとけ、あのバカはアレでいい。どうせアイツの能力は、敵地で1人の時しか使えねえし、それに――」

 

 それは、数年の活動で不死たちを恐怖の底に叩き落とした、神出鬼没の犯罪者集団。

 構成員は全員がその()()によって塔国の『無限碑』に名を刻まれており、既に西大陸全土で国際指名手配がなされている。

 たった5人で難攻不落と名高き長耳種(エルフ)の集落、レザミスの隠れ里を壊滅させ全てを奪った、不死専門の盗賊である。

 彼等は、ただこう呼ばれている――『不死狩り』、と。

 そして。

 

「――アイツは人格こそバカ以下だが、いちおう最強の『不死狩り』だからな」

 

 暗殺者ベレネトは、既に一仕事終えた後であった。

 マーノスより更に大きな不死、鋼鉄の五体を地に転がし、征服者の特権とでもいうようにその胸部の上で足を広げて腰掛けている。普段なら死体から金目の物を物色する所だが、今回はその必要は無い。はした金など見向きする必要のないお宝が、不死学園にはあるのだから。

 

 死した駆体から引き抜くナイフは、彼が用いる『不死狩り』の武器がひとつ――魂を腐らせる不治の苦痛、不死殺し、ヒュドラーガの鋼の毒牙。

 

「……『賢者の石』は俺が貰う。邪魔する不死(やつ)は、皆殺しだ」

 

 見張りの機兵種(ゴーレム)二体を斬撃ふたつで()()()()()鈍色の刃が、ベレネトの手の内で、更なる犠牲に飢えるが如くぎらりと光った。

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