林檎と青い青春を   作:時計台のカワウソ丸

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とれんと様、窓辺の花様、大変遅れましたが誤字報告ありがとうございます。

……言い訳をさせてください。その、冬休みに入ったことをいいことに平均にして1日に2回trpgやってました。
それに、これほんとに面白いのか? って言うスランプにも入ってました。
多分、これからも亀のように遅筆ですけどそれでもよければよろしくお願いします。


柴関ラーメン

 

ホシノさんに連れられてきた店の名前は、柴関ラーメン。

それは、ある程度市街地を入ったところにあり、少し砂が外壁についているのを加味しても雰囲気は良かった。

ただ、少し壁が薄いのか、中から威勢のいい少女の声、おそらくセリカさんだ。

 

「さー、行くよみんな、セリカちゃんのバイト先に突撃だー!」

「「おー!」」

「えっと……おー?」

 

先生とノノミさん、あと私の掛け声を聞いたホシノさんはドアを空けた。

 

「はい! 3番テーブル替え玉ですね!」

 

中には忙しそうに、しかし元気に接客をするセリカさんがいた。

この店の制服なのだろうか? 頭に白い手拭いを巻き、黒のシャツに柴関と刻印された腰エプロンをつけていた。

 

「いらっしゃいませー! 何名様です……か?」

 

新しい客に気づき、笑顔で応対しようとしたセリカさんはこちらを見るなり、その笑顔を引き攣らかせていく。

 

「あの〜六人何ですけど〜!」

「セリカ、来ちゃった」 

「あはは……ごめんねセリカちゃん」

「な、な、なんでみんなが……!?」

 

次々と店内に入ってくる私たちを見て彼女は開いた口も塞がらないっと言った表情だった。先生は私の背後から顔を出してからセリカさんに、

 

「来ちゃった」

「えっと、こんにちはセリカさん」

「先生に、ユーリまで!? あんたら。なんでここがわかったの? やっぱストーカー!?」

「うへ、先生たちは悪くないよー。セリカちゃんがバイトするのは此処かなって思ってさ、だから来てみたの」 

「ホシノ先輩か、うぅっ……!」 

 

セリカさんが頭を抱えていると、厨房の奥から、頭に手拭いを巻き、右目と頬に傷がある犬の獣人。目は縦一文字、頬は小さな十字の傷だ。犬種は……芝犬と言うのだろうか? 東部でよく飼われている犬……だったかな。L社時代の同僚が自慢して回ってたっけ。

……少し、胸が澱む。

 

「アビドスの生徒さんか、セリカちゃん、おしゃべりはそのくらいにして、注文受けてくれな」

「あっうぅ……はい、大将。それでは、広い席にご案内します。こちらにどうぞ」

 

大将と呼ばれた獣人に背中を突かれたセリカさんが苦笑いで彼女たちを大きめの席に案内する。

 

「ほら、ユーリさんも行きますよ〜」

「えっ、ノノミさん? わっ!」

 

ノノミさんに手を引かれ、隣に座らされる。

先生はシロコさんに「んっ、先生はこっち」って言われ、そのままシロコさんの隣に座っていた。

 

私達全員が席に座ったのを見るとホシノさんが我先にと言わんばかりに、

 

「おじさんはね〜特性味噌ラーメン! トッピングは〜炙りチャーシューかなぁ〜」

「私はチャーシュー麺にします!」

「私は塩」

「えっと……私は味噌で……」

 

ノノミさん、シロコさん、アヤネさんが次々と答える。ホシノさんは頬杖をつき、こちらを見上げている。その視線は、「なににするの?」と言わんばかりだった。

 

「あっじゃあ、この柴関ラーメンで!」

「……それじゃあ私も」

 

なんだか少し急かされた感じがして、咄嗟に先生と同じにしてしまった。

 

 

このまま注文するのかと思ったけど、ホシノさんはセリカさんが仕事をしている後ろ姿を見て、

 

「いやぁ、それにしてもセリカちゃんのユニフォーム姿の写真を撮れば一儲けできそうだね、どう先生とユーリさん、興味ない?」

「あははっ……えっと……」

 

頬を掻きながらホシノさんに愛想笑いを返す。ただ、

先生が見るからに興味津々だったのが気になる。

 

「セリカちゃんで変な商売始めないでください……」

「ほんとよホシノ先輩」

 

咎めるようにこちらに近づいてきたセリカさんにホシノさんは

 

「あっ、ちょうどよかった。セリカちゃ〜ん、注文!」

「……ご注文は?」

 

懐から手帳とペンを取り出しながら聞くセリカさんに、

 

「もーう、セリカちゃん、『ご注文はお決まりですか』でしょー? それにお客様には笑顔で接客しなきゃー?」

「あっ、うぅ、ご、ご注文はお決まりですか?」

「ん〜まだ笑顔が硬いかなぁ、」

「もういいでしょ! ご注文はお決まりですか!?」

 

ホシノさんがからかい、セリカさんが反応する。

そんな、和やかな景色を、ただ眺めている

 

舞台の上では自分以外の誰もが軽やかに物語を演じるのを、誰一人いない伽藍堂の観客席でただ眺めてる。そんな感じがした。

舞台の上に上がろうにも、過去の幻想が私を席に縛り付ける。それに――私がこの中に入っていいんだろうか。

 

「――ユーリさん、何悩んでるんですか?」

「えっ?」

「何か悩んでる顔してましたので!」 

「……そんな顔、してましたか?」 

「少なくとも、辛気臭い顔はしてたよ〜、なんか悩んでるの? おじさんに聞かせてほしなぁ〜」

「えっと……」

 

……少なくとも、私の過去を、悩みを彼女たちに伝えるわけには行かない。この世の悪意を、邪悪を、醜悪を煮詰めたような世界のことなんて、彼女たちは知らなくていい。

どうごまかすか、そうやって考えを張り巡らそとしたけど、

 

「はいお待ちどう!」

 

そんな声で中断されることになる。

顔を上げれば、大将、気持ちのいい笑顔を浮かべながら私の前にドンブリを置いた。

 

そこには、顔全部が埋まりそうな大きなドンブリに大きめに切られたチャーシューが3枚入っていて、表面に浮かぶあぶらの輪が、シャボン玉みたいにきらきら光る。

 

「ありがとうごさいま……す?」

 

よく見ると、先生のラーメンよりチャーシューが一枚多かった。

 

「えっと、あの、すみません、チャーシュー多くないですか?」

「あれ、そうか? あぁ、もしかしたら手が滑ってほんの少し多くなったかもな? まぁサービスだと思って受け取ってくれな」

「……いいん、ですか?」

「ちょっと何言ってるか分からねえけど、俺は手を滑らしただけだぜ?」

「……ありがとうごさいます」

 

その言葉に、会釈とお礼で返すと彼は、

 

「お礼することねえよ、まぁ、早くその悩みがなくなるといいな?」

 

そう言って、厨房の奥にセリカさんと戻って言った。




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