妄想科学NVL CHAOS;INNOCENCE   作:師走F

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第10話:勇者願望の末路

 ◆

 

 俺は警官が去った後、すぐに樋上さんに連絡を取った。

 

『もしもーし。御門クン、どうしたの?』

「あ、あの、実は……」

 

 俺は樋上さんに、昨日からの出来事を話した。

 

『ふんふん、なるほど、どうやら、連中が君の危険性に気付いたのかもしれないね』

「や、やっぱり……」

 

 俺の推測は正しかった。

 300人委員会が俺を追い詰めるために事件を起こしたんだ。

 

『まあ安心しなヨ。君が能力者に覚醒するまで、僕らが全力で守ってあげるからさ』

「ほ、本当ですか?」

『ああ。君は既に我々の同志だ。仲間を守るのは当然だろう?』

 

 その心強い言葉に、俺の不安はスッと消えていった。

 

『ただ、少し急いだ方がいいかもしれないね。委員会が本格的に君を潰しに来る前に、君を能力者として覚醒させないと』

「そ、そうだ。どうすれば……」

『御門クンはたしか、何度か能力を使ったことはあるんだよね?』

「あ、はい……」

 

 いずれもノワールといた時に起きたことなので、詳細には話していない。

 あの時点では、まだ樋上さんのことを信用しきれていなかったから、ノワールの存在は伏せていた。

 

『なるほどなるほど、それじゃあ……"剣"は見えるかい?』

「剣……もしかして飴美屋さんが使ってた」

『おーそれそれ!いやーすごいねー。実体化してない剣が見えるなんて、やっぱり才能あるよ』

 

 樋上さんに褒められて有頂天になる。

 

『ただ、僕が言ってるのは君自身の"剣"だ。君ら能力者には、それぞれ自分だけの剣があってね。視界の端に、いつもそれが見えている』

 

 そう言われても、いまいちイメージが着かなかった。

 

『それを掴むことが、能力覚醒のプロセスだ。もう一度問おうか。君の"剣"は見えるかい?』

「俺は、見え────」

 

 ────あ"ぁagaぁ@あぁっ!

 

「っ!」

 

 "見えない"と答えようとした瞬間、脳裏に不快なイメージが飛び込んできた。

 その内容はよく分からないが、ただ理解できたのは、

 

「み、見えます……」

 

 ここで"見えない"と回答してはいけない。

 俺は本能とも呼べるその感覚に従って、虚偽の回答をした。

 

『ふふふっ、やはり君は素晴らしいね。それならあと一歩だ!』

 

 電話口の向こうで、樋上さんは嬉しそうに叫ぶ。

 

『実は、近々大規模な作戦を計画していてね。委員会、厳密にはその末端の組織の持つ施設があってね。それの破壊作戦を行う』

「なっ!」

『君にその部隊の指揮を命じる。実戦で覚醒して、バシッと決めちゃってよ』

 

 俺が指揮官。

 300人委員会を倒すため、部隊を率いて戦う。

 

 その響きに俺は高揚した。

 

『まあ危険な任務だし、もちろん断ってくれても構わない。ただ、これ、チャンスだと思うよ~。見事成功したら、君を幹部に昇格させてあげても────』

「や、やります!やらせてください!」

『おう即答!いいね!そんじゃ、詳細はメールしとくから、当日までバッチリ予習しといてね』

 

 そう言って、樋上さんは電話を切った。

 

 ◆

 

 作戦決行の当日、俺は渋谷区常盤松町にある西部(さいべ)理化学研究所を訪れていた。

 

 時刻は21時58分、22時ちょうどに作戦開始の予定だ。

 

「え、えー、同志達よ。聞こえるか?俺がこの部隊を指揮する鈴代御門だ」

 

 俺は事前に渡された通信機により、仲間たちに呼びかけた。

 

「指導者から通達あった通り、この施設は、委員会の手先が非道な実験を行われている。我々の手で、真実を白日の下にさらすのだ」

「「「「おおおっ!」」」」

 

 通信機から返ってきた大勢の返事に、残っていた不安がかき消された。

 

 俺は一人じゃない。同じ使命を掲げる同志達がいる。

 

 その事実に胸が震えた。

 

「それでは、突入!」

 

 俺の合図で、周辺に潜んでいた同志が一斉に研究所へ飛び込んだ。

 

「きゃぁぁっ!」

 

 悲鳴も構わず、各々の武器を手に研究所を破壊し、奥へと進む。

 

 俺も少し遅れて突入し、作戦に参加する。

 

「真実を晒せ!」

 

 設備を次々と破壊し、逃げ惑う研究員を殴り倒す。

 砕けるガラス、ひしゃげる何かの実験装置、血を滲ませ倒れる研究員達、それらを一方的に蹂躙する様に俺は高揚すら覚えた。

 

「ふふふっ、やった。これなら……」

 

 作戦は順調に進んでいる。

 俺達は施設の奥へと侵攻し、破壊活動を続けていた。

 

 その時、サイレンの音が鳴り響く。

 

「っ!」

 

 少し戻って、外の様子を確認する。

 見ると、建物の外に、パトカーや大量の警察官が待機していた。

 

「け、警察!?嘘だろ、なんでこんな早く……」

「テロ犯に告ぐ!この場所は既に包囲されている!無駄な抵抗はやめて投降しろ!」

「お、おい!警察が来たぞ!」

「ど、どうすれば……」

 

 全員の不安な視線が一斉に集まる。

 

「ひ、怯むな!や、やつらも委員会の手先だ!やつらを殲滅し、真実を晒すのだ!」

 

 俺の指示に、同志たちは一斉に突っ込む。

 俺達に投降の意思がないと分かると、武装した警官たちが施設内に流れ込んできた。

 

 そこから先は地獄絵図だった。

 

 冷静に考えれば、訓練された部隊に、素人を寄せ集めただけの俺達が叶うはずもない。

 

 武器を奪われ、抵抗する仲間もあっさり組伏せられ、制圧される。

 そうやって一人、また一人と捕らえられていくうちに、俺に残された戦力はほんの数名までとなった。

 

「くそっ!くそっ!どうしてこんなことにっ!」

 

 俺達は施設の奥に隠れて、警官を迎え撃つ。

 幸い、仲間の何人かが手製の爆弾を持っていたおかげで、彼らも爆発物の可能性を考えて迂闊に近づけないらしい。

 

「り、リーダー!」

「俺達はどうすれば……」

 

 作戦、そうだ。

 この場を切り抜ける作戦、何か……

 

「リーダー!」

 

 横にいるやつが何か言っているが耳に入ってこない。

 

「抵抗を止めて投降しなさい!」

 

 うるさいうるさい。

 考えてるんだ。邪魔するな。

 

「っ!」

 

 その時、ポケットに入れていた俺のスマホに着信が入った。

 

「なんだよこんな時に!」

 

 俺は電話を切ろうとしたが、表示された『非通知』の文字を見て、俺は指を上に滑らせる。

 

『追い詰められているな』

「ぐ、グリム……」

 

 電話口の人物に俺は怒りを露にする。

 

「お、お前の差し金か!警察の到着が早いのは……」

『この場を切り抜ける方法を教える』

「は?」

 

 グリムは俺の言葉を無視して続ける。

 

『剣は見えるか?』

「け、剣」

 

 俺は視線を動かすが、剣なんてどこにも見当たらない。

 

「剣なんてねぇよっ!」

『落ち着け。剣は探すものじゃない。君の目に映る景色の中に、君自身の心を見ろ』

 

 意味が分からない。

 

「繰り返す!無駄な抵抗は────」

 

 警察の言葉が遠く聞こえる。

 そうか。俺の人生はこんなところで終わるのか。

 

 安易な選択をしたばかりに。

 俺は……

 

 感情が溢れて、視界が歪む。

 その瞬間、

 

「あ……」

 

 剣が見えた。

 

 俺の目線の先、割れた窓ガラスの形が、一本の剣に見えた。

 

『見えたなら手を伸ばせ』

 

 俺は言われた通り、右手を剣にかざす。

 

「だ、めだ。届かない……」

『大丈夫だ妄想しろ!お前の手の中に、既にその剣はある!』

 

 その言葉を信じて、俺は必死に剣の感触を手繰り寄せる。

 

 そして、

 

「っ!」

 

 俺の手の中に、それは現れた。

 

 反った鋭い刃が何層にも重なってできた刀身、何枚にも裂けた刃の重々しい色合いに反して、片手で持ちあがるほどに恐ろしく軽い。

 

『それが君の剣、ディソードだ』

「ディソード、俺の……」

『今の君なら自由に能力を使える。妄想しろ。君がどうしたいのか?』

 

 どうしたいのか。

 警官を全部やっつける。

 

 いや違う。

 それじゃあ犯罪者だ。

 

 なら俺のやるべきこと……

 

 ────まあ危険な任務だし、もちろん断ってくれても構わない。

 

 そうだよ。

 そもそもこんなとこに来なきゃよかったんだ。

 

 俺が軽率な判断をやり直せるなら。

 

 俺はディソードを掲げて、妄想する。

 

 過去の自分の決断を、もしも違う選択をしたのなら……

 

 その瞬間、景色が歪み、体が不思議な浮遊感に包まれる。

 

「っ!」

 

 気が付くと、俺は自宅の玄関にいた。

 

 持っていたはずのディソードはいつの間にか消えており、スマホもポケットの中にあった。

 

「あれ、御門?」

 

 ノワールが枕を抱えて、眠そうに目をこすりながら歩いてきた。

 

「お仕事もう終わったの?」

「仕事?」

「ほら、夜に仕事って……あれ?でも一緒にお布団に入った気もする……うぅ」

 

 ノワールは頭を抱えて唸る。

 すると、そこへ電話の着信音が鳴る。

 

 俺はノワールをおいて、玄関を出て、家の外まで移動した。

 

『無事なようだな』

 

 電話から聞こえてきたのは、先程まで電話していたグリムだった。

 

「……その、助かりました」

『気にしなくていい。僕も目的のために君に手を貸した。それより、ディソードはまだ見えるか?』

 

 言われて意識すると、俺の視界の端に、あの時見えたのと同じ剣があった。

 

『どうやら成功したようだな』

「なぁ、俺は一体何をしたんだ?」

『ダイバージェンスメーターを見てみろ』

 

 グリムにそう言われて、俺はスマホのアプリを開く。

 そこにはデジタル数字で『1.046579』と表示されていた。

 

「あれ?」

 

 こんな数字だったか?

 細かい数字だったのでよく覚えていないが、なんとなく下2桁くらいが違う気がする。

 

『それはある男の作ったアプリで、世界線変動を観測することができる』

「世界線変動?」

『過去から未来まで続く様々な可能性の分岐、例えば君が西部(さいべ)理化学研究所を襲撃した世界線としなかった世界線、君の選択によってどちらかの世界線へ分岐する。ダイバージェンスメーターは、ある地点を0とした場合、そこからどれだけ世界線がズレたのかを世界線変動率という形で数値化できる』

「えーっと、つまり、俺が能力を使って過去を変えたから、研究所を襲撃しなかった世界線に移動した?」

『そうだ。君もこの現象には何度か遭遇しているだろ?』

 

 思い返すと、ノワールと出会った日、警察から逃げるのに無意識に能力を使っていた。

 あれも確かに、俺が路地を右に逃げるか左に逃げるか、その選択によって変化する世界線を移動したということだろう。

 

「って、なんであんたがそのことを」

『思考盗撮、相手の思考を映像として覗き見るギガロマニアックスの能力の一つだ。僕は以前、君の思考を盗撮している』

 

 なんとなく察していたが、この男もギガロマニアックスだったようだ。

 

『当然、君がノワールという少女を匿っていることも把握している』

「……なら聞くけど、あんたはノワールの正体に心当たりはあるのか?」

『いや、ただ推測はつく。彼女もギガロマニアックスなら、おそらくどこかの研究所から逃げてきたのだろう』

 

 俺はノワールの顔を思い浮かべる。

 彼女は箸の使い方や、文字の読み書きもろくにできない。

 

 本人はけろっとしているが、一体どんな目にあってきたのだろうか。

 

『さて、君はギガロマニアックスに覚醒したことは隠しておいた方がいい』

「なんで?」

『樋上はおそらく、君を精神的に追い詰めることで、ギガロマニアックスに覚醒させようとしていたんだろう。研究所の襲撃作戦はそのついでだ』

「え?じゃあネオジェネも樋上が……」

『それは多分関係ないな。ネオジェネ事件は樋上が君に目を付ける前に起きている。彼は君の置かれている状況を利用したに過ぎない』

「そっか……」

 

 なら間島を殺したのは一体誰なんだ。

 

『世界線変動は常人には観測できない。だが、妄想による現実改変を観測できるギガロマニアックスなら、世界線が変わっても記憶を保持できる。どの程度、記憶を保持できるかは個人差があるが、Truthの幹部が、君の能力使用による世界線変動を認識している可能性は高い』

「え?じゃあすぐバレるじゃん」

『その辺りは何とかしてくれ。また連絡する』

「あ!ちょっと!」

 

 俺が止めるのも聞かず、グリムは電話を切ってしまった。

 

 俺が部屋に戻ると、ノワールは大あくびをして目を擦っていた。

 

「……とりあえず、今日は寝ようか」

「うん」

 

 俺はノワールと一緒に布団に入った。

 

 

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