妄想科学NVL CHAOS;INNOCENCE   作:師走F

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第11話:狂気の連鎖は終わらない

 ◆

 

 翌日、殺人事件が起きたことなど嘘のように、倉庫ではいつも通りの単純作業が繰り広げられていた。

 

 今のところ、樋上から連絡はない。

 俺が作戦を断った世界線に移動したことで、あいつも次の手を打ってくると思ったが、現時点では何もない。

 

 他の幹部、俺が知ってるのは小鳥遊(たかなし) 葵と飴美屋(あめみや)甘女(かんな)だが、あの二人は少なくともギガロマニアックスで、俺の能力による世界の変化を何らかの形で把握している可能性がある。

 

 そしてグリム。

 前回は助けてくれたが、それで簡単に信用した結果が前回の出来事だ。

 あいつは少なくとも樋上達の敵だが、俺の味方である保証はない。

 

 加えて間島を殺した犯人もこの職場に潜んでいる可能性もある。

 

「よぅ、鈴代ぉ」

 

 あれこれ考えている俺の思考を邪魔してきたのは向谷だった。

 

「いやー、間島の旦那がいなくなって職場が快適だわ」

 

 不謹慎な発言に、冷ややかな視線が浴びせられる。

 

「鈴代、おめぇもそう思うだろぉ?」

「俺は別に……」

 

 こんなやつと一緒にされたくないが、ダル絡みしてくる向谷を突き放すことができない。

 

「そうだ。今夜景気づけに一杯やろうや」

「いや、俺酒飲めないですし」

「けっ、つれねぇな」

 

 向谷は詰まらなさそうに俺から離れてどこかへ行く。

 

「あいつ、さっさとクビにしろよ」

「ほんとなー」

 

 いつの間にか、俺の隣に誰かが立っていた。

 背の高い黒髪の男で、伸びた襟足が左右に分かれている。

 

「え?あ、あの……どちら様で?」

「いや、俺だよ、同じ派遣会社の伊藤。最初の頃に挨拶しただろ」

 

 そういえばそんな人もいたような。

 人とのコミュニケーションも最小限にしていたから、認識していなかった。

 

「お前も災難だな。聞いたぞ。ネオジェネ事件に二度も巻き込まれたんだろ?」

「まあ……」

「なんかあったら相談しろよ。解決はできないが、話くらいは聞けるからな」

 

 そういって伊藤さんは去っていった。

 

 ◆

 

 仕事が終わり、俺がスーパーに寄ろうと繁華街を歩いていると、見覚えのある姿を見つけた。

 

「げっ……」

 

 カードダスの前に座り込んでいるのはTruth幹部の中二病少女、翠明学園の制服を着た小鳥遊 葵だ。

 

 買い物終わりなのか、大きく膨らんだエコバックを脇に置いて、カードダスに対して「こーいこいこいこい」とUFOでも呼ぶように、手を合わせて必死に祈りを捧げている。

 

 無視して通りすぎればいいのだが、そのカードダスは俺の入ろうとしているスーパーの前にある。

 

「頼むぞー、今度こそー」

 

 ゆっくりと小銭を入れてガチャを回し、出てきたカードを1枚1枚確認する。

 

「よっしゃー!」

 

 そして天高く拳を振り上げてガッツポーズを取った。

 

 なんか分からんがおめでとう。

 そしてそのままさっさとどっか行け。

 

「あ」

 

 その祈りは届かず、上機嫌で振り返った彼女と目があってしまった。

 

「いや、これは違うぞ。その……」

 

 小鳥遊はなぜか言い訳を始めた。

 

「そう。調査だ。300人委員会により、カードダスの確率操作が行われているという情報を得て、私は調査をしていたのだ」

「あ、うん。そうか。頑張って」

 

 俺が相手にせずにスーパーに入ろうとすると、小鳥遊は俺の腕を掴んだ。

 

「待て鈴代」

「っ……」

 

 まさか俺がギガロマニアックスに覚醒したことがもうバレてるんじゃ……

 

「今見たことは絶対言うなよ。これは極秘任務だからな!」

「……言うって誰にだよ」

「誰かにだ!」

 

 顔を真っ赤にして俺を指差しながら叫ぶ。

 なんかこいつを警戒した俺がバカみたいなった。

 

「ていうか、別にカードゲームが好きでもいいだろ」

「いやなんか男の子の遊びみたいで恥ずかしいって違う!」

 

 隠し事とか苦手そう。

 こんなのでよく秘密結社の幹部が勤まるものだ。

 

「あまり私を怒らせるなよ。その気になれば、貴様を氷の檻に閉じ込めてしまうこともでき……」

「あ、佐藤さんじゃん」

 

 そこへ、彼女と同じ制服を着た女子が通りかかった。

 その瞬間、小鳥遊の悪い笑みが消えて、のほほんとした女子高生の顔になる。

 

「今帰り?」

「あ、まあな」

「ていうかその人誰?彼氏?」

「え?あー、いや、親戚の人」

「ふーん。そっかー。じゃあねー」

 

 中身のない会話をしてその子は去っていった。

 

「なぁ、今お前のこと佐藤って……」

「……ククク、佐藤葵とは世を忍ぶ仮の名前。我が真名は小鳥遊葵」

「つまり小鳥遊は偽名と。でもそれなら名前も隠さないと」

「いや、名前はお父さんとお母さんがつけてくれた大事なものだし……って違うもん!私はそんな名字ランキング万年一位の平凡な名前じゃないもん!」

 

 ついに子供みたいな────実際子供だが────癇癪を起こした。

 

「わ、わかった。お前は小鳥遊だ。そうだな小鳥遊?」

「……いや、お前はもう葵と呼べ」

 

 涙目で俺を睨み付けながら訴える。

 

「お前にはなんか佐藤とも小鳥遊とも呼ばれたくない」

 

 苗字を弄られたのがそんなに堪えたのか。

 

「わ、分かった。葵な」

「よし」

 

 俺は期せずして現役女子高生を名前で呼ぶ権利を得たのだった。

 

 ◆

 

 家に戻ると、ちょうど同じ時間に帰宅した冬見さんとばったり会った。

 

「あら、こんにちは」

「ど、どうも……」

 

 俺がキョドりながら挨拶しても、冬見さんは穏やかな笑顔を崩さない。

 

「あ、それ……」

 

 そこで俺は、冬見さんのバッグについたラバーストラップが目についた。

 俺が売ったちびネズのストラップの一つにあった「張り付け」モチーフのラバストだった。

 

「ああこれ。最近買ったのよ」

「ふ、冬見さんも、そういうの好きなんですね」

「変だった?」

「いえそんな!」

 

 少し不安そうな顔をした冬見さんに、俺は慌てて訂正した。

 

「最初はちょっと怖いかなって思ってたんだけど、見てるとだんだん可愛くおもえてきて」

 

 俺にはよく分からない感覚だったが、冬見さんが嬉しそうなので突っ込まなかった。

 

「あ、そうそう御門くん。昨日肉じゃが作ったんだけど、少し作りすぎちゃって、よかったらもらってくれない?」

「い、いいんですか?ぜひ!」

「ふふふっ、今持ってくるわね」

 

 そう言って自分の部屋に戻ってから数分、冬見さんがタッパに入った肉じゃがを渡してくれた。

 

「はい。温めて食べてね」

「ありがとうございます」

 

 俺は彼女にお辞儀をして、自分の部屋に戻る。

 

「ノワール、帰ったぞー」

「あ、おかえり」

 

 ノワールは俺の手に持ったタッパに目をつける。

 俺に近づいてくるなり、鼻をピクピクさせてタッパを観察している。

 

「食べ物?」

「ああ。お隣さんから肉じゃがもらったんだ」

「にくじゃが?」

「お肉とお芋を煮込んだものだよ」

「お肉!?わーい!」

 

 はしゃぎ回るノワールの頭を撫でて、俺はリビングへ向かう。

 

 タッパを冷蔵庫にしまい、リビングの床に腰を下ろす。

 そして何気なく開いたスマホの通知欄に、ニュースサイトの記事が出ていた。

 

「っ!」

 

 開いてみると、その見出しは以下のようなものだった。

 

『ネオジェネ事件!新たな犠牲者か!?渋谷 代々木公園公衆トイレ内で男子児童の遺体が発見される』

 

 

 

 

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