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集会が終わり、二人と別れて会場を後にしたところ、尾上が俺を待ち受けていた。
「何か有益な情報は得られたか」
「ああ。幹部二人の連絡先を手に入れた」
俺はスマホの画面で良々と葵のRINEアカウントを見せてアピールする。
「お前、真面目にやってるのか?」
「いたって真剣です」
だが、尾上には俺が女子高生と遊んでいただけに思われたのか、呆れたような顔を向けられた。
「まあいい。ついてこい。もう一仕事してもらうぞ」
尾上の反応は気に食わないが、俺は黙って彼女についていく。
徒歩でお互い無言のまま、10分程度歩くという地獄のような時間を終えて、俺達はマンションの前に辿り着いた。
五階建ての大きなマンションで、築年数はそれなりなのか、俺のアパートとどっこいのボロさだ。
「ここは?」
「ハッピートリガー#1発目の被害者、田中くるみが住んでいたマンションだ」
「なんでネオジェネの事件現場に……」
尾上は俺の質問には答えず、建物の中に入る。
階段で四階までのぼり、一番奥の壁際の部屋の前に来た。
「あの、まさか……」
尾上の手にはいつの間にかディソードが握られている。
そして、彼女がドアノブに手をかけた瞬間、鍵が開く音がして、ドアノブがスムーズに回転する。
「お、おい!」
尾上は俺の制止も聞かずに、部屋に入り、玄関の中で足を止めた。
「御門。ダイバージェンスメーターを開け」
「いや、今世界線を見て何になるんだよ」
「早くしろ」
有無を言わさぬ態度に、俺は渋々スマホを取り出した。
前に能力を使ったから世界線は変わっていても驚きはしないと思い、アプリを立ち上げると、
「え?」
メーターが、
最初は『1.046898』を示していた値が『1.046899』へ、また『1.046898』と戻る。
一番最後の桁がわずかに減ったり増えたりする程度だが、これが異常であることはすぐに分かった。
「このメーターって、こんな動くもんじゃないよな?」
「ああ。おそらく、この場所のG.Eレートが異常に高くなっている」
「G.Eレート?」
「Gravitation Error rate、局所的な重力異常を示す値のことだ。要はこの場所の重力が異常に強くなっているんだ」
「重力が強いと、なんで世界線が移動するんだよ」
「世界線移動しているわけじゃない。ダイバージェンスメーターが正確な数値を測れなくなっているだけだ。ブラックホールのような、超重力の天体によって、時空間が歪むのは有名な話だろう?」
そう言われても、この場所の重力は他の場所と違うようには感じなかった。
「重力というのは、人間のバイオリズムにも影響を及ぼす。G.Eレートが急激に上昇すると、人々は興奮状態になる」
「んなばかな」
「昔、渋谷でハロウィンの日に暴動が起きたことがあっただろ?渋谷は元々G.Eレートが高い場所だが、イベントごとで人が多く集まったことで、急激に上昇したことで起きたとされている」
こいつの話も樋上と同じくらい陰謀論っぽいと思う。
俺の感想など気にもせずに、尾上は話を続ける。
「まあその辺はどうでもいい。大事なのは、ネオジェネの事件現場のG.Eレートが異常値を示していることだ。これはつまり、ネオジェネ事件の犯人は、バイオリズムの乱れによって犯行に及んだと考えられる」
「え?じゃあ、誰かが人を操ってこんな事件を起こさせたのか?」
「そこまでは分からない。だが、G.Eレートの急激な上昇は自然現象では説明がつかない。なら、誰かが人為的にやったはずだ」
「ひょっとして、昨日言ってたノアⅡか?」
「その可能性は高い。ネオジェネ事件の犯人を突き止めることが、ノアⅡの隠し場所を特定する手がかりになる」
すると、尾上は踵を返して外に出る。
「行くぞ。次は代々木公園だ」
「だいしゅきプレスの現場か」
「他の場所でも、G.Eレートの上昇が起きているか、確認しておく必要がある」
「わ、分かった」
俺は尾上について、マンションを後にした。
◆
翌日、俺は職場に出勤すると、仕事もそこそこに人目を盗んでコンテナの近くにやってきた。
間島の遺体が見つかったコンテナとは違うだろうが、場所はこの辺りだったはずだ。
俺は周囲に誰もいないことを確認してスマホを開く。
「やっぱり……」
ダイバージェンスメーターの値がわずかに動いていた。
ここもG.Eレートの数値が狂っている。
昨日の代々木公園、そして今朝方、職場に来る途中で立ちよったハッピートリガー#3発目の現場の裏路地でも、ダイバージェンスメーターの乱れが確認できた。
ここまでサンプルが集まれば確定だろう。
ネオジェネの事件は単なる無関係な猟奇殺人事件ではなく、G.Eレートの上昇によって意図的に引き起こされたものだ。
だが、渋谷で猟奇殺人を起こすことに何の意味があるのか、俺には分からなかった。
「おい鈴代、なにサボってんだぁ?」
そこで運悪く向谷に見つかってしまった。
「べ、別に、ちょっと……」
「ヒヒヒ、まあチクったりしねぇよ」
こいつに絡まれるとろくなことがないが、ちょうど俺にも用があった。
「む、向谷さん、今日、お昼一緒にどうですか?」
「おっ!珍しいな。なんか企んでんのかぁ?」
「いや、そんな、まあたまには……」
「ヒヒヒ、まあせっかくのお誘いだからな。受けてやるよ」
向谷は上機嫌な様子でその場を去っていった。
◆
その後、昼休みにいつもの食堂ではなくコンビニに向かった。
そこでパンをかじりながら、向谷のつまらない話に永遠と付き合わされて、全く休まらない時間を過ごした。
「どうだった?」
彼をどうにか先に職場に戻した後、俺は近くに隠れていた尾上に声をかけた。
彼女は無言のまま首を横に振った。
「そっかぁ……絶対犯人だと思ったのに」
俺は向谷が、ネオジェネ事件の一つ『風呂キャンかい、ワイ』の犯人だと決めつけて、尾上に思考盗撮で彼の頭の中を覗いてもらうよう頼んでおいた。
結果は、お察しの通りなのだが。
しかし、尾上の方は満足気だ。
「むしろ上出来だ。あいつが犯人で間違いないだろう」
「え、いや、お前が犯人じゃないって」
「そうは言ってないだろ。私はやつの頭を覗いたが、肝心の事件に関する記憶は見えなかった」
「それってどういう……」
「人間の脳には、都合の悪い記憶に蓋をして守ろうとする機能がある。うっかり喋ったりしないように普段は記憶を封印して、意識しないようにする」
「つまり、尾上が見れなかったから、逆に犯人だってことか。でも、飴美屋の記憶は簡単に弄れただろう」
「それは、別にお前に関する記憶はあの女にとって不都合でもなんでもないからな。それだって、相手はギガロマニアックスだからな。肉体的ダメージを与えて防御を崩してからじゃないと成功しなかった」
「……じゃあ、俺の記憶からノワールのことを読んだのは?」
「お前が脆すぎる」
きっぱりとそう言われて俺は落胆した。
この間まで調子に乗っていたが、俺はギガロマニアックスの中でも格下の方であると再認識させられた。
「あいつに吐かせるなら、事件に関する証拠を見つけて揺さぶりをかけろ。それで精神が乱れればあとは私の力でやつに自白させる」
「証拠って、警察が散々調べて出てこなかったんだぞ?」
「腐ってもお前はギガロマニアックスだ。警察が見つけられない証拠も手に入れられる……かもしれない」
「……分かったよ。やってやる」
「それでいい。ほら、さっさと職場に戻れ。昼休みが終わるぞ」
俺はそう言われて、駆け足で倉庫まで戻った。