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樋上からのバイト。
余ったちびネズミの在庫処分のため、早速フリマアプリに出品してみた。
まるで期待していなかったが、一セットだけは出品から10分も経たないうちに売れてしまった。
しかしその後は音沙汰もなく、一日が終わってしまった。
「はぁ、どうすんだよこれ……」
俺は家の中で、段ボール箱に収まったちびネズミを見る。
後19セット残っているが、さすがに前回やったみたいな情報操作はもう使えない。
「これ食べ物?」
「食べられません」
段ボール箱の中身を見て、ノワールは残念そうにどこかへ行ってしまった。
「まだ向谷を捕まえるための証拠も掴んでないのに。余計な仕事押し付けやがって」
樋上に毒づき、俺は改めて『風呂キャンかい、ワイ』について振り返る。
サイコメトリーで分かった情報は、向谷の犯行方法の一部分だけ。
まだ臭いを隠す方法や、そもそも体格で劣る向谷がどうやって間島を箱の中に監禁したかなど、疑問が残っている。
「とりあえず、売れた分だけ届けるか。えーっと、住所は渋谷の……結構近いな。この辺……ってここ」
購入者の住所として記載されていたのは、俺のアパートの部屋の隣、冬見さんの住所だった。
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「はーい」
インターホンを押して出てきたのは、意外そうな顔をした冬見さんだった。
「御門くん。珍しいわね。あなたの方から訊ねてくるなんて」
「す、すみません。朝早くに。あ、その……えっと、これ……と、届け物」
俺は簡易的な包装を施したちびネズミ6種類セットを渡した。
「ふふふっ、もしかしてプレゼント?」
「ち、違っ……フリマで、買ったでしょ?あれの出品者が、俺だから」
プレゼントなんて思われたら、そのうち俺がストーカーだと思われるかもしれない。
俺はラバストセットを強引に渡した。
「ああそうだったの。わざわざありがとうね。もしかしてこれもバイト?」
「まあ、うん……」
荷物を受け取った彼女は、俺のことを心配そうに見る。
「なら、残りの在庫も私が買いましょうか?」
「い、いや、そこまでしなくても……全部買ったら2万くらいするし」
「まぁそうね。頑張ってるのに、甘やかしちゃダメよね」
冬見さんはイタズラっぽく笑う。
「そうだわ。少し待っててね」
すると彼女は部屋の奥に引っ込む。
数分後、荷物を置いてきた彼女が、代わりに持ってきたのは、タッパーに入ったカレーだった。
「余ったから、これ、よかったら食べて」
「あ、ありがとうございます」
「ふふっ、いいのよ。それじゃあ頑張ってね」
そう言って、冬見さんは笑顔で手を振ってドアを閉めた。
◆
カレーを家に持って帰ると、ノワールは食べ物の匂いにつられたのか、とことこ歩いてきた。
「冬見さんからカレーもらってきたんだ。これを今日の朝飯にしよう」
「わーい」
ノワールは無邪気にはしゃぐ。
俺は早速タッパーのカレーをレンジに入れ、炊いておいた米を二人分よそう。
温まったカレーをご飯にかけて、ノワールの前に差し出した。
「ん?」
すると、ノワールはカレーに顔を近付けると、なにやら鼻をピクピクさせて臭いを嗅いでいる。
「変な臭いがする」
「まあカレーはそれなりに臭いがキツい食べ物だし」
しかし、ノワールは首を振って否定する。
「違う。なんか、食べ物じゃない臭い……食べられない固い、銀ピカみたいなの」
「食べられない固い、銀ピカ……鉄のことか?」
「うぅ……分かんないけど、御門は食べない方がいい」
俺もノワールに倣って臭いを嗅いでみる。
冬見さんが誤ってカレーを腐らせた可能性もあるかと思ったが、香辛料の香りがするだけで、特別変な臭いはしない。
「気のせいだろ。お前がカレー食べたことないだけだろ」
「うぅ……違う」
駄々をこねるノワールを無視して食べようかとも思ったが、食い意地の張ったこいつが食べ物に文句をつけるという行動は気になる。
「よし」
俺は視界の端に映るディソードを引き抜き、現実に出現させる。
「それが、御門のディソード?」
「ああ。そういや、お前には見せたことなかったな」
俺と同じギガロマニアックス(多分)であるノワールは、特に驚きもせず、興味深そうに俺のディソードを見つめている。
「俺の妄想をリアルブートする。手伝ってくれ」
「分かった」
俺はこの間と同じ要領で、サイコメトリーを使う。
脳裏に浮かぶのは、エプロン姿の冬見さんがカレーを作る様子だ。
なにやら小瓶からスパイスのようなものを注いでいる。
その他の光景にも特に不振な様子は見られなかった。
「ほら。何もなかっただろ?」
「うぅ……」
俺と妄想を共有していたノワールは、唸りながらも納得した。
「いただきます」
「いただます」
俺達は改めて昼飯を再開する。
「荷物、売れないの?」
「ああ。まあ簡単にはな」
俺は部屋の隅に置かれた不良在庫に目をやる。
「じゃああたしが売ってくる」
「路上販売でもやるつもりか?」
ノワールがラバストを手売りする光景を思い浮かべる。
確かに、見るからに苦労してそうな薄幸童女が売ればみんな買っていきそうだが、売り物がグログッズじゃ趣もない。
第一、そんなことやらせたら一発で警察に目を付けられる。
「在庫は俺がどうにかする。お前は心配しなくていい」
「うぅ」
ノワールは不満そうに唸る。
多分、こいつなりに俺の役に立ちたいと思ってくれているのだろう。
「そうだ。代わりに事件の捜査を手伝って欲しいんだけど」
「手伝う!」
ノワールが身を乗り出して、俺の言葉を遮る。
「そんな大声出すなよ。ほら、口にカレーついてるぞ」
俺はティッシュで彼女の頬をふき取る。
「お前もギガロマニアックスなんだろ。だったら、ネオジェネ事件の捜査……って、飯食ってるときにする話じゃないな」
俺は一瞬頭に浮かんだ死体の記憶を無理やり振り払い、カレーを口の中に詰め込む。
ノワールも俺に倣って、カレーをかき込む。
「ごちそうさま」
「ごちそうさま」
ノワールは俺の真似をして手を合わせる。
「じゃあ仕事に行ってくるから、お前は家で大人しくしてろよ」
「うん。調査は?」
「明後日休みだから、そん時な。できれば、尾上も一緒の方がいいけど」
こちらから連絡のつかない相手だ。
どうせ必要になったら、また勝手に現れるだろう。
「じゃあ行ってきます」
「いってら」
俺はノワールに見送られて、家を出た。