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翌日、朝礼が終わった後、業務をしながら向谷を探していた。
どうせどこかでサボっているのだろうと、荷物を運ぶ傍ら、周囲を探索するが、一向に彼の姿が見当たらない。
普段であれば、このくらいの時間に絡んでくるはずだ。
そして昼休みに差し掛かる時間になった時、伊藤さんの姿が目に入った。
「あの、伊藤さん」
「お?どうした?」
「向谷……さんは、今日は休みですか?」
「本人いないんだから、あんなやつにさんづけしなくていいだろ?」
そう言って笑い、彼はこう続ける。
「あのおっさんなら、さっき藤堂さんに呼び出しくらってたぞ。いよいよクビだな」
「呼び出し────まずい!」
俺は急いで踵を返して、走り出す。
「お、おい!鈴代!」
伊藤さんが呼び止めるのを無視して、俺は倉庫を飛び出す。
途中、作業員にぶつかりそうになるのも構わず、外階段を駆け上がり、俺は事務所の二階、例の空き部屋に辿り着いた。
「藤堂さん!」
そこでは、藤堂と向谷が二人で何やら話し込んでいた。
「鈴代、お前、なに事務所に勝手に……」
「お、まさか。俺を助けにきてくれたのかい?」
困惑する藤堂に対して、向谷は助け船が来たと思っているのか、ニヤニヤ笑っている。
「鈴代からもなんか言ってやってくれよぉ。俺はここで一生懸命働いてきたってよぉ。このままじゃ、俺は家賃も払えねぇ。追い出されて路上生活だぜ?」
へらへらした態度だが、目の奥には確かな怒りが宿っている。
見ると、彼はふらふらと動きながら、武器を手に取ろうと工具の山に近付いている。
「……ああ。助けてやる」
それを聞いて、向谷の動きはピタッと止まり、口角を上げて下卑た笑顔を浮かべた。
「そうだよなぁ。俺は────」
「あんたの行先は路上じゃない。ちゃんと三食付きの新しい職場だ。刑務所の檻の中って言うな」
「……どういう意味だ?」
向谷の顔から笑みが消える。
「もう分かってる。間島さんを殺したのはお前だろ」
「なっ!向谷────」
「おいおい勘弁してくれよぉ」
藤堂の言葉を遮り、向谷は呆れたようにため息を吐く。
「探偵ごっこでもしてんのかぁ?えぇ?適当なこと言ってんじゃねぇぞ!」
怒鳴り散らす向谷を俺は怯まず見据える。
「チッ……サツが必死こいて探しても、見つけらんなかった犯人が、俺だっていう証拠はあんのか?」
だが、向谷は強気な態度を崩さない。
「……まず、あんたはこの部屋で、間島さんに呼び出され、クビを言い渡された。その瞬間、カッとなったあんたは、そこに置かれた椅子で、間島さんを殴り倒した」
「……」
凶器まで言い当てられ、向谷は黙り込む。
「その時点では亡くなっていなかったけど、あんたはそこで止めを刺さずに、別の手段を取った。それが箱の中に間島さんを拘束し、傷だらけの彼の体を腐らせることだ」
「んな面倒なことを────」
「さらに、あんたは間島さんを閉じ込めた箱を、ここに置いてある業務用のガムテープでしっかり密閉して、さらに緩衝材を入れたうえで別の段ボール箱の中に入れた。これで、しばらく間島さんの体から出る腐敗臭を隠すことができる」
向谷の顔から徐々に余裕が消えていく。
「そして、あんたはその箱を、倉庫の荷物に紛れ込ませ、バレないように何度も移動させた。そしてとうとう限界に達したそれをコンテナの中に入れた。その後は、藤堂さんも知っての通り」
コンテナの中で腐敗した遺体が発見される。
「ヒヒヒッ、何を言いだすかと思えば、全部想像だろうがよぉ。あぁんっ!」
怒りをあらわにし、向谷は怒鳴り散らす。
「俺は証拠を出せっつったんだよ!てめぇの想像なんか聞いちゃいねぇ!」
「証拠は……」
「ほら見ろ!ねぇんだろ!詰まんねぇことで俺をイラつかせやがって────」
「証拠ならここだ」
その時、俺が登ってきた外階段の方から、一人の少女が姿を現した。
「尾上……」
彼女の姿を見て、俺は安堵した。
「どうやら、ギリギリ間に合ったようだな」
「誰だてめぇは!部外者は引っ込んでやがれ!」
怒り狂う向谷に、彼女は一枚の茶色いの紙片を見せた。
「そいつが何だってんだ!」
「これはお前の家から見つかった。貴様が間島を監禁していたダンボールの破片だ。燃え残っていたが、気付かなかったか?」
「う、嘘だ!警察が来た時も、なんも見つからな────」
「防壁は崩れたな」
うろたえる向谷に、彼女はディソードを向けた。
「吐いてもらうぞ。お前の罪を」
ディソードの先端が光る。
その紫の怪しい光が、向谷の目にも宿り、彼は俯いた。
「そ、そうだ……」
そして、虚ろな目をしたまま、彼は口を開いた。
「俺が間島の旦那を殺したんだ」
口角を上げ、不自然にニヤついた笑みを浮かべたながら、向谷は話し始めた。
「俺はよぉ。前の会社クビになって、ここに流れてきたんだ。不景気でよぉ。成績の悪い俺はリストラだって首を切られたんだ。ひでぇ話だろ?」
目を充血させ、徐々に息が荒くなっていき、話す言葉も熱を帯びていく。
「他に行くとこもねぇのに、間島は出ていけとか言うんだ。じゃあ殺すしかねぇだろ?」
「向谷!貴様、そんな理由で」
「うるせぇ!俺は被害者だ!」
藤堂の言葉を遮り、向谷が怒鳴る。
「どうせおめぇらも、俺のこと馬鹿にしてるんだろ?」
向谷はふらふらと歩いて、落ちていたペンチを手に取った。
「どうせ終わるなら、お前らまとめて死ねぇっ!」
ペンチを振り上げて襲い掛かる彼に、俺は自分のディソードを出現させた。
キィィンッ
激しい金属音と共に、ペンチは両断され、彼の手元を離れる。
「ひぃっ!」
その衝撃で、向谷は床に倒れ込んだ。
「人のせいにするな」
俺は彼の前に立ち、震えた声で続ける。
「あんたの評価は自分のしてきたことの結果だ。その責任を、人に押し付けるな……」
俺は向谷の顔の真横にディソードを突き刺す。
その恐怖からか、向谷は気絶してしまった。
◆
その後、俺はサイレンの音を聞きながら、倉庫の外で尾上と落ち合った。
「助かったよ」
「私は自分の目的を果たしただけだ」
そうぶっきらぼうに答える彼女は、どこか嬉しそうに見えた。
「あの証拠、正直駄目元だったんだけど、よく見つけたな」
「家の庭で燃やしたなら、その残骸をどう処理するのか考えたまでだ。お前が提供した情報がなければたどり着けなかったな」
尾上は満足げな表情を見せる。
「記憶改ざんで、お前と私のことは都合よく解釈されるようにしておいたから安心しろ。明日からお前は、普通に職場に戻れる」
「そりゃよかったよ」
あの時は無我夢中で、ディソードを振り回してしまった。
今回は尾上のおかげでどうにかなったが、次は目立つ真似は控えなければ。
「最後の言葉」
「ん?」
「あれは、自分に言っていたのか?」
俺は尾上に言われて、向谷に言ったことを思い返す。
「……そうかもな」
俺は自嘲気味に笑うと、尾上は特になんともなさそうに、一言「そうか」とだけ呟いた。
「そういえば、ノアⅡの後継機だっけ。結局、現場の近くにはあったのか?」
尾上は静かに首を振る。
「じゃあ、G.Eレートはただの偶然か?」
「いいや。代わりに、向谷の所持品からこれを手に入れた」
そう言って尾上が取り出したのは、ちびネズミのラバーストラップだった。
いまいち意味を理解できない俺に対して、尾上はラバーストラップの側面をめくって剥がし、中を見せた。
「それは……」
そこにはマイクロチップと基盤が埋まっていた。
「ノアⅡの中継端末。それがこのストラップの正体だ」