妄想科学NVL CHAOS;INNOCENCE   作:師走F

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第21話:少女と愚者は事件を追う

 ◆

 

 606 名前:名無しさん@渋谷 2025/7/11

 

 ネオジェネ事件の犯人捕まったってよ

 http://news23.hkt.jp//news//202607110007.html

 

 607 名前:名無しさん@渋谷 2025/7/11

 

 冴えないオッサンが職場の上司を逆恨みしてか

 詰まんな

 

 608 名前:名無しさん@渋谷 2025/7/11

 

 ていうか、こいつがやったのって風呂キャンだけだろ?

 

 609 名前:名無しさん@渋谷 2025/7/11

 

 結局ネオジェネは無関係な猟奇殺人が偶然重なっただけと

 マスゴミに踊らされたお前らがアホすぎたんだよ

 

 610 名前:名無しさん@渋谷 2025/7/11

 

 それも十分ヤバイけどな

 

 611 名前:名無しさん@渋谷 2025/7/11

 

 ていうかマジでこいつは風呂キャンだけなん?

 他のやつには関わってないん?

 

 612 名前:名無しさん@渋谷 2025/7/11

 

 関わってない

 風呂キャン以外の容疑は否認してるしアリバイもある

 

 613 名前:名無しさん@渋谷 2025/7/11

 

 まだ分からんぞ

 真犯人に操られてただけかも

 

 614 名前:名無しさん@渋谷 2025/7/11

 

 >>>613

 妄想乙wwww

 

 615 名前:名無しさん@渋谷 2025/7/11

 

 >>>614

 再来でマインドコントロールがどうとかって話なかったっけ?

 

 616 名前:名無しさん@渋谷 2025/7/11

 

 >>>615

 マインドコントロールwwww

 617 名前:名無しさん@渋谷 2025/7/11

 

 >>>615

 デマor犯人の言い訳

 デマと言えばちびネズミの件はどうなったんだ?

 

 

 ◆

 

 向谷の事件解決後、俺は自宅に戻ると、残っていたちびネズミの在庫の解体を始めた。

 

「手伝う」

 

 ノワールの申し出を受け入れ、俺達は二人で、ラバーストラップの中身を分解し始めた。

 

 その結果、

 

「尾上の言った通りだったな」

 

 解体したラバストにはすべて、同じ機械が仕込まれていた。

 

「えーっと、尾上の話だと、昔使われたノアⅡにも中継端末があって、それを使って、疑似的なギガロマニアックス能力を行使できたんだよな」

 

 かつてのそれは大型のリュックサックくらいの大きさだったようだが、現代ではここまで小型化に成功したらしい。

 

 ノアⅡはギガロマニアックスの力を疑似的に再現する装置なのだから、ひょっとするとこれにも同じ力があるのか。

 俺は埋め込まれた基盤を眺めてみるが、素人の俺にはてんで分からない。

 

「まあ、ダイバージェンスメーターも乱れてるし、これが中継機って話は間違いないよな」

 

 スマホに映る数字は、最後の二桁の部分が大きく乱れている。

 これまでの事件現場より、G.Eレートの数値が大きい証だ。

 

「じゃあこれ元に戻すか」

 

 俺はディソードを出現させ、過去の選択結果を改変する妄想を行う。

 選ぶのは、俺達がラバーストラップを解体しなかった世界。

 

「っ!」

 

 一瞬、視界に揺らぎのようなものを感じる。

 それもつかの間、気付くと目の前には箱に綺麗におさまったちびネズミのラバーストラップの山があった。

 

「成功したみたいだな」

 

 ダイバージェンスメーターを開くが、測定値が乱れているせいで、どこの世界線かは観測できない。

 まあ世界線移動に成功したことさえわかれば、今はどうでもいい。

 

「御門、他の事件も調査するの?」

「ああ。そうしたいんだけど、まずはどれから調査するかだな」

 

 残っているのは『ハッピートリガー』『顔面レモン』『だいしゅきプレス』の三種類だ。

 

 情報を得ようと、ネオジェネ関連のスレを覗いてみたが、最近は事件が落ち着いたこともあり、すっかり下火のようだ。

 加えて、『風呂キャンかい、ワイ』の犯人が逮捕されたことも、ネオジェネが『ただのバラバラの猟奇殺人事件』である可能性を強めてしまい、興味が薄れているようだ。

 

「そういえば、ノワールはディソード使えるのか?」

「うん」

 

 すると、ノワールは目を閉じて、小さい手を天井に向けて伸ばす。

 

「えーっと、どれかな……これ!」

 

 その瞬間、彼女の手に"剣"が現れた。

 

 まるで動物の頭を模したような金属質な口からは、青いチェーンソーのような刃が伸びている。

 それは舌を思わせ、怪しく発光するのも相まって、不気味なデザインを際立たせている。

 

「ディソードが使えるなら、とりあえず一緒に事件現場にでも行ってみるか」

「行く!」

 

 元気よく返事をするノワールを連れて、俺は外に出た。

 

 ◆

 

 俺達がやってきたのは、初めて出会った場所、ハッピートリガー#3発目の事件現場だった。

 

 路地裏の死体があった場所は、今ではすっかり綺麗になっており、ここで凄惨な事件などまるでなかったように静かだった。

 

「ノワール、何か気付くことはないか?」

「うぅ……」

 

 ノワールは首を横に振る。

 

「とりあえず、またサイコメトリーで調べてみるか」

 

 ディソードを取り出す。

 頭の中のイメージを、ノワールと共有するように妄想する。

 

 ────お、お────早────しろ

 

 茶髪の男子学生が誰かと話している。

 相手は黒服の男で、暗闇のせいか、映像はボヤけて顔がよく見えない。

 

 ────よ────せ!

 

 ノイズ混じりの声と共に、男が差し出した鞄を学生が奪い取る。

 

 ────おいっ!空じゃねぇ……

 

 中身を確認するために、鞄に気を取られた隙に、男は学生の首に注射器を打ち込んだ。

 

 ────ひっ!あぁ!

 

 口角が不自然に持ち上がり、肌が熱を帯びたように紅潮する。

 

 ────なっ、何を……

 

 注射器が打たれる。

 注射器が打たれる。

 注射器が打たれる。

 

 手首に。胸に。肩に。

 

 意識が朦朧とする相手に、何度も何度も注射器を打ち込む。

 

 やがてその場に残されたのは、動かなくなった彼の、恍惚とした姿だった。

 

「はぁはぁ……ノワール、大丈夫か?」

「うん。平気」

 

 映像はかなり乱れていたが、それでとショッキングなであることに変わりはない。

 だが、ノワールは意外となんともなさそうで、じっと事件現場を見つめていた。

 

「注射痕以外に目立った外傷はないって話だったけど、本当に注射器だけで殺したのか。ノワール」

「?」

「俺が警察、これで青い人を呼ぶ前に、何か怪しいやつを見なかったか?」

 

 ノワールはしばらく、俺のスマホと事件現場を交互に眺めた後、短く首肯した。

 

「黒い人、あっちに逃げてった」

 

 ノワールは路地裏の外へ出て、北の方を指差した。

 

「そいつの特徴とか分かるか?」

「うぅ……わかんない」

 

 まあサイコメトリーでも見えなかったし、あの暗がりでは難しいのだろう。

 だが、落ち込んでいるノワールに、何か言ってあげられないかと考えた結果、

 

「今日、昼飯はおばちゃんの店で食べよう」

「食べる!」

 

 捻り出した俺の言葉に、ノワールの顔はパッと明るくなった。

 

 ◆

 

 サイコメトリーとはいえ、さすがに殺人事件を間近で見た後、すぐに食欲は湧いてこなかった。

 俺達は少し公園で休んだ後、おばちゃんの店に向かうことにした。

 

「あら、ノワールちゃん。いらっしゃい」

「お邪魔します」

 

 おばちゃんに対して、ノワールはペコッとお辞儀をした。

 

「俺もいるんだけど」

「あんたはいつも来るでしょうが。ほらそこ。空いてるよ」

 

 おばちゃんは気を利かせて、俺達を一番奥のカウンター席へと案内した。

 

「今日も激安定食二人前かい?」

「えーっと……」

 

 俺はノワールの方を見る。

 彼女は料理の匂いをかぎながら、体を左右に揺らして楽しそうに待っていた。

 

「あの、メニューもらえる?」

「……」

 

 おばちゃんは信じられないといった表情をした後、ハッと我に返り、「はいよ」と覇気のない声でメニュー表を渡してくれた。

 

「ノワール、今日は好きなの選んでいいぞ」

「うぅ、難しいからいい」

 

 ノワールはやはり、文字の羅列に対して拒否反応を示している。

 文字が読めないというおばちゃんの予想は正しいようだ。

 

「読み方は教えてるから。これは、ハンバーグ定食だ」

「ハンバーグ?」

 

 俺が指差した文字をジーッと見つめる。

 

「お肉を捏ねて、焼いたやつだ。昨日食べただろ?」

「まーるいお肉!」

 

 イメージがついたのか、ノワールが声を上げた。

 

「それから、これが唐揚げ定食。鶏肉を揚げたやつ。この間、買ってきた弁当に入ってた茶色いお肉だ」

「カリカリのやつ!」

 

 その後、メニュー書かれた文字の意味を一通り教えると、ノワールは真剣な顔でメニューを見つめる。

 

「からあげ、ハンバーグ……」

「迷ってもいいけど、早く決めろよ」

「うぅ……」

 

 すると、見かねたおばちゃんが、身を乗り出してノワールに話しかけてきた。

 

「ねぇ、どっちも食べたいなら。半分ずつにしてあげようか?」

 

 おばちゃんからの提案にパッと顔を輝かせ、

 

「する!」

 

 と即答した。

 

「いや、メニューにないものを作らせるなんて……」

「いいや。作らせてくんな。あたしはちょっと感動してんだよ」

 

 フライパンを手に取りながら、おばちゃんは続ける。

 

「あの効率厨の、人情ってもんを知らなかったあんたが、立派にお兄ちゃんやってることにね」

「俺のことなんだと思ってたんだ……」

「薄情な男だよ」

 

 そう言って、おばちゃんは料理を始める。

 

「これはおばちゃんが優しいから、特別にやってくれてるだけだからな。他の店でわがまま言うなよ」

「分かった」

 

 ノワールはワクワクという擬音が聞こえてきそうな顔で、料理するおばちゃんを眺めていた。

 

「はい、できたよ」

 

 しばらくして、おばちゃんは小ぶりなハンバーグと唐揚げが盛られた定食を二人分、出してくれた。

 

「いや、俺はこれ頼んでないですけど」

「いいだろ。あんたもたまには違うのを食べな」

 

 そう言われて、俺は大人しく従うことにした。

 

「「いただきます」」

 

 二人で揃って手を合わせて、同じ定食を食べる。

 

「御門!おいしいね」

 

 口一杯に料理を頬張る彼女は、今日一番の笑顔だった。

 

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