妄想科学NVL CHAOS;INNOCENCE   作:師走F

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第27話:たとえ真実が冷たくても

 ◆

 

 結論から言えば、替え玉作戦は必要なかった。

 

 その日はフォークリフトが数台故障し、点検のために倉庫作業自体が中断となったのだ。

 

 なんか俺に都合が良すぎる気もするが、ともかく俺はTruthの活動に参加することができた。

 

「御門くぅん、やっほぉ」

 

 へそだしオフショルのブラウス、ミニスカート、誘ってるとしか思えないいつもの痴女コーデな飴美屋に、俺は思わず目を反らした。

 

「来たな御門!」

 

 変なドクロの絵柄とキラキラのパーツのついたTシャツ、デニムのホットパンツ、安っぽいバングル、そして極めつけに眼帯。

 中学生でもしないようなファッションの葵に、俺は思わず目を背けたくなった。

 

「おい御門!なんか私と飴美屋さんでリアクションに差があったぞ!」

「まぁまぁ葵ちゃん」

 

 抗議するガキを無視して俺は辺りを見渡す。

 ビラ配りに集まった男性は、俺が幹部(主に飴美屋さん)と親しげに話していることに、嫉妬の視線が向けられる。

 

「呑気なもんだよな」

 

 葵はともかく、俺にとって飴美屋は友達でも味方でもない。

 こいつの本性を知らずに、かつての俺と同じように絆された連中に、俺は同族嫌悪に近い感情が沸いてくる。

 

「それじゃあみんなぁ、今日はぁ、よろしくねぇ」

 

 飴美屋の号令で散会したメンバーはビラ配りを始める。

 

 俺は適当に活動をこなす振りをしながら周囲を警戒する。

 

「励んでいるようだな」

 

 すると、ビラを片手に葵が近づいてきた。

 

「なあ、他の連中は今日の作戦の目的って知ってるのか?」

「いや、任務について知らされているのは私達幹部二人とお前だけだ。よかったな。樋上さんから信頼されているということだぞ」

 

 むしろ逆だろう。

 樋上がこのタイミングで重要な仕事を任せてきたのは、俺に対して不信感を持っている可能性が高い。

 

「その外套の男ってやつ、お前は見たことあるのか?」

「私は会っていないが、ロロが一度遭遇したと言っていたな。逃げられてしまったようだが」

「ロロって、良々の双子の妹だっけ?俺はまだ会ったことないけど」

 

 パーティー会場で初めて会った時、良々が妹がいるという話をしてくれたことがあった。

 姉妹二人ともTruth幹部でギガロマニアックスなんだとか。

 

「私は正直、会うのはあまりお勧めしないぞ。まあ悪い奴ではないんだが、なんというか……狂暴なんだ」

「大人しい姉とは偉い違いだな」

 

 まあ姉の方も別の意味でヤバい奴ではあるけど。

 

「ロロは我が組織では最強だが、戦い方が乱暴すぎる。今回のような人目につく場所での戦闘は向かんのだ」

 

 だとすると、そいつも俺にとっては最強の敵になるわけか。

 

「というかビラ配りも真面目にやれ。今回はおとり作戦だが、このビラも世間に真実を伝えるための重要な活動なのだぞ」

「俺、知らない人と話すの苦手だし……」

「社会不適合社会人め」

「お前に言われたくねぇよ末期高二中二病」

 

 俺達はまたつまらないことで睨み合う。

 その時、

 

「喧嘩はよくないよ」

「「っ!」」

 

 俺達は同時に振り返った。

 真後ろに立っていたのは、長身の青年。

 

 整った顔、スタイルもよくセンスもあるのになぜか全く似合っていないファッション。

 そして俺達の姿を映す、青く大きな瞳。

 

「あんた、この前交差点であった……」

「ああ。この間の君か。ありがとう。でも結局妹はいなかったよ」

 

 穏やかで全く敵意を感じさせない様子の彼に、俺は毒気を抜かれる。

 

「おい貴様」

 

 瞬間、空気が冷えた。

 

 葵の足元から広がる霜が、道路を伝って青目の青年の脚を凍てつかせる。

 

「貴様だな。我が組織を嗅ぎまわっている無粋な輩は」

 

 葵は怒気の混じった声で威嚇するが、青年はまるで動じない。

 

「ああそうか。君達にはまだ接触するなって言われてたっけ。失敗したな。先生になんて言おうか」

 

 そして、まるで宿題を忘れたくらいの調子で反応する。

 そんな不気味な彼の視線は、葵の手元に向けられる。

 

「とりあえず、その剣はしまってくれないかな?」

「っ!」

 

 葵の手に握られたディソードを指さす。

 

 まだリアルブートされていない。

 それが見えているということは……

 

「ギガロマニアックス……飴美屋さん!」

「はぁい!」

 

 葵の声を合図に、飴美屋が自らのディソードを掲げる。

 

 彼女のディソードの先端が明滅する。

 その瞬間、周囲の人間はまるで生気を失ったように、のろのろとした足取りで俺達の周囲から離れていく。

 

「はぁぁぁっ!」

 

 葵がディソードをリアルブートさせ、青年に突き立てる。

 しかし、

 

 キィィィンッ

 

 寸前で、彼もディソードを出現させて受け止めた。

 

「なんだあいつのディソード……」

 

 赤、青、黄、緑、あらゆる色の無数の線が先端にかけて螺旋のように結び、交わり、刀身は剣先へかけての黒いグラデーションのようになっている。

 

 これまで見た他のディソードと何かが違う。

 そう感じさせるのはギガロマニアックスとしての勘なのか。

 

「っ!」

 

 青い目の男が目を見開くと、俺の脳に彼の足元の氷が融解する映像が見えた。

 

 そしてそれは瞬時に現実と化す。

 

 拘束を解除した彼は、葵の背後に回り込む。

 

「くっ!」

 

 葵はかろうじて一撃を受け止める。

 

 続く二太刀目を放とうとしたところで、彼の動きは制止する。

 

「ざぁんねぇん」

 

 飴美屋の出現させた綿菓子型の爆弾が、彼の周囲を埋め尽くす。

 

「どっかーん!」

 

 気の抜けた声と共に、閃光がはじける。

 

「あははははは、もう壊れちゃったぁ?」

 

 飴美屋が笑いながら近付くが、彼女は不意に足をピタリと止め、その顔からスーッと笑顔が消える。

 

 爆風の中で、青年は全くの無傷で立っていたのだ。

 

「えぇ、不死身ぃ?」

「こいつ、相当強力なギガロマニアックスだな」

 

 青年は二人のギガロマニアックスを相手にしても、まるで涼しい表情で、

 

「君たちのところに、妹がいるかもしれないと聞いたんだけど、知らないかい?」

 

 などと質問を投げかける。

 

「知らんっ!」

 

 葵がディソードを振るうと、今度は彼の周辺にかけて空気が霜のように白くなっていく。

 

 さながら空気の檻。

 そこからさらに、氷の槍が彼を貫かんと伸びる。

 

 だが青年は槍を受けても、逆に槍の方が砕け散る。

 

「っ!」

 

 今度は青年の足元が溶けて地面に沈んでいく。

 

「つっかまえたー」

 

 飴美屋がディソードを掲げると、 地面に埋まったところから、青年の脚がまるで飴細工のように溶けて、地面と混ざっていく。

 さらに葵の氷の槍による追撃に合わせて、自身もディソードを構えて突貫する。

 

「っ!」

 

 瞬間、彼に見せれた妄想が俺の頭に過る。

 

「止めろ!罠だ!」

 

 俺が叫んだ直後、葵はディソードを突き立てた。

 だが、その剣が貫いたのは青年ではなく、飴美屋だった。

 

「あ、飴美屋さん!」

 

 動揺した彼女が、血でぬれた飴美屋を抱きかかえる。

 

「だぁいじょうぶぅ、急所は外したからぁ」

 

 重傷を負った飴美屋に対して、いつの間にか脱出していた青年は無傷のまま二人を見据えていた。

 

「妹のことを知らないなら、君たちに用はないな」

 

 すると、青年は踵を返して誰もいないスクランブル交差点の方へ駆けていく。

 

「待て貴様ぁ!」

 

 葵が怒号を上げて追いすがる。

 

「おい一人じゃ危険だ!」

 

 俺は葵を追いかけようとしたが、血塗れで倒れた飴美屋が目に入る。

 

「……」

 

 俺は逡巡の末、スマホを取り出して「119」に連絡した。

 

「と、とりあえず救急車は呼びましたから!」

 

 俺はそれだけ言い残して、葵の後を追った。

 

 ◆

 

 ようやく追いついた先は、人気(ひとけ)のない廃墟の中だった。

 

 どうやらどこかの学校のようで、取り壊しを途中でやめてしまったように、中途半端にコンクリートが向きだしとなった巨大な校舎が二つ並んでいる。

 

 校舎の中に入ると、薄暗闇の中に葵と青年の姿を見つけた。

 

「貴様、よくも飴美屋さんを……」

 

 怒りと共にディソードを向ける葵に対して、青年は無感情でため息を吐く。

 

「妹がいないなら、用はないと言ったと思うんだけど」

「黙れ!」

 

 葵がディソードを振るい、氷の弾丸を飛ばす。

 だが、青年が一瞥するだけで、それは空中で溶け、雫となって地面に零れ落ちる。

 

「あぁぁぁぁっ!」

 

 埒が明かないと感じたのか、葵はディソードを振り上げて襲い掛かる。

 

「しつこい」

 

 青年の冷酷な一言と共に、彼のディソードが光る。

 

 その瞬間、葵の体が凍り付く。

 

「ひっ!」

 

 それは葵がやったようにただ体の表面を凍らせるのではなく、彼女の体の内側から、もっと具体的に言えば血液を凍らせてせき止めた。

 そして、

 

 プシャァァァァァァァッ

 

 彼女の全身からせき止められた血が勢いよく弾ける。

 

「葵!」

 

 俺は咄嗟に自分のディソードを出現させる。

 

 世界線移動。

 

 俺は自分の見た光景を、数秒前の葵に対して送信した。

 

 景色がぐにゃりと歪み、二つの世界線の映像が混ざり合うような光景に吐き気を抑える。

 

「っ!」

 

 次の瞬間、葵は無事な姿でディソードを構えたまま、青年に相対していた。

 

「な、今の……なんで私は」

 

 困惑する葵。

 それとは異なり、青年は笑みをこぼしてこちらを見た。

 

「面白い能力だね。君の」

「……葵に用はないんだろ。だったら退いてくれ」

「元からそうするつもりだよ」

 

 そう言って青年は薄暗闇の中に溶けるように消えた。

 

「はぁ……大丈夫か、あお────」

 

 瞬間、彼女のディソードの剣先が俺に向けられた。

 

「なぜ黙っていた。自分が既に覚醒していたことを」

「……」

「答えろぉっ!」

 

 葵はディソードを俺に向けたまま近付く。

 

「私は嘘が嫌いだ。返答次第ではたとえお前でもこの場で始末する」

「……」

 

 俺は咄嗟に何か誤魔化す言葉を考えるが、それは直後に見えたビジョンで掻き消える。

 

 ようやくわかった。

 時折見る、俺の選択を強制するようなこのビジョンは、未来の、失敗した俺からの警告なんだろう。

 

 ────私は嘘が嫌いだ

 

 そうだよな。

 葵は世界の嘘に苦しめられてきたんだ。

 

 だったら俺が今、友達としてすべきことは一つだ。

 

「俺は、本当はもう二週間以上前から覚醒してた」

「なら何故黙っていた?」

「西部理化学研究所襲撃作戦、お前も幹部ならこの作戦のことは知ってただろ?」

「ああ。お前が臆病風を吹かせて中止になったがな」

「本当は参加してたんだ。その時、俺は覚醒した。警察に捕まりそうになったところで、俺は能力で過去を書き換えた。ちょうどさっき、お前にやったみたいにな」

「……」

「俺は樋上に利用されていた。そのことに気付いたから、俺はあいつに反抗したんだ」

「嘘だ!樋上さんがそんなことするはずない!」

「お前も騙されてんだよ。あいつがバラまいてるちびネズミだって、本当はネオジェネ事件を誘発してるような危険なものなんだ」

「嘘だ!」

 

 空気が凍り付く。

 いつの間にか俺の足元は凍り付いて身動きが取れなくなる。

 

「これ以上樋上さんを、我が組織を侮辱するな」

 

 葵はディソードを俺の首元に添える。

 

「……」

 

 これまでか。

 ディソードの冷たい感触が、首筋を撫でた。

 

「っ!」

 

 しかし、そこで彼女の動きがピタリと止まる。

 彼女は俺をしばらく見つめ、そして震えた声で呟いた。

 

「……お前は、嘘を言っていない」

 

 ディソードを下ろして、静かに項垂れる。

 

「これでも真贋を見極める目はあるつもりだ。お前の目は、嘘を吐いている人間のものではなかった」

「葵……」

 

 葵はディソードを消すと、俺に背を向けた。

 

「お前の処遇は私で預かっておく。せいぜい覚悟しておくのだな」

 

 そう言って葵はその場を後にした。

 

 

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