妄想科学NVL CHAOS;INNOCENCE   作:師走F

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幕間:ノワールの一日

 ★

 

 朝、太陽が顔を出し始めた頃、

 

「ふぁ……」

 

 ノワールは御門より早く目を覚ます。

 

「お腹すいた……」

 

 かわいらしい音を鳴らすお腹を押さえて、隣で眠る御門の体を揺する。

 

「御門、ごはん」

「ん……」

 

 何度か揺らしたところで、御門が眠い目を擦りながら体を起こす。

 

「ああ、おはよう……」

「ごはん」

「分かったって。ちょっと待ってろ」

 

 御門は駄々をこねるノワールを宥めて、台所へ向かう。

 ここで暮らしてから数ヶ月、ノワールは御門を起こせばごはんがもらえると学習していた。

 

「うぅ……」

 

 その間に、ノワールは服を着替える。

 路上生活をしていた彼女にはこれまで着替えるという習慣はなく、初めは服を着る、脱ぐという動作にも苦労していた。

 

「ぷはっ」

 

 どうにか自分で脱いだ服を袋に入れて、タンスから自分の服を探す。

 

「これ着やすい」

 

 ノワールは白いワンピースを取り出してそれに頭から突っ込んで着る。

 

 着替え終わると、洗面台へ向かう。

 木製の二段の踏み台によじ登り、手を洗う。

 

「できたぞ」

 

 御門に呼ばれて、ノワールはすぐに駆け付ける。

 今日の朝御飯はカレーパン。

 サクサクの生地から湯気が立ち、匂いが食欲をくすぐる。

 

「これ好き!」

「昨日は売れ残って安くなってたからな。熱いから落ち着いて食べろよ」

「うん。ここは安全だから大丈夫」

 

 ノワールは早速ローテーブルの前に座り、カレーパンを手に取る。

 

「いただきます」

「いただきます」

 

 御門の真似してから、カレーパンにかじりつく。

 

「おいしい!」

「よかったな」

 

 ノワールは一口食べるごとに頬を綻ばせ、体を無意識に揺らす。

 

「ごちそうさま」

「ごちそうさま」

 

 御門の真似をして手を合わせると、油のついた指を舐め始めた。

 

「行儀悪いぞ」

「うぅ……指おいしいのに……」

 

 御門に指摘されて、再び洗面台へ向かう。

 ザーッと手を水で流した後、コップに置かれた白色の歯ブラシを手に取った。

 

「歯磨き粉は食べれない」

 

 そう口にしつつ、歯磨き粉を歯ブラシにつけて口に突っ込む。

 

「おそうじめんどくさい」

「我慢しろ。虫歯になっても、医者につれてけないんだから」

 

 御門はそういって、自分の分の歯ブラシを取って歯を磨き始めた。

 ノワールは御門の方を真剣に見ながら、自分も同じように手を動かす。

 

 やがて歯磨きが終わると、

 

「御門!スマホみして!」

「分かってるって」

 

 御門はローテーブルを壁に立てて片付けると、自身のスマホを取り出して動画共有サイトを開いた。

 

「早く早く」

「急かすなよ」

 

 ノワールは胡座をかく御門の上に座り、スマホの画面を覗き込んだ。

 再生されたのはゲーム実況の動画だ。

 二頭身のキャラクターが、ゴーカートに乗ってレースをするゲームで、機械音声で実況している。

 

「……」

 

 ノワールは目を輝かせて、映像に見入っていた。

 

 そして朝八時頃、御門は仕事に出かける。

 

「じゃあ、仕事行ってくるから勝手に出歩くなよ」

「いってら」

 

 御門を見送ると、ノワールは部屋の中で一人遊びに興じる。

 

 手元にあるのはガチャガチャから出てくるミニチュアゲーム機で、路上生活で食べ物を探していた時にごみ袋から拾ったものだ。

 

 ミニチュアながら、ちゃんと遊べるようになっていて、インベーダーゲームを楽しんでいた。

 

「あっ!」

 

 1時間近く遊んでいたところで撃墜されてゲームオーバーとなった。

 

「ピコピコ飽きた」

 

 ゲーム機を放り出して、部屋の中を見渡す。

 

 貧乏派遣社員の一人暮らしだった御門の部屋に、子供が遊べるようなものは置いていない。

 

「うぅ……」

 

 ノワールは玄関の扉を見つめる。

 扉には鍵がかけられており、さらに外付けのマグネット錠が取り付けられている。

 

 ノワールの身長では届かない高さだが、ギガロマニアックスであるノワールにとってそんなものないも同じだ。

 

「うぅ……でも御門、勝手に出ちゃ駄目って行ってた」

 

 ノワールは以前言われたことを思い出す。

 

 ────お前のことがバレたら、俺が誘拐犯扱いされるからな

 ────"ゆうかいはん"ってなに?

 ────人攫いのこと

 ────じゃあさらわれてない!平気!

 ────お前がそう言ったところで、大人は子供の言うことなんて信じないの。特に警察、お前の言うところの青い人はな

 ────うぅ……青い人、敵?

 ────少なくとも味方ではないな

 

「出ていったら御門が青い人に捕まる。でも暇。今は食べ物探さなくていいからやることない。御門は一日三回もごはんくれる」

 

 ノワールが諦めてため息をついていると、インターホンの音が鳴る。

 

「っ!」

 

 ノワールは低い姿勢で警戒しながら、再び玄関の前に立つ。

 

「ノワール、私だ」

「世莉架!」

 

 声を上げた途端、閉まっていたはずの鍵はいつの間にか開いていた。

 

 外から入ってきた世莉架が、コンビニ袋をぶら下げてやってきた。

 

「世莉架、いらっしゃい」

「うん。お邪魔します」

 

 ノワールに笑顔で挨拶すると、世莉架は適当な場所に腰を下ろした。

 

「世莉架、遊ぼ」

「いいよ。なにして遊ぼっか?」

「えーっと、えーっと、しりとり!」

 

 しばらくの間、二人はしりとりをしていた。

 

「靴下」

「た、た、た……食べ物!」

「の……のり巻き」

「き……うぅ……黄色くて長くて甘いやつ!」

「黄色くて長くて甘い……もしかしてバナナのこと?」

「それ!世莉架が前に買ってきてくれた」

 

 世莉架はノワールの頭を撫でた。

 

「しりとりもだいぶ続くようになったね」

「うん。御門がいろいろ教えてくれた」

「そっか……」

「世莉架、御門がいる時変。なんで?」

 

 御門がいる時はいつも厳しい口調だが、ノワールと二人だけの時は砕けた明るい喋り方だった。

 

「私としたことが、子供に絆されて……」

 

 世莉架が最初にノワールの様子を見に来た時、御門と同じように接していた。

 だが、ノワールは食べ物を渡すと無邪気に喜び、彼女に懐いてくるものだから、世莉架は気付くと魅了されていた。

 

「はぁ……」

 

 世莉架はこれまでのことを思い出して急に恥ずかしくなった。

 

「ん?」

 

 世莉架のリアクションの意味が分からず、ノワールは首を傾げた。

 

 ★

 

 世莉架が帰ってすぐ、入れ替わるように御門が帰ってきた。

 

「ただいま」

「おかえり!」

 

 御門は抱きつくノワールの頭を撫でて、買ってきた食材などを持って台所に向かう。

 

「今日尾上が来てたのか」

 

 冷蔵庫の中にある弁当とパンを見て呟く。

 

「うん。今日の晩ごはんと、明日の朝ごはん」

「太っ腹だな。助かるけど」

 

 食材をしまって、鞄を部屋に下ろす。

 

「そうだ。今日これを買ってきたんだ」

 

 御門が取り出したのは、赤い半透明のカプセルだ。

 

「たべもの?」

「違う。これだよ」

 

 中を開くと、ビニールに入ったミニチュアゲーム機が出てきた。

 

「これ新しいピコピコ?」

「俺がいないとき、暇してると思ってな。お前が持ってるやつと違う種類だから、しばらく遊べるだろ」

「やったー」

「それから、これも」

 

 さらに鞄から大きな袋を取り出した。

 中から出てきたのは芋虫のキャラクターが書かれた絵本だった。

 

「文字の練習になると思ってな。しりとりだけじゃ読めるようにはならないからな」

 

 絵本を受け取ると、ノワールは早速中を開いてみる。

 

「わー!」

 

 見開きいっぱいに鮮やかな絵が広がり、その光景にノワールは夢中になって眺めていた。

 

「後で読んでやるからな」

「うん!ありがとう!御門!」

 

 ノワールの笑顔に、御門も自然と笑顔になった。

 

 

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