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午後の作業を終え帰宅する道中、アパートの近くまで来たところで電話がかかってきた。
「もしもし」
『御門、今どこにいる?』
電話口から聞こえてきたのは、いつになく焦った尾上の声だった。
「どこって、今うちの近くまで戻ってきたとこだけど」
『ならすぐに6丁目の松木屋ビル前に向かってくれ』
「何があったんだ?」
『4件目だ』
その言葉に俺は血の気が引いた。
『ハッピートリガー#4発目、第四の被害者が出たんだ』
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俺が急いで現場に向かうと、すでに数名の野次馬と、その奥に何名もの警官の姿、そして泡を吹いて倒れた人の死体が見えた。
「御門くん」
そこで同じく現場に来ていた冬見さんが、俺の姿を見つけて声をかけてくれた。
「どうも……」
「殺人事件なのよね。うちの近くで、また起きるなんて……」
冬見さんの不安そうな顔を横目に、俺は被害者の姿を確認する。
警察官に囲まれてよく見えないが、被害者は辛うじて男だということが分かる。
服装は派手な赤色のシャツに黒のジャケットといういかにも堅気じゃなさそうなだ。
「あ!アイツ阿久津会の!」
すると、同じように野次馬をしに来たのか、今度は葉堂まで現れた。
「し、知り合い……な、なんですか?」
「あぁ?」
いちいちメンチを切るなよ話進まねぇだろと言ってやりたい。
「御門くん、この方は?」
「ああ、えっと……なんというか、近所に住んでるヤのつく自営業というか、エンコのマエストロというか……」
「誰がマエストロだ!」
葉堂は俺に怒鳴り付けると、俺を押し退けて冬見さんの前に立つ。
「っほん。はじめまして。葉堂健一っす」
「紅夏冬見です。よろしくお願いいたします」
冬見さんにはデレデレしやがって。
だが、そのお陰で冷静になったのか、葉堂は被害者の方を向き直って話し始める。
「あいつは阿久津会の構成員だ。うちのシマでうろちょろしてるから、取っ捕まえてやろうと思ってたのに」
見ると、被害者のすぐ近くには中身が抜かれた鞄が落ちていた。
そういえば、以前葉堂は鞄を持った人物を探していたな。
「あ、あの……阿久津会は、なんかその……大金を渡すようなことでもしてたんです、か?」
「チッ、テメェには関係ねぇよ。一つ言えるなら、うちのシマで勝手に商売してやがったってことだ」
商売か。
その言い方だと、詐欺の受け子とかよりもっと……
「ひょっとして……薬物売買とか?」
「関係ねぇっつってんだろ。これ以上喋んな」
怒鳴られて会話を打ち切られた。
諦めて葉堂から離れると、俺は少し周囲を確認する。
周りにTruth関係者などがいないことを把握し、俺はリアルブートしていないディソードを抜く。
事件発生から時間が経ってない今なら、サイコメトリーで犯人の顔を拝めるかもしれない。
「よし」
ディソードを事件現場の方へかざすと、脳内に映像が流れる。
─────遅いのぉ
被害者の男が大きな鞄を抱えて、腕時計を眺めていた。
そこへ別の人物が近づく。
相手は黒いパーカーのフードと黒いマスク、サングラスで顔をおおった男だった。
─────おどれどこの組のもんじゃ!
約束の人物ではなかっただろう。
阿久津会の組員は、黒ずくめの男へ殴りかかる。
────がっ!
襲いかかった男に対して、黒ずくめはカウンターで注射器を打ち込む。
怯んだところにさらに二本目、三本目の注射器が打たれる。
十本近い薬が打ち込まれたところで、男は地面に倒れた。
恍惚とした笑顔を一瞥すると、黒ずくめは地面に落ちた鞄を漁る。
中に入っていたのは小袋に詰まった白い粉。
いくつかのそれらをポケットにしまうと、周囲を警戒した後、その場を立ち去った。
「はぁはぁ……」
サイコメトリーが終了し、俺は息を切らして項垂れた。
「御門くん。大丈夫?」
すると、そこへ冬見さんが心配そうに駆け寄ってくれた。
「す、すみません。ちょっと気持ち悪くなって……」
「まあそうよね。殺された人の姿なんて普通は早々目にするものでもないもの。どうする?苦しいなら肩を貸してあげましょうか?」
「い、いえ、これくらい大丈夫です」
俺は冬見さんに会釈して、急いでその場を離れた。
◆
「おかえり」
家に戻ると、いつも通り出迎えてくれたノワールの頭をポンと撫でて、俺は横を通り過ぎた。
「ふぅ」
鞄を無造作に置いて、だるい体を下ろして一息ついた。
「大丈夫?」
「ああ。サイコメトリー使った直後で疲れてるだけだ」
心配してくれる彼女に少しばかり癒されたところで、俺はスマホを見た。
例の如く、ネオジェネ事件の本スレは、新しい事件の発生に大盛り上がりだ。
まだニュースにもなっていないはずだから、きっとあの野次馬の中に@ちゃんねらーがいたのだろう。
スレ内を一通り確認して、特に目新しい情報がないことを確認したところで、タイミングよく非通知からの着信があった。
『何か情報はあったか?』
開口一番に要件を切り出す尾上の声に、俺は安心感すら覚えた。
「被害者は阿久津会ってヤクザの組員らしい。ちょうど現場にいた葉堂が言ってたよ」
『笹山は犯行現場近くにいたか?』
「いや、そういえば見てないな。まあ殺されてからどれくらいで通報があったのか正直よくわかんないし」
現場近くにいた葉堂も、現場から離れた笹山も、現時点ではどちらも犯人足り得る。
「そういえばサイコメトリーで事件の様子を確認したけど」
『犯人の顔でも見えたか?』
「残念ながら。ただ、被害者がどうして現場にいたのかは分かった」
俺は尾上に自分が見た映像のことを話した。
『つまり、被害者の阿久津会の組員は、薬物の取引のため待ち合わせをしていたが、現れたのは取引相手ではなく、ハッピートリガーの犯人だったと』
「ああ。それと、前にサイコメトリーで見た時、三人目の被害者、近藤は犯人から鞄を受け取っていた。多分麻薬の常用者だったんだと思う」
『なら残りの被害者も薬物乱用者の可能性があるな。それはこっちで探っておく』
「助かるよ」
もしも俺達の読み通りなら、ハッピートリガーの被害者がすべて阿久津会と薬物で繋がる。
『後は犯人に繋がる証拠だな。葵から有益な情報は貰えそうか』
「それはまだなんとも。今は待つしかない」
葵に調べてもらっている内容は直接的な証拠にはならないかもしれないが、どちらが犯人かを絞ることはできるだろう。
「青い目のギガロマニアックスのことは何か分かった?」
『いいや。お前から容姿の特徴だけでは、さすがに特定にも時間がかかる』
「そっか……」
樋上やTruthとも敵対するギガロマニアックス。
一体何者なんだろうか。
◆
御門がハッピートリガーの現場に到着する少し前、Truth本社を一人の人物が訪ねていた。
「困りますよぉ。我々の活動に勝手に干渉されては……」
樋上は来客に媚びへつらうような顔をして、コーヒーを差し出した。
「君の動向を探っていただけだよ。ちゃーんと真面目に活動しているのかをね」
そういってコーヒーのカップを手に取り、口もつけずに側面を眺めているのは一人の女性だった。
ノースリーブのニットセーターに覆われて膨らんだ大きな胸、白ぶちのメガネの奥から、樋上に威圧するような視線を送っているのは最部真希だった。
「それに、先にちょっかいをかけてきたのは君の部下だろう?」
「僕は不審な人物を捕らえるように命令してましたからネ」
樋上は軽い口調で追求をかわす。
「にしても驚いたよ。君が独自にギガロマニアックスを集めて戦力を蓄えているというのはどうやら本当だったようだ」
「まあこちらも商売ですからね。まさか、それだけで裏切り者扱いするわけじゃありませんよネ?」
わざとらしく、驚きと怒りを態度に表す。
しかし最部はまるで意に介さず、コーヒーを眺めたまま笑った。
「裏切り者だなんて。ただ、君がノアを奪取したのであれば話は別だ。君の部下は知らなかったようだが、本当に君のところにはないんだね?」
「逃げたした兵器のことなんて僕は知りませんヨ」
「まあそうだろうね。君たちにノアが扱えるなら、この場で私のこともどうにかしているだろう」
最部はコーヒーカップをテーブルに置く。
「さて、私はもう行くとしよう。ここにノアがないならもう用はない」
「お気をつけて」
心にもない言葉に送り出されて、最部はその場を後にした。