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翌日、俺は葵を連れて自宅に戻ってきた。
「御門!」
ノワールが手を振って出迎えてくれた。
奥では尾上もこちらを向いて、早く入れと促してくる。
「あの小さい子はお前の親戚……ではないよな?」
ノワールの白髪赤目という容姿で、血縁者ではないことを察した葵は、訝しむような視線を俺に向ける。
「後で説明する」
とりあえず葵を連れて狭いリビングに四人座る。
もてなせるものは何もないので、俺はコンビニで買ったフルーツオレ(500ml)を四人で割って配ることにした。
「えーっと、こっちの無愛想なのが尾上世莉架。俺の協力者だ」
「どうも」
「で、こっちの小さいのがノワール。居候だ」
「よろしくお願いします」
ノワールは丁寧にお辞儀をした後、興味深そうに葵を眺める。
「で、この眼帯をお洒落だと思ってそうなやつが佐藤葵だ」
「これはお洒落ではない!我が力を封印するための、というか、佐藤で紹介するな。それは世を忍ぶ仮の名。我が名は小鳥遊葵!断じて佐藤などという平凡な名字ではない!」
「ご両親から受け継いだ大事な名前なのに」
「あ、いや、別に佐藤という名前が嫌いなわけではなく、あくまでも我が真なる名とは別の……」
「とりあえず」
取り乱す葵をおいて、尾上が口を開く。
「お互いの情報を共有するぞ」
そうして俺達はこれまでの経緯を互いに話すことになった。
「なるほど。まあ世莉架のことはなんとなく分かったが……」
葵はちびちびジュースを飲むノワールを見る。
「この子に関する情報がほとんどないのだが」
「そりゃ、俺らも知らないし」
「大丈夫なのか?そのうち誘拐で捕まったりしないよな」
葵の心配はもっともだ。
だが最初にノワールと出会った時に見たビジョン。
内容は分からないが、あれが未来の"失敗した俺"からの警告なら、こいつを安易に警察に引き渡すわけにはいかない。
「それで、ノワールはギガロマニアックスなんだよな?」
「うん」
彼女は頷く。
「なら、ディソードを見せてくれ。あ、別にリアルブートしなくてもいいぞ」
「わかった」
ノワールはボーッと宙を眺めて視線を左右に動かす。
「うーん……これ!」
ノワールの手元に出現したのは、刀身から枝分かれした刃が何本も伸びた赤色のディソードだ。
まるで揺らめく炎のよう、あるいは無数の指のようなそれらは、向けた相手を飲み込もうとしているように見える。
「おぉっ!かっこいいな!」
「あれ、前に使ったディソードってそんなだっけ?」
興奮する葵を他所に、俺は彼女のディソードを観察する。
「杯田理子のディソード……」
その時、尾上は青ざめた顔で呟いた。
「……尾上?」
「おい!」
尾上はノワールに迫る。
「お前!なぜそのディソードを使える!」
「ちょっ!落ち着けって!」
慌てて俺は尾上をノワールから引き離す。
ノワールはボケっと首を傾げると、
「よくわからないけど、世莉架が気に入らないなら違うのにするね」
ノワールはディソードを消す。
そしてまた空中に手を伸ばしてつかみ取った。
「「は?」」
今度は俺も葵も驚愕した。
彼女が手にしたのは蝶の羽の片側のようなデザイン。
重なった青白い羽を補強するように金属の刃が取り囲んでいるそれは美しくも見える。
だがそんなことはどうでもいい。
「な、なあ、ディソードって一人で複数本持ったりできるのか?」
「ありえない。ディソードは持ち主の心象そのものだ。同じデザインならまだしも、こんな別々のディソードを複数出したりできるはずがない。なにより……」
尾上はノワールのディソードを見つめる。
「今度は有村雛絵の……何者なんだ?」
ノワールはやはり、俺達の反応の意味が分からないのか、キョトンとした顔をしていた。
◆
その後、一度解散することになった。
俺は葵を家の近くまで送っていくことになった。
「謎が深まるばかりだな」
「ああ」
これまでノワールのことを、どこかの研究所から逃げ出したギガロマニアックスだと、俺も尾上も決めつけていた。
だが彼女の異常な能力を目の当たりにした今、もう一度彼女の存在について検証する必要があるかもしれない。
「なあ、Truthでノワール、というかなんかギガロマニアックスの女の子を探してるみたいな話って聞いてるか?」
「いや、聞いていないな。私がこれまでやったのはビラ配りとちびネズミ販売、それからSNSでの広報活動などだな」
「Truth絡みじゃないなら、いよいよなんなんだよ……」
前に葵を襲ってきた青い目のギガロマニアックスのことも気になるし、かといってネオジェネ事件も解決しないといけないしで、やることが多すぎる。
「そうだ。さっきはノワールの件で聞けなかったが、ダイバージェンスメーターとやらを見せてくれないか?」
「いいけど、そんなに面白いもんじゃないぞ?」
「構わん。我々の現在地を知るための重要なものだ」
俺はアプリを起動する。
そういえば、最近は使う機会もなくてしばらく見てなかったな。
現在の世界戦変動率は『1.047001』。
「なんかまた数字変わってるな」
「つまりこれは────世界線が書き換わった」
「いや、俺お前を助ける時に一回世界線移動してるし。それで動いたんじゃないのか?」
それにしてもなんとなく変わったことは分かるが、細かい数字だから覚えてられない。
今度からちゃんとどこかにメモしておこう。
「それで今後はどうする?」
「引き続きハッピートリガーの調査だな。サイコメトリーだけじゃ限界もあるし、聞き込みとかできればいいけど、あいにく俺は警察じゃないし……」
「ならば私に任せろ!」
葵はそう堂々と言い放ち、ない胸を張る。
「何か策はあるのか?」
「世間一般では女子高生というのは無敵の期間だ。それを利用すればいくらでも手はある」
自信満々に不敵な笑みを浮かべる葵だったが不安しかない。
とはいえ俺には出せる代案もない。
「分かった。一旦任せる」
「おうよ。その時は貴様にも手伝ってもらうからな」
そうして葵の家の近くまで来たところで、
「ありがとう。ここでいいぞ」
「そうか。またな」
俺達は別れて帰路に着いた。
その帰り道、暗がりの奥に見覚えのある人物を見つけた。
「さ、笹山さん」
「ん?君は確か……」
ジャージ姿にマスクをつけた笹山は訝しむような眼を俺に向ける。
「あ、ほら、その……この間挨拶させてもらった鈴代です」
「ああ。どうも」
警戒は解けていないのか、まだ彼の態度は冷たい。
「こ、こんな時間にジョギングですか?」
「え?ああ。まあ」
彼は一瞬、虚を突かれたような反応を見せた後、苦笑いを浮かべた。
「じょ、ジョギング中なら、マスクは外した方がいいですよ」
「ああ。そうですね」
彼はマスクをあごの下まで下げる。
「呼吸、苦しくないですか?」
「まあ、そうですね。でもほら、数年前に新型ウイルスで感染症が広がったりしたでしょ。それの頃から癖になってて」
そう話す彼の視線はどこか泳いでいた。
「それじゃあ、俺はこれで」
「えぇ。お気を付けて」
俺は彼を見送った。