妄想科学NVL CHAOS;INNOCENCE   作:師走F

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第32話:調査

 ◆

 

 翌日、昼休みに尾上から電話がかかってきた。

 食事中だったが、俺はおばちゃんに断り入れてから一度店を出た。

 

「てなことがあったんだけど」

 

 俺は昨日笹山と出会ったこと、その時の彼の様子、そして彼の後をつけようとしたが見失ってしまったこと伝えた。

 

『でかしたぞ。おそらく薬物の素材になる植物を収穫しに行ったのだろう』

「やっぱり」

 

 ジョギング中にマスクなんてつけるはずがない。

 感染症対策で癖になっていると言っていたが、以前俺が彼に挨拶をしに行ったときはマスクをつけていなかった。

 

 自宅だからつけていなかった可能性もあるにはあるが、ジョギング中まで徹底するなら人と会う場面でつけないのも変だろう。

 

『栽培場所は私が探しておく。お前は引き続き、葵と情報収集を続けてくれ』

「ああ。これで笹山が犯人なのはほぼ確定か。じゃあ何で葉堂に蓋があったんだ?」

『それも念のため探っておけ。笹山が犯人であると確定させるためにもな』

「分かった」

 

 俺は電話を切って食堂に戻る。

 

「あら、もう終わったのかい?」

「うん。早く食べないと冷めるから」

 

 俺は自分の席に戻って昼食を再開する。

 

「最近よく電話してるけど、まさか彼女とかかい?」

「そうなんわけないでしょ」

 

 俺に恋人などはいたことがない。

 俺は劣等感を誤魔化すように米をかき込む。

 

『では続いてのニュースです。円山町で暴力団組員の男が遺体となって発見されました』

 

 "ニュースではハッピートリガー#4発目"について大々的に放送されている。

 "風呂キャンかい、ワイ"が解決してから、初めての新たなネオジェネ事件で、マスコミも大騒ぎなのだろう。

 

「円山町って、これあんたのうちの近くじゃないのかい?」

「おかげでうるさくてしょうがないよ」

 

 俺はおばちゃんの話を聞きながらスマホを見る。

 SNSでもネオジェネ事件について考察したり、ニュージェネ再来と同一犯だとか言い始めるやからまで現れたりなど、この『お祭り』を楽しんでいる連中ばかりで嫌になる。

 

「まあ、俺も似たようなもんか」

 

 俺は自分が当事者になるまで、こいつらみたいに楽しむことはなくとも無関心だった。

 多分、大抵の人間にとっては自分の身近に起こるまで関係のない出来事だから、俯瞰して楽しんだり、無視したりできるのだろう。

 

「あんた顔色悪いけど大丈夫かい?」

「ああ。大丈夫」

 

 俺はおばちゃんの心配を誤魔化すように、残った肉の炒め物を口に詰め込んだ。

 

「ごちそうさま。金、ここに置いとくから」

 

 俺は500円玉をカウンターに置いて店を出る。

 

「何かあったら遠慮なく言うんだよ」

 

 俺はその言葉を受け止めて仕事に戻るのだった。

 

 ◆

 

 ある日、俺は葵に呼び出されて、とある住宅街に来ていた。

 

「ここって、ハッピートリガー#2発目の現場近くだよな」

「その通り。私の家の近くだったものでな」

 

 葵は休日だというのに、なぜか制服姿だった。

 今回は眼帯もつけておらず、おそらく学校で見せている『仮の姿』とやらなのだろう。

 

「では作戦名を発表しよう。名づけて、オペレーション・JKR、だ」

 

 ドヤ顔で言われても何のことかさっぱりわからない。

 

「オペレーションJKRとは、学校のレポート課題だと言って、町の人たちに聞き込みをするということだ」

「ああなるほど」

 

 要するにJKR(女子高生レポート)か。

 それだと女子高生について研究したいかがわしい研究みたいに聞こえるが、指摘しないでおいてやる。

 

「でもそれだと、俺は邪魔なんじゃないのか?」

「だからその服装なのだろうが」

 

 俺は今、くそ熱いのにわざわざスーツを着ている。

 スーツなんて、大学の入学式以来着ていなかったが、葵に必要だと言われて、わざわざ実家に戻って引っ張り出してきたのだ。

 

「これでお前は付き添いの先生に見える」

「自分で言いたくないけど、俺じゃ先生の威厳とかないと思うけど」

「安心しろ。威厳のない先生もいる」

 

 そう断言する彼女に俺はため息を吐いた。

 俺の威厳がないことについてフォローしてくれる気はないらしい。

 

「それと、よりそれっぽく見せるために助っ人を呼んできたぞ」

 

 葵が道路の向こうを見る。

 すると、何やら制服姿の女子高生が俺の方に歩いてきていた。

 

「良々!?」

「ぜぇぜぇ、暑い……」

 

 暑さに弱いのだろう。

 茨野良々は既に汗だくで、弱り切った様子で俺達の元へ辿り着いた。

 

「休んだ方がいいんじゃないのか?」

「ぼ、ぼくもネオジェネ、興味ある。あります」

 

 猟奇事件マニアの彼女はそれでも目を輝かせて、同行の意思を示す。

 

「なあ、連れてきてよかったのか?」

 

 俺は声を潜めて葵に尋ねる。

 良々は曲がりなりにもTruthの幹部だ。動機が動機だけに忠誠心とかはなさそうだが、葵と違って裏切ったわけでもない。

 

「安心しろ。別に遊びでネオジェネ事件を調べるくらい、樋上さんは咎めないだろう。それと、お前はディソードを出すなよ」

「……分かった」

 

 俺達は気を引き締めて、周囲の人間への聞き込みを開始する。

 

「すみません!」

 

 まず初めに、葵が元気よく声をかけたのは、買い物中のお姉さんだった。

 

「あら、翠明の生徒さん?」

「はい。学校の校外学習で、町の人たちにお話を伺っていて。お時間よろしいですか?」

 

 葵は普段の厨二語録からは想像もできないほどハキハキ喋る。

 俺達は後ろで会釈するだけで、聞き込みはこいつ一人で終わっていた。

 

「どうだ。これで聞き込みもばっちりだ!」

 

 上機嫌な葵を横目に、俺は良々の方を見る。

 

「なぁ、これ俺達いるのか」

「さ、さぁ?」

 

 だがその後、聞き込みそのものは順調だったが、調査は全く進んでいなかった。

 考えてみれば、警察が散々調べた後で、素人の俺達が今更新しい情報を得られるはずもない。

 

「よし次だ!」

 

 いまだに元気な葵は、今度はゴミ捨て場の前で立ち話をしているおばさん2名に目を付けた。

 

「あー事件のことね。あたしのところにもこの間警察が来て、もーう大変だったのよー」

 

 かなり口の軽いおばさん達のようだ。

 だが警察が来たということは、既に警察が聞き込みを済ませているということだ。

 

「あ、あの家で死んだ人。事件が起こる直前くらいから何度もガラの悪そうな男が訪ねてきててね」

「あたしも見たわ。もーう怖いわよねぇ」

 

 おそらく葉堂だ。

 被害者の桜木裕也は桐島組に借金もあったみたいだし、あいつが取り立てのために家を訪ねていたのだろう。

 

「え、えっと、ちなみにその人って、この人ですか?」

 

 俺はスマホで、念のため用意しておいた葉堂の写真を見せる。

 

「あーそうそうこの人よ!このいかにも悪そうな」

「あら?あたしが見たのはこんなやつじゃないわよ?」

 

 もう一人のおばさんは首を傾げる。

 その反応に対して、俺の知るもう一人のガラの悪い人物の顔が頭に浮かんだ。

 

「じゃ、じゃあ、こ、この人……とか?」

 

 俺がスマホで写真を見せると、

 

「そうそうこいつよ!」

 

 おばちゃんは指さして、大声を上げた。

 

 俺が見せたのはハッピートリガー#4発目の被害者、阿久津会の組員だ。

 これで桜木も薬物絡みで、阿久津会とつながりがあるのが確認できた。

 

「そういえばそのさっきの人。ほら、あなたが最初に見せた写真の」

 

 俺はおばさんに言われて、もう一度葉堂の写真を出す。

 

「事件が会った日はね。いつもはドアをガンガン叩いて大声をあげてるのに、その日は随分静かだったのよ。だから警察が来るまで、その人が来たって気付かなかったのよ」

「それって……」

 

 俺の中で、その情報が繋がった気がした。

 

「あ、ありがとうございます」

「二人とも。レポート頑張ってね」

「はい!」

「は、はい……」

 

 元気よく返事をする葵とは対照的に、良々は目を伏せて小声で呟く。

 

「先生も、もうちょっとしっかりしないと駄目よ?」

「あはは。はい」

 

 俺は苦笑いを浮かべて、その場を立ち去った。

 

 

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