妄想科学NVL CHAOS;INNOCENCE   作:師走F

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第33話:狂った憎悪の果て

 ◆

 

 その日の夜の八時、

 俺は尾上からの連絡を受けた場所に向かう。

 

 そこは工場跡地のような場所で、人の手入れが行き届いておらず、雑草が生え放題だった。

 

「ん?君は……」

 

 待ち構えていると、一人の男がやってきた。

 

 以前俺と出会った時と同じジャージ姿でマスクをつけた笹山(ささやま)(さとる)だった。

 

「こんな時間に草刈ですか?」

 

 彼は咄嗟にコンビニ袋を背中の後ろに隠す。

 

「これは、何の真似だ?」

「あなたが連続薬物殺人事件、ハッピートリガーの犯人ですね」

 

 暗がりでマスク越しでも、彼の表情から動揺が見える。

 

「なんのつもりだ?変な言いがかりはやめてくれ」

 

 彼は相手にしないとばかりに俺の元から去ろうとする。

 

「笹山実」

「っ!」

 

 その名前を告げた途端、彼は俺を睨みつけた。

 その激しい怒りに、俺は震える体を抑え込み、話を続ける。

 

「あなたは妹の復讐のために、薬物常用者と売人を殺そうとした」

「なんでお前が妹のこと知ってるのかは知らないが、勝手な憶測で話を進めるな!」

「お、憶測じゃない」

 

 俺は視線を、ここに生えている雑草の方に向けた。

 

「あれ全部、違法薬物の素材ですよね?」

 

 事前に写真から調べておいたから間違いない。

 以前久野里さんから聞いた麻黄という、覚醒剤の材料となる植物だ。

 

「あなたは家の近所に麻黄があることを偶然知って、計画を思いついた。妹に薬物を渡した人間を突き止めるために、まずは阿久津会から薬物を受け取っていた人間を襲って話を聞き出した。そして注射器で殺した」

「……」

「そ、そして、妹を薬物中毒にした元凶の近藤を見つけて、売人に化けて殺すことに成功した。本来ならそこで復讐は終わるはずだった」

 

 だが、実際には四件目の事件が起きた。

 彼の怒りが収まらなかったのが、その矛先が薬物の元締めである阿久津会にまで向いたのだ。

 

「適当なこと言うな!ニュースとかでもやってただろ!ヤクザの何とかってやつが犯人に決まってる!」

「は、葉堂は犯人じゃない」

 

 俺はここに来る前に葉堂に対して、尾上と協力することで真実を吐かせていた。

 第二の事件の目撃証言と、それまでの行動の矛盾を突き付けると、彼の防壁はあっさりと破れ、尾上の能力が通用した。

 

「ハッピートリガー#2発目、あの日あいつは借金を返さない桜木を攫って、臓器を売り払うつもりだった。だが、あなたに先を越されてしまった。桐島組は阿久津会の仕業だと考え、葉堂に犯人を捜させていた。まさかご近所のただの好青年だとは考えなかったんだろう」

「……で、証拠は?」

 

 笹山は怒り狂った顔で俺に言い放つ。

 

「さっきからべらべらと喋ってるそれも全部妄想だろうがぁ!俺が犯人だって証拠はどこにある!?」

「……証拠はない。だから」

「これからお前に話してもらう」

 

 尾上は入り口から出てきた。

 

「だ、誰だお前は?」

「防壁は既に崩れている」

 

 尾上はディソードを掲げて、笹山に向けた。

 

「お前の罪、吐いてもらうぞ」

 

 ディソードの先端が輝くと、笹山の瞳に光が宿る。

 

「あ……」

 

 不意に糸が切れたように下を向くと、やがて静かに喋り始めた。

 

「そうだ。俺があいつらを殺した。実が死んだ日から、ずっと悔しかった。あいつは薬に手を出すようなやつじゃない!」

 

 彼の中から溢れる怒りが、空気を揺らして伝わってくる。

 

「ここで偶然その植物を見つけた時、運命だって思ったよ。薬で狂ったやつらを同じ目に遭わせてやりたい。それでようやくあのクソガキを殺した!けど収まんなかった!だから決めたんだよ!薬に関わってるやつらを全員皆殺しにしてやろうって!」

 

 彼の怒りを受け止めると同時に、俺は思い知った。

 ちびネズミ、ノアによるバイオリズムの上昇は、こうも人を狂わせるのかと。

 

「お前の怒りは分かった」

 

 すると、尾上はディソードを携えて前に出る。

 

「だが、お前の復讐は終わった。これ以上はただの八つ当たりだ」

「はぁ?」

 

 尾上がディソードを振るうと、彼は一瞬のうちに意識を失った。

 

「御門、警察に通報しておけ。そうすれば、目が覚めた時、こいつは自ら真相を語るはずだ」

「あ、ああ」

 

 俺は110番通報をした後、尾上と共にこの場を離れる。

 

「……」

 

 去り際に、俺は倒れ伏した笹山の顔を見た。

 

「これでよかったんだよな」

「こいつの復讐心は本物だが、その後の暴走はこいつの本心じゃない」

 

 情状酌量のよちはあるかもしれないが、四人も殺したとなればよくても無期懲役、最悪の場合は終身刑もありうるだろう。

 

「目的を持つのはいいことだ」

 

 すると、尾上は不意に呟く。

 

「復讐という目的を持っている間は、確かに何も悩まずに、そのためだけ生きられたのだろう。だが、それに取り憑かれて、それなしで生きられなくなった時、それは生きていると言えるのか?」

 

 まるで自問するような彼女の言葉に、俺は答えることができなかった。

 

 

 ◆

 

 俺達は現場を離れた後、笹山の家を訪れていた。

 

「なあ、これ以上やることあるのか?」

 

 尾上のギガロマニアックス能力で鍵を勝手に開けて中に入ることに、俺は若干の抵抗があった。

 

「警察に家宅捜索される前に、確かめておきたいことがある」

 

 尾上はそう言って、笹山の部屋にある机を物色し始めた。

 俺は彼女の目的が分からないため、その様子をソワソワしながら見守る。

 

「見つけたぞ」

 

 彼女は机の引き出しからちびネズミのラバーストラップを引っ張り出した。

 

「そりゃ、それがあるのは当たり前だろ」

「よく見ろ」

 

 尾上が机の引き出しを指さす。

 俺がその中を覗き込むと、

 

「げっ……」

 

 そこにはいくつものちびネズミのラバーストラップが散乱していた。

 

「ま、マニアって感じじゃないよな?」

「それならこんな乱雑なしまい方はしない。一度手にして、影響を受けた者は、取り憑かれたように集め始めるのかもしれんな。さながら中毒者のように」

 

 だとすれば、薬物中毒者を断罪しようとした笹山が、自らちびネズミ中毒になってしまったというのは皮肉な話だ。

 

「でも結局、ノアの手がかりはなさそうだな」

「そうでもない」

 

 尾上は回収したちびネズミを俺に見せる。

 

「笹山がこれだけノアの影響を強く受けていたのなら、こいつに通信の痕跡が残っている可能性がある」

 

 そう言って尾上は、ちびネズミを俺の鞄の中に突っ込んだ。

 

「久野里にもう一度頼んでくれ」

「まあ、頼むだけなら」

 

 俺は鞄の中に押し込められたおぞましいストラップ達を見下ろした。

 

「早く行くぞ」

「ああうん」

 

 俺は鞄のチャックを閉めて、笹山宅を後にした。

 

 

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