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ハッピートリガーを解決しても、俺のやるべきことは終わらない。
俺が解決すべき事件は『顔面レモン』と『だいしゅきホール』の二つが残っている。
そして最重要事項であり、すべての元凶であるノアの場所はいまだに掴めていない。
「はぁ、結局ここに来るのか」
そんなわけで、俺は顔面レモンの事件現場である翠明学園を訪れていた。
現在は夏休みだが、部活中の学生達で賑わっており、運動部の連中の元気のいい掛け声がうるさいくらいに聞こえてくる。
「前に教員に目をつけられたのに、なんで懲りずに待ち合わせ場所にするんだよ」
俺が翠明学園に来たのは、別に事件現場を確認しに来たからではない。
事件からかなり日が経ってるし、今さらサイコメトリーを使ったところで、この間のことを考えたらろくに情報を読み取れないに決まってる。
俺がスマホを見ながら待っていると、目的の人物が校門から出てくるのが見えた。
「御門、連れてきたぞ」
その人物、葵は一人の女子生徒を連れて俺のところにやってきた。
「ど、どうも」
茶髪に染めた、かなり派手な見た目の子だ。
俺に警戒するような視線を向けており、信用していないのがよく分かる。
「ねぇ佐藤さん。この人ほんとに探偵なの?」
「ああ。冴えないが腕の立つ探偵だ」
どうやら葵はかなり無理のある方法で彼女を呼び出したらしい。
これなら葵に聞き込みしてもらった方がよかっただろうに。
「えっと、白井恵です。直樹の彼女の……」
俺に挨拶をした後、思い出したように苦しそうな表情をする。
鈴木直樹。
顔面レモン#2品目の被害者の男子生徒。
彼女はその第一発見者であり、被害者の恋人だ。
「えっと、とりあえずこちらへ」
俺は二人を連れて近くのファミレスに入る。
さすがに今回は葵に奢ってもらうわけにもいかないので、俺は二人にドリンクバーをご馳走する。
「そ、それじゃあ、その……し、白井さん。遺体発見時の状況から聞かせてもらえるかな」
「は、はい」
彼女は俯いて、ゆっくりと呼吸を整える。
「その日は部活の後に、一緒に帰る約束をしていて、校門の前で待っていたんです。いつまでも来ないから、様子を見に行ったんです。そしたら……」
彼女は口元を押さえて泣き出してしまう。
「す、すみません。辛いことを思い出させてしまって」
「い、いえ……大丈夫です」
俺は彼女が落ち着くのを待って、用意していた次の質問を言う。
「それじゃあ、次は……す、鈴木直樹さんを殺害した人物に、こ、心当たりはありますか?」
「っ!
先ほどまでと打って変わって、怒り震えた声で叫ぶ。
「直樹にちょっとからかわれたくらいで逆恨みして、あいつが他の奴も殺したのよ!」
ヒステリックに喚く彼女に、周りの客の視線が集まる。
「お、落ち着いて────」
「落ち着いてられるわけないでしょ!絶対許さない!」
彼女は憎しみに顔を歪める。
「白井さん。私は事件を解決するために御門を呼んだ。落ち着いて話をしてくれ」
「っ……そうね」
葵が宥めてくれたおかげで、どうにか彼女は落ち着きを取り戻した。
「その、さっき言ってた太田ってのは?」
「
彼女はその太田太志という人物を犯人だと決めつけているみたいだ。
俺は次の言葉が見つからずに、しばらく気まずい時間が流れる。
「あ、えっと、その、そ、そのストラップ。ちびネズミ、だよね?」
俺は咄嗟に目に入った彼女のスマホについたストラップを指摘する。
「ああこれ。なんか流行ってるみたいだから。つけてみたけど、やっぱキモイわね」
ストラップをいじりながら、白井さんは嫌そうな顔をする。
念のためダイバージェンスメーターを確認してみたが、やはりメーターは乱れている。
「その……まだ何かありますか?」
「あ、いえ、その……今日は、解散ということで」
これ以上この場にいても気まずいだけだ。
俺は白井を帰らせた。
「じゃあ探偵さん、さっさと犯人捕まえてくださいね」
そう言い残して白井は店を出た。
「で、どうだった?」
彼女を見送って、二人きりになったところで俺は葵に問いかける。
「思考盗撮を応用した念写、意外とうまくいったな」
そう言って葵は俺にスマホを渡してきた。
「うっ……」
そこに映っていたのは、グロテスクな死体の画像だった。
まるで顔の中央をプレス機で押し込んだように歪んだ死体、血や何かの汁が漏れ出た様相に、俺は飲んだジュースを吐き出しそうになった。
「おい大丈夫か」
「ゴホッ……逆に、お前はよく平気だな。話してる時に、白井の頭の中覗いてこれ見てたんだろ?」
「まあよく良々に付き合っていて、グロ画像とかには慣れてるからな。最初は吐い────じゃなかった。闇の住人である我にとってこの程度は日常茶飯事だ」
「今さら取り繕っても意味ないだろ」
落ち着いたところで、改めて遺体の様子を確認する。
顔面をここまで変形させるなんて、人間の腕力では到底無理だろう。
「もしかして、今回の犯人はギガロマニアックスなんじゃないのか?」
「あり得ん話ではないが、ちょっと短絡的過ぎないか?」
「でも、こんな遺体、ギガロマニアックス能力でも使わないと説明つか────」
議論をしていたところに、スマホの通知音が邪魔をする。
「久野里さんか、ごめん。呼び出されてから行ってくる」
「何か分かったら共有しろよ」
◆
ファミレスを出て駅に向かう途中、住宅街の人気のない路地を通っていると、視線の先に見覚えのある姿が見えた。
「あれって、良々か」
なぜか道のど真ん中に立ちふさがるようにして、彼女は俺を見つめていた。
「良々、学校の帰りか?」
俺が声をかけると、彼女は口元を歪めた。
「よう。待ってたぜ。鈴代御門」
いつものおどおどしたのとはまるで違う口調で、一歩ずつ俺に近付いてくる。
「こうやって会うのは初めてだなぁ」
「初めてって。お前────」
────ロロに、妹にも食べさせたいなって
「お前まさか、茨野ロロか?」
「せいかーい。クククッ」
良々そっくりな彼女、ロロはゆっくりと俺に近付いてくる。
「なぁ、最近なーんかコソコソしてよぉ。何を企んでやがんだぁ?」
俺が裏切っていることがバレた?
いや、俺はこいつには一度も会ったことがない。
良々が何か漏らしたとしても、良々の前で何かボロを出したような記憶もないし。
「おかしいよなぁ。お前が関わった事件は、みーんな犯人が自首しちまう。なんで犯人の口が軽くなるんだろうなぁ?」
気づくと、ロロの手にディソードが握られていた。
半分に割れたドリルのような形状の茶色い刀身のディソード、良々のものとは色違いで左右対称。
────ロロは我が組織では最強だが、戦い方が乱暴すぎる
葵が以前言っていたことを思い出す。
こいつが既に臨戦態勢なら、俺も何か手を打たないとまずい。
妄想しろ。
この場を切り抜けるための妄想を……
瞬間、彼女の足元のコンクリートが溶けて、ありじごくのように足を取られる。
「っ!」
足を奪ったところで、俺はさらにディソードを召喚して、近くのブロック塀を破壊する。
割れた破片をねんりきで操作し、彼女へぶつける。
「はぁぁぁぁっ!」
俺は尾上を真似て、彼女の記憶を消そうとディソードを振り上げる。
「はいざんねーん」
「!?」
気づくと、俺の脚は溶けたコンクリートに囚われていた。
ロロは傷一つない姿で、俺の目の前に立っていた。
「雑魚が。お前は不合格だ」
ロロは天高く振り上げたディソードを────
「っ!」
────振り下ろした。