妄想科学NVL CHAOS;INNOCENCE   作:師走F

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第39話:不透明な真実

 ◆

 

 その後、良々と別れて自宅に帰ったところで、尾上から電話がかかってきた。

 

『ネロ、か』

 

 俺はネロと話した内容を尾上に共有した。

 ノワールはというと、今日はなぜか電話する俺にすり寄ってゴロゴロしている。

 

「事件の予告までして、まさかあいつが次のネオジェネ事件を起こすつもりじゃないだろうな」

『それはないだろう』

 

 尾上は冷静に否定する。

 

『現状そいつの目的は不明だが、犯行予告をお前たちにだけするメリットがない。念のため聞くが、ネット上に次のネオジェネに関する予告や予言は出てるか?』

「……あるのは根拠ゼロの憶測や、面白がってる連中ばっかだな」

 

 俺は帰り道で見たネオジェネスレやSNSの反応集を思い出して溜め息を吐いた。

 

『ならばやつの言う通り、本当に未来予知か』

「まああいつは、かなり強力なギガロマニアックスだし、それくらいできそうだよな」

 

 飴美屋と葵を同時に相手しても圧倒し、俺の介入がなければ葵を殺していたようなやつだ。

 

『事件の予知か……』

「どうかしたか?」

『何でもない。まあこれ以上事件が起きないように、残りの犯人も捕まえなければな』

「まだだいしゅきホールが残ってるもんな……」

 

 そういえば、俺が今度Truthの活動で行く先、代々木公園はだいしゅきホールの現場なんだよな。

 

『くれぐれも用心しておけ』

 

 尾上はそれだけ言って、電話を切ってしまった。

 

「用心って言ってもなぁ」

 

 俺たちは後手でしか動けない。

 未来予知でも使えれば、事件を未然に防ぐこともできるのだろうが、あいにく俺には使えなかった。

 

 以前、宝くじの当選番号をギガロマニアックス能力を使って当ててやろうとしたが、見事に失敗したのだ。

 

「はぁ」

「御門?元気ない?」

 

 ノワールが俺の膝の上に座って、俺の顔を下から覗き込む。

 

「大丈夫だよ」

 

 ノワールの頭を撫でてやる。

 ノワールは目を閉じて気持ち良さそうに「ふにゅー」と声をあげている。

 

 ────本当に知らないかい?僕の妹のこと

 

「なぁノワール」

「ん?」

「お前って、お兄ちゃんとかいるのか?」

「お兄ちゃん……?」

 

 ノワールは首を傾げる。

 

「兄じゃなくてもさ、家族とか、いたりすんの?」

「うぅ……」

 

 唸って考えている。

 彼女にとって、"家族"という存在の定義も難しいのかもしれない。

 

「なら、お前が元々のいたのって、どんなとこなんだ?」

「……白い部屋」

 

 ノワールは暗い表情で呟く。

 

「機械がいっぱいあって、白い人がたくさんいて、ガラスの向こうからあたしをみてた。うぅ……あとは、よく分かんない……」

「そっか。ごめんな」

 

 頭を撫でてると、ノワールは安心したような顔になり、俺に身を委ねてくれた。

 その無垢な表情は、改めて彼女を守ることを俺に誓わせた。

 

 ◆

 

 

 活動当日、代々木公園には数十名の信者達が集まっていた。

 

「えー、本日は晴天なり。本日は晴天なり」

 

 トレードマークの眼帯を身に付けた葵が謎の挨拶を行う中、一部の男性信者は露骨に不満そうな顔をしている。

 

 おそらく飴美屋目当ての奴らだろう。

 

「おいこら貴様ら!聞いているのか!」

 

 それでも幹部としての威厳はあるようで、葵が一喝すると彼らは背筋を伸ばして拝聴する。

 

「えー、我が組織の目的はただ一つ、世界の真実を白日の元に晒すことだ。本日も無知な民に警鐘を鳴らそうではないか!」

「「「「「真実を白日の元に!」」」」」

 

 信者達の歓声と、それを腫れ物のように見る通行人、俺は彼らに混じってなるべく目立たないように縮こまる。

 

 やがて散会してビラ配りが始まると、俺は葵と合流した。

 

「様になってたな」

「これでも幹部だからな」

 

 葵は両腕をクロスさせたようなポーズを取る。

 

「良々は来てないのか?」

「ああ、そこだ」

 

 葵の指差す先十数メートル、大きな木の陰でダルそうにコーラを飲んでいる。

 

「本当に来ただけだな」

「お前もどうせ真面目にビラを配る気などないのだろう?」

「まあそりゃ、今日は飴美屋もいないしな」

 

 この場を仕切る葵は俺の味方だし、もう一名の幹部はあの通り無関心、どころか自分がサボっている。

 だったら俺も真面目にやる必要もないだろう。

 

「そういえば、飴美屋はまだ病院なのか?」

「退院にはしばらくかかる。かなり深傷を負わせてしまったからな……」

 

 葵は俯く。

 

「悪い……」

 

 ネロの能力のせいとはいえ、実際に刺したのは葵だ。

 彼女を思えば、無神経な発言だった。

 

「いつまでも落ち込んでいるわけにはいかん。御門、調査をしよう。今のうちにあそこを調べてみないか?」

 

 葵が指差したのは公共トイレだった。

 ガラス張りで中が見えるトイレ、人が入って鍵をかけるとスモークがかかり、中が見えなくなる仕組みだ。

 

 中に人が隠れていないことが分かるようにすることで、犯罪を防止する目的で設置されたものだが、まさかそれが殺人現場になるなんて、制作者は考えもしなかっただろう。

 

「中は密室だったんだよな」

「そうだな。不透明状態ということは鍵はかかっていた。鍵が開いたことで不透明化が解除され、中から遺体が発見された。奇妙な話だな」

 

 しかも昼間の衆人環視の中で起きたことだ。

 犯人が中に入る様子も、出た様子も誰も見ていないことになる。

 

「とりあえず、サイコメトリーをしてみたらどうだ?」

「前に一度やったよ。でも無理だった。さすがに事件から時間が経ちすぎて、まともに情報を読み取れなかった」

「ならせめて、中を調べてみるか。何か証拠が残っているかもしれんぞ」

「いや無理だろ。警察が調べた後だぞ。というか透明トイレを男女でごそごそしてたら、なんかいかがわしい目的だと思われるぞ」

「な、ななななななないかがわしいだと!?」

 

 葵は顔を真っ赤にしてたじろぐ。

 

「き、貴様!我を動揺させて、い、いい一体何を企んでいる!?」

 

 馬鹿なことを言っている葵を無視して、俺は改めて公共トイレの方に目をやる。

 三つ並んであるうちの一番左のやつが、現在黄色く不透明になっている。

 

「やっぱり、この事件もギガロマニアックスの仕業なのか」

 

 尾上の言っていたノアの影響を受けて覚醒した能力者。

 顔面レモンの時は、計四名の能力者が現れたことになるし、他の事件の犯人がギガロマニアックスだとしても不思議じゃない。

 

 ────渋谷地震の再現のつもりか

 

「尾上は一体、何を知ってるんだ」

 

 順調ではないにせよ、事件は解決していっているはずなのに、俺自身は真相に一歩たりとも辿り着けていない気がする。

 

 それどころか、渋谷全土のGEレートの上昇や、ネロのことなど、俺の知らないところでまた何かが動いている。

 

「……どうした御門?顔色が悪いぞ」

 

 葵はいつの間にか、俺の隣に立って顔を覗き込んでいた。

 

「ああごめん。ちょっと考え事してて」

「お、ということは何か手がかりが掴めたのか?」

「そんなわけないだろ……」

 

 炎天下で難しいことを考えていたら何だか暑くなってきた。

 俺も良々にならって涼もう。

 

 そう思い、木陰へ移動しようとした時、

 

「あら?御門くん?」

 

 後ろから声をかけられて振り向く。

 黒いシックなロングワンピースと麦わら帽子、まるで90年代のMVから出てきたような姿の冬見さんが、俺の真後ろに立っていた。

 

「ど、どうも……」

「奇遇ね。今日もビラ配りのバイト?」

「え、えぇ、まぁ……」

 

 俺はとっさに持っていたビラの束を背中に隠す。

 

 それにしても、黒のロングワンピなんて、この気温だとちょっと暑そうだなとも思ったが、俺みたいなやつが女性の服装に言及すればセクハラ確定だ。

 

「それで……その子は?」

 

 冬見さんが俺の横に立つ眼帯少女を不審な目で見る。

 

「あ、えーっと、お、俺のバイト仲間です」

「ニタニタしおってからに。私はバイト仲間などではない」

 

 葵は天高く腕を突き上げ、その腕をダイナミックに回してポーズを取る。

 

「我が名は小鳥遊葵、バイトリーダーだ」

 

 なぜ設定上で俺より優位に立とうとしたのか。

 まあ今回の活動を仕切ってるのは葵だから別に間違ってはいないが。

 

「そう、バイトリーダー。あ、もしかして最近御門くんのおうちを出入りしてた子かしら」

「俺の家?」

「ほら、御門くん、たまに女の子が来ていたでしょ?」

「え……ああ」

 

 おそらく尾上のことだろうが、あいつの痕跡は可能な限り残すなというお達しなので一旦話を合わせる。

 

 

「そ、そうなんですよ。こいつが、結構、うち来たいって、言ってて……」

「ん?ああ。最近たまに行くな」

「そ、そうだ。葵。紹介する。こ、この人は紅夏(くれなつ)冬見(ふゆみ)。俺のお隣さん」

「おおー御門のご近所さんか。よろしく頼む」

 

 葵が握手を求めると、彼女は少し迷ったような素振りを見せて手を握った。

 

「御門くん。バイト、また手伝おうか?」

「い、いえ。きょ、今日は順調に捌けそうなんで」

「ん?おい御門!」

 

 その時、割り込んだ葵の言葉に俺は振り向く。

 透明トイレの黄色が、徐々に薄くなっていくのが見えた。

 

「っ!」

 

 扉の近くに誰もいない。

 ひとりでに鍵の開いたその透明なガラスの奥には、一人の少年が座っていた。

 

 便座に座り、白目で天を見上げる。

 裸の下半身からは破裂したように血が飛散しており、股間付近は白い肌が赤色に染まっている。

 

「嘘だろ、これって」

「だいしゅきホール……」

「キャァァァァッ!」

 

 

 

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