妄想科学NVL CHAOS;INNOCENCE   作:師走F

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第40話:閉じられた透明な箱

 ◆

 

 通報により、警察はすぐに駆けつけた。

 

 公園はたちまち封鎖され、俺達も全員事情聴取を受けることになった。

 

 当然のことながら俺達は怪しまれた。

 おかしなビラを配る変な団体の一員。警察からそういう扱いは受けたものの、事件とは無関係な活動家だと分かると呆気なく解放された。

 

「紛らわしいことすんじゃねぇよ」

 

 去り際のおじさん刑事の言葉はムカついたが、その場での取り調べで済んだことに俺はひとまず安堵した。 

 

「事件の第一発見者になるのはこれで三度目だな」

 

 いや白井の件を含めれば四度目か。

 俺は溜め息をついてその場に座り込む。

 

「御門、大丈夫か?」

「な、なんか顔色悪い……です」

 

 葵と良々が心配そうに近付いてきた。

 

「いや、なんか体が重いというか」

「まあこの暑さの中、警察に詰められたからな。私も何だか肩に岩でも乗ってるような感覚だ」

「ぼ、ぼく、警察の取り調べとか初めてでした。ふひひ」

 

 良々は楽しそうで何よりだ。

 

「死体の写真、取りたいです」

「写真はまあともかく、我らも調べる必要はあるな。御門、サイコメトリーは使わなくていいのか?」

「警察が厳重に取り囲んでるし、今は不審な動きをしたくない」

 

 変なことして疑われるくらいなら、今は大人しく警察の捜査の様子でも眺めていよう。

 

「ん?」

 

 その時、警察官の中に知り合いの顔が見えた。

 

「久野里さん……」

 

 向こうも俺に気付いたようで、彼女はすぐさまこちらへ歩いてくると、

 

「来い!」

 

 俺の腕を掴んで事件現場の方へ歩き出す。

 

「久野里教授、彼は……」

「協力者だ」

 

 問いかける警官に短くそう答えて、彼女は俺を公共トイレのすぐ目の前まで連れてきた。

 

「うっ……」

 

 間近で死体を見てしまい、俺は吐き気を抑えて目を反らす。

 

「何をボサッとしている」

「いや、久野里さん。一体何を……」

 

 彼女は俺の耳元に近付き声を潜める。

 

「サイコメトリーを使え」

「ああ、なるほど」

 

 俺はリアルブートしていないディソードを召喚し、能力発動のために目を閉じた。しかし、

 

「うっ……おぇっ」

 

 胃の中から込み上げる感覚。

 直後に襲う倦怠感と、全身にのし掛かるような重みに、俺は能力の発動をキャンセルせざる得なくなった。

 

「おいどうした?」

「すみません、なんか能力使おうとしたら、急に体が重くなって吐き気が……」

「体が重い……おい、ダイバージェンスメーターを開け」

 

 俺は言われた通り、スマホを取り出してアプリを立ち上げる。

 

「うわっ……なんだよこれ」

 

 メーターの数字は完全に読み取れないほどに狂っていた。

 各桁の値は目まぐるしく変化し、画面は時々グリッチノイズが走る。

 

「この場のGEレートが上昇している。おそらく能力発動で活性化した脳に、重力によるバイオリズムの上昇が急激に作用し上昇し、平衡感覚を狂わせたのだろう」

 

 ダイバージェンスメーターがまともな値を示さなくなるほどの重力。

 確かに今も、ここに立っているだけで体がダルい。

 一刻も早くこの場を離れたい。

 

「チッ、使えない」

 

 久野里さんの態度はどうかと思うが、ギガロマニアックス嫌いの彼女が調査に協力してくれてるのだから文句も言えまい。

 

「しばらく能力の使用は控えた方がいい。渋谷のどこがこんな状態か分からないからな」

「は、はい」

 

 久野里さんに解放されて、葵達と合流した。

 

「大丈夫だったか?」

「まぁ何とか……」

 

 そういえば、冬見さんは大丈夫だろうか。

 遺体を見て悲鳴を上げていたが、あの後は警察の取り調べとか色々ではぐれてしまった。

 

「まずは戻って情報の整理だな。行くぞ御門!」

 

 張り切った様子の葵が俺の腕を引っ張る。

 

「じゃあな良々」

「ば、バイバイ……」

 

 良々に見送られ、俺達は代々木公園を後にした。

 

 ◆

 

 葵を連れて帰宅すると、待ち構えるように尾上が玄関に立っていた。

 

「だいしゅきホールの第二の被害者が出たんだな」

「ああ、今からその事を話そうと思ってたんだ」

 

 俺達はいつも通り三人(+ノワール)で作戦会議をすることになった。

 

「現場は代々木公園の公共トイレの左端の個室、個室は内側から鍵がかかっており、外から開ける方法は存在しない。時間帯は午前11時、周囲にはTruth信者を含む数十名の人間がいたが、その誰も犯人の姿を見ていない」

 

 尾上がこれまで分かっていることを整理した。

 個室の物理的な密室に加えて、人の目による密室。普通の人間には犯行不可能だろう。

 

「ギガロマニアックスが犯人だとして、次は誰が犯人か……」

「いや、それはない」

 

 俺の言葉を遮り、尾上が即座に否定した。

 

「なんでだよ」

「ギガロマニアックス能力で密室をつくることは困難だ」

「いや、まあ多少個人差はあれど、ギガロマニアックスって、基本的に妄想すれば何でもできるんだろ?」

「では仮に、お前がこの場で私達全員を殺したとする」

「怖いこと言うなよ」

 

 少し想像して寒気がした。

 

「ものの例えだ。この部屋の鍵は私が壊した。この状況で、お前はどうやって密室を作る?」

「どうやってって……普通に部屋の外に出て能力で」

「どうやって?」

「だから、鍵が閉まってるところを妄想して……」

「その妄想を誰と共有するんだ?」

 

 言われてハッとした。

 共犯がいない限り現場に生きた人間は俺一人、仮に外に出た後、近くにいた人間を使おうにもそこで目撃されれば意味がない。

 

「ならば、瞬間移動だ!」

 

 今度は葵が案を出す。

 

「瞬間移動で密室から脱出した。これなら……」

「お前の周りには死体しかないが、一体どうやって周囲共通認識を作るんだ?」

「うっ……」

「なら部屋に入らずに遠隔で殺すとか」

「中の様子も分からないのに、そこまで妄想できるなら、そいつは西條拓己以上の能力者だな」

「じゃあ被害者を操って自殺させるなら……」

 

 その案を提示すると、途端に尾上が不機嫌そうに顔をしかめた。

 

「……同じだ。生存本能に反する命令を聞かせ、なおかつ見えない相手に正確に命令を実行させるのはかなり上位の能力だ。ノアの影響で偶発的に覚醒したギガロマニアックスにそこまでできるとは思えない」

「ならば能力で鍵を閉めた後、目撃者の記憶を消してしまえば……」

 

 葵の案で、尾上はしばらく考える。

 

「確かに、私の示した例ならできなくはないな」

「よし!」

「それで、実際の現場には数十人の人間がいたはずだが、その一人一人の記憶を操作するのか?」

 

 葵はその指摘に黙り込んでしまった。

 

「分かっただろう。妄想すれば簡単に密室が完成、とはいかないんだ。しかも今回はより複雑だ」

「どういうことだ?」

「目撃者にギガロマニアックスがいることだ。普通の人間なら、リアルブートによる現実改変を観測できないが、お前たちは違う。しかも、お前と葵は現場である公共トイレを注視していた。それで見落とすなんてあるか?」

「……」

 

 今回の事件がどれほど難しいのかよく分かった。

 しかも事件現場でのサイコメトリーは封じられており、事件のヒントを得る手段すらない。

 

「せめて久野里さんから何かしら情報がもらえれば」

「私の方も動いてはおくが、あまり期待はするなよ」

 

 尾上はそう言って部屋を出て行ってしまった。

 

 

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