妄想科学NVL CHAOS;INNOCENCE   作:師走F

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第43話:密室推理談義

 ◆

 

 翌日、おばちゃんの食堂で昼食を取っていると、スマホに一通のメッセージが来た。

 

『本日、酉の刻に約束の地にて待つ。我と盟約を交わした場所で、汝に天啓を授けよう。なお、このメッセージは極秘のため読後、速やかに破棄すべし』

「……」

 

 葵からだが何を書いてあるのか全く分からん。

 約束の地だとか、盟約を交わした場所とか、どこだよ。そして酉の刻っていつだよ。

 

 軽く調べてみたが、酉の刻とは17時から19時頃までを指すらしく、つまり何時か分からない。

 

「あの中二病拗らせ娘が……」

「なんだい。お友達から連絡かい?」

 

 するとおばちゃんが俺のスマホを覗き込んだ。

 

「ああ。まあ……」

「本当に変わったわねぇ。前は人と連絡を取り合うなんてほぼなかっただろう?」

「うっ、いや、別に友達がいなかったわけじゃないし……」

 

 でも確かに、中退した大学は言わずもがなだが、小学校も中学も高校も、卒業したらみんな疎遠になっていった。

 社会人になってから人と連絡を取り合うなんてなかったかもしれない。

 

「大事にしなよ。あんたみたいな偏屈なやつと付き合ってくれる人なんてそういないんだから」

「うるさいな……」

 

 俺はおばちゃんに文句を言いつつ、残った米を平らげる。

 

「ごちそうさま」

 

 俺はいつも通り500円玉をカウンターに置く。

 

「毎度あり。そういえばあんた、あの子、ノワールちゃんは元気かい?」

「元気だよ」

「本当かい?ちゃんとご飯食べさせてるかい?節約とかって、一食抜いたりしてないだろうね」

「してるわけないだろ。人聞きの悪い」

 

 ノワール相手に一食でも抜こうもんなら、無限に駄々をこねてくるに決まっている。

 というかあいつに三食食べさせるために、自炊したり、今まで以上に節制に気を使っているのだ。

 

「ならよかったよ。あの子のおかげだね。あんたに人間味ができたのは」

「おばちゃんさっきから失礼過ぎないか。俺は常連だぞ」

「いっつも格安定食でおかわりしまくるようなやつは常連じゃないよ。ほらさっさと行った行った。仕事に戻るんだろ?」

 

 おばちゃんに追い出されるように俺は店を出て行った。

 

 ◆

 

 仕事を終えて帰路に着いた頃に、葵から電話がかかってきた。

 

『おい御門!なぜ来ない!』

 

 開口一番、スピーカーから聞こえる大声に俺は顔をしかめた。

 

『既読無視した挙句、約束の時間を1時間過ぎても現れないとは、貴様!我を舐めているな!?』

「あんなメッセージで分かるかよ……」

 

 1時間ということは、酉の刻というのは17時のことか。

 ならその時間は仕事中だからどのみち行けないな。

 

 学生と違って、俺には夏休みなどないのだ。

 

『なんということか!我らが盟約を交わした約束の地、共に渋谷の闇を暴き、事件解決を誓ったあの場所を忘れたというのか!?』

「盟約……あのファミレスのことかよ」

 

 嘆かわしいと言わんばかりの葵の大げさなリアクションに俺はため息を吐いた。

 

「分かった。すぐ行くから待ってろ」

『絶対来い!1分で来い!瞬間移動して来るんだ!』

「無茶苦茶だ」

 

 当然、俺に瞬間移動なんてできないので、徒歩で例のファミレスへと向かった。

 

 案内された奥のテーブル席に着くと、葵は不機嫌そうにパフェを食べていた。

 

「遅いぞ貴様」

「お前のメッセージが悪いだろ。後、お前の指定した時間は仕事中だ」

 

 俺は彼女の向かい側に座る。

 

「で、天啓とか言ってたけど、なんか情報を掴んだのか?」

「ふんっ、これを見ろ」

 

 葵はバッグから一冊の本を取り出した。

 

 表紙は何やら禍々しいデザインで、黒い装丁の上には赤文字で『西洋黒魔術』と書かれていた。

 

「……」

「いや待て待て帰ろうとするな!」

 

 立ち上がった俺の腕を掴まれ、強引に座席へ引き戻された。

 

「なんだよ。これ」

「いやな。私は以前より感じていたのだ。あの殺し方に何か儀式めいたものがあるとな」

「それで黒魔術か」

 

 俺は試しに中を開いて見てみる。

 中には呪殺の方法だの、カラスの生き血が必要だの、物騒なことばかり記されていた。

 

「そこの若返りの儀式の方を見てくれ」

 

 俺は目次からその項目を探す。

 

 若返りの儀式。

 必要なものは無垢な子供の血。特に生命の根源たる性器に近い場所が望ましい。若返りの対象と同性の血であるとなおよい。

 さらに性器に近い部位の肉、アイビーのエキス、蛇の抜け殻をすりつぶしたものを混ぜ、高温で煮込むこと。

 

 その後もつらつらと儀式のやり方が書き連ねられているが、なんとも胡散臭い内容だ。

 

「で、犯人がこの黒魔術で若返りしたいってことか?」

「そういうことだ。遺体からは女性のその……あ、あい、いや分泌液が検出されたのだろう?」

 

 なんでそこで恥ずかしくなるんだ。

 

「女は常に若返りを求めていると相場が決まっている。かの有名な魔女も……」

「なら絶対違うな。」

「なんだと!?」

「よく見ろ」

 

 俺は若返りの儀式に必要な材料の項目を指さした。

 

「若返りの対象と同性の血であることが望ましいって書いてある。絶対に儀式を成功させたいなら、異性の血は狙わないだろう」

「……まあそうだな」

 

 葵は納得して、黒魔術の本を鞄にしまった。

 

「そういうお前は、何か情報は掴んだのか?」

「ああ。お前には共有してなかったな」

 

 俺は隣人の冬見さんについて分かったことを簡潔に伝えた。

 

「なっ、貴様、まさか、あの人に若返りの薬を飲まされたのではないのか!?」

「いや、まさか……」

「しかし、日付の書かれた小瓶、さっきの性別が違うという話も、お前なら男だから効果がある」

 

 あの小瓶が若返りの薬、人間の血と肉が混じった液体を混ぜたカレーを食わされたんだとしたら確かにゾッとする。

 

「でも、俺を若返らせて何の意味があるんだよ」

「それは……あれだ、その……」

 

 葵も何も思いつかないらしい。

 だいたい、こんなわけのわからない本を動機に、人を殺すなんてことがあるわけがない。

 

「というか動機よりも、今は密室の謎だ。それが分からないと、多分"蓋"は突破できない」

 

 俺達は二人で数分ほど頭を捻るが、やはり素人二人がいくら知恵を絞ったところで答えは出てこない。

 

「仕方ない。ここは助っ人を呼ぶとしよう」

 

 葵はスマホを取り出して誰かにメッセージを送った。

 

 ◆

 

 十数分後、その人物は訪れた。

 

「お、お待たせ……しました」

 

 良々はおどおどした様子で周囲をキョロキョロしながら俺の隣に座った。

 

「いいのか?」

「す、推理、ぼくも興味あります」

 

 もうTruth幹部なんてやめちまえばいいのに。

 

「とりあえず遺体発見時の状況の確認からだな」

 

 葵に促され、俺は久野里さんから聞いた情報も込みでかいつまんで伝えた。

 

「や、やっぱり気になるのは、#1晩目が死亡推定時刻から遺体発見までに2時間以上空いていることですね」

「ああ。俺もそこは気になってたんだ」

 

 俺達が遭遇した二つ目の事件は、死亡して間もなく遺体が発見されていた。

 このタイムラグが、犯人の狙いだとすればどんな意図があるのか。

 

「た、多分、1回目で時間が空いたのは、脱出トリックがそれまで使えなかったから、だと思います」

「というと?」

「じ、時間を空ける、い、意味がない。遺体を見せつけるにしても、み、密室から脱出が成功した時点で、時間を置かなくても逃げられます」

「時間制限付きで使えるトリックか」

 

 しかし遺体発見時の時刻は、第一の事件と第二の事件で違っていた。

 

「た、例えば、準備に時間がかかるとか。1回目は、な、慣れてないから、うまくいかなかったとか、考えられます」

 

 筋は通っているが、1回目で2時間以上かかったトリックの準備が、2回目からは数分もかからずに済むなんて、そんなトリックなんて存在するのだろうか。

 

「やっぱり、駄目、ですか……?」

「ご、ごめん。そういうわけじゃなくて」

 

 俺の疑念が顔に出ていたのだろう。

 良々は悲しそうに俺の顔を覗き込んでいた。

 

「一旦遺体発見の時刻は無視して、今回の密室から脱出する方法って何か思いつくか?」

「そ、そうですね……」

 

 良々はしばらく考え込む。

 

「ただの密室なら、テグスを使うとかでできると思います。で、でも今回は、周りに何人も人がい、いる。普通に考えて、真っ当な手段では無理だと思います」

「なら、やはりギガロマニアックス能力か」

「それも無理。密室には周囲共通認識を作れる相手がいない。2回目の事件は、目撃者にぼくらがいたから、現実改変もできない」

 

 この辺りは良々も、尾上と同じ見解のようだ。

 

 その後も議論を重ねたが、結局答えに辿り着くことはできず、その日は解散することになった。

 

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