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予定より大幅に遅れて代々木公園に着いた俺たちは、早速事件現場の個室へと向かう。
「解体されてるな」
冬見さんが埋まっていた個室は、扉ごと取り外されている。
現場の周りはテープで封鎖されており、制服姿の警官が野次馬達を見張っている。その奥では刑事やら鑑識やらが、現場の調査をしていた。
「うぅ……」
ノワールは警察官を怖がって俺の後ろに隠れている。
幸い、警官達は俺たちに気にすることはなく、有象無象の野次馬としか思っていないようだ。
「これなら……」
俺はスマホを取り出して、ダイバージェンスメーターアプリを立ち上げる。
やはりというべきか、世界線変動率の数値は『2.1』以降の数値が乱れてまともに読み取れないようになっている。
「頭痛い……ここいや!」
ノワールはG.Eレートの上昇を敏感に感じ取って声を上げる。
「ああ、ごめんな」
俺は彼女を連れてさっさとその場を離れる。
公園の入り口まで戻ってきたところで、目の前に見知った人物が現れた。
橙色の長い前髪で目元を半分隠し、小柄で猫背気味な少女、知っている容姿ではあるが、それだけではどちらか判別がつかなかった。
「お、鈴代御門じゃん」
「えーっと……ロロの方か?」
彼女の口調で、ようやく双子の妹であるロロだと分かった。
「また調査か?ご苦労なこったな」
「……どうも」
一日のうちに二人もTruth幹部に、それも、俺と敵対している方に出会うなんてなんて運のない日だ。
「ん?おい、そいつは誰だ?」
ロロが驚いたように、俺の背に隠れたノワールの顔を覗き込む。
「え?あー……その……こいつは、まぁ……」
「なんだよ?誘拐でもしたのか?」
「してねぇよ!」
いや、浮浪少女を連れて帰ったのだから、世間一般では誘拐犯扱いなのか?
「まあどうでもいいや。オレは良々に危害を加えなきゃ、お前には興味ねぇよ。弱いしな」
「……だったら話しかけるなよ」
ボソッと俺は吐き捨てる。
「で、何かいい情報は見つかったか?」
「いや、何にも。事件現場じゃ、サイコメトリーも使えないし」
「ん?そうなのか?」
「ああ、お前知らないのか……あの付近で能力使おうとすると、頭痛くなるんだよ」
俺はここからは遠くて見えない公衆トイレの方を指差した。
「へぇ……そうか」
するとロロは踵を返した。
「帰るのか?」
「ああ、適当にぶらついてただけで、これと言って用もなかったしな。よく考えたらまだ警察もいるんだろ?」
「……まあ、怪しい団体のメンバーだって、顔は割れてるもんな」
前回のだいしゅきホールの事件の時に、良々も一緒に取り調べを受けていた。
双子で見分けがつかないほどに顔が酷似したロロなら、警察に呼び止められてもおかしくない。
「じゃあな。くれぐれも余計なことはすんなよ」
そう言い残して、ロロは去っていった。
◆
翌日、昼休みの時間になってすぐに尾上から電話がかかってきた。
『どうだった?』
物流倉庫の裏手の人気のない場所に移動してから、俺は彼女から着信に出た。
「G.Eレートのせいで、相変わらずサイコメトリーは使えそうにない」
『そうか』
予想通りだったからか、電話口から聞こえる彼女の声は、特別残念そうにも聞こえない。
「ああでも、一個いい情報は聞けたぞ」
俺は飴美屋と話した内容を尾上に伝えた。
『お前、Truth幹部の前で"ノア"の名前を出したのか?迂闊すぎるぞ』
「いや、そこは……その、ほら、虎穴に入らずには虎子を得ず、というか」
『だとしても段階を踏め。あと言葉は正しく使え。"虎穴に入らずんば虎子を得ず"だ』
どうでもいい言葉の間違いを指摘されて、俺は顔をしかめる。
「で、どう思う?」
『そうだな……お前、そのちびネズミの業者に心当たりはあるのか?』
「あーまあ……」
俺は
乳のでかいメガネの女、ロロの言っていた特徴と合致する。久野里さんも警戒していたし、何か裏のある人物だと見て間違いはない。
その事を尾上に話してみると、
『最部か……分かった。素性はこちらで探っておく。その女とは今後できる限りの関わるな』
「関わるなと言われても、あの人渋谷に住んでるらしいし、しかも久野里さんのとこに行くと、ほとんど毎回遭遇するんだよな……今回だって、事件資料見せてもらう必要があるし」
『そこは自分で考えろ。時間をずらすとか場所を変えるとか、納得できる理由なら、彼女も多少の融通は利かせてくれるはずだ』
「納得できる理由ねぇ」
最部教授のことは久野里さんも警戒してるんだし、いっそのこと久野里さんが何かしら対策立ててくれたらと、他人任せの思考が働く。
ふと時計を窓から見えた事務所の壁掛け時計を見ると、時刻は12時10分。
俺はそろそろと食堂に移動し始める。
『それと事件の方だが、飴美屋の予想は正しいだろうな』
「冬見さんの、能力を暴発させたってやつか……」
無惨な彼女の死体が脳裏に浮かぶ。
『ギガロマニアックスが犯人だとして、問題は勾留中の紅夏冬見をどうやってあそこに転移させたかだ』
「ギガロマニアックスなら、侵入方法はいくらでもあるだろ」
『まあ、今回は目撃者にギガロマニアックスはいないだろうからな。そうだな……』
「ん?」
何か考え事をしているのか、尾上が黙り込む。
俺はその間に、おばちゃんの食堂に到着する。
「いらっしゃい……て、電話しながら店に入るんじゃないよ」
「いいだろ。時間勿体ないんだし……」
おばちゃんの説教に顔をしかめながら、俺は適当な空いている席に腰を下ろす。
でも尾上も喋らないし、いい加減電話を切ってやろうかと考えたところで、
『お前、拘置所に潜入してこい』
「……はぁぁ!?」
尾上からの命令に、店内で大声をあげてしまった。
「他の客に迷惑だよ!電話をさっさと切りな!」
「ご、ごめんなさい。おい尾上、後でかけ直すからな」
『あ、おいちょっと────』
俺は通話を終了した。
切ってから気付いたが、俺は非通知からの着信に対してどうやってかけ直すつもりなのだろうか。
◆
仕事が終わると、俺は駆け足で自宅まで戻ってきた。
「おかえりー」
出迎えてくれるノワールとの挨拶もほどほどに、俺はまだ家で寛いでいた尾上を問い詰めた。
「拘置所に潜入しろって、冗談だよな?」
「冗談ではない。お前が自分で言ったんだろ?ギガロマニアックスなら、侵入方法はいくらでもあるとな」
「いや、言ったけど……じゃあお前が潜入すればいいだろ?」
「私が表だって動けないという話はしたはずだが?」
「見つかったら終わりなのは俺も同じなんだよ!」
一緒に事件解決してきて、なんだかんだ信頼してたのに、ここに来て使い捨てみたいなことをさせる彼女に怒りを覚えた。
「うぅ……喧嘩やだ」
「ああごめんな。ノワール」
「御門がおっきな声だして怖かったねぇ」
「俺のせいかよ」
二人で泣きそうなノワールを宥めることで、一旦落ち着いた。
「はぁ……別に無理なことをしろとは言っていない。安全に拘置所に入る方法ならあるだろう?」
「透明人間にでもなるのか?」
「それよりも簡単だ。この方法なら、最悪見つかっても言い訳が立つ」
「そんな都合のいい方法があるのか?」
いつの間にか、ノワールが俺の膝の上に潜り込み、不安そうな顔をしている。
「協力者をつける。そいつと一緒に、能力で拘置所の職員に化けて入り込む」
「協力者って、そんなの……」
「一人いるだろ?警察の関係者で、もう一つの事件現場と言える拘置所に入る正当な理由があり、お前の能力のことを知る人物がな」
「そんなの……あ」
その事に気付いて、俺は早速"彼女"に連絡を取ることにした。