妄想科学NVL CHAOS;INNOCENCE   作:師走F

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第51話:呉越同舟

 ◆

 

 帰宅すると、ノワールは尾上の膝の上に座って絵本を読んでもらっていた。

 

「御門、おかえり!」

「ああ、ただいま」

 

 笑顔で出迎えるノワールに、俺はどうにか笑みを返す。

 

「御門、元気ない?」

 

 心配そうにするノワールに対して、尾上は何かを察したのかノワールを膝の上から下ろして立ち上がる。

 

「何を見た?」

「ああ、まあ……」

 

 俺は今日見た出来事、そして久野里さんの推測を彼女に共有した。

 

「ニュージェネ、模倣だと……」

 

 世莉架が怒りに震えたような声で呟く。

 

「世莉架?」

 

 ノワールが不安そうな顔で見上げて、彼女の脚に抱きつく。

 

「ああ、すまない。取り乱した……」

 

 ノワールの頭を撫でて、二度ほど深呼吸をしたあと、こちらを向き直る。

 

「犯人の行動は不愉快だが、逆に好都合だ。少なくとも9月29日、後10日間の猶予がある」

「それまでに犯人を捕まえれば……でも、相手はあのネロだぞ?」

「あのと言われても私は見てないからな。それに、お前が見たのはディソードの尖端部分だけだろう」

「まあ、そうだけど、あんなことできるやつ、ネロしかいないだろ」

 

 他人のギガロマニアックス能力を操ったり、人を腐らせたり、冬見さんのような突発的に発生した能力者には出来ないだろう。

 

「ネロが犯人だとしたら、お前がTruthに所属していることが生きるかもしれんな」

「というと?」

「お前、今の時点で幹部三人、いや四人か。そいつらにギガロマニアックスであることはバレてるんだろ?」

「ああ、確かに……」

 

 一番警戒していた飴美屋が、俺を見逃してくれていた以上、俺の行動を知らないのは樋上だけということになる。

 

「Truthを使ってネロを捕まえろ」

「あーそっか。Truthにとってもネロは敵対する立場なんだよな。でもそんなうまく行くのか?」

「少なくも、樋上は私たちよりも、ネロに関する情報は持っているはずだ。前回お前や葵を集めたくらいだからな。ネロが現れることが予め分かっていたのだろう」

 

 単に幹部を集めて誘きだしただけにも思えるが、現状何も情報を持っていないこちらよりは当てにできるか。

 

「俺が最近ギガロマニアックスに覚醒しましたって話を樋上にするのか……飴美屋を説得できるかどうかだな……」

「賭けだがな。一応戦闘になれば私も加勢する予定だ」

「そりゃ、犯人逮捕は尾上がいてくれないとできないからな」

 

 ただ、前回二人係でも勝てなかったネロに対して、俺と尾上、良々とロロまで含めた六人で太刀打ちできるのかどうか。

 

 というか良々は戦ってるところを見たことないし、俺以下の体力で戦力としてカウントしていいのか。

 

「まあ分かった。葵に頼んで飴美屋とは連絡を取ってもらうよ」

「頼んだぞ」

 

 ◆

 

 翌日、仕事終わりに家に戻ると、早速葵からメッセージが来た。

 

『飴美屋さんの連絡先だ』

 

 葵からそれを手に入れて、俺はすぐに彼女に電話をかけた。

 

『うぅんとぉ、いぃよぉ?』

 

 そして拍子抜けするほどあっさりと了承を得られた。

 

『でもぉ、いぃのぉ?あたしがぁ、君のお願い?聞いちゃったらぁ、借りぃ、返したってぇ、ことにぃなるけどぉ?』

「っ……」

 

 それはつまり、ネロの討伐ができしだい、彼女は俺の敵になるという宣言か。

 

「別に、俺のことなんかほっといてくれればいいじゃないですか。俺はネオジェネ事件解決したいだけで、あんたらの邪魔をするつもりなんて……」

『でもぉ、嘘?はぁ、良くないよねぇ?』

 

 穏やかな口調とは裏腹に、胸に釘を刺すような言葉に俺は口を噤む。

 

「飴美屋さんは、どうしてTruthに入ったんですか?」

「えぇっとぉ、教えてあげな~い」

 

 電話口で小馬鹿にするように笑う。

 

『あははぁ、今度ぉ、ノワールちゃんとぉ、お店ぇ、遊びに来てねぇ。そしたらぁ、話してあげるぅ?かも?』

「いいです。じゃあ頼みましたよ。ネロの件」

『りょぅか~い』

 

 そう言って俺は電話を切った。

 

「全く。ホントになに考えてんのか分かんない人だな……」

 

 協力は取り付けられたが、ネロを捕まえた後に速攻攻撃してくる可能性もあるし、尾上に共有しておいた方が良さそうだな。

 

「御門、これ読んで」

 

 ノワールが絵本を持ってこちらにやって来た

 俺は彼女を膝の上に乗せて絵本を開く。

 

「ひらがな、もう結構読めるようになったか?」

「うん。御門と世莉架が教えてくれた。最近は葵も読んでくれる」

「そっか。それなら、今度は児童書とかを買ってやってもいいかもな」

 

 絵本の読み聞かせをしていると、チャイムが鳴る。

 

「悪い、ちょっと見てくる」

「うぅ」

 

 俺がノワールを下ろして立ち上がり、玄関のドアスコープを覗き込む。

 扉の向こうにいたのが見知った顔だと気づき、俺は扉を開けた。

 

「葵と、良々……だよな?」

「は、はい。どうも鈴代さん」

「おう。来てやったぞ」

 

 葵は偉そうに挨拶、良々はおどおどした様子で頭を下げる。

 

「何か用か?」

「ネロを捕まえるのだろう?作戦会議が必要だと思ってな」

「ぼ、ぼくは……葵ちゃんに誘われて……」

 

 葵には作戦は話していたのでこういうことをしに来るとは思っていたが、まさか良々を連れてくるとは思わなかった。

 

「まあ上がれよ」

 

 俺は二人を狭い室内に入れる。

 ノワールは初めて会う良々に戸惑っているのか、絵本で顔を隠して様子を伺っている。

 

「あ、あの子は?」

「ああ。こいつはノワール、俺の同居人だ」

 

 俺はノワールの隣に座り、二人はローテーブルの向かい側に座る。

 

「作戦会議って何するんだ?」

「それをこれから考えるんだろうが。相手は私と飴美屋さんを倒したやつだぞ?」

「まあそりゃな」

「安心しろ。いくつか策を考えてきた」

 

 そう言って葵はメッセージでテキストデータをいくつか共有してくれた。

 ダウンロードして見て見ると、『人のいない建物におびき出して、氷や飴細工で入り口を固めて閉じ込める』『トラップを仕掛けた場所におびき出して、遠隔から攻撃する』などそれなりに真っ当な作戦を立ててあった。

 

 それらの作戦に共通しているのは、いずれもネロを人のいない場所におびき出す、という部分だった。

 

「まあ周りの奴に被害が出ないようにするのは大事だが、それなら飴美屋さんの能力で避難させればいいんじゃないのか?」

「もちろん一番は民間人に被害が出ないことだが、それだけではない。この作戦のキモはやつのギガロマニアックス能力を封じることにある」

「どういうこだ?」

 

 俺の疑問に良々が口を開く。

 

「ぎ、ギガロマニアックスは、他の人と妄想を共有、しないと、能力が使えません。それはどんなに強いギガロマニアックスでも例外なく、です」

「ああそっか。周囲共通認識を作れないと、リアルブートできないのか」

「そういうことだ。まあ肝心なおびき出す方法が思いつかないのだが……」

「まああいつが何者かも知らないわけだしな。二人はネロの正体について、心当たりはないのか?」

 

 二人とも首を横に振る。

 

「やっぱ樋上から聞き出すしかないか……」

「樋上さんに話すなら私達幹部が揃っているときに直接会うのがいいだろうな。お前、次の休みはいつだ?」

「7日後だ」

「9月27日か。タイムリミットの第三の事件が起こる日付が29日だからギリギリだな」

「で、でも、その日なら、ぼ、ぼくも葵ちゃんも、飴美屋さんも揃いますね」

「そうなると作戦決行は遅くとも28日までにしないとだし……葵たちから樋上に事前に話せないか?先にお前達で作戦始める形にして、俺が後から合流するみたいにして……」

「まあ話してみよう。私だけならともかく、飴美屋さんが協力してくれるならやりやすいだろう」

「助かる」

 

 そこでノワールが俺の袖を摘まんで引っ張った。

 

「お話終わった?」

「ああ。ごめんごめん。絵本の途中だったよな」

 

 ノワールは俺の膝の上に潜り込む。

 

「あの……鈴代さん、その子は何なんですか?鈴代さんのお子さんってわけじゃないんですよね……」

「説明すると長くなるからパスで」

 

 俺は訝しむような良々の視線を避け、絵本を開いた。

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