妄想科学NVL CHAOS;INNOCENCE   作:師走F

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第53話:BAD END 喪失と崩壊

 ◆

 

 翌日、俺は三人分の朝食を用意(昨日買った総菜パンを盛りつけるだけだが)を行い、腹ごしらえを済ませる。

 

 作戦決行の時間が来るまで、ノワールと遊んで、良々と喋りながらダラダラ過ごし、やがてスマホのアラームが鳴ったところで俺は出かける準備をする。

 

「じゃあ行ってくる」

「いってら」

「頑張ってください」

 

 良々とノワールに見送られ、俺は指定された廃工場へ向かった。

 渋谷駅とは逆方向、俺の職場からはちょうど対角線上に位置する場所にある。

 

 元々は食肉加工工場らしく、既に稼働していないはずなのに物々しいレーンやコンベアからなんとなく生肉の臭いがする気がする。

 

「えっと、ここだよな」

 

 俺はスマホで送られた地図を元に、工場の二階の部屋で息を潜める。

 他の三人も既に隠れているのだろうか。

 

 そんな心配をしている間に、工場に二人の人物が入ってきた。

 

「あれは……」

 

 一人は黒髪青眼の青年、ネロ。

 相変わらず雑誌に載っていそうなコーディネートを整った顔で全く着こなせていない。

 

 もう一人は俺の見知った人物。

 久野里さんの研究室を時々訪ねていた眼鏡巨乳の教授、最部(さいべ)真希である。

 

「あの人、ネロの関係者だったのか……いや、それより」

 

 樋上の作戦では、ネロが一人きりで現れたところで俺達が一斉に妄想をリアルブート。

 やつが反撃する隙も氷漬けにして終わらせるという話だったはずだが、相手に二人以上いてはこの作戦も意味がない。

 

「お待ちしておりましたよ」

 

 そこへ樋上が低姿勢な態度で現れた

 

「どういうつもりだ……」

 

 樋上は文字通りゴマを擦るようなポーズで、最部に頭を下げている。

 

「"あれ"を見つけたというから来てやったが、姿が見えないねぇ」

「そ、それでしたらこちらに」

 

 樋上の後ろから現れたロロが、誰かを引き連れてやって来た。

 

「っ!」

 

 その姿に俺は驚愕した。

 彼女の元には、手足を拘束されて目隠しをされた一人の少女、遠目でも白髪にその正体はすぐに分かった。

 

「ノワールっ!」

 

 思わず声を上げたことで、四人の視線がこちらを向いた。

 

「おや、あれは御門くんじゃないか。どういうことかな?樋上くん?」

 

 最部が樋上を睨むと、彼は舌打ちをして開き直ったような態度でノワールを乱暴に掴む。

 

「あなたの実験に付き合うのはもうたくさんだ。この実験動物の命が惜しいなら、大人しくしてもらうヨ」

「樋上ぃっ!」

 

 俺はディソードをリアルブートし、通路を飛び下りてノワールを助けに向かう。

 

「おいおいオレがいるのを忘れんなよ?」

 

 俺とロロのディソードが交錯する。

 

「ネロ、今のうちに彼女を確保しろ」

「了解、先生」

 

 ネロが動いたのを見て、俺とロロがディソードでネロを迎撃する。

 

「後は任せたヨ」

 

 樋上はノワールを連れてその場を離れる。

 

「待て!」

 

 追いかけようとするが、ロロとネロに道を塞がれる。

 

 その時、樋上の前に泡の壁が広がった。

 

「ななななんだ!?」

「ごめんねぇ、樋上さぁん」

 

 現れた飴美屋が、動転する樋上からノワールを奪った。

 

「ちょっ、飴美屋クン!君まで裏切るのカイ?」

「だってぇ、御門くんにぃ、借りぃ?返すってぇ、言っちゃったからぁ」

 

 飴美屋さんはノワールの目隠しを解いて、抱き抱える。

 

「うぅ」

「大丈夫だよぉ、怖くないよぉ」

 

 ノワールをあやして、頭を撫でる。

 

「飴美屋さん!ノワールを連れて逃げてください!」

「りょうかぁいぃ」

 

 飴美屋さんがノワールを抱っこしたまま逃げようとすると、ロロとネロがディソードを振り上げる。

 

「わぁ」

 

 すると、飴美屋さんが戦場のど真ん中に転送させられた。

 そこへネロがディソードを構えて近付く。

 

「妹を渡してもらおうか」

「えぇ?ノワールちゃん、あの人はぁ、お兄ちゃん?なのぉ?」

「知らない!知らない!」

 

 パニックになったノワールが必死に首を振る。

 

「だってぇ」

 

 飴美屋さんがディソードをかざすと、ネロの回りに大量の綿菓子が浮かび上がる。

 

「パァン」

 

 ネロは前のように無効化できず、爆発する綿菓子をまともに食らう。

 

「今の……そっちにもう一人いるね」

 

 ネロが壁に向けてディソードをかざすと、その先で爆発が起こる。

 破壊された壁から出てきた尾上が、ディソードを振り上げて、サイコキネシスで瓦礫を飛ばす。

 

「そぉれっ!」

 

 それに合わせて、飴美屋さんもネロに向けて再び綿菓子の爆弾を発生させた。

 さらにネロの足元が凍りついて身動きが封じられる。

 

「っ!」

 

 ネロは黒い煙のような壁を発生させて、瓦礫と爆弾を防ぐ。

 

「チッ、ネロ!何をしている!早くそいつらを始末しろ!」

「分かってるよ」

 

 ネロのディソードの尖端が光る。

 その瞬間、俺の周りが突然黒い壁で覆われた。

 

「なんだ!?」

「あれぇ?なにこれぇ?」

「我が凍気が!?」

 

 周りの反応を聞くに、全員俺と同じような状況らしい。

 

「こんなものディソードで」

 

 俺はディソードで壁を切り裂こうとする。

 だが、刃はまるで壁に拒絶されたように弾かれ、傷一つつけることができない。

 

「驚いたかい?その箱はギガロマニアックスが生成する粒子(エラー)を遮断する加工が施されていてねぇ。君達はその箱の中では他人に妄想させて周囲共通認識を作ることができない。もちろん粒子そのものを弾くから、たとえ万物を切断できるディソードであっても、干渉できない」

 

 俺は何度もディソードを振り下ろすが、壁に弾かれるだけだった。

 

 壁の向こうからノワールの泣き声が聞こえてくる。

 

「くそっ!くそっ!」

 

 何度も何度もディソードを叩きつけるが、壁が破壊されることはなかった。

 

 ★

 

 御門達がそれぞれ別々の箱に囚われる中、飴美屋とノワールはネロに対峙していた。

 

「御門!御門!」

「大丈夫だからねぇ」

 

 飴美屋は必死にノワールを宥めるが、パニックになった彼女は叫ぶのを止めない。

 

「えーっとぉ、お兄ちゃん?だっけ?妹を泣かせるのはぁ、よくないと思うなぁ」

「それについては申し訳ないと思うよ。だから」

 

 ネロがディソードを掲げると、飴美屋の体から血が噴き出す。

 

「がっ!」

 

 腕、胸、腹から噴き出た血が、ノワールの白髪を赤色に染める。

 

「っ!」

 

 飴美屋は地面を飴細工のように溶かして、ネロの動きを封じようとするが、すぐにネロの能力(もうそう)によって足場が固められる。

 

「早くその子を放してくれ。そうすれば命は取らない」

「えぇ……いやぁってぇ、言ったらぁ?」

「ならしょうがないね」

 

 ネロがトドメを刺そうとしたその時、不意に箱の一つが消滅した。

 

「ったく、手間かけさせやがって」

 

 出てきたのは、その手に二本のディソードを携えたロロだった。

 

「……何をした?君の能力はすべて封じたはずだが?」

 

 疑問を呈した最部に、ロロは不気味に笑う。

 

「悪いな。オレは最初から二人なんだよ」

 

 ロロがネロに接近する。

 振り回される二本のディソードに対して、ネロは捌ききれずに傷を負う。

 

 その隙に、飴美屋は体を引きづりながら、泣き叫ぶノワールを抱えてどうにか逃げようとする。

 

甘女(かんな)!血!」

「心配してくれてぇ、ありがとうぅ……」

 

 優しく微笑み、ノワールの頭を撫でようと手を伸ばした。

 

 しかし、それがノワールに触れることはなかった。

 

 飴美屋は咄嗟にノワールを抱え、自身が下敷きになるように倒れたのだ。

 

「全く、手間をかけさせてくれたな」

 

 最部は煙を吹く銃口を飴美屋に向けていた。

 

甘女(かんな)?」

 

 ノワールは虚ろな目をした飴美屋に呼び掛ける。

 だが、背中から血溜まりが広がるだけで、彼女が目を覚ますことはなかった。

 

「うぅ……えっぐっ……あぁぁぁぁぁっ!」

 

 泣き叫んだノワールの頭上に数十本のディソードが出現した。

 

「っ!」

 

 それらはそれぞれ意思を持つように動き周り、雷撃を、火球を、風刃を降らせる。

 

 ネロやロロは自身の能力で防ごうとするが、今度は空間が震動を始めて足を取られる。

 

「くそっ!こんな……」

 

 二人のギガロマニアックスは焼かれ、貫かれ、切り裂かれて息絶える。

 さらに工場も破壊し尽くし、最部も樋上も、御門たちを閉じ込めていた箱も瓦礫の下敷きとなった。

 

 ◆

 

 何が起きたのか。

 俺はわけわけらぬまま、瓦礫を這い出て外へ出る。

 

 体に残る圧迫感を抑えながら、目の前で泣き叫ぶ少女の元へ足を運ぶ。

 揺れる空間に足を取られながら、どうにかノワールの元へ辿り着いた俺は彼女を抱き締めた。

 

「うぅ……御門」

「もう大丈夫だから……」

 

 俺はそっと彼女の頭を撫でた。

 

「うぅ、あぁぁぁぁ!」

 

 だがノワールの感情の爆発は止まるどころか激しくなり、空間の震動は酷くなる。

 

「ぐっ!」

 

 その時、俺の背中に何かが突き刺さった。

 

 それは見たことのないデザインのディソード。

 おそらくノワールが召喚したものが暴走したのだろう、

 

「ノワール……」

 

 俺は最後の力を振り絞って、自分に刺さったディソードを消した。

 

 せめて、俺の命を奪ってしまったなどと思わぬように。

 直後、ディソードが消えたことで胴にぽっかり空いた穴から力と意識が抜けていった。

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