妄想科学NVL CHAOS;INNOCENCE   作:師走F

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第6話:事件の噂を妄想する

 ◆

 

 384 名前:名無しさん@渋谷 2025/6/30

 

 ちびネズのあれってマジだったの?

 

 

 385 名前:名無しさん@渋谷 2025/6/30

 

 続報ないしやっぱガセだったのでは?

 

 386 名前:名無しさん@渋谷 2025/6/30

 

 おもんな

 

 387 名前:名無しさん@渋谷 2025/6/30

 

 てっきり、ニュージェネの「その目、誰の目?」的なのと期待したんだけどな

 

 388 名前:名無しさん@渋谷 2025/6/30

 

 まあちびねずがネオジェネの現場に残されていたってのはガセだったとして、

 あれがニュージェネ絡みの商品なのは確かだよ

 

 389 名前:名無しさん@渋谷 2025/6/30

 

 それもメーカーがニュージェネを面白がってバズらせようとしてるってだけでしょ?

 

 390 名前:名無しさん@渋谷 2025/6/30

 

 バズりネタに使うには賞味期限切れでしょ

 ちびネズ出たのってネオジェネが起きる前よ?

 

 391 名前:名無しさん@渋谷 2025/6/30

 

 そういえば、俺、ちびネズのラバスト買ってからなんか体調悪くなったんだけど

 

 392 名前:名無しさん@渋谷 2025/6/30

 

 そりゃあんなグロ画像みたら体調悪くなるだろwww

 

 393 名前:名無しさん@渋谷 2025/6/30

 

 プラシーボ効果定期

 

 ◆

 

 結論から言えば、在庫はすべて片付いた。

 

 俺がやったこと二つ、一つはちびネズミの考察サイトと、@ちゃんねるの『ネオジェネの犯人を予想するスレ』に『ネオジェネの現場すべてでちびネズミのグッズが見つかったらしい』と投稿したこと。

 

 元々、ニュージェネとの関連性を疑われていた商品だったので、思いのほか食いつきがよかった。

 @ちゃんの方は証拠として、俺が実際に事件現場で写真を撮ってきて、血のついたラバストの画像をアップしたのもいい火種になったのだろう。

 

 そしてもう一つ、そうやって議論が盛り上がったところで、俺はSNS、ブルーバードに考察サイトのリンクを載せて、ある人物のアカウントに信者を装って情報提供をした。

 

 萩原(はぎはら)長月(ちょうげ)

 悪い意味で知名度のあるオカルトライターで、『ネオジェネレーションの狂気』の名付け親である彼に渡したところ、見事に拡散してくれた。

 

 おかげでラバスト30セットは完売。

 ノルマを完遂することに成功した。

 

「ここが、セミナー会場か」

 

 そうして俺は、休日に渋谷区神南にあるセミナー会場を訪れた。

 会場には老若男女、様々な人物が集まっており、みんなパンフレットを片手にセミナーの開始を待っていた。

 

「君」

 

 すると、俺は隣に座る一人の男性から声をかけられた。

 チェック柄のシャツに、変な鉢巻をつけた二十代後半くらいの男性だ。

 

「僕は樫屋努。よろしく」

「え、えっと……」

「ああ失礼、これから同志になるかもしれないから、挨拶をと思ってね」

「ああ、どうも」

 

 俺は軽く会釈をする。

 それを肯定的にとらえたのか、樫屋は勝手に話し始める。

 

「僕は小さい頃に能力を自覚してね。いつか自分の力を使うべき時が来るんじゃないかと────」

 

 樫屋の言うことは聞き流して、俺はセミナーが開始されるのを待った。

 そして数分後、樋上さんと一緒に、一人の女性が入ってきた。

 

 へその見える丈のキャミソールで胸元を露出し、ホットパンツで太ももを強調するセクシーな女性。

 その様子に、隣に座る樫屋は魅入っていた。

 

「お待たせしました。これより、セミナーを開始いたします。進行はこの樋上が務めさせていただきます。そして今回実演講師としてお呼びしたのが、こちらの飴美屋(あめみや)甘女(かんな)さんです」

「よろしくお願いしまぁす」

 

 飴美屋(あめみや)さんはへらへらした感じの笑みを浮かべて挨拶した。

 

「じゃあ飴美屋(あめみや)クン、早速実演頼むよ」

「はぁい」

 

 すると、彼女は右手を掲げる。

 その瞬間、彼女の手元に"剣"が出現した。

 

「っ!」

 

 "剣"と表現したものの、そう呼ぶには異質なデザイン、しかしあえて表すなら剣と呼ぶしかあるまい。

 

 持ち手には大きく膨らんだ白いボールのようなパーツが三つ、刀身は細く螺旋状に伸びている。

 

「どうしたんだい?」

 

 すると、樫屋は不思議そうに俺の顔を見る。

 

「え、いや、今の……」

「これから実演だ。しっかり見よう」

 

 俺は他の参加者を見る。

 ザっと見た感じ、あの剣に反応している人物はいない。

 

 他のやつには、あの剣が見えていないのか?

 

「いっくよぉ」

 

 飴美屋さんが気の抜けた声を上げると、彼女の頭上にいくつもの綿菓子が出現した。

 

「ほい、はいどうぞ」

 

 それらをすべてキャッチして、前列に座る人たちに配る。

 

「おいしい」

 

 皆一様に嬉しそうに綿菓子を頬張る。

 

「これこそが、彼女の持つ超能力。人の脳は数パーセントしか使われていないと言いますが、その脳の領域を解放することで、己のイメージを実体化することができます。しかし、まだ信じられないという人もいるでしょう。しかし、これはオカルトではなく、科学的な理論に基づくものなのです」

 

 すると、樋上さんが、余った綿菓子を飴美屋さんから受け取った。

 

「例えばですが皆さん、ここに先ほど彼女の生成した綿菓子があります。ここに確かに存在してる。食べれば甘い、おいしい。ですがよく考えてみてください。この綿菓子があなたの妄想ではないと証明することはできますか?」

 

 樋上さんは綿菓子を食べながら解説する。

 

「妄想ではないと証明する方法はシンプル。この綿菓子の存在を、自分以外の誰かが認識していればいいのです。逆に言えば、他の人間が認識すれば、それは妄想ではなくなる」

 

 食べ終えた綿菓子の棒を片手に、樋上さんはニッと笑う。

 

「シュレディンガーの猫は皆さんでもご存じでしょう。毒ガス装置と猫を一緒に箱に詰めた場合、猫が死んでいるかどうかは、観測するまで確定しないというあれです。つまるところ、人間の観測こそが、この世界を変えているのです」

 

 自分も聞いたことのある理論が出てきたことで、俺は彼の話をすんなり飲み込むことができた。

 

「しかし、何十年も前に提唱されたこの"真実"を、多くの人たちは知りません。これは世界を影で操る300人委員会により、都合の悪い"真実"が隠されているからです!」

 

 徐々に樋上さんの言葉に熱がこもる。

 

「委員会の力はこの世界のあらゆるところに潜んでいます。しかし恐れることはありません。あなた方には委員会と戦うための力がある!我々と共に、300人委員会を打倒し、世界に"真実"を取り戻しましょう!」

 

 会場が喝采に包まれる。

 俺も手を叩き、樋上さんに称賛を送る。

 

「では、続いて、実際に能力に覚醒するために────」

 

 その後もセミナーは続き、俺の超能力への道が幕を開けたのだった。

 

 ◆

 

 御門がセミナーを真剣に受けている中、その人物は一番後ろの席でセミナー参加者を観察していた。

 

(やはり、ほとんどのやつにディソードは見えていないようだな)

 

 主催者である『The Truth』の目的は分からないが、少なくともここに集められた人間には、多少なりとも適性があるのだろうと、その人物は推察していた。

 それだけに、この結果には落胆していた。

 

(あの女がディソードを取り出した時に、反応したのはあいつだけか。ならあいつで決まりだな)

 

 その人物は御門に視線を向ける。

 

(しかし、ここにいる連中はバカばかりだな。あんな簡単に乗せられるなんて……)

 

「情弱、だな」

 

 その言葉を口にした途端、不機嫌そうな顔になる。

 

(余計なことは考えるな。自分の目的に集中しろ)

 

 気を引き締めて、他の参加者と同じ道化を演じる。

 

("彼"を救う……必ず)

 

 そのたった一つの願いを胸に、静かに息をひそめた。

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