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セミナーを終わり、俺は会場を後にした。
まだ残って意見交換だのしている連中もいるが、そんなことは俺には必要ない。。
俺には、俺だけには"剣"が見えた。
きっと俺には他の連中よりも、超能力の才能があるのだ。
だったらレベルの低い連中と交流なんてするだけ時間の無駄だ。
「御門くーん」
建物を出たところで、俺は飴美屋さんに呼び止められた。
「あ、ど、どうも……」
彼女の扇情的な衣装に俺は思わず目を反らす。
飴美屋さんはそんな俺に愛おしそうな笑みを浮かべ、手を握ってくれた。
「君ぃ、才能あるねぇ。気付いてたよぉ?私の剣、見えてたでしょ?」
「へ? あ、はい!」
緊張のあまり声が上ずる。
そんな俺をバカにすることなく彼女は続ける。
「剣見える子ってぇ、少ないんだよねぇ。だからぁ、ビビッてきちゃったってぇ言うかぁ」
彼女は端正な顔立ちで俺の目をじっと見つめる。
「またぁ、セミナー来て欲しいなぁ。次はぁ、えーっとぉ……」
言いかけて、飴美屋さんは何度か首を傾げてから、俺から手を話してスマホを取り出す。
まだ彼女の温もりが手に残っている。
「あ、あったぁ……」
何度かスマホの画面で指を弾いた後、またこちらを見た。
「二週間後ぉ、次も講師はあたしだからぁ、ね?」
「ぜ、絶対行きます」
俺の返事を聞いて、飴美屋さんは満足そうに頷いた。
「あ、でもぉ、その前にぃ、次の活動もぉ、やっとかないとぉ」
「つ、次、ですか……?」
「うん。ビラ配りぃ」
彼女はスマホの画面を見せてきた。
かわいらしいイラストのキャラクターが、『守ろう日本の未来』というセリフを喋っている。
詳細を見てみると、ここ二年の物価上昇の真相について、図解で分かりやすく書かれていた。
「委員会はこんなこともやってるんですか?」
「やってるよぉ。あいつらはねぇ、政治、経済、教育、あらゆるところに根を張ってるんだよぉ。まあまだ目覚めていない人達はぁ、いきなり300人委員会なんて言っても実感湧かないだろぉからぁ、こういう身近な"真実"を話してぇ、徐々に浸透させる的なぁ?」
確かにビラの中には『300人委員会』という文言はなかった。
「じゃあ明日、早速集合ねぇ」
そう言って、飴美屋さんは手を振りながら去っていった。
◆
日も落ちる頃、俺が自宅に戻ってくると、
「おかえりー」
ノワールが嬉しそうに俺を出迎えてくれた。
この光景も日常になりつつある。
こいつの正体は分からないが、今の自分には些細な問題に思えた。
俺の才能について、本物の能力者である飴美屋さんからお墨付きをいただいたのだ。
幹部メンバーから目をかけられている俺は、他のやつらの数歩先を行っている。
セミナーで受けた研修でも自己評価でかなりよかったし、これは正式なメンバーとして迎え入れられる日も近いのではないだろうか。
「御門、なんか嬉しそう」
「まあちょっとな。そうだノワール。腹減ってるか?」
ノワールはコクコクと頷く。
「じゃあ今晩は豪勢にしよう。実は臨時収入が入ったんだ」
俺は財布から取り出したお札を彼女に見せた。
ノワールは金の概念をまだ分かっていないので──── 一応、お店で渡すと食べ物と交換できるものだということは理解している────ピンときていないようだった。
「この前のラバストの売り上げ金、全額くれたんだよ。なんか商品の宣伝に貢献してくれたからその礼だって。やっぱ俺は他の奴とは違うんだよ」
「よくわかんないけど、御門が嬉しそうで、あたしも嬉しい」
そう言ってノワールはにっこりを笑う。
俺の成功をこうして無邪気に喜んでくれるなら、こいつとの生活も悪くないかもしれない。
「っ!」
その時、ポケットの中でスマホが鳴り響く。
スマホを開くと、それは非通知からの着信だった。
「ちょっとそこで待ってろ」
俺はノワールを置いて、玄関口から外へ移動する。
電話は鳴りやむ様子がない。
俺は恐る恐る通話ボタンをタップした。
「も、もしもし」
『君が鈴代御門か?』
聞こえてきたのは若い男の声だった。
「あ、あんたは?」
『僕は……そうだな。とりあえずグリムと名乗っておこう』
「ぐ、グリム?」
『ああ。今の僕にはちょうどいい名前だ』
「ふ、ふざけてるのか。迷惑電話なら……」
『今日のセミナー』
背筋に悪寒が走る。
「な、なんであんたが……」
『最初に言っておく。僕は君の敵じゃない。君には忠告と、できれば協力して欲しくて連絡した』
「敵じゃないって……」
自分の情報を握っているような人物にそう言われて信用できるはずがない。
『簡潔言う。一つ目の要件だ。Truth、特に樋上信也を信用するな』
「樋上さんを……まさか、あんたが300人委員会の……」
『その質問への答えはノーだが、今は証明する手段はない。だが、あの男が語った能力に関する話は、かなり大衆向けに脚色されている。理論も断片的で嘘も多い。あれは知識のない人間を扇動するための話し方だ』
「樋上さんが、俺達を騙そうとしてるってこと?」
『そうだ』
はっきりと言い切る男の言葉を、俺は受け入れることはできなかった。
『二つ目の要件だ。もし、僕の話を聞いたうえで、Truthに入るなら、彼らの情報をこちらに提供して欲しい』
「俺にスパイをやれってこと?」
『そうだ』
やはり信用できない。
いきなり電話をかけてきて、本名も名乗らず、顔も見せない男の言葉をうのみにする方がどうかしている。
こいつはやっぱり300人委員会の手先で、俺達を陥れるために攻撃をしかけてきたんだ。
電話を切ってしまおうと考えたが、寸前で踏みとどまる。
このまま会話を続ければ、逆に奴らの情報を引き出せるかもしれない。
「か、仮にあんたの話が本当だとして、俺を選んだ理由は?」
『"剣"は見えたか?』
だが、その質問を返されて、そんな考えは吹き飛んだ。
『これが答えだ。君はセミナー参加者の中で、唯一ギガロマニアックスの素質があった。彼らと戦うなら、最低限、自分の身を守れる人間である必要がある』
「俺のことを監視して……やっぱりお前は信用できない!」
俺は電話を切った。
その時、またスマホが鳴る。
今度はアプリのインストール完了通知だが、当然俺は何かをインストールした覚えはない。
ホーム画面を覗くと、そこには一つ、不審なアプリが追加されていた。
「ダイバージェンスメーター?」
俺はアプリをアンインストールしようとするが、なぜか消すことができない。
意を決して、アプリを開いてみると、画面上にデジタル数字が表示された。
「1.046585%、何の数字だ?」
アプリには数字を表示する以外の機能は見当たらない。
すると、また通知音が鳴り、今度はショートメッセージが届いた。
『その数字をよく覚えておけ。byグリム』
内容はただそれだけ。
俺はさっさとそのメッセージを削除し、スマホをしまう。
「御門、大声でどうしたの?」
すると、ノワールが心配そうに俺の元へやってきた。
「あ、ああごめん。ビックリさせたか」
「うぅ、ちょっと怖かった」
「ご、ごめん」
俺はしゃがんでノワールの頭を撫でた。
「じゃあ、俺は晩飯買ってくるから、大人しくしてろよ」
「うん。分かった」
俺は彼女を横目に、財布を手に家を出た。