【書籍化決定】種付けおじさんIN戦国 作:星野林(旧ゆっくり霊沙)
さて、森部の戦いの勝利により、美濃攻略を進めたかった信長様であるが、ここで身内である織田信清(信長の従弟)が裏切って複数の城を占拠する事件が発生。
これにより信長様は美濃侵攻を停止するはめになり、怒りのボルテージはマックス。
美濃攻めの長期戦を見据えて小牧山に新しい城を築かせるに至る。
そんな事が起こりながらも秋になり、家の田んぼには稲穂が大量に稔っていた。
「おお! 大豊作だ!」
正条植えの効果に疑問を持っていた嫁達も、この豊作に仰天し、皆で稲刈りを行う。
天日干しにした後に、作っておいた千歯扱きを使って脱穀し、臼と杵による精米を行う。
約2週間かけて精米まで終わらせた事で、収穫量が分かってきた。
5石の田んぼ(実際は4石の田んぼと1石の畑であるので米を作っているのは4石である)から10石分の収穫をすることが出来たのである。
1石150キロなので約1500キロである。
俵に詰めていき、俺は田植えの時に協力してくれた利家に1石分の米俵を持って清洲城下の長屋を訪ねた。
「おお、又兵衛、米を持ってきてくれたのか!」
「ああ、田植えの時に世話になったお礼です」
「5俵(1俵30キロ)も貰っていいのか?」
「分けられるだけ収穫できたから問題ない」
「そうかそうか! いや、本当に助かる」
そう喋っていると、小柄な男が利家に喋りかけてきた。
「利家、梅干しがいい具合に漬けられたからお裾分けにって……取り込み中だったか?」
「ああ、藤吉郎、いや、俺が浪人時代にお世話になった人が米を分けてくれてな」
「へぇ……オイラは木下藤吉郎秀吉、お前さんは?」
「俺は毛受又兵衛です。利家殿とはご近所で?」
「ああ、長屋が近くでな」
秀吉という名前を聞いて最初ピンとこなかったが、徐々に
(あれ? 秀吉って豊臣秀吉か?)
と結びつくに至った。
そう考えると興奮せずには居られない。
歴史の教科書にも載る様な人物が目の前に……。
「又兵衛、藤吉郎は凄いぞ、最初は小者(身分の低い使用人)だったが、台所番で活躍し、足軽組頭に、この前信長様の前で槍の試合をして足軽大将になったんだよな」
「それは凄い! 自分足軽組頭なんで将来は秀吉殿の配下で活躍できれば幸いです」
「おお、そうかそうか! でもお主なんでさっきから敬語なのだ? 図体もお前さんの方が大きいだろうに」
「自分まだ13の若輩なので、利家殿と対等に喋っているということは年齢もそれくらいかと思いまして……」
「ほう、頭が切れるなお主」
事実この時秀吉は25歳(数え年)だったので予想は当たっていた。
「藤吉郎、又兵衛は凄いぞ、この年で足軽組頭になっているからな」
「いやいや、運が良かっただけですよ……利家殿、秀吉殿の槍合戦の話を聞かせてはもらえませぬか?」
「藤吉郎良いか?」
「好きにしてくれ」
槍合戦の話というのは足軽組頭だった秀吉と出世争いをしていた槍使いの男がおり、槍使いの男は短い槍の方が扱いやすくて武功を挙げやすいと考えていたが、秀吉は長い槍の方が良いと言う考えを持っていたので口論となった。
それをたまたま聞いていた丹羽長秀が仲裁に入ったが、秀吉が槍にて決着を付けようと言い、それを相手も受けたが、合戦で1対1になることはまず無いとし、複数名にて模擬戦をしようと提案をした。
その様子を眺めていた信長様が面白そうだとそれぞれ足軽50人与えるから5日後に勝負せよと命令される。
秀吉は集めた足軽達を2組に分け、上下に振る組と左右に振る組にし、それを軽く練習するに留めた。
一方の相手は足軽達に毎日槍の猛練習を課したのであった。
秀吉側の足軽が我々も練習すべきなのではと提言するが
「5日頑張った所で槍の名人になれるわけ無いのだから、無駄な体力は使わなくてよろしい」
と諭し、対戦当日を迎える。
信長様が見る前で試合が始まり、短い槍の面々が突っ込むが、長槍の集団攻撃に近づくことが出来ずに次々に倒れていき、秀吉の勝利で試合は幕を閉じた。
しかし相手方は尚も秀吉に掴みかかるが、信長様が
「勝敗は決した。これから先は集団戦術がものを言う。余もサルと同じく長槍の方が得策であると考える。よってサル、これよりお主を足軽大将に任ずる」
と言われて秀吉は足軽大将に昇進したのであるらしい。
「なるほどそんな事が……」
「ちょっとネタをバラしてやろう。この話であるが、オイラは元から信長様が長槍の方が有利であるという考えを知っていた。というより利家から幼い頃から信長様は長槍を好むと聞いていたんだ」
「で、長槍の有用性を理解しない下の者が多いと嘆いていた事を仕事中に聞き、ならばと思い、短い槍を好む者に喧嘩をふっかけたのだ」
「なるほど……流石秀吉殿です!」
「上に気に入られるにも頭の使い様よ。又兵衛も上に上がりたければ合戦で活躍するだけでは駄目だぞ。上が一番求めていることをやり遂げると評価が大きく上がるからな」
「参考になります!」
これが秀吉殿との出会いであった。
現在、俺は別の意味で地獄を見ていた。
収穫が終わればなにをするか……そうだね、徴税だね。
計算が速いという理由で城にて年貢の確認作業を任された俺は、城に入ってくる米俵の数がちゃんと合っているか確認したり、その年貢を商人達と交渉して少しでも高く買い取ってもらった。
他にも城に勤めている人達の給料の支払いの計算の手伝いにも入っていた。
「エクセルが欲しい! エクセル君があればこんな作業1時間もかからずに終わるのに!」
この時代掛け算割り算ができれば数学者と言われ、掛け算を教えるだけでも城主から高い給金を得られる身分である。
「いやぁ又兵衛はどこで四則算を覚えたのかな?」
「幼い頃に色々経験しまして……」
「まだ君幼いじゃん。どこかの城主の遺児って方が納得出来るんだけどな〜」
「そうは言いましても、俺は元を辿っても流民ですし……」
「あんまり元の出生は言わないほうが良いよ。僕は良いけど出生を気にする人も多いからね。下級武士の息子……それで十分じゃないかな?」
「分かりました気をつけます」
そんなアドバイスを左近様から受けながらも、なんとか年貢の確認と城務めの人達への給料の支払いを終わらせる頃には寒い時期が始まるのであった。
米が豊作だったことで、俺の家ではようやく毎食米が食えるようになった。
あと与力としての給金が支払われて、一汁三菜にすることに成功。
成長期なのもあって、俺は食べまくった。
そんな俺の夕食を見てもらおう。
雑穀米(米の比率が8割にはなった)、鶏肉の入ったすいとん、小松菜と油揚げのおひたし、梅肉入りの納豆、里芋をすりつぶして揚げて1口の大きさに切ったせたやき芋……。
前世では料理が趣味だったので色々なレシピを知っていたが、江戸時代発祥として記憶に残っていたせたやき芋を今回作ってみた。
「うん! 小麦で固めた団子みたいなのが汁をよく吸って美味い!」
「本当に旦那様は色々な料理を知っていますね」
「こんなに食べていたら更に胸が大きくなってしまいますよ」
嫁達からも好評であり、毎日は無理だが、早く家に帰れた日等はこうやって俺が料理を作ることもしばしばであった。
「そういえば鶏がまた孵化しましてこれで30羽を超えました」
「そうだな。餌も雑食だから虫食いの米とか粟や稗食わせていればなんとかなるし、大きく育てば今日みたいに肉を食べられるからな」
「明日はぱすた……でしたっけ。前に教えてもらった卵と乾酪(チーズ)とにんにくを混ぜた料理を作りますね」
「あぁ、頼んだ」