【書籍化決定】種付けおじさんIN戦国 作:星野林(旧ゆっくり霊沙)
「殿が言うには人を女体にする薬らしいが……」
忍びの俺は津田の殿様から竹筒に入れられた液体を敵の井戸や飲水に混ぜるように指示されていた。
「殿のお得意の妖術の一種か?」
忍びの間でも津田の殿様は妖術を使うというのは周知の事実であり、俺自身も妖術を信じていた。
そして今回の任務は加賀一向一揆の先遣隊を潰す作戦であると聞かされている。
「兵を女体化してしまえば混乱が広がる。それで止まれば御の字であるが、止まらなければ次の策に移行する……か」
俺から見ると、数十万の兵を動員できる一向一揆相手だと、津田様でも対処は厳しいと思うのだが、津田様はそれをどうにかできる術を持っている。
その鍵を握るのは忍びである俺達だと語ってくれた時はとても嬉しかった。
「さて、敵の所に侵入しますか」
侵入するのは簡単だった。
越前から織田軍を倒すために参加したいと言えば普通に通されるからだ。
楽々内部に侵入し、夜を見計らって兵達が飲む井戸に津田様から授かった白濁した薬を流し込む。
どうなるかを観察するのを含めて俺の役目。
朝から俺が細工した井戸に人が集まり、水を飲んだり、体を洗ったりしている。
その時は特に変化は起こってなかったが、昼、夜と兵達が水を飲み続け、そして翌日になる。
「な、なんじゃこりゃ!」
兵の一人が声を挙げると胸が出て女の姿に変わっていた。
周りを見渡すと他の兵達も多くが女の姿に変わっている。
「妖術だ! 津田又兵衛の妖術だ!」
俺がそう叫ぶと兵達に混乱が広がっていき、ここの部隊は大混乱。
それを治めようとする武将達も女に変わっているので誰も言うことを聞かないし、しかも変化した容姿が異国風の者が多かった為に、異国の間者が混じっていると更に混乱が広まる。
俺は混乱している隙に部隊から逃げ出し、他の忍びの者と落ち合い、話をすると、別のところでも男が女に変わって混乱が続いているらしい。
中には作戦をアレンジして津田又兵衛による神罰であると書かれた紙をばら撒いた者も居た。
「しかし女になった者は男に戻れるのか?」
「いや、一生女になるらしい」
「それは凄まじい妖術だな」
「殿を怒らせないようにしなければ……我々も女にされてしまうかもしれないな」
「そうならないように励まなければ」
殿曰く、井戸に混じった液体の効能は2、3日続くらしいので更に被害が拡大することであろう。
その間に殿は兵を集めているのであろうが……。
「うーん、兵の集まりが悪いな」
前回の戦で登用した将兵や美濃出身の兵達で約6000名、越前の者が5000名ほどが集まった。
総勢1万1000名……数十万単位で動員できる加賀一向一揆に比べると兵数は正直厳しい。
こうなるといかに効率的に戦うかにかかっているだろう。
「島、忍びを使って後方を撹乱させた。先に一向一揆の前衛部隊を叩くぞ」
「は!」
「的場隊、土橋隊は敵を誘導するから射撃が通る場所まで進出。連戦になると思うから覚悟しろ」
「おう!」
「華麗に僕が倒しますよ!」
「よし、騎馬隊から進撃を開始!」
俺が美濃で育てに育て上げた精鋭騎馬隊千名を初っ端から投入し、俺が最前線で兵を鼓舞する。
道を騎馬で駆け抜けると、砂塵が巻き起こり、その光景は圧巻に尽きる。
一向一揆の拠点の1つが見えてきたので、そのまま突撃を敢行し、敵陣を突破する。
忍びに行ってもらった女体化の術で混乱の極みに達していた一向一揆達は俺達が突撃すると蜘蛛の子を散らす様に散り散りに逃げ惑い、指揮官と思われる僧兵を討ち取ることにも成功。
そのまま複数箇所の一向一揆の拠点を襲撃し、蹴散らして悠々帰還。
最序盤は津田軍の圧勝で終わる。
ただ、一向一揆もすぐさま反転攻勢を仕掛けてきて、暴徒の集団が越前に向かって突撃をしてきた。
俺は越前と加賀の国境沿いである牛ノ谷という谷に敵を騎馬隊の機動力で誘導し、的場と土橋率いる鉄砲隊約1500名が射撃を開始。
更に俺の息子の高貞率いる弓隊が敵頭上から矢の雨を降らせる。
数千もの屍が牛ノ谷に晒され、一向一揆は撤退。
しかし、騎馬隊が先回りして山越えを行い、崖から降りて敵後方から奇襲を行った。
真っ先に撤退していた一向一揆の指導者の僧兵達を斬り殺し、一向一揆の敵陣を突破していった。
合算すると一万程度の被害が一向一揆側は出ていたが、こちらの損害は騎馬隊の十名ほどでほぼ損害無しで完勝。
これから数年続くことになる一向一揆との戦闘の初戦を勝利で飾るのであった。
「ふう、奥の手は使わなくて済んだな」
「奥の手ってあれでもまだ何かあったのですか!」
一乗谷に戻りながら峰丸こと織田信道様が話しかけてきた。
「これくらい普通に父上はしますよ……ね、父上」
高貞も近くに居たようで、馬を寄せてきた。
俺、信道様、高貞みたいな順で馬に乗りながら横に広がって話している。
「え、でも今回の戦で万の兵を倒して、こちらの損害は微々たるものでしたよね」
「まぁそうだが、一万程度で止まるようなら加賀は百姓の国を100年以上続けてないだろう。第二、第三と続けてくるぞ」
「そ、そうなのですか……我々はどの様にすれば……」
「兵数を増やして練度を上げ、着実に殲滅していくしか無いだろうが……搦手も使っていかなければな」
「搦手ですか?」
「ふふふ、その時は妖怪と言われている私の力の一端をお見せしますよ」
「父上、私のくノ一達もお使いください」
「妊婦が多いだろ。妊婦に働いてもらうほどうちの軍は弱くねーぞ」
「出過ぎた真似でした。失礼」
「でも凄かったです。僕は崖上から高貞と一緒に弓を放っていましたが、敵兵がみるみる溶けていって……釣りっていう戦法でしたっけ」
「そうだな。機動力ある部隊が逃げることで敵を有利な位置に誘い出し、火力を集中させる。鉄砲や弓等を雨の様に浴びせて敵を殲滅するやり方だね」
「おお! それが津田軍の強さの秘訣でしょうか!」
「秘訣っていう秘訣でも無いと思うが……今回は綺麗にこちらの作戦が決まっただけだし」
高貞も分かっているが、作戦を看破された場合の恐ろしさは三方ヶ原での武田軍で嫌と言うほど味わっていたからな。
「まぁまだまだこちらには作戦の引き出しがあるので次も勝てるようにしなければなりませんよ信道様。私の戦でよく学んでください」
「はい! 色々学ばさせてもらいます!」