【書籍化決定】種付けおじさんIN戦国 作:星野林(旧ゆっくり霊沙)
1月中頃……。
美濃に残していた物の引き継ぎを終えて、ようやく引っ越し作業が完了した。
これで10年近く生活した美濃とは本当にお別れ。
なんだかんだ堂洞城も人の住める状態には戻したし、やるべきことはちゃんとやれただろう。
残していた家畜を引き連れて越前の領地に戻ると、一乗谷周辺では建設ラッシュが始まっていた。
一乗谷には元々町が作られていたが、新しく移住する人数が6000人と大所帯なので長屋や屋敷の建設が続けられていた。
更に雑賀や京から呼び寄せた鍛冶師や職人の工房も建設しなければならず、元々は余裕のある町だった一乗谷も結構ギチギチになってしまい、一部朝倉一族の屋敷は取り壊して居住地に振り分けたり、山を削って居住地にしたりと工事が続けられていた。
「来た当初は一乗谷は余裕がある町作りできそうって思ったけど、案外厳しそうか?」
想定よりも人数が多い弊害かもしれない。
ただ町作りのほかにも仕事が山のようにあるのだった。
仕事の1つに領地全域での挨拶まわりがある。
領主なのだから各村の村長を呼び出せば良いのではないかと思うかもしれないが、朝倉の統治で上手くいっていたのに、それを滅ぼした侵略者である俺達織田軍は村々を巡ることで支配者の入れ替えと人心の掌握に務める必要があったのである。
政治家でも偉そうにふんぞり返っている人より、各家を巡って挨拶してくれる政治家の方が票を入れたくなる。
そういう少しずつの所で越前領内の掌握を進める必要があるのだ。
「領主様自らお越しになるとは!」
「安原村で困っていることはあるか?」
「困っていること……安原村は他の村に比べると土地が痩せていて、米が作りづらい土地になっています。更に山が多く水の便も悪くて……」
「ふむ……水が足りていないか」
「はい、時に飲水を争い隣の村と小競り合いに発展することもあります」
「なるほど……よし井戸を掘ろう」
ある村では水が不足していると聞くと、俺はスコップを持って地面を掘っていき、水を湧き出させて井戸を作る。
ある村では米の育ちが悪い痩せている土地だと聞けば、品種改良したジャガイモや小麦を渡して育てるように伝える。
ある村では川がよく氾濫すると言われれば、遊水池を作ったり、土塁を盛って氾濫しない工夫を行う。
ある村では野盗が出没すると言っていたので、野盗の寝床を襲撃して殲滅。
越前の人の為にと村々を巡るたびに人の支持が高まっていく。
あとは農業改革が成功すれば飢えに怯える必要も無くなるだろう。
「民意を得るには今年が勝負だろう」
俺は気合いを入れるのだった。
『お久しぶりですね又兵衛さん』
「久しぶりだなルイス・フロイス殿」
ある冬の日、ルイス・フロイス殿が俺の元を訪れた。
ここでも布教を広めたいのかと聞くと、フロイス殿はここ数年でイエズス会でも派閥闘争が行われていたと話し始めた。
まずイエズス会はザビエルの来日により日本での布教活動が始まったが、日本イエズス会の指導者がフランシスコ・カブラルに変わったことで状況は一変。
今までのキリスト教の布教は日本の文化を尊重した適合主義という手法が取られており、既存の宗教勢力ともなるべく敵対しない方針が取られていたし、神仏混合という特殊な宗教状態の日本でも分かる様に、神の扱いは慎重の姿勢が取られていたが、フランシスコ・カブラルはその姿勢が気に食わなくて破壊を開始したのである。
特に大友宗麟をキリスト教に改宗させたことで北九州のキリスト教のパワーバランスが一変し、寺や神社の弾圧を開始。
この姿勢にキリスト教に改宗しても寺の坊さんや神官を敬う姿勢をとっていた民は大混乱に陥り、布教活動は完全に停滞していたのである。
更にルイス・フロイスを始め、京や堺で布教活動をしていた宣教師達は俺の本物の奇跡を目の当たりにしたことで、俺を聖人認定しようと働きかけていたらしいが、フランシスコ・カブラルは極東の猿を聖人になどしてはならぬと対立が激化。
遂にルイス・フロイス含め穏健派や適合主義を貫いていた宣教師達はイエズス会から分離してしまい、堺で独自派閥を築くに至っていたらしい。
恐ろしいのが奇跡の子として俺の名前が挙がっている点である。
信長様を頂点とした宗教ならまだしも、俺がトップとか絶対に揉める。
『又兵衛さんがキリスト教を理解した上で、政治的に難しい立場なのは理解しておりますが、我々正統イエズス会も窮地に陥っているので、どうか助けていただけると幸いなのですが……』
俺は悩んだ末に、ルイス・フロイスに実はと自分が神から転生させられた転生者であることを説明する。(未来から来た点は伏せたが)
神通力……まぁ種付けおじさんのチートであるが、キリスト教からしたら奇跡の数々は神から与えられた力であると説明すると、ルイス・フロイスは本当の聖人に出会うことが出来たと感涙し、聖書を見ながら、この部分は本当に神の教えなのかとか食料などで聖書に載っていない食料でも食べるべき物はあるのではないかと問答を3日間に渡って行い、キリスト教をベースに神仏が迎合した新しい宗教が爆誕してしまった。
『これが神からの本来の教え……』
「いや、神の意見もあるけど日本人にはこれぐらい拡大解釈できる教えじゃないと受け入れられないよ……」
ルイス・フロイスがやたら盛り上がっていたが、とりあえず俺がトップというのは不味いので、日本人の始まりは神の血筋である皇家から枝分かれしたと説明し、皇家を頂点とし、俺が奇跡を行えているのは前世で徳があったからと複雑化させてうやむやにする作戦をとったが、ルイス・フロイスは俺をどうしても指導者に祀り上げたいらしい。
最終的に俺が折れる形でルイス・フロイスの考える邪教を迷惑にならない範囲で広めて良いとし、俺を転生させた女神は何故かミカエル扱いで、俺がガブリエルの転生体であると言うのが教義として定まってしまった。
もう無茶苦茶である。
しかもそこに加茂村で男根崇拝をしていた坊さんが話し合いに加わった結果、シンボルマークが十字架ではなく玉2つに棒1つと完全にちんこと金玉である。
それが新しく建設された教会、寺、神社にそれぞれご神体として建てられてよく分かってない領民は金精大明神を祀っていると説明して納得させた。
で、産めよ増やせよをメイン教義として盛り込んだことで一夫多妻をOKにさせ、新生イエズス会……いやガブリエル教は聖職者も世帯を持つことをOKとした。
俺はこれは酷い夢かなんかだと思ったが、俺に対して恐怖心を持っていた越前の民は反動で俺を現人神として崇め始め、邪教としか言いようがないガブリエル教が爆発的に広まるのであった。
ただガブリエル教は既存宗教を攻撃しないという約束があるので、檀家はいつもの坊さんのところだけど、仏壇にガブリエル教のシンボルである男根の彫り物をお供えすることで酷い共存を達成。
「これも種付けおじさんのチートなのか?」
そんな筈は無いと信じたいが、越前の宗教状況はカオスになっていくのであった。